エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「地図を見るとこの先か……?」
俺達はリディアから貰った地図を頼りに竜の隠れ里に向かっていた。
そして、地図で記された位置にあと少しという所で、そう口にする。
「何も見えないけど……」
「取り敢えず、進んでみるか」
先の方を見て、何もないと言うエルザに、そう言葉を返し、俺達は進む。
やがて、何かの幕を越えたような感覚とともに、目の前に突然、のどかな農村と思えるような村の光景が目に入った。
「これは……凄いのです!」
「なるほど、これが結界か、この首飾りがないと、あそこで別場所に放り出されるってことなんだろうな」
俺はそう言うと、目の前にある村に向かって歩いて行く。
しばらく歩いて、その村に辿り着いたその時、村の中から老人達が現れた。
「これはこれは、この里にお客さんが来るなんて、何時以来じゃろうか」
「こんにちは、竜の里の方ですか?」
「ワシはこの里で里長を務めておる、ヨーデルと言うものじゃ。里の者からは長老なんて、言われていたりもする。そしてこちらが、ワシの妻のサマンサじゃ」
「よろしくお願いしますねぇ」
そう言って自身と隣に居た妻を紹介するヨーデル。
それに対して、俺も自己紹介を行う。
「俺はフェルノ王国のフレイです。そしてこちらが――」
そう言って、俺は仲間達のことを紹介する。
一通りの紹介が済んだところで、ヨーデルが言った。
「何をしに来たのかは知らんがのう、こんな場所で立ち話もなんじゃ、我が家に来て貰えないかのう?」
「わかりました。お邪魔させて頂きます」
俺達はヨーデルの誘いを受けて、ヨーデルの家にお邪魔することにした。
やってきたのは普通の人が住むのと変わらないような民家だった。
それを見たユーナが思わず言う。
「人が建てた家と同じような感じなんですね」
「そうじゃのう。こちらは訪れたお客さんの為に、人化した状態で生活するための場所じゃからな。こうして人の規格に合わせたもので揃えているんじゃ」
そう言って家に入り、椅子に「よっこらしょ」と言って座るヨーデル。
「自由に座ってくだされ」
「アタシは皆さんの為のお茶を入れますね。ええっと、お客さん用の器と茶葉は何処だったかしら……」
「私も手伝います」
ヨーデルに促されて俺達もテーブルの側に置かれた椅子に座る。
そして、人数分のお茶を入れに行ったサマンサと、それを手伝いに行った来幸が、入れてきた湯飲みをそれぞれの前に置き、共に席に着いたところで、ヨーデルが俺達に向かって話を切り出した。
「それで、フレイは何の用でここを訪れたんじゃ? そこにいる竜の子供が何か関係しているのかのう?」
人化していても同じ竜なら分かるのか、俺の側で座っていたノルンを見ながら、ヨーデルはそう口にする。
だが、俺にはそれよりも先に伝えないといけないことがあった。
「……俺達がこの里を訪れた理由を話す前に、一つ、この里の方々に急ぎ、伝えないといけないことがあります」
「穏やかな言い回しじゃないのう……それは何じゃ?」
「実は――」
そうして俺は、現代のエルフの実態と、それによってこの竜の里の許可証が不特定多数の手に渡り、結界が意味のないものになっていることを伝えた。
「なんじゃと!? エルフ達がそのようなことになっていたとは!?」
俺の話を聞いたヨーデルはそのような驚きを露わにする。
隣に居たサマンサも同じように驚きを口にした。
「そんな、少し前にあった時は、もっと堅物で真面目な方々だったのに……」
「少し前って……それ、いつ頃のことですか」
「かれこれ、九百年程前のことかしら、最後にあったのは」
少しなんてものじゃないよ。滅茶苦茶遠い昔の話だよ。
前世の世界で言えば、平安時代のことを少し前と言っている状況だ、竜族の時間感覚が余りにも普通の人間とかけ離れている。
「人が生きる時間としては九百年はかなり大きな時間なのです。それこそ、エルフだって、何かしらの理由で変質してしまってもおかしくありません」
「そういうものなのかしら? 人っていうのも大変ねぇ~。もっと、落ち着いて暮らして行った方がいいんじゃないかしら?」
そう言ってお茶をすするサマンサ。
……ある意味ではこれが、長寿に見合った精神性というものなのかもしれない。
エルフと違って、それを持っている竜族は、時間の経過や変化の無さをさして気にせずに、そんなことを穏やかに口にする。
「ともあれ、この里の結界は現在、無意味なものになっているのです」
「なるほどのう……。確かにそれはちと不味そうじゃな……。ふむ、それではその内、結界の内容を書き換えるとするかのう……」
フットワークが重い!
