ロウきゅー!を好きになるまでの話   作:ネタバレOK派

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第3話

「なあ、頼むって。俺たちもっと練習したいんだよ」

「ナツヒしつこーい」

 

 ──なんか騒いでるな。これが始まりだった。竹中君が真帆に対して何か頼んでいた。春休みの直前だった。

 興味もなかったからスルーしていたけど、今思えばこの時に話を聞くべきだったのかもしれない。

 

 同じ日に私たちが部活をやっている時にも体育館まで来た。

 

「合同練習?」

「ああ、お前ら5人しかいないし場所に余裕があるだろ?だから週1回くらいは俺らと一緒に練習してほしいんだよ」

 

 ふむ。あまりデメリットはない。実際余裕がある上に5、6人だとできることも限られてくる。何よりそうなれば私も部活に来なくて良くなる。

 

「別に─────」

「嫌よ」

「へ?」

 

 いいけどと言う前に紗希に遮られる。

 

「今は私たちが使う時間でしょ。それくらい守りなさいよ」

「そーだ、そーだ!絶対譲ってやんねーよ!ばーか!」

「ばっ......!んだと、てめー!」 

「はいはい。その辺にしとけー。竹中。他の部活だって我慢してるんだ。わかるよな?」

「.......っ」

 

 竹中君は悔しそうな顔をして体育館を出ていった。篁先生、ガチ喧嘩は止めるんだな。

 オーケーしちゃったほうが良かった気がするのは私だけ?あのまま素直に諦めるとは思えないんだけど。男バスの本音としては合同じゃなくて女バスの分を削ってでも自分たちが体育館使えるようにしたいだろうし。

 

「......はあ」

 

 思わずため息をついてしまう。この部がちゃんとした活動をしてるかと聞かれれば答えはノーだ。男バスでなくともそこらへんに文句をつけてくる部があってもおかしくない。近いうちに注意喚起とかは覚悟したほうがいい。そうなれば少なくともお遊び同然ではなくなるだろう。

 私にとって悪い話というわけじゃない。湊さんには試合(ゲーム)の数合わせでいいなら出ると言ってある。だから堂々と休めるわけだけど、いざ湊さんに普通に部活に出てくれって真剣に頼まれたら私ははっきりと断ることができるのか────────

 

「おー、かえで。なにかかんがえごと?」

「いや、そんなことはないけどなんで?袴田さん」

「ぶー。ひなのこともなまえでよんで」 

「...わかったよ。ひなた。これでいい?」

「おー、せんきゅー」

 

 この子何考えてるかさっぱりわかんないから苦手なんだよね。あとあざとい。

 

 私はもう一回ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 6年生に進級した初日の日。つまり始業式の日。私の大嫌いな日。今日は部活はない。

 

「あ?今なんて言った?」

 

 毎日のように聞いてる声が聞こえて来た。いつもと違うのは声に怒りが混じっているところだ。

 

「─────女子バスケットボール部を廃部にさせていただきたい、と言ったのですよ」

 

 篁先生ともう1人は眼鏡をかけた男の先生。...誰だっけ?見覚えはあるけど思い出せない。メガネ先生(仮)でいいや。

 それにしても廃部か。厳しいな。

 

「理由は?一応聞いてやる」

「部員の勧誘も行わず、大会に出る気もゼロ。彼女たちが体育館を使うくらいならばその分も男子バスケットボール部が使った方が余程有効活用と言えるでしょう。顧問を務める身としての責務を果たしたまでです」

 

 何気に男バスも精神的な余裕がないんだろうなあ。この間初の地区大会優勝を成し遂げたらしいけど、その後の県大会は初戦でボロ負けしたって話だし。

 えーと、今女バスも男バスも週3回だから、週6回も集まって練習するつもりなのか。すごいな。私が元いたチームは週4回が通常だったのに。部活が強い小学校だとこれくらいやっているのかな?この県内だと硯谷とかかなり部活動に力入れてるけどどうだったっけか。

 

「横暴にも程があるだろ。子供たちの居場所を奪うのも仕事の内か?」

「しかしですね、こう言っては何ですが真剣にやっているようには見えないのですよ」

「楽しむための部活があっちゃいけないのか?」

「部としてやるほどの価値があるとは思えません。お遊戯のようなものでしょう?」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「すでに校長先生にも教頭先生にも話はつけてあります。入学希望者や編入希望者が増えるのならばと納得していただけました」

