エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「準備はできたか? フレイ」
「はい、父様」
俺はそう言ってジークの元に近寄った。
今日の俺達は勉強の為ということで市場までお出かけに行くのだ。
馬車に乗り、外の景色を見ながら、市場に着くのを待つ。
ここ、シーザック領は実は海に面した土地である。
フェルノ王国の建国の立役者の一人でもある聖女は、多くの人々を治療し、かつこの国の宗教である七彩教の聖地でもある聖王国と交易がしやすいこの土地を報酬として当時の国王から貰ったそうだ。
海洋交易を行える都市を持っているだけあって、シーザック領のポテンシャルは高く、それこそ聖女としての名声がなくても公爵家に並べるだけの力を持つことができるはずだった……本来なら。
残念なことに現在のシーザック領にそこまでの力はない。あくまで聖女の力という名声によって侯爵家筆頭の地位を保持しているだけだ。実際の経済力を比べたら他の侯爵家や辺境伯家に負けてしまうものになっている。
何故こんな残念な状況になっているかというと、それは歴代の当主とその配偶者達が、海洋交易都市という様々な思惑が蔓延る地を満足に支配できなかったからだ。
所詮は聖女の力を使って建国の役にたっただけの少女。
軍事や対魔物や魔族なら、それなりに話せることもあるのだろうが、商売となると殆ど門外漢で、歴戦の商人達にいいようにされてしまう状態だった。
それ以降の歴代当主達も、聖女の力を扱える女性が当主となり、入り婿として他家の貴族の男を領内経営の補佐として迎え入れる形だったため、当主である女性では初代と同じように口だしができず、婿養子では古くから都市に根をはる商人達に強く口だしができず、現状維持の状態が続いている。
「そんな状況だからこの都市でイベントが多いんだよな~」
俺は思わずそう呟く。
領主より力を持った者達が暗躍する海洋交易都市。
これほどイベントに適した舞台はないだろう。
それに加えて、ゲームでは領主はレシリアに入れ込んで領内の統治を疎かにし、血統主義のフレイは権威を利用して暴れ回り、共通パート後では失踪した為に領内の統制も効かず、更なる混乱が訪れるという問題が起こるには最善の状況にあるのだ。
運営側も便利な舞台だと、こぞって様々なイベントを仕込んだに違いない。
「でも、それってむかつくな」
ゲーム時代なら特に何も気にせずそのままだったが、今の俺はこの土地の領主であるリノアとジークの息子。
次期当主の権利は聖女の力を持っているレシリアにあるから、いずれはこの土地を出て何処かの婿養子にでもなるか、騎士団に送られるのだろうが、だとしても、生まれたこの土地で好き勝手やってる奴らが居るというのは許せない。
「俺がここにいる間に何とかしないとな。それに荒れ果てた領からの婿養子なんて、それだけで足切り要素になりかねんし」
俺は俺だけの理想のヒロインを求めている。
その理想のヒロインには基本的に、財力とか地位とか強さとか、そう言う俗物的なものだけで好きになるようなトロフィーヒロインは対象に入らない。
だが、だからといってそう言った要素を完全に無視すると行ったことはしない。
なぜならこの世界は現代と違って厳しいからだ。
基本的に職業選択の自由度は少ないし、貴族がいるなど身分による差も激しい、リノアとジークから見ても分かるとおり、恋愛に個人の気持ちだけではなく、それぞれの実家が関わってくる可能性すらある。
そんな世界では、どれだけ人となりを見てくれる人が居たとしても、やむを得ない理由として財力や地位、強さによる足切りがされてしまう可能性があるのだ。
だからこそ、この都市の状況は見逃せない。
俺のヒロインに問題なく俺を好きになって貰うためには、最低限それなりであるという状況を作り出しておく必要があるのだ。
「まあ、今すぐには無理だろうけどな」
まだ俺は八歳だ。
何かをしようとしても相手に舐められるし、そもそもリノアとジークも内政に関わらせようなどとはしないだろう。
だからこそ、今は力を付け、仲間を増やすことに重点を置くべきだ。
「うわ! なんだ!? 危ねーな!」
突然馬車が揺れ、御者がそんな怒鳴り声を上げた。
それを聞いて俺はふとあることを思い出した。
「何かあったのか?」
御者の声を聞いてそんなことを口にするジークに向かって俺は言う。
「ちょっと、外の様子を見てくる」
「あ、フレイ!」
ジークの制止も無視して俺は外に駆け出した。
そしてその先にいた存在を目にして思わず笑みを浮かべる。
「黒髪……此奴忌み子か! なんでこんな所に! さっさとあっちにいけ!」
「ちょっと待って!」
御者は手に持った棒でその子供を叩こうとするが、それを俺は止める。
そしてその子供と御者の間に守るように立った。
「坊ちゃま、どいてくだせえ! その忌み子を始末しなきゃ、俺達は呪われてしまいますぜ」
「そんなことはないよ。忌み子なんて言われているけど、ただ髪が黒いだけで俺達と変わらない人だ。それに、こんなに弱っている相手をその棒で打ち付けたら、この子供は死んでしまうよ」
まあ、忌み子というか黒髪の持ち主は特別な魔力を持っているから、あながち呪われるという考えは間違いではないのだけど、そんな事実を臆面も出さずに、俺はひたすらその子供のことを擁護する。
なぜなら、俺は知っているからだ。
この出来事を、そしてこの子供が誰なのかを。
「じゃあ、其奴を如何するんですかい! このままだと邪魔で市場にいけねぇ!」
道は倒れた子供によって塞がっている。
馬車で通り抜けようとしたらひき殺してしまうだろう。
どかすことができないなら先には進めない。
故に答えは決まっている。
「それは勿論! この子を連れて帰る! 市場に行くのは明日でもいいしね」
「っは? 何を言ってるんですか?」
「フレイ。お前、何を勝手なことを……」
「と、いうわけで父様、あとはよろしくお願いします!」
俺はそう言うと手に持った魔道具――空蝉の羅針盤を発動させた。
それによって、俺の姿はその子供――ゲームではフレイのメイドとなっていた忌み子の少女である一禍と共に消え、屋敷へと移動した。