エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
帝城に入ったルイーゼ達はそのままの足で資料室に向かっていた。
自室に寄ったり、執事やメイドに話をしに行かなかったのは、書き置きだけを残して勝手に帝城を抜け出してエルミナに行き、そこで予定よりも長期間滞在したことを咎められないようにするためだった。
「何とか他の方の目に止まらずに資料室までこれましたわ」
「資料室の中にも、殆ど人はいないようなのです」
資料室の中を確認したシルフィーのその言葉を受けて、ルイーゼは資料室の中へと入り、そしてそこでほっと一息を付く。
「シルフィー。ありがとうございます。貴方のおかげで誰にも見つからず、ここまで来ることが出来ましたわ」
「従者として当然のことをしたまでなのです」
そう言ってシルフィーはどや顔でルイーゼに答える。
そしてその後、過去を思い出すようにしながら呟いた。
「それにしても、エルミナの実態調査に向かって直ぐに帰ってくるつもりが、随分と長くエルミナに滞在することになってしまったものなのです」
「そうですわね。まあ、わたくし達の自業自得ではあるのですが」
そう言ってルイーゼは本棚の本を手に取った。
ペラペラと中身を見て、目的の内容がないことを確認すると、別の本を手に取り、その中身を確認していく。
「このまま誰とも会わずに資料を見つけて、そのままフレイ達の元に行って合流する予定なのです?」
同じように本を読みながらシルフィーがルイーゼに問いかける。
「そうですわね。今誰かと会えば、そのまま城から抜け出せないように、監視されることになりそうですし、このまま誰とも会わないのが最善でしょう」
そう語ったルイーゼは本を読むことに集中する。
シルフィーも同じように黙々と本を探し続け、やがてルイーゼが手に取った本の内容を見て、思わず声を上げた。
「エルフと竜の関係性について……?」
「エルフなのです?」
ルイーゼの言葉に興味を引かれたシルフィーは、本を探すのを止めてルイーゼが読む本を覗き込む。
「この世界に生きる長命種としてエルフと竜は古来より深い付き合いがあった」
「は、初耳なのです……」
明らかに目的と関係してそうな本を言葉に出しながら読むルイーゼ。
そして、その語られた内容にエルフでありながら驚くシルフィー。
「だからこそ、竜達はエルフを信用し、七彩の神が作り出した結界を通過するための許可状をエルフの里に託した」
そこまで読んだところでルイーゼは一度読むのを止める。
「七彩の神が作った結界……? それに許可証――もしかして竜の隠れ里とは、その許可証がないと入れない場所ということですの?」
疑問を口にするルイーゼ。
それに対してシルフィーは言う。
「この先に、その事について記載があると思うのです」
「確かに読み進めた方が良さそうですわ」
ルイーゼはそう言うと本を読み進める。
その本は娯楽としての本というより、誰かの報告書を保存の為に、本の形式に纏めたというような雰囲気のものだった。
その為、目的としていた情報は、思ったよりも早くルイーゼ達の前に現れた。
「許可証がないと竜の里に辿り着くことは出来ない。だからこそ、エルフ達から何とかしてその許可証を確保する必要がある。現在、許可証を保持していると分かっているエルフの里は帝都側の森林にあるカルミナクの――」
その時、資料室の扉が音を立てて開いた。
「――っ!?」
驚いたルイーゼとシルフィーはそちらへと目を向けた。
そこにいたのは老齢の騎士姿の男――アリシアの攻略対象の一人でもある、エデルガンド帝国近衛騎士のセルゲイだった。