時間感覚がゆったりすぎて、危機感がまるでないぞ!? 竜族!?
「いや、その内って……既に機能していないので、今すぐにでも動き始めた方が良いと、俺は思いますが……」
「許可証が様々な者の手に渡ったのは、昔の話なのじゃろう? 今日に到るまで何も起こっておらんし、そう急がんでも大丈夫じゃないかのう……」
そんな風にのほほんというヨーデル。
だが、その認識は間違っている。
「そうとも言えません」
「どうしてじゃ?」
「俺達がここに来るために、帝都で竜の隠れ里について聞き回ってしまい、その上で帝都で騒ぎを起こしてしまったからです」
俺はそう言ってヨーデルに説明を行う。
リディアの言葉から、許可証を売り飛ばした相手は帝国の者だと分かっている。
その帝国の者は恐らくあの黒い竜と関係があり、インフィニット・ワンでの襲撃時点まで、しっかりと準備を行った上で、襲撃をしてきたのだろう。
言ってしまえば、今まで何も無かったのは、襲撃のための準備を整えている段階だからで、決して許可証を悪用しないから何も起こらなかったというわけでない。
ここで話を戻すが、俺達は帝都で聞き込みを行った。
更にその上で、銀髪がバレたことによって、騒動を起こすことになった。
もし、これをその襲撃犯が耳にしたらどうなるか?
竜の隠れ里に行こうとしている者がいる、其奴らはやがてエルフの里から許可証を手に入れ、竜の隠れ里に向かうかも知れない。
実際にそうなるかは分からないが、もし、そうなった場合には、許可証が不特定多数の手に渡り、結界が無意味になっていることを、竜族に伝えるかもしれない。
こんな風に襲撃犯が考えてもおかしくないはずだ。
そして、そう考えたのなら、結界が書き換えられて、許可証が無意味なものになる前に、準備が整っていなくても、竜の隠れ里を襲撃しようと考えるだろう。
つまりはバタフライエフェクトだ。
俺が行動した所為によって、黒い竜による竜の隠れ里への襲撃が、早まってしまっている可能性が高いのだ。
そのような話を、ゲームのことはぼかしてヨーデルに伝える。
するとヨーデルはさすがに危険な状況だと理解したのか、のほほんとした様子から真剣な様子へと姿を変えるが、それでも結界の書き換えを思い悩む。
「うむ。現状の危険さは理解した。じゃが、しかし、だからと言って、そう易々と結界の書き換えは出来んのじゃ」
「何か問題があるのですか?」
「あの結界は七彩の神が張ってくれたものでな。ワシらでは術式の一部改変は出来ても、停止や再発動をすることは出来んのじゃ。そして、術式の改変に関しても、今里に居る者が総出で行って、やっと行えるものとなっておる」
そこまで言うとヨーデルは悩ましげなため息を吐く。
「言ってしまえば、結界の改変を始めてしまうと、ワシらはそれ以外のことが何も出来なくなってしまうのじゃよ」
「改変を一時中断するとかは出来ないのですか?」
「無理じゃな。改変中に改変作業を中断すると術式が壊れて、それによって結界が壊れて無くなってしまう。じゃから、一度始めたら途中で切り上げることも出来ないんじゃ」
結界の改変を始めると竜族は全員行動不能になるってことか……。
確かにそれなら、結界の改変をしたがらないことについても納得出来る。
「何者かが襲ってくるかもしれんのじゃろう? そんな中で結界の改変に手を取られて、何も出来ない状況になってしまうのはのう……。それを考えると、危険だと分かっていても、結界の改変に手を付けられんのじゃ」
「そうですか……。ちなみに結界の改変を行うとなると、どのくらいの期間、作業に携わった竜の方々はそれに専念することになるのでしょうか?」
ヨーデルの話を聞いた俺はそんなことを問いかける。
俺のその言葉に、ヨーデルは不思議な顔をしながらも、それについて答えた。
「一日ほどじゃの」
「なるほど……それなら、その間は俺達がこの里を守りましょう」
