エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
竜の隠れ里で一泊して、結界を改修する当日――。
俺達は朝早くから準備をして、里を守るための警戒を行っていた。
そんな俺達の元にヨーデルが歩み寄ってくる。
「そろそろ、結界を改変する儀式が始まるのじゃ」
「ヨーデルさんはこちらに来ていていいんですか?」
「誰か一人は連絡役がおらんといかんじゃろ? 結界の改変は一人くらいなら抜けても問題ないし、ワシがこちらに参加することにしたのじゃ」
そう言うとヨーデルはノルンに聞かれないように小声で俺に言う。
「それにいざという時はノルンを神殿に逃がす役目もいるじゃろう?」
「すみません。お手数をおかけします……」
俺はヨーデルに向かって素直にそう謝った。
昨日はノルンとの約束通り、一日ノルンと一緒にいたが、あの夜の短い時間じゃ、満足出来なかったのか、今日になった所で、ノルンがごねて、まだ俺の側に居続けている状態にあった。
戦いになる可能性もあるから、ノルンには神殿にいて欲しかったのだが、ノルンはそれを拒否し、全員の説得を無視してこの場に残り続けている。
そんなノルンを見て、ヨーデルは言う。
「神殿に行かないと言った時は焦ったけどのう。まあ、そうそう何かが起こることもないじゃろうし、ここにいてもノルンは安全じゃろうな」
「ちょ……」
何で、そんなフラグみたいなこと言うの!?
俺がそう思った時、ヨーデルが耳に手を当てる。
「念話の魔法じゃ、どうやら結界の改変が始めるらしい」
その言葉とともに、結界に手が加えられたのか、周囲の景色が一瞬ぶれる。
それと同時に、何処かから、悲鳴のような鳴き声とともに、木々を破壊する音が鳴り響き始めた。
「なんだ!?」
俺達が鳴き声のした方へと目を向けると、何かが木々を破壊しながら空へと飛び立って、この村へと近づいて来ていた。
「あれは……ヴァレリー!?」
その姿を見たヨーデルがそう声を上げる。
謎の襲撃者の正体は竜だった。
だが、俺の知る黒い竜ではなかった。
ヨーデルがヴァレリーと呼んだってことは、あれがノルンの母親である竜なのか!? 確かにノルンに似た姿の竜だが……。
何だ? ヴァレリーのあの姿……。黒い何かが取り憑いている?
俺が見る前で、ヴァレリーの体に付いたスライムのような黒い液体が、まるで生きているかのように、ヴァレリーの体の上で蠢く。
そうやって、黒い液体が蠢くごとに、ヴァレリーは悶え苦しむように叫び、そして体をさらに黒い液体が覆っていく。
「なんじゃあれは!? ヴァレリーに何が取り憑いておる!? ヴァレリーに何が起こっているのじゃ!?」
俺と同じように黒い液体に気付いたヨーデルはそう驚愕を露わにした。
「まるで、寄生されているみたいですね」
「確かに、ユーナが言う通りだわ」
冷静に状況を見ていたユーナとエルザがそう口にする。
その一方で、黒い液体を見たレシリアが、顔を青くして吐き気を堪えるように、その場に蹲った。
「レシリア様、大丈夫ですか!?」
「如何したのです!?」
レシリアの様子に気付いた来幸とシルフィーが心配そうにそう声をかける。
それに対して、レシリアは気持ち悪そうにしながら、理由を話す。
「あの黒い液体……無数の魂を、怨念を、煮詰めて作ってある……!」
「怨念を煮詰めて作ってあるだって!?」
俺は思わずレシリアに聞き返した。
その俺の言葉にレシリアは頷く。
「あの黒い液体から叫びが聞こえるの! この世界を憎む叫びが! たぶんだけど、あれは元は普通の人だった! その相手に様々な苦痛を与え、世界を憎むようになるほどに何かを恨んだところで、その人を魔法で液体に変えている! それも、一人じゃなく、何百人もの人があの液体に!」
聖女としての力か、液体が叫ぶ呪いの言葉を聞いてしまったレシリアが、その状況から、あれがどう言う存在なのかを推察して語る。
「呪術に近い形で作られた魔道生物ってことか……!」
俺はその存在のやばさに思わず冷や汗を流す。
黒い竜が来るかと想ったら、やばい呪物がやってきた形だ。
想定外の状況に焦りが募る。
「あれが、ボクの本当のお母さん……?」
「大丈夫ですわ。ノルンのお母さんは悪いものに取り憑かれているだけですわ。きっとダーリンが元の状態に戻してくれますわ」
気が狂ったように暴れ狂うヴァレリーを見て、思わずノルンがそう言う。
そして、そんなノルンをルイーゼが必死に励ます。
「ヴァッレー! ヴァレリー! 正気に戻るんじゃ!」
ヴァレリーの状況を見かねたヨーデルがそう叫んだ。
そして、そんなヨーデルをヴァレリーが見る。
瞳に理性が残っていない……!