「なら本当に価値がないか確かめてもらおうじゃねーの」

「と言いますと?」

「試合しよう試合。男バスと女バスで。もし勝ったら男バスより価値があるってことだろ」

 

 待て待て。勝ち目がなさすぎる。出来レースもいいところだ。そこは校長や教頭の説得でしょ。

 

 メガネ先生がニヤリと笑う。

 

「いいでしょう。日程は3週間後の日曜日でよろしいでしょうか?」

「ああ。構いやしねーよ。首洗って待ってな」

 

 あと二週間踏ん張らない?そうすれば真帆と紗季を初見殺しの戦力にカウントできそうなんだから。

 

 そんな私の心の声も虚しく消え、男の先生は遠くへ行き、篁先生がこっちに歩いてくる。曲がり角を曲がった瞬間に見つかり、先生の目が見開く。

 

「おおう、楓か。...あー、どこから聞いてた?」

「男バスと勝負して負けたら廃部ってところからは」

「ほぼ全部じゃねーか......」

「どうするんですか」

「勝負して勝つしかねーだろもう」

「.....校長先生あたりに話をつければ」

「無理無理。活動内容不十分で問答無用で廃部に決まりかけてたところだったんだから」

 

 説得が済んでいるってそういうことか。根回しがいいというかなんというか。もしそうなら無茶な勝負に持ち込んだ先生を責めることはできない。

 

「それになめられっぱなしってのが気にくわねえ......!」

 

 あ、こっちが本音かも。この人超のつくほどの負けず嫌いだし。心なしか八重歯が獣の牙に見える。

 

「とりあえずこの話は黙っておきますね」

「ま、それが一番だろうね。明日私がみんなに伝えるから」

 

 その言葉の通り、翌日の部活開始時刻にこれは伝えられた。事実上の廃部宣告を。終始雰囲気は暗いまま部活の時間が終わった。誰も何を話していいか分からず更衣室に行くまで、一言も発言はなかった。

 

 重苦しい雰囲気の中、湊さんが心底申し訳なさそうな顔で話しだす。

 

「ごめん、みんな......私に付き合ったばかりに.....」

「なーに言ってんだもっかん。勝てばいいんだよ勝てば」

「え?」

「ま、そーね。こうなった以上はしょーがないわよね」

「わ、わたしにもできることがあるなら頑張ってみる.....!」

「おー。ひなも」

「みんな......!」 

 

 

 

 

 

 

「まあ、男バスの言い分も筋通ってはいるんだけどね」

 

 バスケする()()なら別に部活でなくともいくらでもできる。真剣にやってる側からすれば、お遊び同然の部に体育館使える時間を削られるなんて許容できないだろう。遅かれ早かれこういう文句がくることは避けられなかった。いきなり廃部っていうのは少し驚いたけど。現実そう甘くはない。

 

「......なんだよ」

「え?」

 

 真帆がこっちを睨んでいる。他の四人も私のほうを向いている。え?本当に何?私何かやらかした?

 

「なんだよ!カエはどっちの味方なんだよ!」

 

 急に怒鳴られビクッとしてしまう。.....とりあえず謝っとくか。

 

「ごめん」

「〜〜〜〜っ!だからどっちの味方なのか聞いてるんだよ!カエにとってここはそんなに軽かったのかよ!見損なったぞ!」

「ちょっと、やめなさい真帆!」

 

 紗季が真帆を制止する。

 

「そういう意図があって言ったわけじゃないわよ楓は。今謝ったんだしいいじゃない」

()()()()()()()()()()()

 

 ...耳が痛い。口に出すべきことじゃなかったとは思ってるけど別に私が悪いとも思ってない。真帆が言ってる通り私は今()()()()()()()()

 

 言い訳だったり言い返す言葉だったりはいくらでも思いつく。『もともと私はゲームの数合わせだ』とか『別にバスケ好きなわけじゃないし』とか『私が原因でこうなってるわけじゃない』とか。

 

 けれどそれを口に出す気が起きない。

 今までは火のついてるところには近づかない。近くに火がついたらすぐに遠くに離れる。そうやってずっとやってきたから、いざ自分が火をつけてしまった時どうすればいいかわからなかった。

 そもそもなんで火をつけてしまったのか自分でもわからなかった。

 

「おー。けんか、よくない」

 

 ひなたが入ってくる。ホントマイペースだな、この子。

 真帆は私のことをまだ睨んでいる。怒ってるけどそれ以上に何やらショックを受けてるみたい。涙目になってるのがいい証拠だ。

 

