エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「ここがカルミナクの里……案外普通ね」
目の前に広がる光景を見たエルザが思わずそんなことを口にする。
「確かにそうだな。もっと帝都のエルフキャッスルのように、ゴテゴテと派手に飾り立てているんじゃないかと思ったが……」
俺も同じようにカルミナクの里の様子を見てそう口にする。
カルミナクの里は俺達の予想に反し、ファンタジーもののザ・エルフの里と言ったような雰囲気で、木造の建物が自然と調和するように配置されていた。
こんなエルフ的な里を、この世界のエルフ達が作れるのか、と言う事に驚きつつ、俺達は里の中へと入っていく
インフィニット・ワンのゲームだとエルフヒロインは少なかったんだよな……。
基本的にヒロインになるのは、里の外に出ているシルフィーみたいなエルフとか、エルフの王女みたいなロイヤルな奴だけだったし、こうしてエルフの里を訪れるのはゲームを含めても始めてだな……。
さすがにやりまくりなエルフはヒロインに相応しくないと開発者も考えたのか、攻略対象になるのは陰キャエルフであるシルフィー達のような存在や、エルフの王女のような、尊敬を集めるためにやりまくりだと嘯いているけど、実際には一度もそう言うことをしたことがない、ファッションビッチのような奴しかいなかった。
その為、ゲーム内ではエルフに関するイベントは少なく、俺もそれほど情報を持っているというわけではないのだ。
「これは撒き餌だとお母さんが言っていたのです」
俺達の呟きを聞いたシルフィーがそう口にする。
「撒き餌? どう言う意味だ?」
俺は思わずシルフィーにそう問い返した。
するとシルフィーはエルフ達を軽蔑するような顔をして言う。
「過去のエルフの里らしさを残すことで、この地に観光客を呼び込もうとしているのです。そしてそうやってのこのこと釣られてきた観光客が、ここのエルフは世間のエルフとは違うんだなと油断しているところを美味しく頂くらしいのです」
「……そうなのか……確かによく見ると、物陰からエルフ達がこちらの様子を伺っているな……」
シルフィーの言葉を受けて周囲に目を配ると、木々の影などにエルフが潜んでおり、こちらのことを情欲の目で見ていることが分かった。
「……里長のところまで寄り道せずに行こう」
「もちろん、なのです!」
何と言うかもう此奴らサキュバスだろ、と言う気持ちを抱きながら、俺達はエルフ達に絡まれる前に、シルフィーの案内で里長の家に辿り着く。
「……ただいまなのです。お母さん」
「シルフィード! 我が娘よ! 久しぶりだね!」
扉を開け中に入るといの一番にシルフィーがそう言った。
そして、そのシルフィーの言葉に、部屋の中にいたシルフィーの姉妹に見えるような姿のエルフの少女が言葉を返した。
「シルフィード?」
エルフの少女の言葉を聞いたユーナが思わずそう呟く。
シルフィーはそれを誤魔化すように、俺達にその少女を紹介した。
「この人が、拙の母親でこのカルミナクの里長のリディアなのです」
「おや? シルフィードだけだと思ったら、お客さんもいるのか」
シルフィーの言葉によって、リディアの意識が俺達の方へと向いた所で、代表して俺がリディアへと挨拶を行う。
「初めまして、俺はフレイと言います。この度はカルミナクの里長である貴方にお願いしたいことがあって伺いました」
「お願いしたいこと? ああ、わかった、わかった」
俺の言葉を聞いたリディアは、俺とシルフィーを見た後、一人で納得したような表情を作ると言う。
「人間は律儀だな~わざわざ言いに来る必要ないのに。ようはシルフィードを貰いに来たってことでしょ? いいよ、あげるあげる! シルフィードを好きに使っちゃってよ! 何だったらそこのベットでおっぱじめても構わないよ?」
変な勘違いを始めたリディアの言葉に、シルフィーは顔を真っ赤にしながら、猛烈な勢いで反論を始める。
「違うのです! 竜の里に行くための許可証を貰いに来たのです!」
「竜の里に行くための許可証?」
