謎の少年と喫茶「リコリコ」   作:水瀬 葵

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お試し、という形で投稿しています。

ぜひ。


プロローグ

 

 体の芯まで凍ってしまいそうな肌寒さに震えながら、青川湊音(あおかわ みなと)は懸命に足を動かす。

 

 湊音の体温は、異常に高かった。20℃そこらと春の陽気を感じる気温にも関わらず、真冬に薄着でいるような寒さを感じるのはそのせいだ。

 

 湊音がここまでの高熱を出すのは久しぶりである。それこそ、まだ病弱だった3年前以来か。

 

 ただ、あの時と違うのは、発熱の原因が湊音の病弱さではないということ。───別にあるのだ。

 

 太陽は既に沈んでいて、辺りには街灯も少ないため、街並みは闇に覆われている。周囲は閑散としている為、今の彼の姿を見て驚く者はいなかった。

 

 ズキリと、傷が痛む。発熱の原因。

 

 少年の右肩は、真っ赤に染まっていた。彼自身の血によって、だ。

 

 左手で傷に押し当てたハンカチも同じく赤く染まっていて、それだけで出血の酷さが窺える。体中の力が抜けて、足取りはふらついていた。

 

 ちょくちょく湊音は振り返って、背後に人がいないのを確認する。───追っ手がいるのだ。もちろん、右肩の傷は奴らによるもの。

 

 今にも倒れそうなのに、こうして無理に歩いているのも、地面に血痕が残らないように傷口をハンカチで押さえているのも、全てはその追っ手から逃れる為だった。

 

 しかし、重症の湊音の限界は近かった。

 

 視界が突然、光を失い出したのだ。ぼやけて、目の前の道すら歪んで見える。

 

「はあ……はあ……」

 

 自分の息切れの音だけが聞こえる。視野が狭まっていき、辺りを闇が侵食していく。

 

 ガクンと、湊音の膝が地面に落ちた。

 

 道路の真ん中に倒れ、意識が途絶える湊音は直前に、誰かの声を聞いた気がした。

 

 

 ガチャりと扉が開き、それに合わせて鈴が鳴る。これは、誰かが店を出入りしたことを示す音だ。

 

 ついさっき閉店したこの店に入ってくる人など限られていて、中原ミズキはその人物を特に確認することもなく、「おかえりー」と呟いた。

 

「ああ、ただいま。早速で悪いんだが、この子の手当てをしてくれないか? 酷い怪我でな」

 

「────んー? 手当て……ってどしたのその子!?」

 

 この店の店主であるミカが担いできた少年を見て、ミズキは目を見開いた。右肩が血塗れになっている。

 

「店の近くで倒れていてな。拾ってきた」

 

「拾ってきたって……。そんな捨て猫を拾うような調子で言われてもね」

 

 この店主(ミカ)と短い付き合いではないミズキは、もう慣れたことなので、呆れるしかない。人がいいのか、よく面倒事を持ち込んでくるのだ。

 

「とにかく、傷が深い。まずは治療を頼む」

 

「はいはい。やりますよっと」

 

 奥の部屋に重症の少年を寝かせて、持ってきた医療箱の中身をあらためながら、容態を見る。

 

 元DAのミズキだったから良いものを、もし一般人がこれを見たら、驚いて言葉を失うだろう。なにせ、右肩の傷は明らかに銃痕だ。こんな時代に、それも日本で目にするようなものじゃない。

 

 ミズキは、傷から少年の顔に視線を移す。

 

 マッシュに切り揃えられた直毛は、息を呑むほど綺麗な深い青色。そして、アラサーの領域に片足つっこんだミズキには羨ましいほど、肌は白かった。

 

「銃で撃たれるような、危険な裏世界で暮らしている子には見えないけどねぇ」

 

 慣れた手付きで、傷の治療をする。

 

 包帯を巻こうと、そっと少年の右肩に触れた時、ミズキは彼の背後に不穏な影を感じた気がした。

 

「こりゃまた大変だ」

 

 一通り作業を終えて、ビール缶に口をつける。強めの炭酸が、喉を擽りながら通っていく。

 

 夜の闇と、ミカが持ち込んできた影と、いい相手が見つからずに先行き不安な自分の未来に、ミズキは重い重いため息を吐いた。




プロローグを最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

アニメ「リコリス・リコイル」、面白いですよね!

とりあえずお試しという形で投稿させていただきましたが、続きも書けたらいいなと思っております。

それでは、また。
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