ハリー・ポッターと千の花   作:柊山節

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凶悪な傍観者

「ねぇねぇ、桔梗チャン。僕は未だに自分が魔法使いだって信じられないよ」

 

 

 ホント、信じられないよ。

 

 目の前に座る桔梗チャンは僕を見て穏やかに笑った。見守っているようなその視線に背中がむず痒くなる。

 

 

「ハハン。彼是十年以上こちらにいるのです。諦めを持って魔法を受け入れるほかないでしょう」

 

 

 やっぱり諦めるしかないのカナ。はあ、諦めってこんな感情だっけなぁ……?

 

 

**

 

 

 僕達は魔法のない科学技術の世界から来た。うーん、その言い方は少し正しくないカナ?

 

 僕達は科学技術の発展していた世界で生きていて、そして魔法の発展した世界に転生したと言うのが正解。

 

 そんな僕達が伝承でしか広まってなかった魔法を使えるなんて今でも信じられない。魔法なんて考えが頭の片隅にもなかったんだよ? だというのに使えるとは中々面白いよね。

 

 理を理解しなくても扱える危険なモノ。それが魔法。

 

 頭が空っぽでも使える便利な殺人兵器が前世の世界にあったらすぐに戦争になっただろうね。この世界と違って僕達のいた世界は酷く物騒だったから。

 

 

 だから残念だと思うよ。こんな強大な力を、こんな弱い世界でしか使えないなんてと思うとね。できることなら、前世でこの力が欲しかったカモ。

 

 

「人生ってそう甘くできてないね~♪」

 

 

 ホント、甘くないな。マシマロのように柔らかくて甘い世界だったら良かったのに。柔らかいし美味しいし一石二鳥だよね♪

 

 あと、この力が前世にあったら正チャンに悪戯したり、綱吉君に悪戯したり、ユニチャンにとてもチャーミングな魔法をかけたりしたのに。

 

 ぶーぶー。

 

 

 桔梗チャンに不満をぶちまけていたら、不意にドアがスライドされた。

 

 

「車内販売よ。何かいら……あらっ」

 

 

 スライドされたドアから顔を出した知らないおばちゃんが僕達を見て何やら目を丸くした。顔を赤らめているのは桔梗チャンの顔がイケメンだからカナ?

 

 それにしてもノックしないのはいくらなんでも無礼だよ。僕を宿敵としているらしいムクロウ君でもノックはできるのに!

 

 敵でもできることが、関係ない赤の他人ができないなんておかしいよ! このおばちゃんには礼儀が欠けてる!

 

 ノックをしなくていいのは僕やXANXUS君にユニチャン、綱吉君みたいなトップに立つ人たちだよ。ユニチャンと綱吉君はちゃーんとノックするイイ子だけど♪

 

 

「な、何かいるかしら? おばちゃん、安くしちゃう!」

 

 

 上擦った声を上げるおばちゃんは桔梗チャンと僕の顔を交互に見ている。何やら気合の入った声だね。安くなるのは懐に優しいんだろうけど、その代わり顔を提供するのは嫌だなぁ。

 

 え、ちょっと違う?

 

 

「白蘭様」

 

 

 桔梗チャンが仲間に入りたそうにこちらを伺っている……じゃなくて、こちらを伺っている。僕が欲しいと言ったものを桔梗チャン自身のお金で買っちゃうつもりなんだろうな。僕はヒモになりたくないけど桔梗チャンが譲ってくれない。

 

 桔梗チャンにお金を使わせたくないとかではなく、別の理由から首を横に振った。桔梗チャンは直ぐに僕の意を汲み取り、おばちゃんへ視線を移した。心なしか視線が冷たい気がする。

 

 僕に向けられている訳じゃないから良いケド♪

 

 

「そうですか。申し訳ありませんが、何もいりません。どうかお引き取りを……願わくば、次はノックをして了承を得てから戸を開けて欲しいものです」

 

 

 最後にちゃっかり皮肉を言っちゃった桔梗チャンに思わず笑っちゃった。やっぱりサイコー♪

 

 おばちゃんは桔梗チャンの皮肉に気付いたのかな? 慌てて「失礼するわ!」と言ってドアを閉めちゃった。

 

 バイバーイ、と心の中で呟きながら手を振る。背中を向けているおばちゃんはこっちに気付かなかったけど、僕は満足だよ。

 