一日なら守り切れない期間じゃない。
この里の竜族に結界を直して貰っている間は、俺達が代わりに襲撃者を警戒し、そしてその相手と戦う事にすれば、全ての問題は解決する。
「客人にそんなことをさせるのは、さすがに申し訳ないのじゃ」
「気にすることはありません。俺達は要件があってこの里に訪れましたが、その対価だと思って貰えれば十分です」
ここが正念場だ。
結界の書き換えさえ出来れば、黒い竜は竜族の里を襲撃出来ない可能性が高い。
勿論、何らかの方法で別の襲撃の仕方を取る可能性はあるが、それでも唐突に攻められて竜族が全滅すると言ったような状況になるほどの、一方的な攻撃を受ける可能性はぐっと減るはずだ。
それを考えれば、絶対に結界の改変は行わなければならない。
だからこそ、俺はヨーデルに自分の売り込みを始める。
「頼りなく見えるかも知れませんが、俺は魔王であろうとも倒せます。何が襲撃してきても、必ずこの里を守るとお約束します」
「ふむ……お主が他とは違うことは分かっておる。そんな、お主が、この里を守るのに相応しい力を持っているというのもわかっておるつもりじゃ」
じっと見透かすように俺を見るヨーデル。
やがて何かを決断するとヨーデルは言った。
「お主達の要件次第じゃの。さすがに無い袖は振れぬのじゃ」
ヨーデルはそう言葉を締めくくった。
そこで、俺達は当初の目的を果たすために、ノルンに言う。
「ノルン。人化を解いてくれ」
「うん。わかった!」
俺の言葉に従って人化を解くノルン。
そんなノルンを掴んで、俺はヨーデルに見せた。
「俺達がこの里に訪れたのは、この子の両親を探すためです。この子は俺達が浜辺で拾った卵から孵った子なのですが、この子の両親が誰か、知っていますか?」
俺のその言葉を受けて、ヨーデルはノルンを見回した。
そして、少し考えるようにしてから言う。
「父親の方は分からん。じゃが、母親の方なら分かる」
「本当ですか!?」
心当たりがあるという言葉に、俺は思わずそんな喜びの声をあげる。
「この里の娘であったヴァレリーであろうな」
「あらまあ、確かに面影があるわ、あの子、子供を作っていたのねぇ~」
ヨーデルの言葉に、サマンサが続くようにして言う。
どうやら、ノルンの姿はそのヴァレリーとやらの面影があったらしい。
「それで、そのヴァレリーは今どこに?」
「知らん」
「……え?」
俺はヨーデルが出した簡潔な一言に思わずそんな言葉を返す。
そんな俺の様子を見たヨーデルが続けるようにして言った。
「外の世界を見るために、この里を出て行ったばかりでの。何処に居るのかも、何時戻ってくるのかも、ワシらにはわからんのじゃ」
「そんな……」
このままノルンを親元に帰せると期待したところでのこの言葉に、思わずそんな落胆の声が漏れてしまう。
そんな俺の様子を見たヨーデルが気を遣うようにして言う。
「お主達はその子を親元に帰すためにこの場所に来たということかのう?」
「そうですね。このノルンを本当の親の元に帰すためにここまで来ました」
「え? 帰すってなに?」
ノルンが何やら疑問の声を上げているが、それを無視して、俺はヨーデルとの会話を続けていく。
「ですが、行方も知れず、いつ帰ってくるかも分からないというのは……少し、当てが外れてしまいましたね……」
「ふむ、それなら、ワシらの方でその子を預かろうか?」
ヨーデルが思わぬ提案をしてくる。
俺はそれに対して素直に問い返した。
「いいんですか?」
「うむ。ヴァレリーがいつ帰ってくるかもわからん。それこそ、ヴァレリーが帰ってくるのが、百年後や五百年後でもおかしくないのじゃ。その子の為に、それをお主達が待ち続けるというのは、酷なことじゃろうからな」
竜は長寿であり、人と違った長い時を生きられる精神性を持つ。
だからこそ、その行動はゆったりとしていて、それこそ里帰りが何百年先になったとしてもおかしくないのだ。
