エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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 今回の話は結構エッチな感じになっているのでご注意ください。



腐敗と背徳の帝国

 

「ノルン。女の子には貞淑さが必要なことは分かるよな?」

「ん~?」

 

 ノルンの薄い反応に俺は頬を引き攣らせて言う。

 

「……もう、何度も説明していることだけど、貞淑の意味は分かるよな?」

「貞淑? ……ごはんのこと!」

「それは定食! だぁ! クソ! 何故、そうなるんだ!?」

 

 ノルンを育て始めてから七日目、俺は教育に失敗していた。

 

「これで何回目だ! 毎回毎回、貞淑とは性的なことに身持ちが堅く、清い体を維持し続ける事だと教えているというのに! 何故、覚えてくれない!」

 

 俺は思わず頭を抱える。

 ノルンが人化したことで俺達は意思疎通が出来るようになった。

 

 生まれてすぐのこの時期に人化したことについて、最初は滅茶苦茶驚いたものの、ノルンが俺をしっかりと父親枠と認識してくれていたので、これを利用してノルンに貞淑な淑女としての教育を始めたのだ。

 だが、結果は見ての通り、ノルンは一向に俺の教育を理解してくれない。

 

「フレイ、もうこれは無理なのです!」

「いや、諦めるにはまだ早い! それにシルフィーだって、ノルンがエルフのようになるのは嫌だろ!?」

「それはそうなのですが……どれだけ教えても手応えがないのです!!」

 

 俺と同じように頭を抱えながらシルフィーがそう叫ぶ。

 

 ノルンへの教育を施しているのは俺とシルフィーだ。

 真っ当な恋愛観を持っている俺達こそが、ノルンに淑女としての教育を施すに相応しいと、意気揚々と教え始めた俺達だったが、見事にその全てで失敗して、二人揃って頭を抱える羽目になったのだ。

 

「だが、これ以外のことはするすると学習しているんだぞ!? なんで、貞淑さに関する事だけ、此奴、頭がいいはずなのに……!」」

「貞淑さというのは人の文化が生み出したものだから、竜などの人の文化から離れた存在には上手く意図が伝わらないのかもしれないのです」

「クソ……! なら別の方向から攻める……!」

 

 俺は考えを改めて、再度ノルンへと向き直る。

 

「いいか、ノルン。人であろうと竜であろうと、誰彼構わずつがいにするのは良くないことなんだ」

「ん~? なんで?」

「それはな。適当に選んだ関係は長続きしないからだ。つがいっていうものはこれからの人生に必要な一生物の相手なのに、自分を裏切って別の相手の元に行ってしまうような奴を選びたくなんかないだろう?」

「確かにそうかも?」

 

 自分の元から去って行く相手を想像したのか、少し嫌そうな顔をするノルン。

 それを見ていけると考えた俺は、更に話を続けていく。

 

「だからこそ、自分に取ってただ一人の運命の相手を探すことが重要なんだ。そしてその運命の相手への礼儀の為に、清い体で居続けることが大切なんだよ」

「運命の相手?」

「ノルンが愛し合うべき存在のことさ」

 

 そう、ヒロインであるノルンの運命の相手――主人公であるアレクのことだ。

 

「俺はな、父親として、ノルンがそう言う相手と愛し合って、嫁に行く姿を見ることが出来れば嬉しいんだよ」

「ふ~ん」

 

 普通の父親ならむしろそうなることを嫌がるのだろうが、さっさとアレクとくっ付いて欲しい俺からすれば、むしろさっさと嫁に行って欲しいと言うのが本音の為、俺は心からの言葉でそれを語る。

 それに対してノルンは理解しているのかしていないのか、よく分からない態度で言葉を返す。

 

「フレイ様、戻りました」

 

 そうこうしていると、来幸達が宿に戻ってきた。

 それを見た俺は、ノルンへの教育を中止して、来幸に話しかける。

 

「今日の成果は?」

 

 俺の言葉に来幸は首を振った。

 

「今日も駄目か……当初の予定通り、竜の隠れ里を探すしかないな……」

「帝都に行くんですの?」

「それが一番だろうな。帝城の資料室になら、情報があるかもしれないんだろ?」

「実際には確認してみないと分かりませんが、恐らくあると思いますわ」

「それなら、それが一番だ。現状何の手がかりも無いわけだからな」

 

 俺はそこまで言った所で、ルイーゼとシルフィーに聞く。

 

