エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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筆が遅くて遅くなりました。
次話を投稿します。


vs黒竜アケロン

 

「あひゃひゃひゃ! そこだ! やれ!」

 

 生い茂る草木の影に忍びながら、一人の男が魔道具で何処かを覗き込み、手元に持った何かを操作して、何かを操りながらそう叫んでいた。

 

 そんな彼の周囲で、がさりと葉が揺れる音が起こり、それに気付いた彼は、後ろを振り返り、近づいて来た何者かに向かって叫ぶ。

 

「誰だ! そこにいるのは!」

「……バレてしまいましたわね」

 

 そう言って姿を現したのはルイーゼだった。

 そして、ルイーゼは堂々とした態度で、男に向かって名乗る。

 

「わたくしはルイーゼ・フォン・エデルガンド! この竜の里に侵入できているということは、許可証をエルフから買い取った帝国の者ですわね? 皇女として命令しますわ! 今すぐ、ヴァレリーを操るのを止めて、大人しく投降しなさい!」

 

 そのルイーゼの宣言を聞いた男はポカンとした顔をする。

 そして、直ぐに意味を理解すると大声で笑い始めた。

 

「あひゃひゃひゃ! 何だぁ? それは! お前が帝国の皇女だってのは、俺だって知っているけどよぉ……そんな言葉でこの俺様が止まると思ってるのかよ!?」

 

 そう言うと再び笑い出す男。

 

「……どうしても止める気はないと?」

「ひぃひぃ……笑い殺す気かよ! 皇女如きの命令なんて聞けるわけねーだろ! せっかく、こうやって竜を操れるんだ! もっと、楽しまないとなぁ!」

 

 そう言って手に持った黒い何かを男は握りしめる。

 明らかにこちらを見下した男の物言いを見たルイーゼは男に向かって言う。

 

「そうですか……。それなら、実力行使させて頂きますわ!」

「あ?」

 

 ルイーゼの言葉に、男はルイーゼの動きを警戒する。

 だが、男への攻撃は別の場所から現れた。

 

「ぎゃぁ!? 矢――! 矢が! 俺の手にいぃぃ!!」

 

 何処かからか飛んで来た矢が、黒い何かを持っていた男の手に刺さる。

 それによって、黒い何かは地面に落ち、男は矢が刺さったことで血を流す手を、もう一方の手で押さえながら、その痛みに対して喚き散らす。

 

「無策で現れたと思いましたの? 貴方がここにいることは分かっていましたわ! だからこそ、わたくし達は二手に分かれて近づいたんですの!」

 

 フレイ達と別れた後、ルイーゼ達はヴァレリーを操っている術者がいると仮定して、その存在はきっと安全にあの場所を覗き込める場所にいるはずだと判断して、幾つかの場所に絞りながら周辺の捜査を行った。

 

 そうして幾つもの候補地を探した結果、術者と思われる男に気付かれる前に、その所在を把握することに成功したのだ。

 

 相手より先にその位置に気付いたルイーゼ達は一つの手を打つことにした。

 それは、二手に分かれて相手へと近づき、そしてどちらかが相手の男にバレた場合は、相手の注意を引きつける役目を負って、その間にもう一人がその男に攻撃を加えて無力化するというものだ。

 

 先程までの男に話しかけた目立つような立ち回りも、隠れて男の様子を伺っていたシルフィーの存在を悟らせないためのもの。

 ルイーゼ達の策は見事に成功し、男は片手を失うことになったのだ。

 

「てめぇ! そこか!」

 

 男はそう言って矢が飛んできた方向へと視線を向ける。

 だが、その時には既に第二の矢が迫っており、矢で刺された手の方とは逆の肩に、その矢は突き刺さった。

 

「いてぇえええええ!」

「これで、お前は両手を失ったのです」

 

 そう言ってシルフィーは姿を現す。

 それを見た男が、シルフィーに向かって叫ぶ。

 

「てめぇ! エルフか! エルフ如きが俺の手を……! てめぇらエルフは! 馬鹿面を見せながら、男の上で腰振って、アンアン言ってればいいんだよ! それをこんな……! 俺を傷付けるような真似をして……! ただで済むと思うなよ!」

「……お前は、もはや、抵抗することは出来ないのです」

 

 男が喚き散らかす言葉を無視して、シルフィーは現状をそう告げる。

 

 これで男は両手を失った。

 これからルイーゼ達と戦おうとしても、手を使えないのなら、碌な方法を取ることが出来ないだろう。

 

「大人しくお縄に付くのです」

 

 そう冷たい目でシルフィーは男に宣言する。

 それを受けた男は、シルフィーを嘲笑うかのように笑うと言う。

 