それを数十年しか生きられない人間が、竜の子供を親元に帰すという目的の為に待ち続けるというのは、酷なことだとヨーデルは考えたようだった。
そして、それについては俺も同意見だ。
俺達じゃ、このままノルンを最後まで育てきることは出来ない。
「わかりました。申し訳ないのですが、お願いしてもいいですか」
俺はそう言ってヨーデルに対して頭を下げる。
「わかったのじゃ。この子は責任を持ってワシが育てよう」
「ありがとうございます。ノルンをよろしくお願いします」
ヨーデルの任せろという言葉に俺は笑顔でそう返した。
これで、ノルンを竜の隠れ里に預けて全ての問題は解決、後は結界を張り直すためにこの里を防衛するだけだなと考えたその時、ノルンが叫ぶように声をあげる。
「何で!? どういうこと!? どうしてボクが預けられるの! ねえ! それなら、パパも一緒にここに残るんだよね!?」
「……ノルン、悪いが俺はここには残らない。俺にはやるべきことがあるし、シーザック領という守らなければならない自領もあるからな」
ノルンの切実な訴えに俺はそう言葉を返す。
俺だけのヒロインを見つけるために世界を回らないといけないし、シーザック家の一員としてシーザック領を放置することも出来ない。
こんな田舎でスローライフを始めるわけにはいかないのだ。
「じゃあ、ボクもこんなところに残らない! パパと一緒に! そのシーザック領というところに行く!」
「それは駄目だ!」
「っ!?」
俺の叱るような言葉にノルンは狼狽える。
そんなノルンに俺は優しく語りかけるように言った。
「ノルン、お前はまだ子供だ。これから先、様々なことを学んで行く必要があるだろう……だが、俺達ではそれを教えることは出来ない」
「どうして!? パパはボクに色々教えてくれたよ!? 狩りのこととか、貞淑とかいうご飯のこととか!」
「それは俺達がバカンス中で手が空いていたから出来ていたことだ」
これでも俺は忙しい身の上だ。
拡大を続けるシーザック領の運営を一手に取り仕切り、神扱いされることによって起こる政治的なあれこれを行いながら、銀仮面としてヒロインやヒーローを救済し、その上で俺だけのヒロインとなる存在を世界を飛び回って探しに行かないといけない。
自領に戻れば、ノルンを育てあげる時間を作るのは難しくなるだろう。
何とか時間を作ったとしても、教える内容自体にも問題がある。
「それに、俺達は、俺達人間の一般知識は教えられても、竜族に関する事や、竜族に関する一般知識を教えることは出来ない」
カルミナクの里でのリディアとのやり取りで、種族差による一般常識の差を嫌というほど味合わされることになった。
シルフィーのようにその価値観に合わないと理解した上で、それから離れようとするなら話は別だが、まだ子供であるノルンが覚えるなら、可能な限り竜族としての一般常識を覚えるようにした方が良いだろう。
そんな俺の考えを理解したのか、ヨーデルが俺の援護を始める。
「ノルン。フレイはお主のことを思ってこう言っているのじゃ。それにワシもフレイと同じように、お主はここで暮らすのが一番と考えておる」
「そんなの知らないよ! それなら、ボクは竜の一般常識なんていらない! ボクは人間の一般常識でいいもん! パパが教えてくれなくても! 自分で勝手に勉強して! 勝手に育っていくから! パパの側にいさせてよ!」
悲痛な声でノルンがそう語る。
こうして言われると心がかなり痛むが、俺の幸せと、ノルンの幸せのために、断固としてここは俺の意思を貫き通さなければならない。
「それでも駄目だ!」
「!? なん――」
「ノルン。お前も分かっているだろうが、俺はお前の本当の親じゃない。お前の本当の親はヴァレリーという竜だ。ヴァレリーは何かしらの問題があって、お前を探しに来れなかっただけで、きっとお前を探している」
俺はノルンの言葉に被せるようにしてそう言いきる。
