「…探偵ぃ?」
突然杉下達の前に姿を現した青年、安室透に不信感を露わにする冠城。
その隣で杉下は、警戒度を跳ね上げていた。
「…なぜ、僕たちの事をご存じなのでしょう?」
安室の発言から、既に自分達の素性と『桝山を調べる』という目的を知られていると理解したからだった。
そして、安室がわざわざ分かるように言ったとも。
「ふふ、お二人とも有名ですよ?警察庁の陸の孤島『特命係』。元捜査二課のエース、杉下右京と元法務省キャリア組、冠城亘。
問題を起こし島流しにされた厄介者達だが、優秀な能力を持ちこれまで解決してきた事件は数知れず…」
「…」
安室が挑発的な物言いで杉下達の素性をつらつらと喋っていく中、二人の警戒度は極限まで上がっていく。
「…ってまあ、全部知り合いの刑事さんからうわさ話で聞いただけなんですがね!」
と、突然態度を急変させ、笑みを浮かべながらおどけてみせる安室。
「…はいぃ?」
あまりにも唐突な安室の変化に杉下は思わず戸惑ってしまった。
「いやぁ~お二人の話を伺ってからとても尊敬しておりまして!まさかこんな所で出会えるとは!!」
「え?ちょ、ちょっと待ってくれる?ど、どういう事?」
「…僕達の話を聞いていたのは理解しましたが、よく気づきましたねぇ」
完全に困惑している冠城と、戸惑ってはいるが警戒心は抜けていない杉下。
「元々アタリはつけていましたよ?
桝山邸に用があるのに遠くから伺うように見ている男性二人。
ライバル会社からのスパイか、はたまた桝山氏個人への物か…
お二人の身なりや、警備員以外からの視線を気にしていない様子から企業スパイの可能性は低い。
という事は個人に対して。そして二人組となると真っ先に思い浮かぶのは警察関係者。
しかし普通の警察関係者ならアポを取って正面から向かうはず。
それをしていない…出来ない人達。となると話に聞いた特命係のお二人かなと。
桝山氏の不穏な噂から反社会的な方々の可能性も考えましたが…まあそれは低いと考えまして。
そして失礼ながら近くで話を伺ってみると…案の定でした」
「…凄い。本当に探偵みたいですよ右京さん」
安室の推理に感心する冠城。
「…というのは建前で、実際の所知り合いの刑事とやらに顔も教えてもらっていた、とかですか?」
「あ、バレました?」
と杉下がジト目を向けると、安室はまたにこやかな笑みを見せる。
「へ?それも嘘なの?」
「あはは、すみません。余りにも冠城さんの反応が良いものでつい…」
「…勘弁してくれない?安室君」
呆れて頭を抑える冠城と苦笑いを浮かべて謝罪する安室。
「まあ、どこまで本当か冗談なのかは置いておいて…お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
呆れを通り越して苛立ちを感じてきた杉下は、鋭い目で安室に問う。
「はい。何でしょう?」
「先ほど、『桝山氏の不穏な噂』と仰りましたが一体どういう事なんでしょう。あなたがここにいる事にも何か関わりがあるのですか。まさかそれも冗談、だと仰るのでしょうかねぇ?」
「あれ?お二人とも、その件じゃ無いんですか?」
「というと?」
「あー…分かりました。僕がここにいる理由については守秘義務もありますのでお答えできませんが噂の内容なら。
『密輸』ですよ」
「「!?」」
安室の口から出た思わぬワードに驚く二人。
「密輸とは…穏やかではありませんねぇ」
「昔から裏の裏で噂されているようなんですがね。元々『マスヤマ』は海外の自社工場で車を生産した後、自社の所有する貨物船で海路を使って日本に運び込んでいるのはご存じですか?」
「ええ。国内トップシェアを誇るマスヤマの莫大な利益と膨大な資金力だから出来るシステムで、迅速な商品提供を行えるという話ですねぇ」
「その貨物船で乗せてくる車の中に、拳銃やら麻薬やらを詰め込んでいるっていう噂がありまして」
「そんなまさか…そんなの、港での検閲で見つかるだろ?」
安室の解説にあり得ないと訝しむ冠城。
「ええ。普通は絶対にあり得ません。しかしそこを何とかしている、らしいんですよ。検閲担当全員を始め、多くの政治家や官僚に金を掴ませ、秘密が漏れそうになれば…という」
「…おいおい」
「あくまで噂ですがね。僕も偶々その筋の知り合いから聞いただけなので」
「その知り合いというのは?」
「…消息不明ですよ。その話を聞いた少し後にね」
「なるほど…あなたの言う事が嘘でないなら、ただの噂と断じる訳にはいかないですねぇ」
あくまで安室の言う事をそのまま信じてはいない、とする杉下だったが、恐らく事実であろうと考えていた。
(もし、僕の予想通り桝山さんが『組織』の人間であればあり得ない話ではありませんねぇ…)
「つまり、この噂が事実ならあの邸宅はまさに敵の本丸。無策で乗り込めばただでは済まないでしょう」
「…どうします右京さん。今日の所は諦めたほうが」
「…良さそうですねぇ」
桝山の底知れなさに一度引くことにする二人。
「…そうだ。もしかしたら」
安室がふと思い出したように二人へ提案する。
「わざわざ邸宅に行かなくても会える方法、あるかもしれませんよ?」