「皇女殿下――何故このような所にいらっしゃるのです?」
セルゲイは不審な目つきでルイーゼ達を見る。
それに対してルイーゼは慌てながらも何とか取り繕った。
「ちょっと、歴史の勉強をしようと思っただけですわ」
「ふむ……。……失礼します。皇女殿下」
ずかずかと資料室に入ってきたセルゲイは、そう言葉にするとルイーゼの手から本を奪い取ってそのタイトルに視線を向けた。
「エルフと竜の関係性について……今の皇女殿下が勉強するような内容ではないと私は思いますが?」
「そ、それは……エルフも竜もこの帝国の近くに住んでいる者達です。その関係性を知ることは、今後の為に役立つと思ったのですわ」
「……まあ、そう言うことにしておきましょうか」
セルゲイはそう言うとルイーゼの詰問を取りやめた。
それに対してルイーゼはほっと胸をなでおろす。
セルゲイは近衛騎士としてルイーゼの護衛を多く担当しており、それだけではなく教育係としてルイーゼの武術や座学の教師を担当したこともあった。
その為、皇女であるルイーゼでも頭が上がらない相手なのだ。
「皇女殿下の奔放っぷりは今に始まったことではありませんが……。ここのところ目に余りますな。勝手にエルミナにバカンスに行ったきり戻らず、本来行うべき教育が行えていないと、教育係達が言っておりました」
「そ、それは……そうですけど……いえ、そもそもわたくしは、バカンスに行ったのではなく、エルミナの実態を調査しに行ったのですわ。ですので、これは立派な皇女としての公務ですわ!」
「……まだ帝都に巣くうエルフ達を何とかしようとしているのですね」
セルゲイはそう言ってため息を付いた。
それに対してルイーゼは、セルゲイのその態度に憤慨を露わにする。
「何ですの!? その態度は! 帝都の腐敗は帝国が解決しなければならない問題ではないですか! それなのにそんなやる気のない態度を見せて!」
「皇女殿下のお気持ちは分かります。ですが、貴方がそれをやる必要は無い」
セルゲイはルイーゼの怒りを受け流し冷静に答える。
「貴方はこの国の皇女ではありますが、成人を迎えたばかりで何の力も持たないただの少女でもある。そんな貴方がエルフのような巨悪を相手に、あれやこれやと動き回ったところで、何も解決出来ないどころか、状況を悪くするだけです」
「それは――」
ルイーゼが何か言うよりも先にセルゲイは続けるように言う。
「そんなことに時間を費やすよりも、習い事に時間を費やし、知識や礼儀作法を磨くことを優先なさってください。皇女である貴方はいずれ他国に嫁いで王妃となり、その国を帝国の為になるように動かさなければならない立場になる」
セルゲイはルイーゼに言い聞かせるように言った。
「知識が無ければ他国を操れない。エルフなどに構って無駄な時間を過ごす余裕は、皇女である貴方にはないのですぞ!」
そのセルゲイの言葉にルイーゼは押し黙る。
だが、強い意思でセルゲイを見ると、セルゲイに対して言った。
「確かに皇女としての責務は理解していますわ! でも、それでも! 皇家に生まれた者として! この帝都に生きるものとして! 目の前にある国を蝕む腐敗を、見捨てておくことなんて出来ませんの!」
「それが子供の癇癪だと私は申し上げています。皇女殿下も成人したのですから、もっと己の立場をわきまえた対応をなさってください」
その言葉に対してルイーゼは怒りを露わにして言う。
「何もせず見ていることが立場をわきまえた対応と言うのなら、わたくしはずっと子供の癇癪で構いませんわ!」
そう言うとルイーゼはセルゲイを押し抜けるように奥へと進む。