本当なのかという目で俺を見てくるので、俺はシルフィーの言葉が正しいと説明するように、リディアに向かって言う。
「シルフィーの言う通りです。俺達は竜の里に行く必要があり、その為の道具である許可証を求めてこの里を訪れた形となります」
「ふ~ん。許可証ね……。確かにまだ残ってるけど……」
そこでちらりとリディアは俺へと視線を向ける。
「君とシルフィードはどう言う関係なの? 許可証の話はシルフィードを貰いに来たついで――ってことじゃないのかな?」
「それは違います。俺とシルフィーはそう言った関係ではありません」
俺はそうきっぱりとリディアに説明する。
「俺達は言ってしまえば同じ目的を持った旅の仲間と言ったところでしょうか。シルフィーはこちらのルイーゼ様の従者をしていまして、シルフィーの主であるルイーゼ様と俺の目的が竜の里にあるから、こうして共に行動していると言う感じです」
そんな俺の言葉を聞いたリディアは冗談を笑い飛ばすように言う。
「またまたそんなことを言って、本当はシルフィードを手込めにしてるんじゃないの? こんなに可愛い異性のエルフがいて、お互いに手を出さないなんて、そんなのあるわけないじゃん!」
「そう言われても、俺にはそのつもりはないので」
俺は再度そう言って否定をするが、尚もリディアは食い下がるように言う。
「別に周囲の目を気にして嘘を言う必要はないんだよ? ここには私達しかいないわけだし、幾らでも本音を話して大丈夫だからさ」
しつこいな此奴……。
俺はそう思いながらも何度も懇切丁寧に説明する。
「何度も言いますが、俺とシルフィーは男女の関係ではありません。そんな事よりも許可証を――」
俺は話を許可証のことに戻そうとするが、リディアはそれを無視して、更に先程の話を続けるように言う。
「ああ、母親に娘のプレイを話すのを遠慮してるのかな? 別に私はそんなことを気にしないから、全然言って貰っても構わないよ。むしろ娘がどうやって男に染められたのか、そっちの方が興味があるからね~。何だったらここで、シルフィードと一緒に親子丼をやって、そのテクを味合わせて貰っても――」
「もうやめるのです!」
喋り続けるリディアを止めるようにシルフィーがそう叫ぶ。
そして、リディアに向かってシルフィーは言った。
「拙は、拙は、物語のようにたった一人の運命の相手と添い遂げたいのです! だから、そんなふしだらなことを、お母さんと共にするつもりはないのです!」
「はあ、まだそんなことを言っているのか……」
シルフィーの心の叫びを聞いたリディアは、それまでの楽しそうな雰囲気を捨て、冷たく呆れたようにそう呟いた。
「シルフィード、いい加減そんな馬鹿な考えは捨てなよ」
「馬鹿な考えなんかじゃないのです!」
その言葉を聞いたリディアはため息を一つ吐くと、反抗期に陥った娘の将来を憂う親のような顔でシルフィーに向かって言う。
「シルフィード。これでも私はさ、母親として、シルフィードのことを思って、その考えを捨てるように言ってるんだよ?」
そこでリディアは馬鹿にするようにシルフィーの考えを否定する。
「永遠の愛なんてそんなものあるわけないじゃん! 恋愛って言うのはね。付き合ったり別れたりするのが普通なの。どれだけ頑張ったところで愛は冷める。シルフィードが一生相手を愛するつもりでも、相手はきっとそんなことを思わない」
聞き分けのない子供に、親である自分が知っている、世界の真実を伝えるかのようにシルフィーにそう言うリディア。
「シルフィードが必死で相手を愛し続けている間も、愛が冷めた其奴は、シルフィードを無視して、裏切って、別の誰かを愛すんだよ? そうなっても其奴を一生愛し続けるつもり? そんなの馬鹿馬鹿しいと思わない?」
リディアが突きつけた言葉。
それに対してシルフィーは反論する。
「拙はそうならないように、拙を愛し続けてくれる運命の相手を探しているのです! だからこそ、お母さんが言うような結末には絶対にならないのです!」
「そんな奴はいないと思うけどな~。まあ、いいや。仮にシルフィードが望む相手が実際に存在していたとしよう」
