名探偵コナン×相棒   作:餌屋

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標的最終回です。


2-10「終結、そして」

 

 

 

ダァーーーーーーーン!!!

 

 

銃声が鳴り響き、沢木が構えていたナイフが勢いよく弾き飛ばされる。

 

「…え?」

 

コナンが、呆けた声をあげる。

 

コナンは構えた拳銃を発射し、蘭にかすらせて体勢を崩させ、沢木がそれに気を取られた瞬間に小五郎達に制圧を頼むつもりだった。

しかし杉下の制止に注意を引かれ、すんでの所で思い直し結局引き金を引かなかった筈だった。

それが現実には銃声が響き、沢木はナイフを弾き飛ばされた衝撃で痛む手を押さえうずくまっている。

 

「今です!」

「てぇあああああ!!!」

 

杉下の号令を合図に、沢木が晒した隙を小五郎は逃さず吶喊する。

沢木は苦し紛れに殴りかかるが、小五郎は易々とそれを躱し一本背負いをきめて沢木を制圧した。

 

コナンはふと杉下の方を向くと、杉下はやれやれといったような、安心してくださいと言いたそうな、そんな微笑みを浮かべコナンにも分かるようにある方向に視線を移した。

コナンが視線を追うと警視庁のヘリが飛んでおり、そこに狙撃銃を手にする壮年のSAT隊員が乗っていた。

 

「右京さん、あれって…」

 

冠城が杉下に声をかける。

 

「…えぇ。SATの日野警部補です。どうやらこの現場にも来ていたようですねぇ」

 

杉下が頭を下げると、日野警部補はそれに対して綺麗に敬礼を返した。

 

「…あの揺れ動くヘリの中からピンポイントで沢木さんの構えたナイフだけを狙撃した…?とんでもないですねあの人…」

「警視庁一のスナイパーと呼ばれる方です。流石としか言い様がありませんねぇ」

 

実は、内村の号令で招集されたSATだったが、杉下達が動いている事を聞きつけた日野警部補は縁深い事もあり自ら応援を志願したのだった。

 

(しかし、先程の工藤君は本気で撃とうとしていましたねぇ…やれやれ、危なっかしいと言いますか…やはりこれは一度じっくりと話し合う必要がありそうですねぇ…)

 

一人、コナンへの説教を決意した杉下。

その後杉下が視線を戻すと、ちょうど沢木に目暮が手錠をかけた所だった。

 

 

 

こうして、多くを巻き込んだ一連の事件がようやく幕を閉じたのだった。

 

 

 

***

 

 

数週間後、特命係。

 

 

「でも右京さん、良く気づきましたよね。毛利さんが妃先生を撃った理由」

「…僕は、毛利さんが非情な方にどうしても思えなかった。ただそれだけです」

 

冠城が、10年前の小五郎の真実について杉下から話を聞いている。

 

アクアクリスタルで蘭が人質に取られた時、拳銃を手にしたコナンが取ろうとした行動は、10年前小五郎が英理を村上に人質に取られた際、咄嗟に判断した物と同じだった。

 

人質を取った犯人にとって一番困るのは、折角の人質が足手まといになる事。

足を撃たれた人質は、犯人にとって足手まといにしかならない。

小五郎はその為、英理を助ける為に、危険を承知で発砲したのだった。

 

「…それでも、発砲した事を僕は簡単に認める事が出来ません。ですが恐らく当時の毛利さんも、理由はどうあれ英理さんを傷つけてしまった事に責任を感じて辞職されたのだと、そう思いますよ」

「…そういや…じゃあ何でお二人って別居されたんでしょう?」

 

人質事件の真相が分かったところで、ふと二人が別居した理由が分からなくなり不思議がる冠城。

 

「あぁ…それなんですがねぇ…」

 

杉下は冠城の疑問に苦笑いを浮かべる。

 

「…工藤君から聞いた話なんですが、どうやら事件があった日の晩、妃先生は足を痛めつつも助けてくれた毛利さんに御礼をしようと考えていたようでして」

「え、妃先生は撃った理由に気づいていたんですか?」

「流石は奥様といったところでしょうねぇ。まあ、そういう訳で…御礼の為に手料理を作って帰りを待ったそうなんですよ」

「ほう、手料理ですか」

「その料理を…あろうことか毛利さんは不味いと一蹴したそうで…」

「…へ?」

 

思わぬ展開に呆ける冠城。

 

「実は妃先生…お料理が相当苦手なようでして」

「…あぁ…なるほど…」

 