「行きますわよ! シルフィー!」
「はいなのです!」
その中でシルフィーへと声を掛け、そのままの勢いで資料室を後にした。
そうしてしばらく進んだところで、ルイーゼはぽつりと呟く。
「捕まらずに上手く逃げ出せましたわ」
「先程の態度は演技だったのです?」
「激怒して見せれば捕まえられずに済むと思ったことは確かですが、先程の態度はすべてわたくしの本心ですわ」
そう言うとルイーゼは笑顔を見せて言う。
「誰かが動かなければ、国を良くするなんてことは出来ませんもの」
帝都の腐敗の原因であるエルフ達に対して、政府の高官達が押さえられていることもあり、現在の帝国政府は何の手も打っていない状況にある。
セルゲイはルイーゼがやる必要はないと語ったが、ルイーゼからして見れば、誰も手を付けていないのだから、自分がやる必要が無くても、国を良くするためにやらないといけないと考えているだけなのだ。
「姫様のそういう所、拙は尊敬するのです!」
そんなルイーゼの思いを受けてシルフィーは素直な気持ちを語る。
そしてそこまで言ったところで、ふと何かを思い出すように言う。
「そう言えば……」
「どうしましたの? シルフィー」
「あの破廉恥なスキルが発動しなかったと思っただけなのです」
先程までルイーゼの側には男性であるセルゲイがいた。
それなのにフレイの時のように、ラッキースケベイベントが発生しなかったことを、シルフィーは不思議に思ったのだ。
「確かに……ダーリンとならあれだけ発生したのに」
「もしかしたら、何らかの条件があるのかも知れないのです。それなら、その条件を見極めれば、また姫様も普通に生活出来るようになるのです」
上機嫌にそう語るシルフィーの言葉を聞きながらルイーゼも考える。
(セルゲイの時は発生しなかったのに、ダーリンの時は発生した……どうしてですの? セルゲイとダーリンで何か違いが? それともあの破廉恥なスキルが発動するダーリンだけが、わたくしの中で特別ということなんですの……?)
もしかして自分がフレイに好意を持っているから、あのようなことが起こるのではないか、そう考えてしまったルイーゼは、何故か火照りだした顔の熱さを抑えられず、考えれば考えるほどにフレイのことを思い出すのだった。
☆☆☆
帝城の資料室――。
その場に一人残ったセルゲイは、ルイーゼが立ち去っていった資料室の入口を見ながら、思わずと言った様子で一人呟く。
「まったく、国を憂えるいい子に育ったのは嬉しいことだが、正義感が強すぎるのは些か問題があるな。いらないことに首を突っ込み過ぎる」
そして手に持った本へと目を向ける。
「エルフと竜の関係性について……か」
それだけ呟くとセルゲイは手に持った本を魔法で炎を出して燃やした。
セルゲイの手の中で、あっという間に本は灰となり、この世界から竜の隠れ里に関する情報が載った資料が消える。
「報告を行っておくか」
セルゲイは灰をその場に捨てると、そう口にして何処かへと去って行った。
☆☆☆
「待っている間に情報収集をしたが……特に情報はなしか」
「さすがに一般に出回っている情報ではないようですね」
俺の呟きに来幸がそう答える。
ルイーゼが帝城に行くのを見送った俺達は、ただ待つだけなのも時間が勿体ないと考えて、帝都観光をしながら情報収集を行っていた。
だが、一向にそれらしい情報は手に入らず、完全な手詰まりの状況だった。
「ルイーゼ達が何か情報を掴んでくれるといいんだが……」
俺達はそう呟きながら帝都を歩く。
そんな中でノルンが串焼きを行っている屋台を指差して言った。