「きひゃっ! なら魔法で――!」

「わたくし相手に魔法が効くとは思っていますの?」

 

 フェルノ王国がモデルにしたように、帝国は魔力回路を重視していた。

 その皇女であるルイーゼは当然のように、帝国の歴史が積み重ねてきた良質な魔力回路を血統として受け継いでおり、魔法の腕は相当なものになっている。

 だからこそ、ルイーゼは男がどんな魔法を繰り出してきても、それを無効化して完封する自信があった。

 

「……っち!」

 

 それを男も理解したのか、舌打ちを一つ付く。

 そんな男にルイーゼは再度命令する。

 

「もう一度いいますわ。ヴァレリーを操るのをやめ、大人しく投降しなさい。貴方が素直に今回の襲撃の詳細と、それを共に実行した仲間のことを話すのなら、帝国皇女の立場を持って、貴方の命だけは保証しますわ」

 

 ルイーゼはヴァレリーを操った今回の襲撃について、目の前のこの男の単独犯によるものだとは考えていなかった。

 あの謎の黒い液体もそうだが、それを付着させたヴァレリーをここまで運んできたことといい、どう足掻いても裏に協力者が――場合によっては、何かしらの強大な力を持った組織がいると睨んでいたのだ。

 

「ククク……」

 

 ルイーゼのその言葉を聞いた男は静かに笑う。

 ルイーゼはその男の様子に怪訝な顔をした。

 

「どうして笑っていますの?」

「状況を理解していないのです?」

 

 追い詰められた状況にも関わらず、余裕を見せて笑う男に二人はそう言う。

 そんな二人の言葉に対して、男は笑うようにして答えた。

 

「あひゃひゃひゃ! 状況を理解していたのかって!? それはお前らの方だよ! 俺は何も追い詰められちゃ……いねえ!」

 

 そう言いながら男は唐突に片足を上げて、地面に落ちていた黒い何かに突き刺さるように、足を思いっきり地面へと叩きおとした。

 

「なにを……!?」

 

 自らの足に道具を突き刺すという突然の奇行にルイーゼが思わず声を上げる。

 そんな中で男は大声を上げて笑う。

 

「見せてやる……俺様の力って奴を! 禁呪発動! パラサイトカース!!」

 

 そう叫んだ男の額に矢が突き刺さる。

 男の奇行を見て、何かをすると警戒したシルフィーが、それが行われる前に、男を殺すために放ったのだ。

 

 しかし――。

 

「きひゃっ! 無駄だ! もう術は発動した!」

「!? 此奴、頭を撃ち抜かれているのに……!?」

 

 シルフィーはそう驚きながらも、頭部と心臓に向けて二度矢を放つ。

 それは先程と同じように命中するが、それでも男は死なずに、不気味な笑い声を上げながら、ドロドロと黒い液体へと足下から変化していった。

 

「禁呪――!? パラサイトカースなんてもの、聞いたことがありませんわ!?」

 

 その事態を見ていたルイーゼはそう叫んだ。

 

 禁呪とは神の魔法のことを指す。

 帝国の姫であるルイーゼは、この世界の歴史を学ぶ過程で、この世界でかつて行使されてきた神の魔法について、しっかりと学んできていた。

 だが、その中にはパラサイトカースという名前の魔法も、目の前の男のように黒い液体へと転じる効果も存在してはいなかったのだ。

 

「聞いたことがないって!? あひゃひゃひゃ! そりゃそうだろうよ! だって、これは! 俺様達が生み出した全く新しい神の魔法なんだからな~!」

「神の魔法を――作り上げた!?」

 

 ルイーゼが男の発言に驚き、思わずそう言葉を返す。

 そのルイーゼの驚愕に愉悦しながら、既に完全な黒い液体となりかけている男は、ルイーゼ達に向かって言う。

 

「そうさ、俺様達は! 人を越え、竜を越え、そして神へと到る! この世の全ては! そんな俺様達の為に消費される贄でしかないんだよ!!」

 

 男がそう叫んだのと同時に完全な黒い液体へと転じる。

 そしてその液体は何かに引き寄せられるかのように、恐ろしいスピードで何処かへと飛ぶように向かい始めた。

 

 その行き先を見て、シルフィーが叫ぶ。

 

「まずいのです! 彼奴、ヴァレリーの所に行くつもりなのです!」

「まさか……直接ヴァレリーに取り憑くつもりですの!? このまま逃がすわけには行きませんわ! 追いますわよ! シルフィー!」

「はいなのです!」

 

 ルイーゼ達も黒い液体をおって、フレイ達が戦う広場へと向かった。

 