杉下の言わんとする事が理解できた冠城は、苦笑いを浮かべるしか無くなってしまう。

 

「…まあそれで喧嘩をされたそうで」

「それが別居の真相ですか…」

 

 

 

「…失礼するよ、二人とも」

 

 

と、話をしていた二人の元に突然、目暮が訪ねてきた。

 

「…おや、目暮警部。お疲れ様です」

「どうかされたんです?確か、今沢木さんの聴取中じゃ」

「あぁ…その事なんだがね。君達に少し意見を聞きたくてな…」

 

何やら困った様子の目暮に、二人は顔を見合わせる。

 

「一体どうされたんです?」

「実は沢木さんの事情聴取中、彼が仕掛けた爆弾について聞いていたんだが…それまで素直に聴取に応じていた彼が妙な事を言い出してな」

「妙?」

「あれだけの爆発だ。相当な爆弾を仕掛けていたと考えてどこから調達したか聞いていたんだが…」

 

そう言って目暮は取調室でのやり取りを思い返す…

 

 

 

 

『…私は3箇所に仕掛けただけです。他の爆発は知りません』

『はぁ?何を言っとるんだね。少なくとも10数回の爆発が起きているんだぞ。そんな逃げが通じるとでも思っているのかね』

『…本当なんです!!私が仕掛けたのはメイン照明を管理している第一変電室と、レストランの窓ガラス、後は施設外壁に一つだけだ!他の爆発は知らない!私が聞きたいくらいだ!!』

『おいおい…ウチのダイバーチームが捜査して、建物が倒壊しかねない程の量があったり、施設内にあった旭さんの書斎や旭さんの会社のサーバールームも爆破されていたと分かっているんだ。それを知らないと言うのかね』

『…書斎?サーバールーム?…何の事ですか、私はそんな所に仕掛けていない!本当です!!』

 

 

 

 

「…嘘を言っているような様子では無いんだ。一体何がどうなっているやら」

「…書斎?」

 

杉下は目暮の話に引っかかる所を覚える。

 

「…目暮警部、確かに旭さんの書斎は爆発によって破壊され、それを沢木さんは否認しているのですね?」

「あ、あぁ…」

 

杉下の脳内は、突然の情報に凄まじい勢いで回転を始める。

事件の記憶、事件の情報を思い返し、杉下は想像を巡らせる。

 

 

 

 

あの時、あの場所に集められた者の中で一人だけ、他の者とは違う理由の特別な立ち位置の人間がいた筈では無かったか。

 

 

あの時、沢木の計画上、あそこまでの爆発を起こす必要はあったのか。

 

 

もし、必要以上の爆発が沢木の仕業でなければ、誰の仕業なのか。

 

 

 

 

 

あの時、爆発が起きる前。

 

 

 

 

 

旭の書斎に立ち寄った人間はいなかっただろうか。

 

 

 

 

(もし他に可能性があるとするならば、まさか…)

 

そして、杉下の想像はある仮説に辿り着く。

 

「…ちなみに…ちなみにですが」

「ん?」

「今回の事件の聴取で、桝山さんから何か気になるお話は聞いていませんか」

「桝山さん?…いや、特にそんな話は…何だね、まさか桝山さんが何か関係していると」

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 

そこに突然、聞き覚えの無い声が割り込んでくる。

皆が声の方を向くと、そこに仏頂面をした男が立っていた。

 

「…あなたは?」

「警視庁公安部の風見です」

 

目暮が素性を問うと、風見は顔を変えず軽く一礼をする。

 

「…公安?」

「今回の事件の追加捜査は、我々公安が引き継ぎます」

「…何ぃ!?」

「目暮警部には部下と共に今回の犯人、沢木公平の起訴に集中して頂く」

 

あまりに突然な風見の発言に目暮は驚愕の声をあげる。

杉下は突然の展開を不審に思い、風見に問いかけた。

 

「風見さんと言いましたか…一体、どういう事でしょう」

「…警視庁・特命係係長、杉下右京警部。あなたにお答えする義務は無い…と言いたいところですが。噂に聞くあなたの事です。勝手に色々調べ回るでしょうから先に言っておきます。これは『上』からの指示です」

「…『上』ですか」

「ええ。その為、あなた方特命係が今回の件について勝手に動くようならば処罰は免れません。覚えておいて頂きたい。これは目暮警部、あなた方捜査一課の方々にも言える事です」

「…処罰」

「そうです。ご理解いただけますね?」

 