「パパ! パパ! ボク、あれ食べたい!」
「よし、それじゃあ、あの屋台にも話を聞いてみるか」
俺達は屋台に近づき、屋台のおじさんに話しかけた。
「串焼きを人数分貰えるか」
「へい、全部で30ゴルドでさぁ」
「ほい、30ゴルドだ」
串焼きを受け取り、代わりにお金を渡す。
そして、その後に俺は屋台の店主に世間話を持ちかけた。
「そうだ店主。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「あっしで答えられることなら答えますが……なんでしょう?」
「俺達はこの帝都に旅行に来た他国の者なんだが……」
「ああ、やっぱり他国の者でしたか、珍しい銀髪をしているから、この辺の人ではないとあっしも思っておりました」
「は……? 銀髪……?」
俺は店主の言葉に続けて放とうとした言葉を止める。
そして、直ぐにその店主の言葉を否定するように言った。
「何を言っているんだ? 俺の髪は青色のはずだが」
「え? 確かに途中から青くはなっておりますが……銀髪のようにあっしには見えますぜ? 青色に染めていたりしてるんですかい?」
俺は嘘をついているように見えない店主の態度を見て、直ぐに取り寄せで鏡を手元に召喚し、自らの姿をそれで見た。
「なんじゃこりゃ……!?」
すると染めたばかりの髪の半分が元の銀色に戻っていた。
それだけではなく、時間経過とともに、青い髪が銀色に戻っていく。
「レシリアは!?」
「レ、レシィの方は大丈夫みたい!」
その様子にレシリアも動揺しながらそう答える。
髪を染めているのはレシリアと来幸も同じだが、その二人は何の問題もなく、自分の髪の色だけが元の色に戻っているようだった。
「どうしてこんなことが……」
そこまで呟いたところで、俺はウライトスの言葉を思い出した。
精神生命体は肉体に影響を及ぼすことがある……。
まさか、俺が自然神になりかけているから、銀の神としての特徴である銀髪に肉体の状態が戻されてるって言うのか……!?
「銀髪……? あれってフェルノ王国の聖女の家の奴じゃないか!?」
俺が自分の身に起こっていることに驚愕していると、ちょうど往来にいた帝国の貴族と思われる者が、俺の銀髪を見てそう叫ぶ。
「まずっ……!?」
「それによく見ると近くにいるのはユーナ王女じゃないか! フェルノ王国の奴らが何で変装してこんな所に!? 衛兵! 衛兵! 何故奴らを放置しているんだ!」
俺の正体がバレるのと同時に、芋ずる式にユーナの正体もばれてしまう。
そして、フェルノ王国の高位貴族が変装して帝都に侵入しているという状況に気付いた貴族の青年は、俺達を捕縛するために衛兵を呼び始めた。
変装してきたのが裏目に出たか……?
いや、元より、事前に訪問を知らせずに、俺達みたいな高位貴族が訪れてる時点で、バレた瞬間に捕縛対象になっていたか……!
「フレイ、どうする?」
「決まってる! 逃げるんだよ!」
俺はそう言うと来幸達に触れ、転移で帝都を後にした。
☆☆☆
「クソっ! どうしてこんなことに!?」
「凄いわね。何度塗っても銀色に戻されてるわ」
帝都の外へと転移して逃げた俺達。
再び帝都に潜入するために、髪を染め直そうとしているが、幾ら俺の髪を染めても、銀色に色が戻されてしまう状況に陥っていた。
「師匠の体に一体何が起こっているのですか?」
「俺が知りたいくらいだよ!」
ユーナの言葉に思わず俺はそう返す。
思い当たる節はあるが、それが理由だと認めたくはなかった。
まさか、本当に自然神になってるて言うのか!?
馬鹿な!? 何でただの人である俺が、神なんかに……!?