 

 おばちゃんがいなくなり、大好きなマシマロを頬張りながら再び愚痴ろうとする。その前に、桔梗チャンが質問してきた。

 

 

「しかし白蘭様。貴方様なら例え両親から命じられたとしても逆らった筈。一体何が白蘭様の御心を擽ったのでしょう?」

 

 

 僕が話す前に遮るのはあまり好きじゃない。でも、桔梗チャンだからというのと、その質問に答えるのに気分を害さないからプンプンしないでおこう。

 

 僕って心が広いなー。

 

 

**

 

 

 桔梗チャンの言う通り、僕は両親から半ば命じられてここに来た。命じられたら普通は従うよね? だけど僕は従って()()()んだよ。

 

 僕は魔法使いの両親の元で11年間育ってきた。両親は魔法使いで、自分の血筋に誇りを持っていた愚かな人達だった。

 

 自分達の血筋が最も尊いと考えている彼らは、なんて哀れな人達なんだろう。可笑しくて笑っちゃうよ。

 

 

 両親は僕にも同じように純血主義の考えを植え付けようとした。勿論、それで考えを改める僕じゃないよ!

 

 洗脳なんて僕の方がより得意だよ。魔法なしの、言葉だけでの洗脳なら僕の方がよっぽど上手さ。だから僕は彼らの洗脳に屈することなく、僕としてのびのびと育った。

 

 

 そんな時に、不思議な手紙が届いたんだ。

 

 

 一ヶ月以上前に届いた手紙。運んできたのがフクロウというのには今更なので驚かない。

 

 魔法使いってフクロウが好きなんだねぇ……フクロウって聞いたらムクロウ君を思い出すから変な気分になっちゃうよ。

 

 ムクロウ……じゃない、フクロウには驚いてないけど手紙の内容に僕は驚愕した。そして、この手紙の差出人の頭を疑った。

 

 魔法使いからしたら一般常識。だけど僕からしたら非常識。

 

 だってねぇ……いくらなんでも魔法学校なんて怪しい名前の学校への入学通知だったからね。厨二病もしくはイカれてるのかもって思っちゃった。

 

 

 でも、この手紙の差出人は正常だったようだ。何故なら、僕の両親が当然のことのように入学する準備を進めたから。

 

 僕の意思、どこに行ったんだろう。入学するよねというような確認も一切とられなかったんだけど。この時代の青少年って親に進路を決められるのカナ?

 

 両親が学用品を全て買ってくれたので、僕は魔法使い(笑)の杖とペットを買っただけだった。杖とペットについてはいずれ話すけど、中々面白かったなぁ。

 

 ムクロウ君がまさかいたとは僕も思わなかったよ!

 

 

 ムクロウ君のことは置いといて。準備を終えて、いざ入学!というときに両親からとある密命を帯びた。

 

 この密命が僕の心を擽っているんだよ、桔梗チャン。

 

 

「それは……如何なるものでしょう?」

「フフン♪ それはね、"ハリー・ポッターを手玉にとってあの方へ引き渡すのだ"ってさ!」

 

 

 フフッ、桔梗チャンはまだわからないみたいだね。楽しいことがだーい好きな僕が何を考えているか、大体わかると思ってたんだけど。

 

 それとも知っている上で僕を待っているのかな?

 

 なら、桔梗チャンの優しい心に免じて教えてあげなきゃ!

 

 

「彼らは僕のことを何も知らないんだよ? 僕が純血主義じゃないこと、桔梗チャンと一緒なこと、前世の記憶があること! そして、僕が彼らの命令をどうするのかもね!」

 

 

 人から命令を受けるなんて、前世では全くなかった。僕の上司にあたるユニチャンは僕に命令しなかったし、命令する立場でもあったから。

 

 生まれ変わって最初に言われた彼らの言葉「あの方の補佐に相応しい子になれ」を聞いたとき、僕はその時に思った。

 

 ユニチャン以外の誰かに従うなんて言語道断。あの子だからお願いも聞いたし、綱吉君を助けた。だけどどこの誰だか知らない、一歳児にしてやられたお偉いさんなんて従う価値もない。

 

 実際に一目見る機会があったのだけど、あんな弱々しいリーダーによく従えるよねって思ったもん。綱吉君でも片手で捻り殺せるくらいの弱さ。XANXUS君なら「カスが」って言って、直ぐに消しカスにしちゃうレベル。

 

 そんな人物に進んで従いたいと思うなんて、それこそ愚の骨頂だよね!