「俺達は、俺が保持する転移の魔道具で一気に移動するけど、そっちはどうやって帝都まで移動するつもりだ? そもそも、ここに来るときには何で来た?」

「拙達は帝都に居た時空魔道師の転移で来たのです」

「ダーリンの転移に人数制限がないのなら、わたくし達もダーリンの転移で一緒に連れて行って欲しいですわ」

「よし、分かった。それじゃあ、俺の転移で全員で移動するか」

 

 俺はそう話を纏める。

 そして移動を始める前に、取り寄せで様々な衣服や、薬品を手元に用意した。

 

「師匠? これは何ですか?」

「帝都ともなれば、フェルノ王国の王女であるユーナを知っている者がいるかも知れないだろう? それに俺とレシリアの銀髪は目立つからな。帝都で活動するのなら、最低限変装をしておいた方がいいだろう」

 

 フェルノ王国から見てエデルガンド帝国が仮想敵国であるように、エデルガンド帝国から見てもフェルノ王国は仮想敵国だからな。

 そこを王女であるユーナや、聖女であるレシリアが、何の変装もせずに帝都で行動していたら、帝国側に何されるか分かったものじゃないし。

 

「なるほど、確かにそうね。それならあたしも一応変装しておこうかしら。まあ、アンタ達ほどの価値はあたしにはないけどね」

 

 そう言うとエルザは変装道具を手に取って物色し始めた。

 それと同じように他の面子も次々と変装道具を手に取って、自分なりのアレンジで自らの姿を変えていく。

 

 そして――。

 

「完成だ! 題して神威列島から来た兄妹の旅行者!」

「旅行者!」

 

 俺はレシリアと共にどや顔でポーズを取る。

 俺達はお揃いで今回の変装のコーディネートを行っていた。

 

 目立つ銀髪を青色で染めて、神威列島で一般的な……簡単に言ってしまえば和服のような服装に身を包み、俺は侍と言った風貌に、そしてレシリアは町娘というような風貌に変装したのだ。

 

「ボク! ボクも! 旅行者!」

 

 髪色を変えていないものの、ノルンも同じように和風な服装で決めている。

 

「アンタ達、変装だって言うのに、そんな目立つ格好で如何するのよ」

 

 そう言って無難な帝国風の衣装をしてきたのはエルザだ。

 こうしてみると完全に帝都に住んでいる平民の娘にしか見えない。

 

「俺達は髪を染める必要があるからな。不自然さに気付かれないようにするためにも、そこに意識を向けさせないような変装が必要なんだよ」

 

 俺はエルザの言葉にそう返す。

 

「確かに師匠達はそうかもしれませんね。わたしとエルザさんは、帝国でも王国でも、どちらでもそれなりに同じ髪色の人はいますから、こうして服を変えるだけで、その国の人間になりすますことが出来ますし」

 

 エルザと同じように目立たない帝国風の衣装をしたユーナがそう答える。

 

「その理屈を考えるなら、そこのメイドも、フレイ達と同じように神威列島風にした方が良かったんじゃない?」

「メイド姿の方が、暗器を隠せますから」

 

 帝国で使用されているメイド服に身を包んだ来幸がそう言う。

 髪は黒から青に染めているものの、メイド服姿は普段とあまり変わらない。

 

「暗器って、涼しい顔で恐ろしいこと言う女ね」

「主の為に、戦える準備をしておくのは、専属メイドの務めなので」

「師匠なら一人で何とか出来ると思いますけど……」

「そうかも知れませんが、それと準備を行わないことは別の話です」

 

 そうきっぱりと言った来幸の言葉にシルフィーが頷く。

 

「確かにその通りなのです。従者たるもの、常に万全の態勢を整えていけなければならないのです」

 

 そんなシルフィーとルイーゼに向かって俺は言う。

 

「そっちの二人は変装はいらないだろうし、ひとまずこれで全員変装完了か。それじゃあ、全員互いに手を握り合ってくれ、帝都へ転移するぞ」

 

 俺がそう言うと全員が手を繋ぎ合う。

 それを確認してから俺は言った。

 

「よし、それじゃあ、帝都へ転移だ」

 

 そうして俺達は帝都へと転移した。

 

☆☆☆

 

「ここが帝都……! さすがにフェルノ王国の王都よりも発展してるわね……」

 

 悔しそうにエルザがそう口に出す。

 

「ああ、確かにそうだな……」

 