「ルイーゼみたいに変なユニークジョブでも持っているんじゃない? 聖女の家系なわけだし、一つや二つあってもおかしくないと思うけど」
俺の様子を見ていたエルザがそんなことを口にする。
それに対してユーナが素直な疑問を言葉に出す。
「髪色が銀色になるユニークジョブの話なんて聞いたことがないですけど……」
「あたし達が知らないだけであるかも知れないでしょ? 銀髪みたい名前のユニークジョブが」
「それはどうなんでしょうか……?」
あまりに安直なユニークジョブ名に思わずユーナは苦笑する。
「どちらにしろ、もう髪色を染めるのは無理か」
俺は髪を染めるのを止めてそう呟く。
何度塗っても銀色に戻される以上、これ以上やっても時間の無駄だ。
「これじゃ、帝都への再潜入は無理だな……それどころか、帝国に長居することも難しいかも知れない」
「帝都で騒動になりましたからね……エルミナなどの帝国内の別場所にも、フレイ様に関する情報が伝わってしまう可能性は否定出来ません」
髪色が銀色だったとしても、基本的に一般庶民は、珍しい髪色だなと思うくらいでそのことについて気にしたりしない。
だからこそ、エルミナにバカンスに行った時は、特に変装をしないままでも、大して問題にならずに、過ごすことが出来ていた。
だが、さすがに帝都で騒動になり、各地へ銀色の髪の男に注意するように通達が出されてしまえば、一般庶民だって銀髪を気にするようになってしまう。
それを考えれば、これ以上の帝国への滞在は難しいと言える状況に、今の俺達は陥ることになってしまったのだ。
「さっさと竜の隠れ里に行って帰るしかないな……これは。ルイーゼ達が何かしらの情報を持ってきてくれないと、マジで不味いぞ」
俺は思わずそう呟く。
そんな俺の言葉に対して来幸が言う。
「そのルイーゼ様達とはどう合流する予定ですか?」
「ああ……転移で逃げてきたからな……仕方ない帝都にもう一度行くか」
「師匠が行くと騒ぎになるんじゃないですか?」
帝都への潜入が難しいと言った俺が帝都に行くと言った事で、ユーナがそのような疑問を口にする。
「俺が騒ぎを起こしている間に、他の誰かがルイーゼ達と合流して、あの串焼き屋の前までルイーゼ達を連れてくることにしよう」
「それで串焼き屋の前から、ここまで転移してくるということですね」
「ああ、帝都で騒ぎが起こっているとなると、帝都の出入りの検問も厳しくなっているかも知れないからな。皇女であるルイーゼだと抜け出すのも難しいだろうし、俺が転移で帝都の外に出す方がいいだろう」
俺はそこまで言うと全員に向かって言う。
「と言うわけで、来幸とエルザは一緒に付いてきてくれるか? それ以外はここで待機して俺達が戻ってくるのを待ってくれ」
俺の言葉に二人が頷いた後、俺は再び帝都へと転移した。
☆☆☆
「本当にびっくりしたのです。帝都の衛兵達が銀髪の男を捕らえるために、あちこちで動き回っていたので。……なんで髪色を元に戻してるんです?」
「それは今はどうでもいいだろ? それより何か情報はあったのか?」
俺はシルフィーの疑問を受け流し、ルイーゼ達の成果について聞く。
「竜の隠れ里への手がかりは見つけましたわ!」
「本当か!?」
「ええ、竜の隠れ里に行くためには許可証が必要みたいですの」
「許可証……?」
そう疑問を口にした俺達の為にルイーゼが読んだ本の内容について説明する。
竜の隠れ里は七彩の神が作った結界に隠されており、そこに辿り着くためには結界を通るための許可証が必要だと言うこと。
そして、その許可証は長命種として古くから交友関係がある、エルフが持っているということを。
「そして、許可証を持っているとされるエルフの里が――」
「……拙の故郷であるカルミナクなのです」
ルイーゼの言葉に続けるようにしてシルフィーがそう言った。
全ての情報を聞いた俺は、その内容を吟味しながら言う
「そうかそうか……。竜の隠れ里に行くには、エルフが持つ許可証を手に入れる必要があって、それはシルフィーの故郷にあると……」
そこでポンと手を叩いた俺はシルフィーに向かって言った。
