ぜひ。
体の芯まで凍ってしまいそうな肌寒さに震えながら、
湊音の体温は、異常に高かった。20℃そこらと春の陽気を感じる気温にも関わらず、真冬に薄着でいるような寒さを感じるのはそのせいだ。
湊音がここまでの高熱を出すのは久しぶりである。それこそ、まだ病弱だった3年前以来か。
ただ、あの時と違うのは、発熱の原因が湊音の病弱さではないということ。───別にあるのだ。
太陽は既に沈んでいて、辺りには街灯も少ないため、街並みは闇に覆われている。周囲は閑散としている為、今の彼の姿を見て驚く者はいなかった。
ズキリと、傷が痛む。発熱の原因。
少年の右肩は、真っ赤に染まっていた。彼自身の血によって、だ。
左手で傷に押し当てたハンカチも同じく赤く染まっていて、それだけで出血の酷さが窺える。体中の力が抜けて、足取りはふらついていた。
ちょくちょく湊音は振り返って、背後に人がいないのを確認する。───追っ手がいるのだ。もちろん、右肩の傷は奴らによるもの。
今にも倒れそうなのに、こうして無理に歩いているのも、地面に血痕が残らないように傷口をハンカチで押さえているのも、全てはその追っ手から逃れる為だった。
しかし、重症の湊音の限界は近かった。
視界が突然、光を失い出したのだ。ぼやけて、目の前の道すら歪んで見える。
「はあ……はあ……」
自分の息切れの音だけが聞こえる。視野が狭まっていき、辺りを闇が侵食していく。
ガクンと、湊音の膝が地面に落ちた。
道路の真ん中に倒れ、意識が途絶える湊音は直前に、誰かの声を聞いた気がした。
◇
ガチャりと扉が開き、それに合わせて鈴が鳴る。これは、誰かが店を出入りしたことを示す音だ。
ついさっき閉店したこの店に入ってくる人など限られていて、中原ミズキはその人物を特に確認することもなく、「おかえりー」と呟いた。
「ああ、ただいま。早速で悪いんだが、この子の手当てをしてくれないか? 酷い怪我でな」
「────んー? 手当て……ってどしたのその子!?」
この店の店主であるミカが担いできた少年を見て、ミズキは目を見開いた。右肩が血塗れになっている。
「店の近くで倒れていてな。拾ってきた」
「拾ってきたって……。そんな捨て猫を拾うような調子で言われてもね」
この
「とにかく、傷が深い。まずは治療を頼む」
「はいはい。やりますよっと」
奥の部屋に重症の少年を寝かせて、持ってきた医療箱の中身をあらためながら、容態を見る。
元DAのミズキだったから良いものを、もし一般人がこれを見たら、驚いて言葉を失うだろう。なにせ、右肩の傷は明らかに銃痕だ。こんな時代に、それも日本で目にするようなものじゃない。
ミズキは、傷から少年の顔に視線を移す。
マッシュに切り揃えられた直毛は、息を呑むほど綺麗な深い青色。そして、アラサーの領域に片足つっこんだミズキには羨ましいほど、肌は白かった。
「銃で撃たれるような、危険な裏世界で暮らしている子には見えないけどねぇ」
慣れた手付きで、傷の治療をする。
包帯を巻こうと、そっと少年の右肩に触れた時、ミズキは彼の背後に不穏な影を感じた気がした。
「こりゃまた大変だ」
一通り作業を終えて、ビール缶に口をつける。強めの炭酸が、喉を擽りながら通っていく。
夜の闇と、ミカが持ち込んできた影と、いい相手が見つからずに先行き不安な自分の未来に、ミズキは重い重いため息を吐いた。
プロローグを最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
アニメ「リコリス・リコイル」、面白いですよね!
とりあえずお試しという形で投稿させていただきましたが、続きも書けたらいいなと思っております。
それでは、また。