実際のところ如何なのかは分からないが、何らかの問題が起こって実行できていないだけで、ヴァレリーがノルンを探し求めている可能性はかなり高いのだ。
「俺が、本当の親から、ノルンを奪い続けるわけにはいかない」
「ボクの本当のお母さん、でも、それでも、ボクは……」
「これはもう決めたことだ。ノルン、お前はこの里に預ける」
尚も続けようとするノルンに対して俺はきっぱりと言い切った。
俺は自分が幸せになることを――俺だけのヒロインを得て、その相手と幸せな日々を送ることを諦めるつもりは絶対にない。
だからこそ、ノルンが俺の元に居続けても、いずれは俺だけのヒロインを思い求める俺の邪魔になるし、ノルンに対する扱いもぞんざいになってしまうだろう。
そうなったら、辛い思いをするのはノルンだ。
全てを捨てて俺に付いてきたのに、そんな俺が別の相手だけに目を向けるから、見向きもされなくなってしまうなんて、幾ら何でも酷すぎる結末だろう。
そうなるくらいなら、ここで竜達と幸せに暮らした方が良い。
俺にかなり懐いていると思われる今のノルンに取っては、その行いはとても辛い仕打ちになるかも知れないが、その代わりに自分のことを愛してくれる沢山の竜達の中で、その心の傷を癒やすように幸せに暮らすことが出来る。
人の心はうつろいやすいものだ。
ノルンはそう暮らしていく内に、やがて俺への気持ちは薄れ、他の竜達への気持ちが高まるようになり、俺との別れについても、辛く嫌だった出来事から、今の幸せな生活を始める切っ掛けになった良い出来事に変わるだろう。
それを考えれば答えは明白。
今は良くても、その後は苦しみ続ける事になるバットエンドの未来より、今は辛くても、それを糧に幸せになることが出来るハッピーエンドの未来を、ノルンは選ぶべきなのだ。
来幸やエルザ、ユーナに対する姿勢と同じようなことだ。
攻略対象を相手にする気がない俺に、いくら相手にされようと頑張ったところで、結局は相手にされず、辛い思いをすることになるのだから、無駄なことを続けて傷付かないように、明確に拒絶を伝えて諦めさせる。
それこそが、俺の攻略対象達に対する姿勢だ。
これを俺は変えるつもりはない。
もしかしたら、酷い行いに見えるかも知れないが、俺はよくあるラブコメ主人公のように、最終的にくっ付きもしないのに、ひたすらにヒロイン達の思いを誤魔化して受け取らず、何時までもその人生を拘束し続け、かけがえのない青春を無理矢理消費させてしまうよりかは、断然ましだろうと考えている。
俺とは違って、他に相手なんて幾らでも選べるのだから、さっさと別の相手に移って、その相手と幸せになればいいんだ。
そして、自分はあんな男に惚れていたんだと、かつての俺への思いをせせら笑って、今の自分の幸せを肯定し、全力で堪能すればいい。
こう言ったことを考えれば、人の一生という人生の尺度では、相手の為になっているのは――より多くの幸せが得られる形となるのは、俺のこのやり方だと理解することが出来るだろう。
それなのに――。
俺は思わず来幸達を思い出して思う。
あれだけ明確に拒絶して振ったのに、それでも諦めずに、未だに俺への好意を持ち続け、なんやかんやと俺に関わり続けてくる。
来幸に関しては、俺の専属メイドということや、俺の協力者ということもあって、俺と関わり続けること自体は仕方のないことだが、完全なビジネスライクの関わりではなく、俺への恋心を捨て切れていないのは問題だ。
結局、俺も、どんどんとハーレムが形成されていく上で、相手の好意を受けながらも、様々な方法で好意を無視して、ハーレム状態を維持する動きがクズ過ぎて、だんだんと嫌いになっていくラブコメ主人公のように、彼女達の人生を拘束してしまっている。
俺だけのヒロインに対して誠実でありたい俺からして見れば、この状況はあまり看過できない事態であると言える。
だが、俺はこれ以上、どうしたらいいんだ?
