「よっ、暇か?・・・じゃ無さそうだな」
特命係。
いつものようにコーヒーを淹れに来た角田課長は、パソコンに向かう杉下に声をかける。
「えぇ、生憎暇じゃなくなってしまいました」
「なんだ警部殿。また何か首をつっこんでるのかい?」
大阪行きを明日に控えた杉下だったが、陣川、夏美との食事会以降、ずっと調べ物をしていた。
「ん~何々・・・イースターエッグ?何だ警部殿、今度はキッドかい?」
杉下の後ろから、画面を覗き込む角田。
イースターエッグの歴史やこれまでのキッドの狙った宝石、夏美の曾祖父喜市についてなど、様々な資料が開かれていた
「えぇ、少々気になることが出てきましてねぇ」
「気になること?」
「これまで怪盗キッドのメインターゲットは『ビッグジュエル』だったはずが、今回は全く違うエッグを狙っているのが気になりましてねぇ・・・」
「何か目的があるってのかい?でもこれまでビッグジュエル以外を狙ったことが無いわけじゃないだろ?」
「えぇそれはそうなんですが・・・どうしても気になりましてねぇ・・・わざわざロシアの宝飾品を狙う理由が何か無いのだろうかと」
「ロシアねぇ・・・ん?」
と、角田は何か記憶にひっかかるものがあったのか顎に手をあて首を大きくひねり出した。
「何か?」
「いや・・・直接関係がある訳じゃないんだが、ロシアで宝石系っつうと、確かロシアの宝飾品を狙っていたトレジャーハンターが居たような・・・」
「・・・トレジャーハンター?」
「おはようございます」
角田からの思いがけないワードに杉下が立ち上がった所へ、予想外の人物が現れた。
「・・・冠城君?」
何と既にグアムへ姉と旅行に行ったはずの冠城が、出勤してきたのである。
「おお、冠城。お前さん、お姉さんと旅行中じゃ無かったのか?」
「それが聞いてくださいよ・・・姉がまさかの旅行前日に熱出しまして」
「おやおや。それは穏やかじゃありませんねぇ」
「あまりに高熱だったので即入院。昨日までずっとつきっきりになりまして」
「そりゃまた。んで具合はどうなんだ?」
「何とか落ち着きましてもう心配は無くなりました。とはいえまだしばらくは入院が必要ですし、姉が『大丈夫から仕事でもしに行け』としつこくいうもんで、後は姉の同僚に全部任せて出勤しようかと」
肩をすくめておどける冠城。
「・・・同僚というのは本業の方ですか?」
「えぇ右京さん。流石にボランティアスタッフの方はどうしても手が空かず、お見舞いに来て下さったピアノ教室のスタッフさんにお願いしてきました」
杉下の問いに、いつものおどけた微笑みで答える冠城。
そんな冠城に杉下も微笑みで返す。
「・・・そうでしたか。しかし折角『わーくん』と旅行に行けるというのに、さぞお姉さんも残念がっていたでしょうねぇ?」
「仰る通り。病み上がりでまだ体が怠いっていうのにずっと『行きたかったのに・・・』なんて無茶苦茶悔しがってましたよ。ところでお二人とも、何話してらっしゃったんですか?」
杉下の問いに、いつもの様子でにこやかに返す冠城だったが、杉下達の話の腰を折ったことに気づき、流れを戻しにかかった。
「・・・あぁ、そうでした。課長、トレジャーハンターと仰りましたが一体?」
「いや、何年か前に拳銃密輸とブローカーをやってた組を摘発した時なんだがな?取引相手のリストを調べてたら、『スコーピオン』っつう珍しい偽名の奴がいてよ。組の奴に聞いたらトレジャーハンターらしいって言うんだよ。今時トレジャーハンターなんている訳ねえだろ!って笑ってたら・・・なんと実際にいてよ」
「『スコーピオン』・・・僕も聞いたことがありますね」
杉下は急ぎパソコンの前へ戻り、警視庁のデータベースから『スコーピオン』の情報を呼び出す。
「出ました。『スコーピオン』― ロマノフ王朝の財宝を専門に、各国で活動が報告されている強盗犯。殺人を厭わないその犯行により、国際指名手配をされている・・・殺害方法は拳銃で右目を撃ち抜く、ですか。
日本でも犯行時、同じ方法で警備員が殺害されているようですねぇ」
「あぁ。丁度その頃、ロマノフ王朝の絵画だかが日本で展示されていてな。そいつを狙うために武器を手に入れようと接触したらしい」