俺はそれに気付くとともに、その場にいる全員に向かって叫んだ。
「全員、自分の身を守れ!」
「っ!?」
俺の言葉に驚く周囲の者達。
そんな状況を嘲笑うかのように、ヴァレリーの口に光が点る。
「がああああああ!!!」
そのような叫びと共にヴァレリーの口から光線が発せられる。
絶大なエネルギーを持ったそれは、ヨーデルや来幸達のいる場所へ――。
「させるかよ!」
向かう直前に俺が出した盾に阻まれる。
俺は盾が押し負けないように何度も同じ場所に転移をさせるが……。
「盾が溶け始めてる……!? レディシアの魔法を耐え抜いた盾なのに!?」
あっという間に盾が融解を始めてしまった。
溶け出す前に新たな盾を召還しなければと俺が思ったところで、背後から二つの声が響いてきた。
「アイスウォール!」
「結界!」
魔法の氷が盾を包み、そしてそれらと重なるように結界が現れる。
その二つの影響もあり、盾は中央に大きな穴を開けたものの、ヴァレリーが放った光線は俺達の元に届くことはなかった。
「助かった! ユーナ! レシリア!」
「はい!」
「うん!」
俺は危ないところに手を貸してくれた二人にお礼を言う。
そして、ヴァレリーへの対応を考え始めたその時――。
「あれか! あの取り憑いているものがヴァレリーを! 許さん!」
竜の姿になったヨーデルがそう言って飛び出してしまった。
その軽率な行動に、俺は思わず叫んだ。
「待つんだ! ヨーデルさん! 近づいたら……!」
「これを取り外せば、ヴァレリーは!」
そう言ってヴァレリーに近づくヨーデル。
すると、ヴァレリーから黒い液体がスライムのように伸び、ヨーデルの体へと纏わり付き始めた。
「な、なんじゃと……!? 此奴、ワシにも……!?」
黒い液体に取り憑かれて、思わずヨーデルがそんな戸惑いの声をあげる。
だが、それは直ぐに苦悶の言葉へと変わっていった。
「ぐ、がぁっ!? がああぁああ!?」
黒い液体に取り憑かれたことで、何かしらの苦痛を味わい、そんな呻き声を上げながら、徐々に理性を失っていくヨーデル。
このままでは敵が二人に増えかねない状況。
それを見て、俺は決断した。
「背に腹はかえられないか……!」
俺はそう言うのと同時に、手元に剣を召還して、ヨーデルの上に転移する。
「烈火! その力を示せ!」
その言葉とともに魔道具である烈火は真の力を見せる。
剣撃によって放たれた炎は凄まじい火力で、ヨーデルごと、ヨーデルに取り憑いたばかりの黒い液体を焼き尽くす。
「もう一つ!」
そして、俺はそのまま、直ぐ側にいたヴァレリーに対しても、同じように烈火の炎によって、その肉体ごと黒い液体を焼いた。
そして、烈火の炎に焼かれ、地面に墜落したヨーデルの側に転移する。
「ぐぅ……」
ヨーデルは黒い液体と烈火の炎のダメージでそのような呻き声をあげる。
だが、取り憑いたばかりで、ヨーデルに深く根を張っていなかったため、烈火の炎でヨーデルに取り憑いた黒い液体は全て燃やすことに成功していた。
「すみません。咄嗟のことだったので、竜族なら生き残れると思い、全力でヨーデルさんのことを焼いてしまいました」
「いや、謝るのはこちらの方じゃ。怒りで我を失って、フレイに手間を取らせる形となってしまった……」
そう言って、ヨーデルは何とか立ちあがろうとするが、黒い液体によるダメージと炎で焼かれた影響で傷付いていた為、上手く立ちあがることが出来ない。
「駄目じゃ、体がもう碌に動かない……」
「そうですか……。それなら、ノルンを連れて神殿に逃げてください」
俺はそうヨーデルに向かって言う。
厳しいことを言うようだが、戦えなくなった者が戦場にいても、味方の足手纏いになるだけだ。
「そうじゃな。それが一番じゃろうな」
それを理解しているヨーデルは俺の言葉に頷く。
一方で、子供であり、碌に戦えないノルンは、それを受け入れられなかった。
「何で!? 何で、ボクを遠ざけるの!? ボクだって戦える! パパと一緒に戦えるよ! だから、勝手にボクの行き先を決めないでよ!」