 俺はそれに同意しながら周囲を見渡した。

 フェルノ王国の王都に初めて行った時も思ったが、ドット絵で簡略したマップが表示されていたゲーム時代と違って、やっぱり実物で見ると色々と迫力があるし、ゲームのマップ上では表現されていない部分の情報とかも多いな。

 

 俺やエルザ以外のメンバーも、もの珍しそうに周囲を見ている。

 

 世界一の大国の呼び名は正しく、様々な種族の者達が歩き回り、様々な国の商品などが次々と運び込まれ、そして活発な売り買いが行われていく。

 活気あるその姿は、この国が腐敗と背徳の国と言われ、落ち目になっているということを忘れさせるほどのものだ。

 

「と、帝都観光している場合じゃないか。帝城は帝都の中央にあるんだよな?」

「はい。このまま、中央通りを真っ直ぐ行けばつきますわ」

「よし、それじゃあ、行くとするか」

 

 俺は全員にそう声を掛けて歩き出す。

 そうしてしばらく歩いた頃――俺達は一際目立つ建物を見つけた。

 

「な、なんだあれは?」

 

 中世ファンタジーに突然歌舞伎町が出現したかの如く、ゴテゴテのネオンの装飾がなされた城のような華美な風貌の建物、奥に見える帝城よりも目立っている謎の建物に、俺も含めて全員が思わず絶句する。

 

「ええっと……あれは……」

 

 俺達の視線が集まったことに気付いたルイーゼは、言い辛そうにそう口籠もる。

 そして、ちらりとシルフィーを見た後に、困った顔をしながら言った。

 

「あれは……帝都に住むエルフの方々が行っている商売の建物ですわ」

「……エルフの商売?」

 

 思わずと言った風にエルザがそう問い返す。

 それに対してルイーゼは顔を真っ赤にしながら答えた。

 

「エルフの方とお話をしながらお酒を飲んだり、エルフの方とエッチなことをしたりする場所ですわ!」

「つまりは、エルフが相手をしてくれる、キャバクラであり、ホストクラブであり、娼館でもある場所ってことか」

 

 俺は思わずと言った形でその建物を見る。

 よくよく見てみると、現代におけるラブホテルとかキャバクラとかであるような、怪しい雰囲気を纏ったお城のような建物に見えてきた。

 

「キャバクラ……? ホストクラブ……? 何それ?」

 

 キャバクラやホストクラブに聞き覚えのないエルザがそんなことを口にする。

 

「さっき、ルイーゼが説明した通りのものことだよ。綺麗なお姉さんやお兄さんが、客席について接待して貰いながらお酒を飲む店のことだ。お酒を楽しむというよりもそのお姉さんやお兄さんとの時間を買いに行くと言った感じのもので、店によっては同伴って形で店外デートに付き合うアフターというのもあるとかなんとか」

 

 俺は前世で聞いたうろ覚えの知識でそう語る。

 

「……詳しいのね? こう言う場所、言ったことあるの?」

 

 エルザが疑いの目を向けながらそう聞いてくる。

 それに対して俺は心底心外だという気持ちで答えた。

 

「まさか! 俺だけのヒロインを探す俺が、こんな場所に来るわけないだろう。あくまで話を聞いたことがあるってだけだ」

「……ま、アンタはそう言う奴よね」

 

 俺の言葉にエルザは納得したようにそう言う。

 俺はそれを聞いた後、気になることを思わず呟いた。

 

「それにしても……これはこんな中央通りのど真ん中にあっていい店なのか?」

 

 前世の世界でもそう言った店は、子供達への影響を考えて、設置出来る場所が限られていて、学校の周りなどでは作れないようになっていた。

 実際に、学校の周りに出来た場合は、トラブルになって、ニュースとして取り上げられるなんてこともあったほどだ。

 それを考えれば、この施設は、こんな誰もが通る大通りのど真ん中に、あっていいような施設では決して無い。

 

 その時、俺は大通りで施設をじっと見つめる男の子に気付いた。

 へっぴり腰で股間を押さえたような姿勢が気になり、その男の子の視線の先に目を向けると――ガラス張りの窓の奥にエルフらしい美貌を持った全裸の美少女が居て、その体の一部を白い液体でテラテラと汚しながら、男の子に笑顔で手を振っていた。

 

「ちょ、まっ!? おい! あそこに裸のエルフがいるぞ!? 子供の教育に悪すぎるだろ!? 何でこんなのを放置しているんだ!?」

 