明確にいないと言っても、シルフィーが納得しないと思ったのか、リディアはあえてそう言う存在がいるという前提で話し始める。
「だけど、その相手はどれくらい生きられるんだい? そこの彼のようにただの人間が相手なら、せいぜい六十年くらい生きれば良い方ってところだろう? 私達エルフの一生である五百年の内のたった六十年だ」
同じ位の時を生きるエルフはその殆どがリディアと同じ考えだ。
だからこそ、シルフィーが相手を見つけるとなると、エルフ以外の他種族からその相手を見つけることになる。
リディアはその他種族との寿命の差を指摘してきたのだ。
「シルフィードが一生を添い遂げると言った相手が六十年で死んでしまって、その後の四百年間をシルフィードはどうやって生きるつもり? 死んでしまった相手に操を立てて、一生他の誰も愛さずに生きるの?」
「そ、それは……」
「そんなの辛すぎるでしょ。愛し合った時間よりも長い時間を、誰も愛さないということで苦しみながら過ごすなんて。私はね、母親として娘にそんな苦労を味わって欲しくないの。だからこそ、私や他のエルフ達と同じように、過去なんて全部捨てて、退廃的に今を楽しく生きるような生き方をして欲しいんだよ」
自分の思いを真摯に伝えるようにそう言うリディア。
シルフィーのことを真摯に思ったその思いに、シルフィーは押されてしまう。
「そ、それでも、拙は、拙は――」
「ね、シルフィード。貴方の夢は諦めようよ。何も考えず、誰かと肌を重ねた方が、気持ちいいし、楽しいよ? どうせ相手が誰だって、行為の気持ちよさは変わらないんだし、やりたい放題いろんな相手とした方が、楽しめて幸せになれるって!」
リディアがシルフィーの手を握り、優しくそう語りかける。
それを見ていた俺は――。
「シルフィー! お前の思いはそんなものか!」
思わずシルフィーに向かってそう叫んでいた。
「フレイ……」
「何かな? 今は親子水入らずで話していたところなんだけど」
シルフィーを堕とすのを邪魔されたリディアが不機嫌そうにそう言う。
だが、俺はそれでも止めることなく、語り続ける。
「確かに親子の話に割り込むのは無作法だとは思う。だが、シルフィーの同士として! 仲間がくじけそうになっているのを見過ごすことは出来ない!」
「同士? まさか、貴方もシルフィードと同じように、運命の相手がどうこうとか、人は一人の相手と一生添い遂げるべきとか、そんな考えをしているのかな?」
「その通りだ! 俺もシルフィーと同じように、運命の相手と呼べる相手を見つけ、その相手と添い遂げることを目指している!」
俺のその言葉を聞いたリディアはやれやれと言った様子で言う。
「貴方達、人間ならその考えでもいいだろうさ。だけどそれは添い遂げると誓った相手より、先に死ぬことが出来るからこそ言えることだ。そんな貴方達には、長い時を生きなければいけない、エルフの気持ちなんて理解出来ないだろう」
「確かにそうかも知れないな」
俺は素直にそう言葉にする。
前世や今世も含めて、俺の寿命は一般的な人間と同じものだ。
五百年も生きるエルフの気持ちなんて、本当の意味で分かるわけがない。
「だったら、黙っていてくれないか。理解も出来ないくせに、余計な口出しをされると、とても腹立たしいんだ」
「俺はここで黙るつもりはない。シルフィーのためにもな」
「なに……?」
俺の言葉に怒りを露わにするリディア。
俺はそんなリディアに告げる。
「確かに俺はエルフの気持ちなんて分からない。だから教えて欲しいんだ。過去を全部捨てて、その日暮らしで快楽を貪って、それで本当に幸せか?」
「ははっ! 何を言うかと思えば、幸せに決まってるじゃないか!」
俺の質問を馬鹿にするようにリディアは笑い出す。
そんなリディアに俺は更に突きつけた。
「具体的なことを言うと、どういうことに幸せを感じた? どういうときに幸せだとお前は思ったんだ?」
「はぁ?」
俺の言葉にリディアはそんな言葉を出して笑いを止める。
「それは――体を重ねてエッチをしている時に――」