明確に自分の思いは伝えた。
お前達は恋愛対象じゃないと最大級の断り方で相手の好意を切り捨て、そしてその後も恋愛感情はないと言った態度をとり続けている。
それなのに来幸達はまだ諦めない。
ただの部下でいてくれ、ただの友人でいてくれ、ただの弟子でいてくれ。
そんな俺の気持ちを無視するように、来幸達は俺への恋心を持って、俺に対して関わり続けてくるのだ。
正直に言って、俺にはもうどうしようもなくなっていた。
俺が出来ることを全てした上で、それでもなお、俺に対する思いを持ち続けるのだから、もはや俺が打てる手は何もなく、出来ることと言えば、このまま時間が過ぎ去り、彼女達の思いが風化するのを待つことくらいだ。
なんだかんだで、攻略対象であるエルザ達と関わり続け、そして彼女達のいいようにされてしまっているのは、そんな諦めの気持ちが何処かで現れてしまっているからかも知れないな……。
俺はそんなことを思わず思う。
原作が開始してアレクが現れたり、新たなイベントが彼女達に起これば、彼女達はそちらへと恋心を向けて、状況が変わるだろうが、それまでは俺がイベントを攻略してしまったこともあり、彼女達の恋心は俺に在り続けることになってしまうだろう。
そしてその為に、来幸達の大切な青春を送れる時間は、俺という最終的に恋心を抱かなくなる相手に対して、無駄に消費されていってしまっているのだ。
前世で灰色の青春時代を送り、望む恋愛を行えなかった俺は、そう言った青春の日々を送れる時間の大切さを知っている。
そして、最終的に何も得られず、大切な時間が完全な無駄になってしまうことの残酷さも理解している。
故に、これ以上、このような形の被害者を作り出すわけにはいかない。
俺はその気持ちを強め、ノルンに対して再度言う。
「ノルン、お前はここに残れ、そして本当の両親であるヴァレリーと会って、彼女と一緒にここで暮らすんだ」
俺のその言葉にノルンは目に涙を浮かび始める。
「パパはボクを捨てるの? ボクが本当の娘じゃないから……」
「それは違う」
俺はノルンの言葉をそう否定する。
恋愛対象から外れる為に偽の父親になったのは事実だが、それでもノルンの為を思って、ちゃんと愛情を持って一緒に過ごしてきたつもりだ。
「俺は確かにノルンの本当の親じゃないが……。そう言う偽物の家族であろうとも、本物の家族になることだって出来るってことを、俺は知っている」
契約で偽の夫婦を演じた者達が本当の夫婦のような関係になっていったり、養子とした子供と本当の親子のような関係になっていくなど、前世で様々な物語を見てきた立場からすれば、偽物の家族であろうとも本物の家族になれると思う。
だけど、偽物の家族が本物の家族になれるという話は、俺がノルンをこの竜の隠れ里に預けようとすることと、ほとんど関係ない事柄なのだ。
「だが、それとこれとは、話が――」
「ボクにはわからないよ!」
そう言ってノルンは立ちあがると家から飛び出した。
「ふむ……。あの子には少しばかりきつい提案じゃったか……」
「ですが、必要なことです」
「うむ……」
ヨーデルはそう言って思い悩む。
そんな中で、立ちあがったルイーゼが言った。
「ダーリン! 追いますわよ!」
「この辺りは危ないところもあるし、一人にしておけないね」
その言葉にサマンサがそう言って立ちあがる。
そして、ヨーデルに向かって言った。
「ほら、あなたも」
「うむ、そうじゃな」
ヨーデルが立ちあがり、サマンサを追いかける。
それと同じように俺達もその後を追った。
弁当の刺身の上にタンポポを乗せる日々を百年年続けるとして、百年後であっても「今日も良い仕事したな~」と変わらない日々を気にせずに、その日その日の行いに満足出来るのが竜のような長寿に適した精神性で、百年どころか、数週間で「何で俺はこんなことを毎日毎日同じようなことをしているんだ! つまらない! 頭が狂いそうだ……!!」となってしまうのが、エルフを含めた普通の人間の精神性です。