 それを見た俺は思わずそんなことを叫び、ルイーゼにそう言って詰め寄る。

 

「そ、それは――」

「あっ! あの男の子が……!」

 

 ルイーゼが何かに答えようとする前に、ユーナが状況の変化を呟く。

 

 俺達が見る前で、男の子の元に笑顔でエルフの少女が近づく。

 シルフィーと同じ位の、子供と言っていい風貌のそのエルフの少女は、男の子と何度か言葉を交わすと、男の子がポケットから出した十枚の銅貨を受け取り、そのまま笑顔で男の子の手を引っ張りながら路地裏に消えた。

 

 そしてその直後、パンパンと何かがぶつかる音ともに、男の子とエルフの少女のあえぎ声が大通りに響き渡った。

 

「……」

 

 あんまりな状況に全員が絶句して無言になる。

 そうしている間にも、町娘とみられる少女が、エルフの男と楽しそうにしながら、男の子達が致しているであろう路地裏へと消えていき、そして大通りに新たなあえぎ声が響き渡るようになった。

 

「えっ……と……なにこれ?」

 

 俺は思わずそんな言葉しか出ない。

 いや、どう言う状況になっているのかは分かる。

 

 ようは、さっきの男の子も、町娘とみられる少女も、どちらもエルフを買って、それでそこの路地裏でそう言うことをし始めたということなのだろう。

 

 でも、そんな事がこんな往来で普通に起こっていいことなのか?

 状況を理解出来ても、頭がそれを理解出来ずに、思わず唖然とするしかない。

 

「こ、これが帝都の現状ですわ……」

 

 そんな中でルイーゼがそうぽつりと呟いた。

 

「帝都でエルフが自由に行動するようになってから、帝都の風紀はこのように乱れまくってしまっているのですわ……」

 

 いや、風紀が乱れてるって言葉で片付けていい問題か? これ?

 

「あのようにエルフキャッスルでの行為を見た者達が、エルフキャッスルに所属していない個人の安いエルフを買い、所構わずその辺で致してしまうことで、多くの人がその行為の音を聞いたり、行為自体を見てしまったりしてしまうのですわ」

「それでその行いを目撃して興奮した奴らが、エルフキャッスルに行ったり、或いはそこらの個人エルフを雇って、更に行為に耽るようになると」

「そうですわ。エルフによる相乗効果が起こってるんですわ」

 

 嫌な相乗効果だな、おい。

 

 いや、確かに効率的な手ではあるんだろう。

 往来で美少女や美少年がやっている姿を見れば、男だって女だって興奮して溜まるものが溜まって、それを発散したくなってしまう。

 そうして、そこに美形であるエルフが格安でやれると現れれば、先程の男の子のようにお金を払って、その場でやり出すものが居てもおかしくない。

 

 勿論、普通に考えれば往来でやるなんてことは嫌がるものだろうが、この様子を見る限りそれが常態化してしまっているようだし、他の奴らも同じように往来でやっているのなら、気にせずに自分もやってしまおうと考えても不思議では無い。

 ……いや、もしかしたら往来でやること自体が言いスパイスになるとか、やっている当人やエルフ達は思っているのかも知れない。

 

「ソドムとゴモラかよ……何と言うか……終わってんな……」

 

 前世での神話の中で出てきた悪徳の街を思い出すような状況だ。

 今にでも天罰によってあっさりと滅ぼされそうなほどの退廃さで、これを正常化していくのは、途方もない苦労がいるだろう。

 

 俺がそんな事を考えているとルイーゼが続けるように言う。

 

「それに乱れているのは風紀だけではないのですわ……」

「は? まだ何かがあるって言うのか?」

「往来での行為も問題ですが、エルフキャッスル自体にも問題があるのですわ」

 

 そう言うとルイーゼはエルフキャッスルを見ながら言う。

 

「あの店では往来のエルフと違って、多彩な技に秀でた優れたエルフが接待をしてくれたり、どんなエッチなことでもしてくれるのですわ」

「……まあ、そう言う店だろうからな。だが、往来でやるよりかはマシだと思わないこともないが?」

 

 もう感覚が麻痺しそうだが俺は言い返す。

 少なくとも周りの被害という面では少なそうだと考えた俺の意見に対し、ルイーゼは首を振ってその認識が間違っていると伝える。

 