「誰と、どんな時に、どうやったのが?」
「……知らないよ。そんなものは、覚えてるわけないだろう」
セクハラ紛いの質問に答えたくなくてそう言ったのではなく、本当に思い当たるものがないと言った様子で、リディアはそう答える。
何となくだがそう言う答えになるんじゃないかと思っていた。
だからこそ、俺はリディアが言う幸せについて詳しく問いかけたのだ。
「明確に答えることが出来ないんだな」
「別にそんな細かい事はどうだっていいよね!? 気持ちよくて楽しければ幸せなんだから! そんな、相手とか、何時とか、そう言う情報は不要だよ!」
俺の言葉にリディアはそう反論する。
そのリディアの態度を見て、俺は素直に自分の考えを口にした。
「俺はそうは思わない。思い出というのは大切なものだ」
「貴方の意見はどうでもいいんだよ!」
俺の言葉にリディアはそう怒りを露わにするが、俺はそれを無視する。
「確かに快楽ってのは幸せを感じることの一つかも知れない。だけど、その快楽だって、そこに到るまでの過程が大切なんだろう? 好きな相手と、良いムードで、思い出になるような行為をするからこそ、より強い幸せを感じられる」
童貞が何を言っているんだと言われるかも知れないが、童貞だからこそ、そう言った行為の大切さを誰よりも理解しているつもりだ。
「何も考えずに、幸せを感じ続けるために、ひたすら快楽を貪る……そんなのはただ生理現象をこなしているだけじゃないか。苦しみたくないからと目を逸らして、ただひたすらに逃避して生き続けるだけの行為をし続けるのは、生きていても死んでいるようなものだよ。お前達の生き方は、生きた屍と同じだ。そこに何も残らない」
俺は侮蔑を込めてそう言いきった。
改めて思う、俺はエルフ達が嫌いだと。
此奴らの行いには何の生産性もない。
確かにその時の快楽を優先して生きれば、一時的に気持ちよくなることが出来るかも知れないが、それは結局はその一時のことだ。
それが終わった後は何も残らないし、快楽を得ることを優先したそこには、思い出になるような尊い出来事なんて発生しないだろう。
快楽を得るが決して何も残らない――。
それはまるで――まるで――。
恋人が出来ないからと、AVやエロ本、エロゲーを買い漁り、それをオカズに快楽を貪って、全てを出し切った後に何も残らないことを実感した――何も成せなかった生きた屍と同じじゃないか。
……結局は同族嫌悪ってことか。
立場も、状況も、行いも、全く違うのに、本質は同じなんて、笑えないな……。
俺はそう自笑しながら、シルフィーへと語りかける。
「なあ、シルフィー。お前が目指す幸せってそんなものか? 俺と同じように運命の相手を求めていたお前は、もっと別の幸せが欲しかったんじゃないのか?」
「拙は――」
俺の言葉にシルフィーの瞳が揺れる。
そんなシルフィーに俺は思いの丈をぶつける。
「俺は思う。長い時を生きるからこそ、心が、思いが、大切なんだって。それを理解しているからこそ、俺達は運命の相手を求めるんだろう?」
ただ快楽を得るだけでは満足出来ないから、そこに確かな心が欲しいから、俺達は運命の相手を探すなんていう、果てしなき旅に身を投じるのだ。
「シルフィー! お前の思いは何も間違っちゃいない! 少なくとも俺は、お前のその思いを全肯定してやる! だから、自分の道を信じろ!」
「フレイ……」
そこまで言うとシルフィーはリディアの手を振り払った。
そうして俺の方まで寄ってくると言う。
「こんな話で志を曲げそうになるなんて、拙はどうかしていたのです!」
迷いの晴れたその様子を見たリディアは、シルフィーに向かって言った。
「同族で母親である私の言葉より、其奴の言葉を信じるって言うのかい?」
「そうなのです! 拙はフレイを信じるのです!」
リディアの言葉に迷いなく答えるシルフィー。
それを見て、悲しそうな顔でリディアは言う。
「理解出来ないよ。どうしてそんな選択をするのか。思い出がなんだって言うんだい。苦しまずに楽しく過ごせるなら、それでいいじゃないか。思い出なんかなくたって、人はその日暮らしで楽しく生きていけるのに」
