「…そうですか!分かりました。取りあえず、爆発した電車は無いそうだ。今ノンストップで走り続け、時間を稼いでもらっている」
目暮は電話を終え、ひとまず安心といった様子をみせる。
「…分かりましたよ警部!」
「何が分かったんだね毛利君」
「奴の言っていた『××の×』は『座席の下』か、『網棚の上』ですよ!そこに爆弾が仕掛けられているんです!」
「『車体の下』とも考えられるぞ」
「えぇ、まぁ…」
「取りあえず、今後の事を本庁と相談しなければ…」
小五郎が自信ありげに推理を話すが、すぐ目暮に論破されてしまう。
「…そういえば、歩美君たち緑台駅から環状線に乗っているんじゃないか?」
「じゃあまさか…」
阿笠が気づいた可能性にコナンは心配になって探偵バッジで連絡を取る。
「歩美ちゃん!聞こえるか!今どこにいる?」
『あれ?コナン君?今冠城刑事に家まで送ってもらってる所よ!』
「冠城刑事に!?」
「おやおや、冠城君は子供達と一緒でしたか。偶然でしたねぇ」
思いもがけない名前にコナンは思わず杉下の方を振り向く。
杉下は驚いた様子を見せるが、コナンにはわざとらしいとしか思えなかった。
(畜生…子供達が電車に乗ってなかったのは良かったが…さっき小声で話していたのはこの指示だったのか!?)
「…分かった。何かあったらすぐ連絡して!」
『???分かったわ』
歩美は突然の連絡に戸惑ったようだったが、了解と通信を切る。
わざとらしい反応でコナンからの疑念を更に強めた当の杉下は、今度はコナンが使っていた探偵バッジに興味が引かれていた。
「…そのバッジ、トランシーバーになっているのですか?」
「え?あぁ、うん…」
「おもちゃにしては随分高性能ですねぇ…先程のスケボーも、エンジン付きのようでしたし…もしや阿笠さん、あなたがお作りに?」
「は?あ、あぁ…ワシの作品じゃが」
「そうですか。このような物を作るとは、私が知っているよりも数段上の技術をお持ちのようですねぇ。素晴らしい。まさに天才科学者、といった所でしょうか」
「ハハハ、それほどでも…」
阿笠が開発した物と分かると、杉下は笑みを浮かべて感心した様子を見せる。
天才科学者、と言われて警戒していた阿笠も思わず照れを浮かべてしまう。
「しかし、あのスケボーのパワーは扱いを違えば少々危険なように思えますねぇ…」
「あ、あぁ…勿論そこは周りに充分気を付けるようワシからも言っておるよ」
「まぁ賢いコナン君ですから、あまり心配はしていませんがね。コナン君もスケボーを使う際は、充分気を付けてくださいね?」
「う、うん…ちゃんと気を付けます…」
杉下の意図が読めず、戸惑うコナン。
一方杉下自身は、阿笠の発明品という事に注目していた。
(道路交通法などの法律問題はさておくとして…阿笠さんの技術力は素晴らしいものです。しかし、その技術力をただの子供に惜しみなく与えるでしょうか…もし、それだけコナン君への信頼が厚いとすればそれは一体…)
そんな話をしている中、目暮が本庁との電話を終えた。
「はい!分かりました!…本庁に合同捜査本部が出来た。ワシは東都鉄道の指令室にいく。毛利君、君も来るか」
「はっ!お供します!」
「杉下君は…」
「私はここで。何か分かれば、すぐお知らせします」
「頼んだ。行くぞ毛利君!」
目暮は小五郎を連れて、病室を出ていく。
同行を断った杉下は、一度コナンの事は置いておき事件について推理し始めた。
「…さて、急いで爆弾を見つけなければなりませんねぇ。時間をかければ乗客の方々もパニックを起こしかねません」
「あぁ、そうじゃな。しかし一体どこに…」
「…速度だけじゃ無くて、日没でも爆発するって言ってたよね」
(杉下警部の前で下手に推理して怪しまれるのは避けたいが…にゃろぅ…やりにくいな…)
コナンも杉下の事は気になるが、爆弾を見つける事を優先する必要があると判断する。
しかし杉下がコナンと工藤新一を嗅ぎまわっている以上、いつものように好きに推理をする訳にもいかず、コナンは内心やりにくさを感じていた。
「…日没…光…速度…っ!なるほど」
と、杉下がコナンの一言で何かに思い当たる。
「…どうしましたかな?」
「爆弾の設置場所が分かりました」
「え…!?もう分かったの!?」
「ええ。僕の推理が正しければ、まず間違いなく」
「それで!?爆弾はどこにあるの!?」
「爆弾の設置されている場所は、座席の下でも、網棚の上でも、車体の下でもありません…『線路の間』です」
「『線路の間』…!?」
「…そうか、そういう事かっ!!」
杉下の推理に阿笠は驚きの声をあげる。
一方コナンは、杉下の回答のみで全て理解したようだった。
「そもそも、時速60km以下というだけなら仕掛けとして理解できますが、日没という曖昧な時間をタイムリミットとしている事から、単純な時限式タイマーの可能性は極めて低いと言えます。