精神生命体に近いのは前者のような精神性であり、欲などの肉体が持つものから解脱し、変化のない日々でも気にせずに生きられるようになっていると言えます。
ちなみにフレイは自然神になりかけていますが、転生者であることなど外部的な要因が大きいため、前者のような精神性は持ち合わせていません。
――――――
多くの人が恋愛を謳歌する青春時代の代表とも言うべき高校生活。
そんな中で恋人を得ようと努力するものの、結局恋人を得ることが出来ず、そのまま卒業して時が経ち社会人になってしまう。
高校卒業から社会人までの間で恋人が出来ていれば、「俺はあの時、恋人が出来なかったんだ。まあ、でも、色んな相手に告白して振られたのも、ある意味では良い思い出、俺の青春だったんだなって思うよ」とか、過去の笑い話としてせせら笑えると思いますが、もし恋人が出来なかったら、「なんで高校性という大切な時間を俺は無駄にしてしまったんだ。あの時、変に拘らずにもっと別のことをしていたら……俺には彼女が出来ていたんじゃないか? 戻りたい……あの青春の日々に戻って、もう一度やり直したい……今度こそあの時間を無駄にしないようにしたい!」という感じで、青春の日々の大切さとそれを無駄にすることの残酷さを理解することになりますよね。
この辺はフレイも同じで、青春の日々を送れる時間の大切さを知っているからこそ、本編でのフレイが起こしている行動をしています。
色々な相手に粉を掛けて俺だけのヒロインを探しつつも、攻略対象達のように「これは最終的に自分が添い遂げる相手になってくれないな」と少しでも思えば、あっさりと諦めて別の可能性を模索しに行くことで、無駄に足掻いて双方の大切な時間を消費することを防いだり、来幸達のように自分に恋心を抱いているが、最終的に別の奴とくっ付くと思っている存在に対しては、必死で振って拒絶することで、自分に対して無駄に時間を使わせないようしたり、それ以外のヒロインに対しては、銀仮面という虚像を使うことで、特定個人に執着する事を避けようとしたり、相手のことを考えて必死に対処をしていたりもしています。
これは無駄に時間を掛けたことで、タイムリミットが訪れ、前世の自分と同じような残酷な結末に、自分と相手が墜ちるのを防ぐ為であり、だからこそ、『ただ一つだけの恋心』で来幸が考察したのとは少し違う理由ですが、無駄になると分かっているのに、それでもなお、諦めずに行動をし続ける、諦めない者の気持ちが理解出来ない形です。
フレイからして見れば、脈が無いのに諦めない者と言うのは、「なんでそんなことが出来るんだ!?」とある意味で化け物のように思える存在で、「こんなん如何することも出来ないじゃん……」と途方に暮れて対処に困ってしまう相手でもあるので、何も対処出来ずに為すがままとなっています。
話を纏めると、フレイは、前世が失敗続きで苦しい思いをして終わった為に、恋愛強者達のように、失敗すること自体もいい青春の思い出だという考えになることが出来ず、最終的に失敗になるのならその過程は全て無駄と言う考えで、そうすることが誰にとっても最善だからと、無駄になりそうなものを片っ端から切り捨てて、可能性がありそうなものだけにひたすら注力する、一種の効率厨のような存在になっている感じですね。
恋愛に関して効率厨な動きをするとか、恋愛を得ることを目的としているなら、やったらあかんことなんじゃないかと言う気もしますが、学生時代にタイムリープすることがあれば、前回と同じ結末になることを恐れて、その時に好きで恋人になろうとしていた人を諦めて、妥協してとにかく自分に好意を持ってくれる可能性がある人を探し、その人を恋人にすることを目指すなど、フレイと似たような感じの動きをしちゃいそうな人も、案外結構多いんじゃないかと思います。