「拙は……例え苦しむことになったとしても、何かが残せるような生き方がしたいのです! 素敵な恋人と巡り会って! かけがえのない日々を過ごして! 自分が最後に終わるときに『ああ、良い人生だったな』って思いながらも、その死を惜しんで『もっと生きて色んなことをやりたいな』と心の底から思えるような生き方を!」
それはリディアの――エルフの生き方と真反対な生き方だった。
刹那的な快楽を追い求め続け、終わりの日が来るまで耐えるのではなく、苦しくても思い出が残るように進み続け、終わりの日が来るのを惜しむ生き方。
自らが目指すべき人生を、シルフィーはそこで宣言した。
「……はぁ。もういいよ。シルフィードを言葉で納得させられないのは理解した」
諦めたようにそうため息を付くリディア。
そこで、話を戻しに来たのか、唐突に言う。
「貴方達は許可証を求めてここに来たんだったよね」
「そうだ。許可証を譲ってくれるか?」
俺のその言葉にリディアは首を振った。
「それは無理だね」
「無理……? どうしてだ?」
「あれは竜から託されたとても重要なものだ。私の娘がいるからと言って、そう易々と渡すわけにはいかないよ」
そこまで言ったところでリディアは「ただ」と言葉を続ける。
「貴方達がエルフの試練を越えられたら話は別だけどね」
「エルフの試練……? なんだそれは?」
俺はそう言ってシルフィーを見る。
視線が自分に集まっていることに気付いたシルフィーは首を振って答えた。
「拙は知らないのです」
「シルフィードが知らないのは仕方ないさ。この子はエルフの試練を受ける前に、この里から抜け出して行ったからね」
シルフィーが知らない理由をそう語るリディア。
そして、続けてエルフの試練がなんなのかを説明し始めた。
「エルフの試練は未熟なエルフが一人前のエルフと認められる為の試練さ。エルフの試練用のダンジョンを攻略して、一番奥の部屋からこれを取ってくれば、その試練は終了と言うことになる」
そう言ってリディアは木製のエルフ像を見せてきた。
「このエルフ像をダンジョンで手に入れてくれば、エルフの試練とやらはクリア出来るってことか」
「そうだね。この試練を突破すれば、一人前のエルフと同じ扱いが出来る。そうすれば、竜の里への許可証を譲り渡すことも出来るよ」
「……」
リディアの言葉に俺は押し黙る。
そんな俺に、ルイーゼが話しかけてきた。
「如何しますの? ダーリン」
「ダンジョンを攻略しなければいけないというだけなら、明確な敵対行為を行う理由にはならないか……仕方ない、ここはリディアの提案に乗って、そのエルフの試練とやらを攻略することにしよう」
許可証を譲るためにダンジョンを攻略しろという言葉だけでは、許可証を強奪するだけの理由にはならない。
俺達はここは穏便に行こうと話し合い、そして全員の了承が得られたところで、俺からリディアに向かって言った。
「分かった。エルフの試練とやらを受けよう」
「そうこなくっちゃね。じゃあ、ダンジョンまで案内するよ」
そう言ってリディアは部屋を出て行く。
そして俺達はその後を追って進んで行くが、リディアは里の外に出るのではなく、森林が多くなる里の奥へと向かっていた。
それを見て、思わずエルザが問いかける。
「ちょっと待って、ダンジョンはこの里にあるの?」
「ん? そうだよ~」
エルザの問いに、リディアは何てことの無いように答える。
「それは大丈夫なの? ダンジョンは土地のエネルギーを吸うわよね?」
ダンジョンによる被害を受けた経験があるエルザは、里の近くにあるダンジョンという存在に、この里にも何かしらの被害が出るのではと、心配になり思わず問いかけたが、それに対しても全く問題ないという態度でリディアが答える。
「ああ、そのことか~。大丈夫、大丈夫、これから向かうダンジョンは、私達エルフが品種改良を施したダンジョンだから」
「品種改良?」
リディアの言った言葉を理解出来ずに、思わず問い返すエルザ。
そんなリディアは論より証拠と言わんばかりに、目の前に広がる光景を指差して、エルザに向かって言った。