更に、速度がカギとなるなら車内の荷物という線も薄いと言えるでしょう」
杉下は理解できていない様子の阿笠に自身の推理を説明する。
「ならば、一体どういう事なのか。日没という事は、太陽の光が当たらなくなるという事。つまり、光が遮られる事が爆発を引き起こす鍵と考えられます。すると、速度に関しても自ずと理屈が想像出来てきます」
「なるほど!線路の間に設置して時速60km以下で走行した時に丁度爆発するよう、何秒間か猶予時間を作っておるのか!」
「ええ。つまり『線路の間』…それも日没以降に日が当たらないような場所に仕掛けられている可能性が極めて高い。そういう事なんですよ」
「…それじゃあ、電車を環状線から逃がせば問題ないという事じゃな!」
「ええ。犯人は『環状線に』爆弾を仕掛けたと言いました。これまでの犯行や、ヒントをわざわざ出す所から見て、プライドが高くこの期に及んで環状線には仕掛けて居なかった、などという下手な小細工はしていないでしょう。環状線から退避させれば問題ありません」
「なら、すぐ目暮警部に連絡せんと!」
「えぇ。早く、この馬鹿げた事件を、終わらせなければなりません」
***
警視庁、大会議室。
ここに、連続爆弾事件の合同捜査本部が設置されていた。
「何?杉下と冠城が動いている?」
「ええ…また奴ら勝手に動き回っているようでして…どうされますか部長」
責任者となった刑事部長の内村は、参事官の中園からもたらされた報告に驚きの声をあげる。
「…まあ良い。今は緊急事態だ。正義を貫くのならば構わん」
ある事件を気に、人が変わったようになった内村はそれまで特命係を目の敵にしている節があったが、今はこの通り大分理解のある人物になっていた。
逆を言えば、上層部からは扱いの困る人物になった訳だが。
「…よろしいのですか」
「いつも通り特命が勝手に動いているだけの事。不正義を行うのならば断じて認めんが、正義を行うならば良い。上手く使えば、早々に事件を解決出来るかもしれん」
「分かりました…」
と、そこで通信担当の警官が内村と中園に報告する。
「目暮警部より連絡!爆弾が仕掛けられている場所が特定されました!爆弾は『線路の間』に仕掛けられているとの事!指令室に到着次第、乗客の避難を始めるとの事です!」
「確かなのか!」
「それが…特命係・杉下警部からの情報提供なようでして…」
通信担当が、少し戸惑った様子を見せながら中園の方を向く。
それを受けた中園も戸惑った様子を見せながら内村の方を向く。
「部長…どうしましょう!?杉下だそうです!」
「…構わん!推理ミスがあればそれは杉下が不正義だったという事!避難を進めるよう伝えろ!完了次第、爆弾の捜索に移る!」
***
コナンの病室。
「…はい…そうですか!それは何より。捜索の方はお任せします」
目暮から一台目が無事停車出来、避難が開始されたとの報告を受け、杉下も一安心といった様子を見せる。
「問題なく、避難が開始できたようです」
「それは良かった。しかし、お見事な推理だったのう!」
「いえいえ、運よく気づくことが出来ただけですよ」
(…いや、それにしても推理力が桁外れだ。なんなら、俺よりも上かも知れない…本当何なんだ、この人)
阿笠が杉下の迅速な推理に感嘆の声をあげる。
それを見ていたコナンは、更に杉下の事が分からなくなるのであった。
「さて、僕は少々出かけてきます」
「はて?どうかしたのかね」
「少し、事件について調べたい事が出来ましたので…目暮警部達にはよろしくお伝えください」
「あ、あぁ…分かった…」
「では…あぁそうです!コナン君、一つだけよろしいですか?」
杉下は病室から出ていこうとしたが、何かを思い出したかのように手を一つ叩くと振り返りコナンに問いかけた。
「え、な、何?」
「今回の事件、元は工藤君への挑戦状だったはずです。彼は別の用件で行ってしまったとの事ですが、コナン君から連絡する事は出来るのでしょうか」
「いや、新一兄ちゃんは全然電話がつながらないんだ…」
「そうですか…では、もし連絡がつけば僕が一度お話ししたいと言っていた、とお伝えいただけますか?携帯の番号は教えておきますので」
「う、うん…でもどうして新一兄ちゃんに会いたいの?何かあるの?」
杉下から半ば強引に電話番号を教えられたコナンは、思惑を知ろうと逆に問う。
「特に何かある訳では無いんですがねぇ。昔、工藤君のお父様にお会いした事がありまして」
「え?とう…新一兄ちゃんのお父さんに?」
「えぇ。実に素晴らしい方でした。まぁ、そんなご縁があるので一度お話してみたいと思っただけなんですよ。では」
そう言って、今度こそ杉下は病室から出て行った。