「シルフィー、ちょっと里帰りして、許可証を取ってきてくれ」
「いやなのです!」
ほぼノータイムで放たれるシルフィーの拒絶の言葉。
そして続けてシルフィーが俺に向かって言う。
「一人では絶対に嫌なのです! どうしてもカルミナクに行くと言うのなら、フレイも一緒に付いてきて欲しいのです!」
「いや、ただ実家に帰るだけなのに、俺が一緒に行く必要はないだろう? 俺達はその辺で待ってるからさ、ちゃっちゃと取りに行ってくれよ」
俺はシルフィーの提案をそう言って拒絶する。
そしてそのままその場を離れようとした俺の足に、縋り付くようにしてシルフィーが抱きつき、逃がさないと言わんばかりに引っ張り始める。
「お前……足を離せ!」
「いやなのです! 絶対に嫌なのです!」
シルフィーを振りほどこうとするが、がっちりと抱きついたシルフィーは、なかなか俺の足を手放さない。
そして、必死に俺にしがみつきながら、シルフィーが言う。
「あんなところに一人で戻ったら、何をされるかわからないのです! 同士フレイは! 拙の貞操がこんなところで奪われてもいいと思っているのです!?」
「うっ!? そ、それは――」
たった一人の運命の相手を見つけて添い遂げたいと願う思想の同士。
その夢が潰されるかも知れない状況を、同士であるお前が見捨てられるのかと、シルフィーに問いかけられ、俺は思わず言葉に詰まる。
確かにシルフィーの言う通り、シルフィーが実家に戻った場合、その貞操が無事でいられるとは限らないんだよな……。
シルフィールートで、悪徳領主と組んでシルフィーを快楽に溺れた普通のエルフに堕とすために暗躍していた彼女の母親を思い出し、そんなことを考える。
「シルフィーの言いたいことは分かる……分かるが! 俺だってエルフが大量発生しているエルフの里なんかに行きたくないんだよ!!」
スペックの高い享楽主義者で倫理間がゼロのエルフ共。
そんな奴らが大量に住んでる場所なんて碌な場所じゃない。
少ししか住んでいない帝都でもあの様だったのだ。
そんな伏魔殿に挑んでしまえば、俺だってどうなるか分からない。
「そんなことを言わないで付いてきて欲しいのです! 一人では駄目でも、二人ならきっと乗り越えられるのです!」
「そう言う言葉は、俺じゃなくて、君の運命の相手に行ってくれませんかね!?」
プロポーズ紛いの言葉まで言って俺を道連れにしようとするシルフィー。
俺が必死でシルフィーを振り飛ばそうとする中で、シルフィーがぽつりと呟く。
「夢を……諦めたくないのです……」
切実な思いが込められたその言葉。
それを聞いた瞬間に、シルフィーを振りほどこうとする俺の足は止まっていた。
ここでシルフィーを見捨てるのは、俺を見捨てるのと同じ事……か。
理想の相手を追い求めるシルフィーは、言ってしまえば女版の俺だ。
そんな彼女が夢を果たせないと言う事は、間接的に俺自身も夢を果たせない可能性があると、認めることに繋がってしまう。
今世で絶対に俺だけのヒロインを手に入れると決めている俺としては、それだけは絶対に認めることは出来ないのだ。
「……分かったよ。一緒に行く。それでいいだろう?」
「本当なのです!?」
「ああ、本当だ。だからもう泣き止んでくれ」
よっぽど里帰りしたくなかったのか、ガチめに泣いていたシルフィーを見て、俺は思わずそう口にする。
そして、自分の思いを言葉にするように、シルフィーに向かって言った。
「同じ思いを抱く同士……それを見捨てるなんてあってはならないことだった」
同士の敗北は自分の敗北と同じ事だ。
だからこそ、それを見捨ててしまえば、自分を見捨てることになる。
気付いていなかっただけで、初めから見捨てるという選択肢は無かったのだ。
「シルフィーの言った通りだ。一人では難しくても、純愛を尊ぶ俺達二人なら、エルフのような巨悪が相手だろうと、きっと立ち向かえる! だからこそ、共に戦おう! シルフィー!」
そう言って俺は手を差し出した。
シルフィーはその手を握手をするように握るという。
「はいなのです! 拙達ならきっとあの里にも勝てるのです!」