「そう言う高級なお店だからこそ、そのエルフ達に気に入られようと、喋ってはいけない情報を喋ってしまい、結果として享楽主義で口の軽いエルフ達によって、あっと言う間に帝都中に情報が広まってしまうということが起こっているのですわ」

「それは……」

 

 企業秘密をおっさんがキャバクラで喋っちゃったら、DQNなキャバ嬢達がそれをあっと言う間にネットに拡散しちゃったみたいなことか。

 

 確かにこの状況なら起こってもおかしくない問題だ。

 

「それにそれだけではなく、エルフキャッスルは高級店であり、利用するための費用もかなり高額なものになっているのですわ。その費用を賄うために横領や賄賂などの裏取引に手を出す者が後を絶たず……気付けば帝都では、不正と裏取引が蔓延するという事態になってしまっているのですわ……」

 

 エルフの快楽で染められた利用者が、高級店であるエルフキャッスルを利用する為に、犯罪を犯してまで金策を行っているってことか。

 

 て言うかそれって――。

 

「帝国の腐敗と背徳の原因って――此奴らエルフかよ!?」

 

 俺は思わずそう叫んだ。

 どう考えても帝国が腐りきっている元凶はこの長耳どもだ。

 

「同胞が……同胞がご迷惑をかけて! 本当に申し訳ないのです!!!」

 

 俺の叫びを聞いたシルフィーが地面に頭を擦り付けるように土下座をする。

 その必死な謝罪を見て、俺は焦りながらも、シルフィーに向かって言う。

 

「悪いのはあそこにいるエルフ達で、お前が悪いわけじゃないだろ? そんな風に土下座をしてまで、シルフィーが謝るようなことじゃない」

 

 俺のその言葉にルイーゼが続くようにして言う。

 

「そうですわ、シルフィー。それにエルフ達も何も全てが悪いと言うわけではありませんの。帝国の魔法技術や薬学はエルフ達の手で大きく向上しましたわ」

 

 帝国にやってきたエルフ達は遊ぶ金欲しさに様々な仕事を始めた。

 多くは手っ取り早く金を稼げる性風俗業を始めたが、一部のエルフ達は魔法や薬学などの自分達の知識を売り飛ばしており、それによって帝国の魔法技術が向上し、薬学などが大きく発展したのは事実なのだ。

 

「それに舞台役者などの芸能関係や、様々な流行を広める広報関係の仕事でも、その恵まれた容姿を活かして活躍を行って――。……まあ、それのせいで、このようなエルフの暴挙を止められず、むしろエルフに賛同して流される人々が増える結果になってしまってはいますが……」

 

 あれ? おかしいな? エルフのフォローのターンだったはずなのに、あっという間にフォローじゃなくてやらかしの話に変わってしまったぞ?

 

「と、ともかく、シルフィーのせいではありませんわ! 貴方はわたくしの従者、貴方の気高い精神は、わたくしがしっかりと理解していますわ!」

「う、う……。姫様~!」

 

 涙を流したシルフィーはルイーゼと抱き合う。

 主従との感動的な場面、だがそれを気にせずにレシリアは言った。

 

「結局、何の問題も解決出来てないってことだよね?」

「うっ!」

 

 致命傷を喰らったかのような声を出すルイーゼ。

 確かに感動的なノリで騙されそうになったが、結局のところエルフどもは野放しになっていて、この退廃的な帝都の状況は完全に放置されてしまっている状態だ。

 

「わ、わたくし達も何とかしようと方々に働きかけているのです。ですが高級店であるエルフキャッスルを利用するのは政府の高官が多く、その全てがエルフ達に取り込まれてしまった状態になっていて、帝都の民達も流行の発信者であるエルフ達の味方をしてしまうので、完全に八方塞がりな状況なのですわ!」

 

 国の中枢も、国民人気も、エルフに押さえられているという状況。

 それによって、エルフ達は皇女であろうとも、迂闊に手が出せない巨悪へと既に変化してしまっていたのだ。

 

 そのルイーゼの言葉を聞いて俺が純粋に抱いたのは危機感だった。

 

「やばいな、エルフ」

「やばいですね」

「やばいわよね」

 

 フェルノ王国の王女であるユーナと、領地持ち貴族である俺とエルザは、揃ってエルフの危険性を再認識する。

 

 観光地はエルフが入ってこないように規制しないといけない?