「父さんと…杉下警部が知り合い…?」
「新一、一度優作君に電話をしてみてはどうじゃ」
「父さんに?」
思わぬ杉下と優作の関係に驚くコナンに阿笠が提案する。
「杉下警部と優作君が知り合いならば、彼についてもっと何か分かるかもしれん」
「…そうだな、今はとにかく少しでも情報が欲しい」
「確か優作君は今スイスに居るんだったか?」
「あぁ、時差は7時間。今頃昼前だ」
***
その後、病院から出た杉下は早速冠城に電話をかけた。
『はい、冠城です』
「杉下です。子供たちの見送り、ご苦労様でした」
『いえいえ、当然の事をしたまでです。それで、環状線のトラブルの方は…』
「爆弾魔からの第三の挑戦でした。それも、無事解決できそうです」
『そうですか…良かった』
「今、どちらですか?」
『既に子供たちは送り届けて、今例のタイマーが止まった児童公園前にいます』
「何か、気になる物はありませんか。どんな些細な事でも構いません」
杉下は既に現地に到着している冠城に指示を出す。
(プライドの高い犯人の性格からして、必ず何かタイマーを止める理由があったはず…それも、犯人にとってどうしても捨て置けない何かが…)
『そうですね…といっても周りは住宅街が立ち並んでいるだけですし…』
「児童公園自体はどうでしょう。何か目立つような物はありませんか」
『…そうですねぇ。強いて言うなら、街灯でしょうか』
「街灯?」
冠城は、児童公園の前に設置されている街灯に目をやる。
『妙に古めかしいというか、まるで海外のガス灯のような見た目をしていて、ちょっと周りと比べたらそこだけ浮いているような…』
「海外のガス灯…」
(ガス灯というと、ロンドンを思い出しますねぇ…ロンドン…古めかしい…イギリスの古典様式…?そういえば例の放火事件…まさか!だとするなら、全てに辻褄があってきますねぇ)
「冠城君、すぐに岡本元市長が主導していた『西多摩市の新しい街づくり』について調べてください」
『西多摩市の?…分かりました。市役所など、当たってみます』
「お願いします。僕もそちらにすぐ向かいます」
ある事に気づいた杉下は、冠城へ端的に指示を出すと電話を切り、改めて別の番号にかけ始める。
『…もしもし』
「あぁ、青木君ですか」
電話の相手は青木年男。警視庁サイバーセキュリティ対策本部の一員で、一癖どころの騒ぎではないほど、癖のある人物である。
青木は以前の事件で、杉下と冠城に対し並々ならぬ恨みを持っているのだが、何だかんだで二人に上手く情報源として使われているのだった。
『何の御用ですか杉下さん、僕は今連続爆破事件の捜査で忙しいんですけど』
「そうでしたか。それは好都合です」
『は?』
「実は、伊丹さん達が担当している連続放火事件について調べてほしいのですよ」
『…それがどう好都合なんですか?意味が分からないんですけど』
「それが、どうも連続爆破事件と関連している可能性が出て来ましてねぇ…調べてほしいのは、放火された四軒のデザインなどを担当した設計者が誰かという事なんです」
『…あのね杉下さん。誠に申し訳ないですが僕もそんなに暇じゃ無いんですよ』
「そうですか…青木君でも調べられませんか…青木君の素晴らしい実力なら、と思ったのですが…そうですか残念ですねぇ」
すげなく断ろうとする青木に、杉下が本当に残念だという風にため息を漏らす。
『…何言ってるんですか。この僕にその程度出来ないとでも思いましたか!分かりましたよすぐ調べて差し上げますよ!!』
「そうですか!流石は青木君。では、よろしく」
『あ、ちょっ…』
思惑通り、青木に調べ物を頼むことが出来た杉下は早々に電話を切り、冠城の元へ急ぎ向かったのだった。
(僕の推理通りなら、『あの日』から全てが計画の内だったのでしょう。必ず繋がりが出るはず…それはそうと、コナン君の方はどうするでしょうねぇ…)
第7話でした。
杉下の推理爆発回でした。環状線爆弾事件最速クリア。
やっぱ杉下の推理力は凄まじいものがあると思います。
細かい事が気になってしまうからでしょうか。
UA12000突破、お気に入り200突破、ありがとうございます!
非常に嬉しいです!今後ともよろしくお願いいたします!
さて、今回スケボー問題が出てきました。
正直言って難産でした。
解説をしますと、スケボーを公道で走るのは厳密に言えば道路交通法違反に当たります。
しかし、あのスケボーを普通のスケボーと一緒にして良いものか…という事とよほど悪質じゃない限り立件されるケースも少ないようなので、気を付けて使うようにという厳重注意に当小説は落ち着きました。
まあ、車運転している身からするとコナンがスケボーで公道爆走してるのは怖いなんてもんじゃないんですけどね笑
それではまた次回。遂にあの男が登場です。