お互いにがっちりと手を握りしめ、そして俺は宣言する。
「俺達は仲間だ! 仲間は絶対に見捨てない!」
「なのです!」
「何時か、お互いに運命の相手を見つけるまで、互いに手を取り合い、協力して夢に向かって進んで行こう!」
「これは拙達の誓いなのです!」
俺達は同士としての仲を更に深めた。
たった二人の同盟――だが、この同盟は何よりも強い絆で結ばれている。
「よし、心の準備は終わった!」
俺はそう言うとルイーゼ達の方を見る。
「里のお偉いさんに話を通すためにシルフィーには来て貰うが……皆は俺達が許可証を取ってくるのを待っていても構わないぞ」
里長の娘であるシルフィーは交渉の為に必要だろうが、それ以外の面子はエルフの里を訪れる必要はない。
むしろ貞操の危険を考えれば、エルフの里なんて言う危険な場所には、付いてこない方がいいだろう。
そんな気持ちから来た俺の言葉に、エルザは少し考えると言う。
「カルミナクの里の長って……女?」
「エルフは女系継承なのです。だからこそ、カルミナクの里長の地位も、拙の母親が務めているのです」
エルフは結婚という文化が形骸化しており、更に子供が出来にくいことから、誰が種付けしたものか分かりにくいため、血統の継承という観点では、確実に当人の子供だと保証がされる女系継承の仕組みを取っている。
だからこそ、シルフィーの母親がカルミナクの里長を務めているのだ。
「そう……女なのね……ならあたしも行くわ」
「お前、分かっているのか!? 今から行くのはエルフの巣窟だぞ!? どんな危険が待っているか分からないんだ! それでも付いてくるのか!?」
「危険なのはアンタもそうでしょ? あたしはね、あたしの好きな人がエルフによって汚されて、快楽付けにされるのなんて耐えられないの」
エルフの里に共に行くと言ったエルザに俺は思わずそう叫ぶ。
だが、エルザは意見を変えずにそう言葉を返すと、決意の籠もった目で言う。
「それに里長が女だって言うのなら、あたし達よりもアンタの方が危ないじゃない。いつも所構わず女を引っかけてくるんだから、エルフの女共に危ない目に遭わされないように、あたしが守ってあげる」
そんなエルザの言葉に俺は思わず反論する。
「所構わず女を引っかけたりしてないだが……」
だが、その俺の言葉は何故かその場にいる全員に無視された。
そして、エルザに続くようにしてユーナが言う。
「エルザさんの言う通りです。師匠の身を守るのは弟子の務め、わたしもカルミナクの里へは同行します!」
「ユーナ、お前もか……」
俺はそう言った後、来幸に視線を向ける。
「勿論、私も付いていきます。フレイ様の専属メイドとして、私は何処まででも、フレイ様にお供します」
「そうか……」
まあ、来幸ならそう言うんじゃないかと思っていた。
来幸の忠誠心には本当にいつも助けられているな……。
「レシリアは――」
「残れって言わないよね? レシィも付いていくよ!」
「だが、危険だぞ?」
「お兄様も、それにお姉さん達もそうだけど、魔法で精神を操作されたら不味いでしょ? 聖女の力ならそれを防げるし、レシィが一緒に行った方が、皆のことを守ることが出来ると思う!」
確かにレシリアが言うことは一理ある。
魔法に長けたエルフ達が何をしてくるか分かったものじゃない。
その時に、他の面子だけだと何の対抗も出来ない可能性がある。
だが、レシリアがいれば、聖女の魔法で洗脳を解くなど、そう言ったエルフの搦め手に対抗することが可能だ。
「……そうだな。悪い一緒に付いてきてくれるか?」
「もちろんだよ!」
俺はレシリアに頭を下げてそう願うと、レシリアは快諾してくる。
本当にレシリアは、人の事を思いやれて、素直で優しい良い子に育ってくれた。
兄として妹の成長を噛みしめていると、肩の上に重さを感じる。
そこを見ると人化を解いたノルンが肩の上に乗っていた。
「よくわかんないけど、ボクも行くよ!」
ノルンもカルミナクの里に行くことを宣言した。
それを聞いて俺は思う。
ノルンは人化を解いて竜の姿になっておけば安全か……。
さすがのエルフも人型以外とはやらないと……やらないよね?
