「は、犯人はこの中にいるって」
「まさか・・・ただの事故だったんじゃなかったのか?」
杉下の宣言に会場内に動揺が広がる。
「杉下君、一体どういう事なのか説明してくれないか」
「勿論です。目暮警部。今回の事件、これは殺人事件です。そして容疑者は7名」
「7名・・・」
目暮の要望にうなずき、杉下はスマホを取り出して名前を読み始める。
「さて、今からお名前をお呼びする方は皆さん前に集まってください。
・・・まず、司会の麦倉さん。大学教授の俵さん。プロ野球球団オーナーの三瓶さん。
音楽プロデューサーの樽見さん。作家の南条さん。女優のクリス・ヴィンヤードさん。
そして・・・枡山さん」
一人ずつ、目線を向けながら杉下は声をかけていき、最後に枡山に目を向ける。
微笑みを浮かべ見つめる杉下に対し、枡山はまるで無表情だった。
「わ、私・・・?」
「何故僕たちが・・・」
俵や樽見達は自分達が容疑者扱いされる事が不可解そうにしながらも前に出てくる。
「・・・皆さんありがとうございます。さてこの7名の皆さんには一つ、共通点があります」
「共通点?」
「えぇ、それは皆さんがお持ちのハンカチの色です」
そう言って杉下は懐から証拠品用のビニール袋に入った紫色のハンカチを出し一同に見せる。
「このハンカチは、事件発生時現場に落ちてきたものです・・・ここをご覧ください。小さいですが焦げ目がついています」
「確かに・・・」
「鑑識で調べて頂いたところ、このハンカチからは硝煙反応が検出されました」
「硝煙反応って、まさか、拳銃!?」
「えぇ。そして、もう一つ」
そして更に杉下は袋に入った鎖の破片を取り出す。
「これも現場周辺の料理の中に落ちていたシャンデリアの鎖の破片です。こちらからは僅かですが、蛍光塗料の跡が検出されました」
「蛍光塗料?」
「えぇ。この2つの遺留品によって、どうやってシャンデリアを落下させたのかおおよその想像がつきました。
まず犯人は、呑口議員を何らかの方法で言いくるめ、あの暗闇のタイミングでシャンデリアの真下に誘導したのでしょう。」
「一体どうやって・・・」
杉下の推理に驚きと戸惑いを隠せない目暮。
「呑口議員は収賄疑惑で逮捕間近とささやかれていた人物です。もしかすると『挽回の機会を与えるから会場の明かりが落ちたら床が光っている場所で待つように』とでも言ったのではないでしょうか。
シャンデリアを撤去した後、鑑識で調べて頂ければ恐らく床に蛍光塗料が塗られていると思いますよ?」
「なるほど・・・」
「そしてその後犯人は、サイレンサー付きの拳銃を使ってあらかじめ同じく蛍光塗料で目印をつけておいたシャンデリアの鎖を撃ち、落下させて呑口議員を殺害したという訳です」
「しかし幾ら会場が暗かったとはいえ、発砲すれば火花が光って周りの人間も気付くはず・・・そうか!だからハンカチを!」
「えぇ。ハンカチをサイレンサーの先に被せて発砲すれば、発砲と同時にハンカチが飛び、火花を隠してくれるという訳です。もしかすると、天井のどこかに銃弾がめり込んでいるかも知れませんねぇ」
杉下は目暮へ自分の推理を説明すると、改めて7名へ向き直る。
「このハンカチは、この『酒巻監督を偲ぶ会』の参加者皆さんに受付で渡されたものです。酒巻監督の代表作になぞらえて、七色のハンカチをランダムで皆さんに配られたそうですねぇ。
そしてその中で紫色のハンカチを配られ、かつ事件発生前に既に会場を後にした方々を除いた方、このハンカチの持ち主と思われる方が、お名前をお呼びした皆さんという訳なんですよ」
***
「じゃあ、7人の中で自分のハンカチを持っていない人が犯人という事か!」
杉下の一連の推理に目暮が、期待の声を上げる。
「そうだったら話が簡単だったのですがねぇ・・・」
しかし、期待とは裏腹に杉下は困った顔を浮かべた。
「僕の予想が正しければ恐らく・・・恐れ入りますが皆さん。ご自身のハンカチを見せていただけますか?」
杉下の要請に、一同は顔を見合わせながらも懐からハンカチを取り出す。
紫色のハンカチを。
何と、7名全員が。
「ぜ、全員ハンカチを持っているじゃないか・・・」
「やはりそうでしたか・・・」
「杉下君・・・どういう事なんだね」
期待外れの光景に愕然とする目暮の側で推移を見守っていた甲斐が思わず険しい顔で杉下に問いかける。
「この犯行方法には、重大な欠点が存在しています。それは『自分のハンカチを使用した場合、そのハンカチを所持していないだけで犯人として疑われる』という欠点です」