「ほら、見て、ああいうことだよ」
「なに……これ……。入口の近くだけが、木も生えない荒野になってる……?」
目の前に広がるのは、まるで線が引かれたように、唐突にダンジョンと思わしき、入口の周りだけが草木も生えない状況になっている風景だった。
「ダンジョンは土地のエネルギーを吸って、大きく成長していくだろう? そのままの状況だと里の草木が枯れて面倒だからね。このダンジョンは品種改良して、エネルギーを吸収する範囲が小さくなるように改造しているのさ」
「なるほど、エネルギーの吸収範囲が狭くなるようにダンジョンを改良しているから、こんな森林の中にあっても、問題がないと――」
俺はそこまで考えたところでふと思った。
吸収範囲が狭くなるように改造出来るのなら、逆に吸収範囲が大きくなるように、改造することも出来るのではないかと。
ノーティス公爵領で猛威を振るったダンジョンは、エネルギーの吸収範囲が広く、その上で少しずつ吸収するスタイルだったため、そのダンジョンの在処を特定することが出来ず、エルザルートではダンジョンが手に負えなくなるほどに成長するまで、その存在に気づけなかったのがことの発端だった。
言ってしまえば、あのダンジョンは、普通のダンジョンと違って、特殊な吸収範囲を持っていたと言える。
そして、品種改良でダンジョンの吸収範囲を変えられるエルフ――。
そして俺はその考えに辿り着く。
あのダンジョンも、エルフが品種改良したものだったんじゃね? と。
同じ考えに思い至ったのか、エルザもいつの間にか口を閉ざしていた。
まあ、普通に突然変異の可能性もあるし、エルフのせいだとは言い切れないか。
証拠があるわけでもないし、追求は出来ない。
俺はそう考え直し、リディアに向かって聞く。
「このダンジョンに潜ればいいわけだな?」
「そうだね。ダンジョン内も私達がエルフの試練に相応しいように改造している。だから、これを突破すれば、一人前のエルフとして扱われることになる」
リディアのその言葉を聞いた俺は全員に向かって言う。
「わかった。それじゃあ、俺が潜ってくるから皆はここで待っていてくれ」
「ん? 何を言っているの? ダンジョンには貴方達全員で潜って貰うよ?」
そこまで言ったところでリディアは呆れたように言う。
「貴方達は全員で竜の里に行くんだろう? それなのにエルフに認められたのが、その中の一人だけなんてそんなことが許されるわけないじゃん。竜から託された許可証を出す以上、その全員が里に行って問題ないと認められている必要があるよ。だからこそ、竜の里に向かう者は、すべからくエルフの試練を突破して貰うから」
リディアは俺達に向かってそう宣言する。
確かに筋は通っているか、厳重に秘匿された場所に行くことを考えれば、代表だけではなく共に行く者も身分保障がいるというのは納得出来ることではある。
俺一人が突破して転移で他の皆を里まで連れて行く手もあるかも知れないが……竜の隠れ里には結界が張られているし、許可証の形式がどう言うものか分からない以上、場合によっては結界で転移を弾かれる可能性もあるか……。
インフィニット・ワンで次女の方のレシリアに、ディノスがボコボコにされたように、特殊な結界に弱いのが俺の転移能力だ。
七彩の神が張った結界というのなら、聖女の結界並みの力を持っている可能性もあるし、許可証無しで他の面子を転移させるのはリスクがあった。
「……悪いがお前達もエルフの試練を受けてくれるか?」
俺は他のメンバーにそう語りかける。
「話が出たときからそのつもりだったわよ」
そうエルザが言うのを皮切りに全員がエルフの試練に挑むことを賛同する。
「よし、それじゃあ、全員で挑む」
「エルフの試練自体は同時に挑んで問題ないよ。一番奥の部屋が、ダンジョンへの侵入者の人数に合わせて、増えるようになっているからね。全員分のエルフ像がしっかりと用意されている形になるんだ」
「わかった。皆、行くぞ!」
俺のそのかけ声に合わせて、俺達は全員で、目の前にあるダンジョンの入口の中へと入っていった。