親バカ魔女日誌   作:赤桃猫

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ふと思いついたネタで書き殴り。


即落ちニコマは突然に

 

 魔女にも流行り廃りというものがある。

 そして最近は、身寄りのない子供を拾って弟子として育てるのが流行っているらしい。

 

『らしい』というのは、決して私が昨今の流行りに疎いというわけではない。

 あちこち放浪してたらいつの間にか数百年経っていたことも関係ない。関係ないったらない。

 元より、私は人間のアレコレに全く興味がないだけだ。

 

 聞くところによると、通称『弟子育成』。

 そんな呼び方が魔女たちの間で出回るくらいには馴染んでるらしい。

 最近ハマっているのは? 弟子育成。

 好きなことは? 弟子育成。

 ご趣味は? 弟子育成。

 

 もうね、阿呆かと。莫迦かと。

 私ら魔女は、人間と比べて遥かに長生きなんだぞ。

 例え幼い子供を拾ってミイラになるまで後生大事にお世話しても、寿命のほんの一部にもならない。

 そんなペット感覚で育てても、すぐに記憶の彼方だというのに。一体何の意味があるんだか。

 

 ……なんて風に文句は言ってみたが。

 別に、私はそういった行為に嫌悪感があるわけじゃない。人間は好きでも嫌いでもない、といったところだ。

 ただ純粋に、「こんな無駄なことにそれほど夢中になる理由があるのか」と疑問を覚えてしまうだけだ。

 私とて自分が一切触れてもいない文化を頭ごなしに拒絶するつもりはない。それが如何様なものかを知るためには、多少なりとも経験してみるのも一興だろう、と思うだけの度量はある。

 

 というわけで、実際に女の子を拾ってみた。

 

 ちょうど立ち寄った街の、路地裏で蹲っていた子供だ。

 別に性別や容姿、素質なんかに興味はない。区別を付ける意味もない。

 なんとなく目に入った一人目が彼女だったから、選んだだけだ。

 

 軽く問答を行い、その子に行く宛が全くないことを確認する。例え魔女でも誘拐犯にはなりたくはないのだから。

 随分と生きる気力に欠けていたようだが、とりあえず同意を得て拾うこととなった。

 

 そんなこんなで、女の子を私の()弟子にして育成を開始したわけだ。

 といっても大したことなんてないけれど。本格的な教育をするつもりもないし。

 やることといったら衣食住の保証と、暇潰しに子供騙し程度のまじないのお勉強くらい。

 とりあえず初日に、適当に一年間という形で契約を行った。それが終わったらサヨナラ。私の家から出ていって貰う。

 なにせ、所詮はつまらないものを「つまらない」と証明するための暇潰しだし。わざわざ他人の世話なんていつまでもやってられるほど、お人よしでもない。

 

 それで、だ。

 特に大した問題もなく、あっという間に一年間が過ぎ去った。実に呆気なく、一瞬のように。

 

 そして今、その一年間を振り返ってみてるわけだが。なんというか、なんでこんなものが流行ってんだろうなとは思っていた。

 最近の同族(魔女)連中は考えてることが分からんなーとか思ってたし。

 まぁどんなものかは理解できたとも。盛大な溜め息と共に、私はこの『弟子育成』とやらの文化に対して物申してやりたい。

 

 

 うちの子が可愛すぎてマジ辛いんだけど? どうしてくれんの。

 

 

 ──或る魔女の手記より

 

 

 ◆

 

 

 

 ステラ・フィルリーフにとって、その魔女は奇妙な存在だ。

 

 無表情かつ無感動。およそ言動にそれらしい感情を見せることはなく、常に仏頂面を浮かべている。

 目元は鋭く、深い闇色の瞳を持ち、その様は(カラス)を彷彿とさせる。

 その目がこちらをじっと見つめていることに気付き、ステラは首を傾げた。

 

「先生。どうかしましたか?」

 

「……なんでもない。さっさと食べろ、どうせ今日が最後の夜なのだから」

 

「……はい」

 

 魔女はふいと視線を反らし、いつも通りの低くか細い声でそう告げる。

 ステラの前には、湯気の立ち上る鶏肉と野菜のシチュー。

 一口掬って口に運べば、夜の肌寒さに染み渡るような熱が広がる。

 その暖かさが、かつて魔女に拾われた日のことを思い起こさせる。

 

 ステラは孤児である。

 行く宛てはなく、明日をも知れず路地裏に蹲っていた時、この魔女に出会った。

 

 ──お前、身寄りはあるか。

 

 ステラはその問いに首を振った。

 

 ──なら、来い。弟子にする。

 