 その程度の生易しい対処法では、エルフに対抗することは出来ないのだ。

 

「……俺、フェルノ王国に戻ったら、クリスティアにエルフの入国禁止を進言することにするわ。ユーナやエルザも法令制定の為に協力してくれ」

「勿論です。わたし達の国をこんな状況にはさせません!」

「ええ、あたし達で国を守るわよ!」

 

 覚悟を決めるように俺がそう言うとユーナとエルザも頷く。

 

「今や、帝都の殆どの者達がエルフと関係を持っている状況にあるのですわ。何処にエルフの潜在的な味方がいるのか分からず、エルフに対抗する仲間を集めることすら難しい……」

 

 そこでルイーゼは俺達に縋るように言う。

 

「ですが、他国の者であるダーリン達なら、エルフに取り込まれていることはないはずですわ! そこでお願いがあるのですが、わたくし達と一緒に、この帝国を立て直す為の協力をしてくれませんか?」

 

 ルイーゼルートのお誘いですか?

 でも、ごめん、これ正直、俺には無理だわ……。

 

「ええ……。いや、確かに俺達はエルフに取り込まれていないけど、だからといって俺達じゃ、この状況をどうにかすることなんて出来ないぞ……」

 

 俺は正直にそう打ち明ける。

 

 そもそも、俺達はフェルノ王国の高位貴族の人間だ。

 帝国の政治に強く介入することは出来ない。

 仮に介入出来たとしても、政府の中枢や民集まで押さえられている状況で、出来ることなんて殆ど無いのが実情だろう。

 

 それこそ、闇魔法を使って民集の記憶や感情を操作すれば、何とかすることは出来るかも知れないが、魔法に長けたエルフが工作に気付く可能性も高いし、何よりも帝国のためにそこまでリスクを負う気にはなれなかった。

 

 だからこそ、俺はきっぱりと宣言する。

 

「だから、悪いが協力は出来ない」

「そう……ですわよね。無理を言いましたわ。忘れてくださいまし」

 

 原作でこの問題を解決してルイーゼを皇帝にしたアレクはすげーな。

 正直、俺では同じ事は絶対に無理だわ。

 

 エルフ達のせいで腐敗が広がっているにしても、それによって直ぐに致命的な問題が起こるというわけでもないだろうし、この様子ならルーレリア学園に留学した時に、同じように外部の協力者を探すだろうから、この件に関しては全面的にアレクに丸投げさせて貰おう。

 

 俺はそう心に決める。

 これはアレクのように、主人公補正でも無ければどうにもならない問題だ。

 

「それじゃあ、わたくし達は帝城に言ってきますわね」

 

 断られたルイーゼは、話を切り替えるようにそう言うと、シルフィーを伴って、エルフキャッスルの横を通り抜け、そのまま帝城へと向かって行った。

 それを見て、来幸がこっそりと俺に話しかけてくる。

 

「銀仮面として協力しなくていいんですか?」

「銀仮面でどうにかなる問題か?」

「……無理、ですね」

 

 一個人の活躍でどうにかなる範疇を超えているのだ。

 銀仮面として暗躍したところで、この国を変えられるとは思えない。

 

「それこそ、原作通り、ルイーゼの騎士になって、身を粉にして働いて、やっとどうにかなるってレベルだろう。ルイーゼをヒロインにする気がない俺としては、その選択肢を取る気は無いんだ」

 

 俺は来幸に対して明確にそう語る。

 

「俺は、ハッピーエンドの結末を知る攻略対象達には、可能な限り幸せになって欲しいと思うが、それでも結局は俺自身の幸せの方を優先する。だから、ルイーゼには悪いが、アレクが登場するまで、帝都の状況はこのままにさせて貰う」

 

 俺は去って行くルイーゼを見送りながらそう語った。

 

 俺が攻略対象達を救うのは、アレクが何処にいるのか分からないから、アレクの代わりにその役割を代行しているだけという、言ってしまえばただの慈善事業だ。

 誰も彼も攻略対象なら、俺が代わりに救わなくちゃいけないというわけでもないし、本来の運命の相手であるアレクが救うならそちらの方が断然いい。

 

「原作の開始まで一年半と少しだ。それまでの間に状況が大きく動くとも思えないし、原作が始まったら原作通りにアレク君が何とかしてくれるさ」

 

 俺は、自分が住む世界に主人公が存在しているってのは、こう言う手に負えない問題が起こった時に、全部任せられるから便利だなと思いながら、ルイーゼが資料室を確認してくるのを、他の者達と待つことにした。

 

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