ちょっと不安になりもしたが、さすがに大丈夫だろうと判断する。
そうして、全員の目は最後の一人であるルイーゼに向かった。
「わたくしも行きますわ! 責任を途中で投げ出すようなまね、エデルガンド帝国の皇女として、決して出来ませんわ!」
絶対に意見を曲げないと言った雰囲気でそう言うルイーゼ。
その言葉を聞いて、俺はため息を吐きながら言った。
「結局、全員で行く形か……」
まさか、全員が行くことを決めるとは思わなかった。
ともあれ、エルフの里に向かうのなら、先に言っておくことがある。
「これからカルミナク――エルフの里に向かうが、基本的にエルフが何かおかしな素振りを見せたら、その場で攻撃して構わないからな。とにかく、自分の身を守ることを優先する形で行くんだ」
これから行くのはある意味で死地だ。
油断や甘えは命取りになりかねない。
「ですが、明確な敵対行動を取ったら、カルミナクの里から、許可証を貰うことが難しくなるのではなくて?」
「まあ、そうかも知れないが、それでも自分達の安全が優先だ」
俺はそこだけはきっぱりと明言する。
優先するべきものを間違えるわけにはいかない。
「エルフと敵対することになったら、許可証は強奪する方針に切り替える」
「ええっ!? 本気ですの!?」
俺の過激な発言にルイーゼが驚いてそう声を上げた。
「エルフに敵対行動を取るって事態が起こる時点で、エルフが何かをやらかしたってことだろうからな。そんな相手に交渉を成立させるのは難しいだろうし、もう力で奪い取ることを目指すしかないだろう」
俺はそこまで言うとため息を吐いてから言う。
「正直に言うと俺はある意味でエルフを信用している。彼奴らは絶対に碌でもないことをやらかすって。……いっそのこと、エルフの森を燃やした方が、この世界の為になるのかも知れない」
「さすがにそれは駄目ですわ!?」
俺の発言にルイーゼがそう突っ込む。
俺はそれに対して、明るく笑顔を見せると言った。
「ま、さすがに冗談だよ。そこまで大それたことをするほど、エルフを嫌っているわけでもないしな」
そこまで言った所で改めて全員に向かって言う。
「とにかく、エルフ達を警戒しよう。エルフ達の出方次第で、こちらも行うべき対応を切り替える……それを念頭に置いてくれ」
それだけ言うと俺達はシルフィーの案内でカルミナクの里に向かった。
ただエルフの里に行くというだけなのに、まるでラストダンジョンに挑むような雰囲気
それと今回の話で質問が来そうな所についてQAを乗せておきます。
[Q]
フレイは何でいきなり自然神になり始めてるの?
[A]
肉体が生み出す欲望などから解脱して、精神が主軸となった状態で、大勢の人に崇められることで、自然神になることが出来ます。
フレイは解脱なんてものしていませんが、器となる肉体に精神をぶち込んだ形で、元より精神が主軸の状況になっているために、一種の転生者特典的な感じで、解脱なしでも精神が主軸という条件は満たせています。
なので、自然神になるだけなら、後は大勢の人からの信仰があれば問題ないという状況だったのですが、フレイがバカンスに来ている間も現在進行形で、レディシアやプリシラが暴走機関車の如く、銀神教を広めているため、自然神への変化が始まるための信仰の閾値を超えてしまって、自然神への変化が始まってしまった形となります。