「お前はまだ子供だ!」
俺は暴れるノルンに対してそう叫ぶ。
レシリアのような天才で、聖女のユニークジョブの影響を持ち、サポート役としては大人顔負けの力を発揮する者ならともかく、生まれたばかりで竜としての力も碌にないノルンじゃ、そこら辺の魔物を狩るならまだしも、竜と対決出来るほどの力を持ってはいない。
だからこそ、この戦いに参加させるわけにはいかない。
「何の力も持たない者が! 行き先を自由に決められると思うな! はっきりと言う! お前じゃ、この戦いには付いてこれない! 足手纏いにならないように! ヨーデルと一緒に神殿で隠れてろ!」
「ボクが、ボクが子供だから……何の力もないから……。でも、それでも、ボクはパパと……」
俺の言っている事が正しいと本心では理解しているのか、ノルンはそんなことを呟きながら、思わず項垂れる。
ノルンが静かになったのを見たヨーデルは、俺に向かって言った。
「お主のその剣の炎ならば、ヴァレリーを救えるか?」
「……取り憑かれたばかりのヨーデルさんと違って、ヴァレリーの体には黒い液体が根を張っているように見えます。同じやり方ではあの黒い液体を払うことは難しいと思います」
俺はヨーデルと同じように焼き尽くしたのに、まるでカビのようにヴァレリーの体に根を張った黒い液体が、再び体を覆う姿を見ながらそう口にした。
「ですが、あれが怨霊の類いであると言うのなら、もう一つ試せる手が残っています。――レシリア!」
俺はそう言ってレシリアに呼びかけた。
その声を聞いたレシリアは俺の意図を理解して魔法を発動する。
「うん! ゴーストパニッシュ!」
悪霊に対しての特攻を持つ聖女の魔法。
天から降り注ぐ眩しい光は、ヴァレリーの体に纏わり付く、黒い液体へと直撃した。
だが――。
「え!? なんで!? 確かに命中したのに!?」
「何も起こらない?」
レシリアがその事態に驚く中で、俺は断罪の光が当たった部分の様子を見て、思わずそう呟いた。
確実に悪霊に対する断罪の光が当たったのに、黒い液体は何のダメージも受けず、依然としてヴァレリーの体の上で、活発に自己を再生して己の量を増加させている。
あの黒い液体が怨霊の集合であるのなら明らかにおかしなこの状況……その答えに気付いたのはヨーデルだった。
「恐らくじゃが……あれは霊に属するものではないのじゃ」
「霊に属するものじゃない?」
俺はそのヨーデルの言葉に思わず問い返す。
怨霊なのに霊じゃないとはどういうことなのか。
「元は怨霊なのじゃろうが、それを魔法で変質させ、あの黒い液体というよく分からない物質に、その肉体を変えさせられてしまっている」
竜族に備わる鋭い感性でヨーデルは黒い液体について推察する。
「悪霊に対する魔法の殆どは、霊体に作用するものじゃ。レイスなどが何かしらに取り憑いているのだとしても、その者本来の霊体が残っているために、その魔法はしっかりと効果を現すが……」
そう語ったヨーデルの言葉を受けて、俺はその先の言葉に気付き、冷や汗を流しながら、ヨーデルに言う。
「まさか、怨霊の霊体自体を黒い液体に変換しているから、霊体に対する攻撃は何も受け付けないと? 相手への特効を狙うなら、霊体に対するものではなく、あの謎の液体に対するものではないといけないと?」
「恐らくはそう言うことじゃろう」
どうやったのかは知らないが、あの液体は霊体自体を完全な黒い液体という物質に魔法で変換したものらしい。
つまるところ、あれは怨霊を素材にして作った謎の魔法生物であり、素材となった怨霊は霊だが、それを変換して作られたあの液体は、霊とは全く関係の無い存在であるため、破邪の魔法を一切受け付けないのだ。
マジかよ……怨霊の特徴を持って取り憑いてくるのに、それに対抗する為の魔法が一切効かないとか冗談じゃないぞ!?
あんな謎の黒い液体の正体なんか知らんし、どんなものが効くかなんてわからないんだから、こうなったら普通のスライムを相手にするつもりで、少しずつ液体を削っていくしかないじゃないか!?