「どういう事でしょう?」
「来週、杯戸シティホテルで『酒巻昭氏を偲ぶ会』が行われるんですが、その場に桝山さんも現れるはずです」
「酒巻昭?」
「確か、先日亡くなった有名な映画監督ですよね?」
「ええ。実は僕、別件でその会にウェイターとして参加する事になっていまして。その来場者リストに確かその名前が」
「なるほど…その場でなら表向きの顔としてやって来る桝山さんと偶然を装って会う事が出来るという訳ですか」
「でも、僕らはどうやって会場に入りましょう?」
魅力的な案ではあったが、実現する方法に悩む冠城。
「…確か、来場者の中に一人警察関係の方がいらっしゃったかと」
「どなたです?」
「警察庁の甲斐峯秋という方です」
思わぬ名前に、杉下と冠城は顔を見合わせニヤリと笑みを浮かべた。
***
その後、甲斐に会うため本庁に戻る杉下達を見送った安室は更に路地の奥へ足を進めた。
その後ろから、
「待て、バーボン」
「…?あぁ、アイリッシュですか」
アイリッシュが安室を睨みつけながら鋭い声をかけてきた。
「ここで何をしている?さっきの奴らは何者だ?何を話していた?」
「…なるほど、監視されていましたか。全く…仲間だというのに」
「黙れ。信用してほしいならそれなりの態度を見せるんだな、クソガキ」
「…やれやれ。警視庁の人間でしたよ」
「警視庁?」
「ええ。どうやらピスコに聞きたい事があったようですが、アポ無しな上に警備員が多くて日和ってしまったらしいですよ?」
「随分仲良く話していたようだったが」
「そりゃあ警察にも知り合いはいますからねぇ。僕の表の顔、知っているでしょう?」
「…あぁ、そういえば探偵をしていたんだったか?」
「そういう事です。安心してください。アポが無ければ難しいだろうと言って帰らせたので」
「…」
「それでは。ピスコに来週、よろしくと伝えてください」
そう言うとアイリッシュに背を向け立ち去る安室。
「…チッ!ジン、ウォッカ、バーボン、ピンガ…どうしてこうもイラつく奴ばかりなのか」
ボヤキながらその後ろ姿を忌々し気に睨み続けるアイリッシュだった。
***
1週間後、杯戸シティホテル。
杉下達は『映画監督 酒巻昭氏を偲ぶ会』の会場に甲斐に連れられやって来ていた。
「…良いかい?君達がどうしてもというから連れてきたんだ。頼むから余計なトラブルは避けてくれよ?」
「心得ています」
「ありがとうございますっ」
どこからか会への参加を嗅ぎ付けてきた杉下達に押し切られる形となった甲斐は、意味は無いと思いながらも二人に釘を刺す。
二人のどうにも信用ならない返事を確認した甲斐は、ため息を一つつくと二人を置いて挨拶周りをしに離れていった。
「…さて、どうします?」
「そうですねぇ、取り敢えず桝山さんを探す事に…おや?」
本来の目的を早速果たそうと杉下が辺りを見回していると、見慣れた姿が目に入る。
深刻そうな顔で辺りを見回すその小さな姿は、隣の眼鏡をかけた少女と何か話し込んでいる。
(一体何故彼が…まさか)
小さな二人に近づき声をかける杉下。
「コナン君?」
「!?…え、杉下警部!?どうしてここに…」
「君の方こそ…まさかとは思いますがもしや…」
その時。
『では皆さん!これより秘蔵フィルムをスライドでご覧にいれましょう!』
司会のアナウンスで、会場の明かりが落とされる。
「明かりが…!?ま、不味い!」
「ちょっと彼、いなくなってるわよ!!」
「なに!?」
コナンと少女が辺りを見渡しながら焦りを見せる。
途中フラッシュが光り、キュインという微かだが甲高い音が聞こえ、
そして。
ガシャアアアアアアン!!!
「「「「!?」」」」
突然会場内に鳴り響く轟音。
ざわめく会場に明かりが灯される。
そこには天井にぶら下がっていた筈のシャンデリアが、収賄疑惑で世間を騒がせている政治家、呑口重彦を押しつぶしていた。
黒鉄の魚影を観て良すぎて爆発した餌屋です。こんばんは。
最高潮に高まったテンションで書き上げました。
公開当日に観てきました。
僕は素直に面白かったです。
自分的には確実に五本の指に入る位傑作でした。
正直何を言ってもネタバレになるので、まだ見てない方は是非に。
ネタバレ許される頃には語りてえなぁ…初めてTwitterのスペースとかを開いて、ネタバレ全開で語りたくなったのを何とか堪えました。
ていうかマジで神作品過ぎてちょっと今後の更新がプレッシャー過ぎ…笑
頑張ります。
なおピンガが台詞に出てきたのは、公開記念のちょっとした思い付きです。
流石に本作にはまだまだ出てきません。
謝辞を。
前回の更新後、日刊ランキングが急上昇し確認できただけで7位まで上がってました。
連日多数のPV、お気に入り登録…ありがとうございます。
映画効果もあるのかと思いますが、ご期待に沿えるよう、かつ自分も楽しんで続けられるよう、執筆続けたいと思います。
また、誤字報告もありがとうございます。
気づいてない部分もあったので助かっております。
それではまた次回。
次回はコナン視点が多めです。
餌屋TwitterID @esaya_syosetu