風見の高圧的な物言いに、目暮は不満そうな顔を見せる。

しかし、流石に上からの指示と言われて更に処罰をちらつかされては何も言い返せず、目暮は風見の通告に黙って頷くしか出来なかった。

 

「杉下警部、冠城巡査も。よろしいですね?」

「…」

 

一方杉下は、風見に対し冷たく、しかし挑戦的な目で見つめ返す。

 

「…一つ、よろしいですか?」

「…なんでしょう」

「では…その『上』とは、どの『上』でしょうか?」

 

杉下は、いつものような飄々とした様子で、しかし強い意志を持った目で風見を見つめ続ける。

 

「…『上』は『上』です。それこそ杉下警部、『あなたには分かっていらっしゃる』のでは?」

「…なるほど、そう来ましたか」

 

杉下の圧に風見は顔を変えず見つめ返す。

 

「…話は終わりです。それでは」

 

そう言って話を打ち切ると、風見はさっさと特命係から出て行った。

 

「…何なんですか?あの男」

「…公安の捜査官が、上からの命令と言ってくれば、ワシ等にはどうする事も出来んな…」

 

風見の振る舞いに不愉快そうな顔を隠さない冠城と、肩を落とす目暮。

 

 

その一方で杉下は、先程までの風見との会話を思い返していた。

 

(このタイミングで公安が動いており、かつ捜査が引き継がれ我々は事実上の捜査打ち切り状態に追い込まれてしまった…恐らく、僕の予想は当たっているのでしょう…)

 

 

 

桝山憲三。

 

 

 

杉下の脳内では、彼に対しての疑惑が深まっていたのだった。

 

 

***

 

 

「…ご指示通り、杉下警部に釘を刺してきました」

『…よくやった。これで彼は疑念が強まったに違いない』

 

特命係を出た後、風見は物陰に身を隠し、自分の『上』に連絡を取っていた。

 

「しかし良かったのですか?降谷さんは彼らが『奴ら』と関わるのを避けたかったのでは…」

『あぁ…出来る事ならそうしたかったが。この状況では杉下右京が興味を抱く事は間違い無いからな。なら彼をサポートして、我々に利を作る方がベストだと思った』

「私は、彼は危険だと思います。下手をすれば我々に…」

『…牙を剥くだろうな。杉下右京の正義感は、一つ間違えれば俺達を傷つける諸刃の剣となりかねない』

「…では!」

『だがそれよりも、俺は彼の正義感が『奴ら』に対しての切り札となる事に期待したい』

「…分かりました。それで、今後はどうしましょうか」

『取りあえず、破壊された旭勝義の書斎と彼の会社のサーバールームから、何か情報が得られないか捜査を続けろ』

「わかりました」

『…俺は今回の件について『こちら側』で調べてみる。後は…機会があれば特命係にも接触してみるつもりだ』

「…降谷さん自らですか!?」

『ああ。俺もそろそろ水面下だけでは動きにくくなってきたからな…

 

…風見。ここからどんどん事態が動きかねない。注意しろ』

 

「…了解しました」

 

 

 

***

 

 

 

時はさかのぼり、事件解決から数時間後の深夜。

 

桝山邸、書斎。

 

 

 

 

桝山が書斎で一服していると、携帯が鳴る。

一瞥すると、面倒くさそうにため息を一つ吐き気だるげに電話を取った。

 

「…私だ」

『…報告をしろ。老いた体でもそれくらいは出来るだろう?』

 

冷たい声が電話の向こうから聞こえてくる。

 

「酷い言われようだな…お前も知っているだろう。あんな冷たい海に放り出され、しかもその裏で仕事もこなし疲れ切っていたんだ。少し休むぐらいバチは当たらんだろ」

『フン…頼りが無ぇ。あの方もどうしてお前みたいな老いぼれを重用するのか…』

「…何だジン。私に対して文句を言いたくて連絡してきたのか?」

『チッ…まあ良い。それで?首尾はどうだ』

 

電話の相手である『黒の組織』構成員のジンは、桝山に対して報告を催促する。

 

「指示通りアクアクリスタルのサーバールームと旭の書斎から我々に関するデータは全て消去した。証拠隠滅にしっかり爆弾も仕掛けて爆発させて来たよ。事件の犯人が爆破を行ったから、それに紛れさせるのは容易かった」

『よくやった…しかし旭がまさか別の人間に殺されるとはな』

「あぁ…私も現地に着いて警察の人間から事情を聞いた時驚いたよ」

 