「確かに、所持品検査をすれば怪しまれる事は間違いないだろうね」
「勿論、犯人としてはそもそも今回のように警察が既に現場に来ているなんて事も想像していないでしょうし、偲ぶ会のハンカチを使えば、同じ色のハンカチを貰った参加者は何人もいる・・・回収できなくても足がつきにくいと考えたことでしょう。
・・・だとしても、ここまで用意周到に計画を立てた人物です。この欠点を見逃す訳はありません。万が一にも疑われないようにもう1枚ハンカチをどこかで用意しているのでは無いかと思っていたのですが、どうやら当たりだったようですねぇ」
「しかし・・・そうなるとどうやって犯人を特定したというんだね?一体犯人は誰なんだ?」
一向に真相の見えない状況に痺れを切らし、目暮が問う。
「・・・シャンデリアを落とし、呑口議員を殺害。
新しいハンカチを何らかの方法で手に入れ、自身に疑いを向けないようにして素知らぬ顔でこの場にいる犯人、それは・・・」
目暮の問いに、杉下は一人を鋭い目で見定めた。
「・・・枡山さん。貴方ですよね?」
***
杉下の指名に、会場のあちらこちらで戸惑いとざわめきが生まれる。
枡山は一瞬顔を伏せたかと思えば、肩を揺らし笑い始めた。
「ふ、ふっふっふ・・・突然何を言い出すかと思えば。杉下君、私が呑口君を殺した殺人犯だと?」
「えぇ、僕はそう考えています」
「・・・なるほど?確かに君の推理は非常に面白かった。君の推理通りなら確かに、呑口君を殺害することも可能だろう。いくつかの遺留品もそれを証明しているようだ・・・
・・・しかし、君は先ほど自分で証明したように思えるんだがね?君の推理は『決定打に欠ける』と」
「・・・」
枡山の指摘に何も返さず微笑みを浮かべる杉下。
「だってそうだろう?ハンカチを全員が持っている以上、それでは君の推理した犯行方法を特定の人物が行った証明はできない。逆に言えば、誰でも犯行ができたという事にはならないかね?」
「誰でも、というのには賛同できませんが・・・確かに仰る通り特定には至りませんねぇ」
「そうだろう?それでどうして私が「枡山さん」犯人だと・・・なんだね」
枡山の発言に被せるように喋りだした杉下。
「枡山さん、貴方の計画は完璧でした。普通なら貴方に疑いの眼が向くことは無かったでしょう。しかし・・・残念ながら枡山さん。
貴方は一つ、とんでもないミスを犯しているんですよ」
「・・・ミス、だと?」
思わぬ杉下の発言に、顔がこわばる枡山。
「・・・一体、何のミスを犯したというんだね?」
「枡山さん・・・実は決定的な証拠があるんですよ」
そうして杉下はスマホを取り出し、1枚の写真を表示してみせる。
「それは・・・?」
戸惑う枡山の側で、樽見と南条が顔を赤らめながら焦ったように顔をこわばらせた。
「な・・・!」
「そ、その写真は一体!?」
その写真は、樽見と南条が抱き合っている、安室から見せられたフォトスの記事の写真だった。
「これは週刊フォトスのSNSに掲載された特別記事の写真です。樽見さん、南条さん。残念ですが、既にフォトスは貴方たちの熱愛をスクープしています」
えぇ!?と会場中から驚きの声が上がり、樽見達は羞恥心で顔を真っ赤にし、縮こまってしまう。
「・・・それで?そのゴシップ写真が証拠だというのかね?全く馬鹿馬鹿しい・・・」
枡山は期待外れとばかりに顔をゆがませ、ため息をつく。
「いえ?本題はここからです」
「・・・?」
杉下はそう言うとスマホの写真をゆっくり一点に向けてアップにし出す。
「・・・・・・んん?」
その画面に枡山は勿論、樽見達や目暮、甲斐までもが注目していく。
「・・・な、何ぃ!?」
「こ、これは・・・」
そこに写されていた物に気づいた瞬間、全員が驚愕の顔になる。
「ば、馬鹿な・・・こんな・・・こんな物が・・・」
自分の見ているものが信じられない様子の枡山。
熱愛発覚写真のずっと奥側をアップした場所に、枡山が銃を天井に向ける姿が映し出されていた。
タイトルで既にネタバレしていた件。
7話でした。
正直原作を読んだ当時、あまりにしょうもないミスを犯してるなピスコ?ってなりました。
よって当作品の世界線ではしっかりと指摘して、ピスコおじさんを絶望させる事に決定しました(愉悦)
その影響で衆人環視の元、ゴシップ写真を見せられた樽見さん達には本当に申し訳ないと思っています。
普通に恥ずかしいと思う。マジごめん。
今回は解決編前編でした。
次回は後編と・・・です。
お楽しみに。
餌屋TwitterID @esaya_syosetu