「わざわざ日本で犯行を行うためにそこまでしますか」
「銃社会では無い日本は、空港の所持品検査がかなり厳しいですから。武装するには現地で調達する方が早いと踏んだんでしょう。どこかで伝手があったんでしょうかね」
三人でパソコンに表示された『スコーピオン』の情報を覗き込みながら、冠城はスコーピオンの行動を分析する。
「年齢不詳、性別不詳とありますが、取引では直接会ってはいないんでしょうか?」
「あぁ。やり取りは全部メールだったし、取引はコインロッカーで行ってたから実際に会うことは無かったってよ」
「今時随分古めかしいやり方ですね・・・」
ひと昔以上前の取引方法に冠城は思わず苦笑してしまう。
「・・・キッドがどう関係してくるかは分かりませんが、今回のエッグをスコーピオンが狙ってくる可能性がありますねぇ」
「まあ、ロマノフ王朝のお宝の中じゃエッグは特別な存在なんだろ?狙ってこない訳は無えわな」
そう言って、話は終わりとばかりに角田は課へ戻っていく。
「やはり右京さん、キッドの事件を調べに大阪へ?」
「ええ。お二人、同じくエッグを調べるために同行者がいますが」
「同行者?・・・じゃあ折角ですし俺も連れて行ってください」
「しかし、君はお姉さんの側にいなくて良いんですか?」
「先ほども言った通り、もう姉も心配無くなりましたし。数日程度なら問題ありませんよ」
「そうですか。では、折角ですし手伝っていただきましょう」
***
翌日。
12月21日。
昼を過ぎた頃、東京駅で初めて冠城は夏美と顔合わせた。
夏美の執事である沢部も含めた四人揃って大阪へ向かい、夏美がエッグを調べている理由などの情報共有を済ませつつ、四人は夕方過ぎに大阪に到着。
その後、大阪城側にある鈴木近代美術館へ直行した。
美術館前。
流石に辺りが暗くなった午後6時前。
「おや?コナン君?」
警備員に関係者を呼び出してもらおうとしていると、バイクが三人に近づいてきた。
杉下はバイクの後ろに乗っているコナンに気づいて声をかける。
「杉下警部!?冠城さんまで」
「キッドキラーの君だから、今回も関わっているとは思っていましたが、まさかこんな所でお会いできるとは」
「ええ、鈴木会長から小五郎のおっちゃんが協力を依頼されたので一緒に。でも、何でここへ?」
「実は気になる事がありまして、こちらの香坂夏美さんと一緒にエッグを見せて頂きたいと思いましてね。ところで彼は・・・」
杉下がバイクの運転手である青年に目を向ける。
「ほう、アンタが警視庁の名刑事、杉下右京さんっちゅう訳か」
「もしや君は」
「初めましてやな。俺は服部平次。西の高校生探偵って言われとるもんや」
祝・服部平次初登場!
作者の一番の推しは小五郎なんですが、二番目の推しが平次なんです。
だからこそ、登場させるのは凄く緊張したのですが満を持してってやつですね。
・・・実は関西出身な作者ですが、小説で関西弁を書くのは初めてなので、ちゃんと違和感なく書けるか不安です・・・(;^ω^)
***
早速スコーピオンの存在に杉下がたどり着きました。
本作はスコーピオンにとってとてもハードモードな流れになりそうですね。
杉下右京を敵に回す事になるので。
***
さてここで一つ、新たに決定したことがありますのでお知らせです。
本作には前々回ご連絡した予告状以外のある設定について問題があります。
原作の『とある設定』が、現実世界の最近の研究において、全く違う結論が出たという事です。
何名かの読者の方からも、魔術師編についての感想でご指摘いただいていた件ですね。
これに関して、扱いを非常に・・・それはもう非常に悩んだのですが、現実世界の歴史的事実に合わせるとストーリーが完全破綻してしまいどうしようもできないと判断しました為、この設定については原作映画通りの流れで参ります。
何卒ご容赦ください。
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さて、次回より原作の話に本格突入です。
次回「魔術師」編、第4回。
9/29更新予定。
お楽しみに。
皆様いつもありがとうございます。
感想お待ちしております。
餌屋TwitterID @esaya_syosetu