「・・・それで、一体何故海遊館へ?」
高速に乗ってしばらくした頃。想定以上に空いている交通状況に少し余裕が出てきた西野が戸惑いがちに助手席の杉下へ尋ねた。
杉下は軽い咳ばらいをすると自らの推理を話し始めた。
「今の時間、風向きを調べると軽い西風が吹いていました。
怪盗キッドはこれまで、常にハンググライダーを使用して犯行を行っています。
ハンググライダーは向かい風を利用した方が飛びやすい。犯行後の逃走に使用するならば、向かい風に向かって、つまり西へ向かって逃走するでしょう。
そうすると、まず目につくのは西側の大阪湾方面です。大阪湾へ出る手前で降下し、そこから更なる逃走に入ると考えれば、一番の候補が天保山・海遊館周辺になります。そこへ先回りしておけば、キッドを待ち伏せできる、そう考えたんですよ。」
「なるほど・・・!」
「高速も空いていますし、この調子なら午後7時20分までには海遊館周辺にたどり着けそうですね」
「すぐに逃げてくる訳でもないでしょうし、そこまで急ぐ必要はないんじゃ・・・」
「いえ、恐らく午後7時20分になれば、動きが制限されてしまいます」
「ど、どういうことですか?」
「何故キッドは通天閣をスタート地点に設定したのか。
あくまでこれは僕の想像ですが、恐らくエッグが別の場所に移される事を想定していたのではないでしょうか。
そうなると移動先の調査が必要になる。しかし中森警部は情報が洩れる事を避けるため、極めて少人数で動くことでしょう。
簡単に情報を引き出せないキッドがとる行動・・・移動先を特定する何らかの仕掛けを用意しており、その特定の為に高所へ上がる必要があったのではないでしょうか」
話している内に、車は何とか天保山の高速出口を通過した。
「仕掛けですか」
「例えば、変電所に細工をして一時的に大阪中を停電にする。一般の建物はともかく、例えば病院などの主要施設は非常用電源に切り替えてすぐ復旧させるでしょう。
そして復旧していく建物の中に、例えば何の変哲のないビルが早々に復旧しているとすれば・・・」
「あぁ!なるほど!停電ともなれば、中森警部達は必ず非常用電源を起動させて、態勢を整える!!」
午後7時20分。
ドーンという音と共に、北の方角で大量の花火があがり始めるのが微かに見えた。
「あれは・・・大阪城の方ですかね?」
(このタイミング・・・恐らく通天閣に意識を向けない為のおとり・・・)
キッドの思惑を推理していると、突然辺りが真っ暗になってしまう。
夜間とはいえ、交通量も少なからずあった為、杉下達を含め周囲を走っていた数台の車が、驚いたように停車する。
「て、停電!?杉下さんの推理通りだ!」
「やはりこの手で来ましたか・・・西野さん!僕はこのまま徒歩で海遊館方面へ向かいます!」
「え、ちょ、杉下さん!?」
もはや一刻の猶予もないと判断した杉下は、車から飛び出すと、そのまま走って海遊館へ向かった。
***
何とか天保山周辺にたどり着いた杉下。
そこにコナンから電話がかかってきた。
「コナン君、そちらの状況は?」
『すみません!元々の渋滞に加えて、停電の影響で結局間に合わず!キッドにエッグを奪われてしまいました!!』
「キッドはどちらへ!」
『向かい風に乗って西へ向かっています!この先は大阪湾に出ます!!』
「やはりそうでしたか。今こちらは天保山にいます。」
『天保山・・・わかりました!』
「とはいえ、こちらは今一人きりです。キッドが降り立つ場所を把握したらすぐ合流を―来ました。キッドです」
杉下の目線の先には白いハンググライダーがこちらへ向かってきていた。
恐らくエッグが入っているであろう箱を抱えたキッドは不敵な笑みを浮かべながら空を泳ぐ。
その時、杉下はキッドが向かってきている方角にある橋の上で、何かが光ってきらめいた事に気づいた。
(あれは・・・?)
時刻は夜。更にその場所はかなり遠く、肉眼では微かに見える程度だった。
杉下はスマホのカメラを起動する。
画質が荒くなろうとも構わず、目いっぱいズームして、何とか光の正体を判別しようとする。
浮かび上がったシルエットは、何かを構え、それを空に向けていた。
不明瞭ではあったが、手にはスコープのようなものがついた拳銃が・・・
「っ!!いけませんっ!!」
『杉下警部!?』
もう一度、光がきらめく。
次の瞬間、キッドが急によろめき完全に失速して落下していく。
あっという間にビルの陰に隠れてしまったキッドを追いかける杉下。
「狙撃です!キッドが何者かに狙撃されました!!」
『なんだって!!まさか、さっきの人影・・・!!』
「すぐに来てください!!公園の方へ落ちていきました!!」
杉下は、大急ぎでキッドが落ちた方角へ走り出した。
***
「確かこの辺りのはずですが・・・あれはエッグ!」
キッドを探し回る杉下。
海沿いの開けた場所に出た途端、目の前にエッグが落ちているのに気付いた。
「杉下警部!」
「・・・コナン君。あれを」
合流したコナンと共にエッグへ駆け寄る。
エッグの側で、ケガを負いもがく白い鳩の保護はコナンに任せ、杉下は、エッグに目立った損壊が無い事を確認すると辺りを見渡した。
辺りにはキッドの物と思われるモノクルが落ちていた。
しかし、キッド自身の姿はどこにも無かった。
その後。
中森警部の指揮の元、警察による懸命の捜索が夜通し行われたが、キッドは見つからず。
翌朝、エッグの展示は急遽取りやめられ、傷の有無の精密検査の為に鈴木財閥の船にて急遽持ち帰られることになった。
***
エッグを保管庫から持ってくる間、杉下と冠城は他の関係者と共に船の応接間にいた。
「そんな事があったんですか・・・」
「えぇ。冠城君は?」
昨夜の一件からバタバタしてしまい、思うように話もできなかった二人。
「はい。何とか青木から情報を貰ったんですが、あの停電で思うように動けなくなりまして、やっとたどり着いた時には全てが終わった後・・・しかし連絡を貰った時には驚きました。『キッドが狙撃されて行方不明』なんて・・・中森警部なんて顔を真っ青にしていましたからね」
「今もキッド捜索に残っていらっしゃるようですねぇ」
「服部君は、追跡中事故にあったとか」
冠城は、コナン達と一緒に昨夜の事を話している様子の服部に目をやる。
「はい。幸い軽いねん挫で済んだようで。今朝にはもう元気よく船に」
「それなら良かった。しかし、まさかキッドが死亡するなんて・・・」
「いえ、キッドは生きていると思いますよ。もしかすると、既にこの船に入り込んでいるかもしれませんねぇ」
「まさか、この中に・・・?」
冠城は何気なく、一同を見渡す。
エッグを取りに行っている西野とその様子を撮影するためやって来た映像作家、寒川 竜は席を外している。
他にいるのは鈴木会長、小五郎、蘭、園子、コナン。
服部、夏美、沢部。
そして、エッグを狙ってやってきた美術商の乾 将一。
在日ロシア大使館員、セルゲイ・オフチンニコフ。
ロマノフ王朝研究家、浦思 青蘭。
「勿論、あくまで僕の想像ですがね?」
第5回でした。
次回第6回。クルージング編・序です。
なおネタバレですが長文です。独自設定も入ります。
すごく反響が気になる・・・
お楽しみに。
皆様いつもありがとうございます。
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