桝山は、自分達に協力する財界人の一人であった旭の事を思い返す。

彼は組織にずっと資金援助をしてきた一人だったが、ある時これ以上協力できないと思い直し水面下で離脱に向けて動き始めていた。それを許さない組織から粛清対象となっていた。

 

旭が本来桝山を呼び出した理由が、その件で桝山に組織へ取り成しを頼もうとしていたという事は、彼らしか知らない真実である。

 

『…我々に関しての情報が漏れた可能性はあるのか』

「無いだろう。我々に関するデータもPCの奥深くにロックされていたし、それが閲覧された形跡も無かった。安心だ」

『…念の為、沢木とかいう奴は消した方が良いと思ったが』

「おいおい、やめておけ。不必要に殺しをすればどこかで足がつきかねない。お前の悪い癖だぞ」

『うるせえ。あの方から許しさえあればお前を殺してやっても良いんだぞ?』

「…やれやれ」

 

桝山はジンの態度に呆れて肩をすくめる。

 

『…まあ良い。それより次の任務についてだ』

「おや、もう次かね」

『今すぐって訳じゃないがな…呑口重彦、知っているか』

「ああ。民政党所属の若手筆頭だろう」

『奴は我々の末端に位置する構成員でな』

「ほう」

『コードネーム持ちじゃない、まぁ雑魚の一人だったが色々と政界に対しての工作を担当していた男だ。そいつの収賄疑惑について今週刊誌のネズミ共が追いかけているらしい』

「…なるほど。つまり問題の収賄疑惑で逮捕され、我々に関する情報を吐かれる前に消してしまおうという事か」

『上からの指示が降り次第行動開始だ。それまで精々体を休めておくことだな』

「…安心しろ。老骨に鞭打ってでも、あの方の為に働こうではないか」

『良く言った。ではまた追って連絡する。じゃあな…

 

 

 

 

ピスコ』

 

 

 

『黒の組織』構成員、ピスコこと桝山憲三は、誰に見せるでも無く狂気に満ちた笑顔を浮かべる。

 

 

 

 

対決まで、もう少し。

 

 

 

 

 

「標的」完。

 

 

次回、「対決Ⅰ:Pisco」編。

 

 

 




以上で標的編完結です。


完結記念裏話。

標的第1話で降谷と風見を出した理由、4話と5話で組織と桝山を出した理由、その後原作とは少し違う『展開』や『フリ』を入れた理由、全て今回やりたかった事の為のフリでした。

当初、本二次小説では劇場版の話しか描かない事にしていましたが、計画を変更し、一部原作漫画の話を組み込もうと考えたのが摩天楼完結後の事でした。
その際何を組み込もうか考えた時、やはり組織関連の話は捨て置けないと思い、そしてその方向性を標的編で示そうと考え、今回の最終回に向けて話を構築していきました。


そして日野警部補、まさかの出演。
コナン拳銃発砲問題にどう対処しようとまず標的を始める前に検討した結果、『やはり発砲させるのは不味い。やめておこう。でもフ〇ーザは制圧しよう』と決めました。そして別の誰かに撃たせるなら…と思ったらふと日野警部補の存在を思い出しました。
感想欄で日野警部補について言及されてた方もいらっしゃいましたね。


なお、本作ではマジで相当な腕前のスナイパーの模様。
…え?『アイツ』とどっちが上かって?




…それを描くのはどれほど先になる事やら。




ここで改めてお知らせです。

次回は劇場版原作ではなく、漫画原作です。
タイトルとラストの展開からお察しの通り、例のお話の予定です。
本世界線ではどのような展開になるのか、どうぞご期待ください。
(原作と違う展開になるとは言ってない)(予定は未定)(まじでどうしよう)


さて、大みそかという事でまとめを。



前連載から長いエタりを経て復活した私ですが、幾ら人気コンテンツであるコナンと相棒とはいえ、ここまでの反響を頂けるとは想定外でした。
閲覧して下さっている皆様、お気に入り、高評価して頂けた皆様には、本当に感謝しております。

改めて、ありがとうございます。

まだまだ未熟者で、文章も拙い私ですが、これからも皆様が、なおかつ自分も楽しんで執筆続けられるように、二次創作を続けてまいりたいと思います。

更新をお待たせする事も多々あるでしょうが、どうぞよろしくお願いいたします。



さて、次回「対決Ⅰ:Pisco」の更新時期は正直未定なのですが…
必ず皆様にお届けしたいと思いますので気長にお待ちください。


それではよいお年を。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。




餌屋


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