 質問がひとつ。命令がひとつ。それに拒否する理由もなく、ステラはただ頷いな。

 たったそれだけで、ステラは想像さえしなかった多くのことを知ることとなった。

 

 きちんと作られた料理の美味しさを知った。

 整えられたベッドの柔らかさを知った。

 雨風をしのげる家の安心感を知った。

 そしてなにより──誰かと共に暮らすということの、温かさを知った。

 

 たった一年という長いようで短い時間。それだけで、今まで生きてきた十数年の全てを塗り替えるような、夢のような日々だった。

 

 だからこそ、魔女から告げられた『最後の夜』という言葉が重く胸に伸し掛かる。

 ステラがこの魔女と共に居られるのは一年間。それが終われば、ステラはこの家を出ていかなくてはならない。

 拾われたあの日、無感情な瞳でそのような契約を提示され、ステラはよく分からないまま受け入れた。

 だが、こんな日々を与えられるのだと知っていたら、ステラは決してそんな契約に頷きはしなかっただろう。

 

 ──明日こそがその一年目。だから今日が”最後の夜”。

 シチュー皿が底を見せる。今日はもう、寝るだけ。

 そして朝になればステラは。

 

「……手を」

 

 どくどくと脈打つ心臓に突き動かされ、口が勝手に動く。

 

「なに?」

 

「今日は、一緒に手を繋いで寝てもいいですか」

 

 言ってから、随分と子供っぽいことを言ってしまったと顔が熱くなる。それでもやはり頭に孤独の不安が過ぎり、魔女の様子を伺う。

 彼女はステラの手をじっと見つめると、少しして目を閉じ、深く息を吐いた。

 

「……好きにしろ」

 

 消え入りそうな声で答えると、魔女はおもむろに席を立つ。廊下へ抜ける扉を開いた彼女は、ステラを一瞥もせずに背を向けたまま、

 

「私は先に部屋に戻る」

 

 と、それだけ言い残して居間を立ち去った。

 扉が閉まり、静寂が降りる。

 

「……はい、先生」

 

 一人事のように呟いて、ステラは立ち上がる。

 足音を消して、ゆっくりと彼女が出ていった扉へと近付いた。

 そして、物音を立てないよう扉に耳を寄せる。息を殺し、向こう側へと意識を集中させれば──

 

『いきなり手を繋いで寝たいとか、ステラたん天使か???』

 

 情けなすぎる、魔女の独り言が漏れ聞こえた。

 

『やば、急すぎて不意打ちすぎ食らったわ……バレてないよね? 挙動不審なってないよね?』

 

 バレてます、先生。とステラは思わず心の中で呟く。

 ステラの脳内では、あの無表情な魔女が顔を手で抑え身悶える姿がありありと想像できた。

 

『普段は無表情な子なのに、ああいうこと言う時だけちょっと恥ずかしそうにするのズルすぎない? これがあの"ぎゃっぷ"萌えか、"ぎゃっぷ"萌えってやつか』

 

 ……どうやらお互い様らしい。

 ステラは感情を表に出すのが苦手だということを自覚している。鏡の前で作り笑いをしてみても、どこか歪になってしまう。

 先程のお願いをした時も、ステラ自身としてはいつも通りの顔のつもりだったのだが。魔女には全てお見通しらしい。

 そのくせに、魔女の本音が実は()()()()()()ステラにダダ漏れなのだという真実には気付いていないようだが。

 

『あ、っていうか掃除しないと。ステラたんがせっかく来てくれるのに部屋グッチャグチャとか絶対幻滅される!』

 

 そうと決まれば、とばかりに足音がバタバタと遠ざかる。

 ステラはやけに身体が熱くなっているのを自覚しながら、扉から耳を離した。

 さて、魔女の部屋にお邪魔するには、ちょっとだけ時間を置いてからの方が良いだろう。

 魔女がステラと一緒に寝る時、彼女は決まって自分の部屋をいつもより丁寧に掃除するのだから。

 

「……ふふっ」

 

 とりあえずステラはこの一年間で何よりも知ったことがある。

 あの魔女(先生)は──普段はそっけないフリをして、実はとても愉快なヒトなのだと。

 

 






魔女

めっちゃ目付き悪くて仏頂面。本編の通りカラスみたいな人。"まじない"が得意。
即落ちニコマ魔女。


ステラ

路地裏暮らしで色々限界だったけど、幸運にも魔女と出会った女の子。感情はあんまり表に出ない。
どれだけ魔女に素っ気ない反応されても『でもこの人裏では”あんなん”だし』と思えるので無敵。



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