 ......潮時かな。

 

「別に男バスの肩持つつもりはないよ。邪魔はしない。じゃあね」

 

 すでに私だけ制服に着替え終わってたからさっさと更衣室から出る。あんな重苦しい雰囲気のところにいつまでもいたくない。

 

 結局、前と同じことを繰り返してしまっている。自分で考えずにひたすら他人に流された結果がこれだ。ざまあない。いい薬になったとでも思った方がいいかもしれない。さっさと帰ろう。

 

「柳さん待って!」

 

 体育着のままの姿の湊さんが息を切らしている。いやまだ何かあるの?

 

「バスケ部、やめちゃうの?」

 

 ああ、そういうことね。あんなことになればそう思われても不思議じゃない。実際、その考えは最初私の中に浮かんだ。

 

「......辞めるまでもないでしょ」

 

 多分負ける。現時点で実質1対5だ。男バスのレベルは知らないけど県大会に出れてるのは事実。いくら湊さんが上手くても勝てるわけがない。

 私が本気でやれば勝ち筋はつくれるかもしれないけど、私は1人で点を取るのは得意ではない。湊さんとのコンビプレイの一辺倒になる。そもそも好きでないことを続けるためにそこまでしようとも思わない。男バスの言ってる通りお遊び同然のこの部が潰れようと私には何の害もないし、可哀相とも思わない。我ながらかなりクズだと思うけどそもそも最初に言質はとってあるし文句は言わせない。

 

 湊さんの表情は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 あれ以降、話すことはなくなるかと思いきや前までと同じように、いやいつにも増して湊さんが私に絡んでくるようになった。

 

「ねえ、私と話してていいの?」

「だっていてくれないと困るよ」

「元々3対3の数合わせでしょ」

「今もしてるよ?」

 

 練習すれば?

 

「それに柳さんはいつだって冷静で紗希とは違う意味で最善の判断をしてくれそうだからいてくれるとかなり助かるんだけど」

 

 そんなに期待しないでねって言ったのに。

 

「あてにするべき相手が違うんじゃないの?」

「...っ、どういうこと?」

「本当はとっくに気づいてるでしょ。香椎さんだよ。素人でもわかるよ」

 

 目をそらされる。

 バスケをそれなりに知ってる人間ならすぐに思いつく勝ち筋。身長というものは立派な才能だ。バスケにおいて一番重要な要素の一つだろう。特にミニバスではそのアドバンテージがもろに出る。弱小チームに大型センター1人入るだけで勝てるようになる、というのはよくある話だ。

 湊さんがこんな簡単なことに気が付かないわけがない。

 

「前も言ったけど、湊さんは相当負けず嫌いでしょ。いいの?負けて、終わっちゃって。別に部活以外でもバスケはできるけど」

「愛梨にはそこまで負担はかけられないよ」

「で、負けて廃部になったらどうするの」

 

 正直なところ湊さんが考えてることは大体予想がつく。元々バスケを辞めるつもりでこの学校に編入してきたわけだから、そのきっかけともなる部が潰れてしまえば行き着く答えは一つだ。

 

 

「バスケはもうやめるよ。前に言ったよね、勝ち負けよりも大事なものに気が付かされたって。バスケができることよりも今の6人が一緒に居られることのほうが大事なんだ」

 

 まあこうなるよね。 

 私と違って湊さんはバスケが好きなんだろう。何にも劣らないくらい。無理してるのなんか言われなくてもわかる。けどだからなんだ。私だってやめた身だ。それも湊さんのようにチームメイトに問題があったわけじゃない。そんな人間がどのツラ下げてバスケ続けたほうがいいなんて言えるのか。

 

「......そう」

 

 こう言うことしかできない。

 トイレに行くために席を立つ。背後から微かに声が聞こえた。

 

「......続けたい、よ

 

 

 ...よりによって私に聞こえるように言わないでよ。

 

 

 

 その次の日も『美星先生が指導者の方を連れてきてくださったから来てくれ』とか言われたけど断った。

 それにしても指導者ね。先生にそんなコネがあったとは。ていうか、よくこんな無理難題引き受けてくれたな。

 

 

 

 

 ......まあ、勝てないでしょ。

 

 

 

 

 

 

 




原作キャラがブレてないか心配です......。そして楓は空気の読めない子。

感想等いただけると嬉しいです。
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