俺は思わずそんなことを考える。
そして事態の深刻さに頭を抱えながらヨーデルに言った。
「そうですか……地道に黒い液体を削るしかないってことですね……」
現状、打てる手はそれしかない。
そして、だからこそ、俺は、ヨーデルに覚悟を問うように言う。
「申し訳ありませんが、もしもの時は、ヴァレリーごと仕留めます」
「そう……か……。……里の者を危険に晒す訳にはいかん。その時はこちらのことは気にせずに、止めを刺してやってくれ。ヴァレリーも、あんなものに操られ続けるよりかは、解放される方がましじゃろう」
そう言うとヨーデルは人化して痛む体を押さえながら立ちあがった。
「……ノルンをお願いします」
「わかったのじゃ」
「やだ! ボクはパパと一緒に戦うんだ!」
嫌がるノルンを連れて、ヨーデルは神殿へと去って行く。
残されたのは黒い液体に取り憑かれたヴァレリーと俺達だけだ。
「それで如何するつもり?」
転移で来幸達の元に戻るとエルザがそう語りかけてくる。
「ヴァレリーから黒い液体を剥がし取る。エルザとユーナは、俺と一緒に火魔法と氷魔法を使って、あの粘液を削ってくれ。レシリアは結界でそんな俺達のことを守って欲しい。来幸はレシリアの護衛だ」
俺は次々と味方に役割を指定していく。
そんな中で、ルイーゼが言った。
「わたくし達は何をすれば」
「お前達は……」
俺はそこで考える。
迂闊にこちらの戦闘にルイーゼを入れると、ラッキースケベが発動した時に、ヴァレリーの攻撃に為す術もなくやれて、全滅しかねないよな……。
ルイーゼのラッキースケベが、戦闘時は発動しないのなら問題はないが、そうとは言い切れないのが怖いところだ。
だからこそ、この一瞬の油断が勝敗を分けるような状況で、ルイーゼを身近な場所に置いておきたくはなかった。
「ルイーゼとシルフィーはこの周囲を哨戒してくれ」
「それは何故なのです?」
この状況で周囲を哨戒するという戦いの役に立たないことをさせる命令に、シルフィーが思わず俺に向かってそう問いかける。
「あの黒い液体がヴァレリーをおかしくしてるんだと思うが……それにしては、周囲の状況がおかしいと思わないか」
「周囲の状況……? あっ! 破壊の跡がこの辺にしかない……!?」
そこでシルフィーはこの状況の不自然さに気付く。
先程までのように、暴れながらこの場所に来たのなら、この里に来るまでの間に、通った場所をもっと破壊していてもおかしくないのだ。
「俺達が異常に気付いたのもかなり接近された時からだった。それを考えれば、あの黒い液体はこの周辺で付けられたか、或いは協力者がここまであの状態のヴァレリーを運んできたということになる」
これは人為的な出来事だ。
この襲撃を仕組んだ何者かは確実に存在する。
その何者かに囚われていたからこそ、ヴァレリーはノルンの卵を取り戻しに来ることが出来なかったのだろう。
もしかしたら、ノルンの卵が川を流れてきたのも、帝国の誰かに襲われたヴァレリーが、卵だけでも逃そうとして川に流したのかも知れない。
そして、そうして帝国の者が、ヴァレリーを捕えた目的は、恐らく竜が持つ強大な力を利用するためだ。
それを考えれば、あの黒い液体は、ただ取り憑いて、取り憑いた対象を暴れさせるということ以外の効果がある可能性がある。
そう考えながら俺は言う
「場合によっては、今現在も何処かから、この戦いを見て、あの黒い液体を通して、ヴァレリーを操っているかも知れない」
最初のヴァレリーのブレス――。
あれは、狂乱しているにしては、俺達を狙いすぎていた。
一撃で俺達を全滅させられる場所に、黒い液体に取り憑かされて冷静さを失っているヴァレリーが正確にブレスを放てたとは思えない。
「その術者を倒すことが出来れば――! ヴァレリーを解放して救う事が出来るかも知れないということですわね!」
「そうだ。それに敵の援軍がいないかも警戒する必要があるからな。……危険な役目になるが、頼む」
俺がそう言うと二人は頷く。
「行きますわよ! シルフィー!」
「はいなのです!」
そう言って二人はこの場から離れていった。
そして、ヴァレリーの様子を伺っていたエルザが声を上げる。
「作戦会議をしている間に、回復しちゃったみたいよ」
再び、黒い液体がヴァレリーの体を覆い尽くすようになったのを見ながら、俺はリーダーとして皆を鼓舞するため、不敵に笑って言った。
「それなら、もう一度焼き尽くすまでだ! 行くぞ!」
俺達はそのかけ声と共に、黒い液体に取り憑かれた竜との戦いを始めた。