 

 

「彼らの命令に従うつもりなんて、1ピコ足りともない。だから僕は、ハリー君と交流しながら彼も、両親も、ヴォルデモート君も、みーんなハエのように叩き落すんだ♪ それが楽しみで楽しみで、僕の心は歓喜の声を上げて震えているよ」

 

 

 にっこりと微笑みかければ、桔梗チャンはゆっくりと笑みを浮かべた。前世でやっていたように手を顎の下に沿えて桔梗チャンは跪いた。

 

 

「白蘭様の御心のままに。私は貴方様の御命令ならどんなことでもしましょう」

 

 

 桔梗チャンの忠誠心は前世からのもの。僕も、桔梗チャンは信頼できると思ってる。だから今生もまた、桔梗チャンに頑張ってもらいたかったんだ。

 

 自分から進んで行動してくれる桔梗チャンは僕の右腕さ♪

 

 

 何を企んでいるか言わなくても、桔梗チャンはわかってる。ハリー君をヴォルデモート君に引き渡す事なんてしない。だからといって、ハリー君を助けるわけでもない。

 

 僕ってね、どちらとも敵に回して、それでも余裕で戦えるくらい強いんだよ。前世の力、まだ残ってるしね。

 

 何をするのか、もう予想出来てるんじゃないかな?

 

 僕は彼らを敵に回して思う存分、場を引っ掻き回すつもりなんだ♪ ハリー君がヴォルデモート君と戦う未来は確定している。

 

 フラグってあるでしょ? 彼らはまるで物語の登場人物みたいに設定がよくできてるんだ。僕と綱吉君の関係みたいに、彼らの関係も因縁深い。

 

 だから、いつか対立すると思ってるんだ♪

 

 ハリー君は11歳。対してヴォルデモート君は……何歳だろう? よくわかんないけど、本当に物語みたいだよね。何千歳の魔王と十代の勇者が戦う感じが特にそれを感じさせる。

 

 そこに僕の入る余地はない……と普通は思ってそうだけど、生憎と僕はそこまで空気を読める男ではない。空気は吸う為にあるからね、読むなんてことはしないんだよ!

 

 

 空気の読めないらしい僕がやることはただ一つ。この、小説のような面白可笑しい物語を粉々にすること。ムクロウ君がお望みらしい世界大戦を引き起こす……なんてのも、面白いよね。

 

 アハハ、面白いと言っているだけであってまだやろうとは思ってないよ?

 

 

「桔梗チャン、今生もまた楽しく生きよーねー♪」

「ハッ」

 

 

 ヴォルデモート君が力を取り戻すには時間がかかる。ハリー君が強くなるにもまだ時間がかかる。その間は、僕ものーんびりマシマロでも食べて待っておくつもり。

 

 魔法学校、ホグワーツのスイーツを制覇するのも面白いかも♪

 

 

 だけどね。ハリー君が強くなったり、ヴォルデモート君が復活したりしたら……僕も、動き出そうカナ? 保守派と革新派に対立する新たな組織……なーんて、響きが良いよね!

 




解説

白蘭
 前世はとあるマフィア「ミルフィオーレ」のボス。桔梗はその時からの部下。人をおちょくるのが好きで、敵が多い男。

桔梗
 前世でも今生でも白蘭の部下。

ムクロウ(骸)
 前世はマフィア嫌いのボンゴレファミリー霧の守護者。白蘭と一度戦い、負けたことから少し仲が悪い。ムクロウは前世では骸の匣アニマルである。

綱吉
 白蘭の前世ではボンゴレファミリーのボスをしていた。白蘭と戦い、勝ったことがある。

XANXUS
 白蘭の前世では独立暗殺部隊ヴァリアーのボスをしていた。綱吉と因縁がある。他者を「カス」と蔑み、容赦なく炎でカッ消す。

正チャン(入江正一)
 白蘭の前世の友人……の割には酷い目に遭っている。苦労性で胃痛に悩まされている。

ユニ
 白蘭の前世では最後の大空のアルコバレーノ且つミルフィオーレのボス。白蘭を唯一指揮できる、ある意味凄い存在。
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