☆☆☆

 

「よし、良い調子だぞ……」

 

 暴走した黒い液体と戦う俺達は、レシリアの援護もあって、順調に黒い液体を削ることに成功していた。

 この調子で削っていけば、そう時間もかからずに、ヴァレリーを黒い液体から救出することが出来る――そう思った瞬間に黒い何かが草木の影から飛び出してきた。

 

「っ!? なんだ!?」

 

 突然の出来事で俺達が驚く中で、その黒い液体はヴァレリーに命中する。

 すると、それまで暴走して外側へ飛び出していた黒い液体が、今度は逆に内部へと押し戻っていくように、伸縮を始める。

 そして、それと時を同じくして、ヴァレリーから骨や肉が無理矢理整形されていくような、鈍い音が鳴り始め、そしてヴァレリーの悲鳴が上がった。

 

 何が起きているのかはわからない――!

 だけど、これを放置するのは明らかに不味い!!

 

 俺はそう考えてその場で叫ぶ。

 

「全力攻撃だ! 何かが起こる前に終わらせる!」

「ええ!」

「はい!」

 

 俺の言葉にエルザとユーナが頷く。

 そして、俺達は次々と黒い液体を焼き払う為に攻撃を仕掛けるが――。

 

「あひゃひゃひゃ! 効かねーな!」

 

 その言葉とともに炎を突き破って一頭の竜が現れた。

 だが、それはヴァレリーではなかった。

 

 黒い液体に取り憑かれていた桜色の体は何処かへと消え、まるで黒い液体と一体化したかのような黒い体が俺達の目の前に現れる。

 その竜としての体付きも、明らかにヴァレリーの時から変貌しており、一目で別の竜だと分かるようなものになっていた。

 

 そうして全身が露わになった竜――それに見覚えがあった俺は思わず叫ぶ。

 

「此奴は――黒い竜!?」

 

 俺のその言葉に、黒い竜はフルCGアニメーションの表情が豊かな動物のように、人間らしい感情を顔で示しながら、その場で笑い出す。

 

「なった! なってやったぞ! 竜に! あひゃひゃひゃ!」

 

 そう黒い竜は笑いながら俺達に向かって言い放った。

 

「俺はアケロン! 黒竜アケロン! やがて神竜へと至り! 超越者となって! この世界の全てを手に入れる男だ!」

 

 そうして翼をはためかせながら、アケロンは俺達を見据えた。

 その時、黒い何かが飛んで来た草木の影から声が届く

 

「其奴はヴァレリーを操っていた術者ですわ!」

「なに!? と言う事は術者がヴァレリーと融合したのか!」

 

 俺はルイーゼの言葉から状況を理解してそう叫ぶ。

 インフィニット・ワンで登場した黒い竜――それはヴァレリーと黒い液体、そして術者の三つが融合することによって生まれる存在だったのだ。

 

 里の襲撃者がインフィニット・ワンの時と違って、ヴァレリーだったことを不思議に思っていたが……準備不足で完全な融合を果たせなかっただけで、襲撃者自体に変わりはなった……!

 

 俺はそう思いながらアケロンを見据える。

 そして、同時に思ってしまった。

 

 これはヴァレリーはもう無理なんじゃないか……?

 

 アケロンは明らかにベースとなっているヴァレリーから変貌している。

 黒い液体とアケロンの影響を取り除いたとしても、体を弄くり回されたヴァレリーが元通りになる可能性は低いだろう。

 

 もう諦めて倒すべきか……だが、まだ他に可能性が……。

 

 そう思考に耽って生まれてしまった隙を、敵は見逃さなかった。

 

「きひゃ! オラオラ! 行くぜぇ~!」

 

 そう言ってアケロンはこちらに向けて尻尾を振るう。

 反応が遅れた俺はそれを転移で躱そうとするが――。

 その時、突然尻尾からアケロンの顔が生えた。

 

「は?」

 

 常識ではあり得ない事態に、唖然として思わず硬直してしまう。

 そんな俺に向かって生えたアケロンの顔は叫ぶ。

 

「逃がさねぇ! 結界!」

「なに――!? いや、ただの結界なら――!」

 

 俺の周囲を結界が囲む。

 俺はその事に驚きつつも、そのまま転移を行おうとするが――。

 

「なっ!? 転移出来ない!?」

「そこの聖女のようには自由自在とはいかねぇが! 竜だって神の結界を扱う事が出来るんだぜぇ~!」

 

 空蝉の羅針盤を発動させたのに転移が出来ず、その事態に驚愕を隠せない俺に対して、アケロンは嘲笑うようにしてそう言った。

 

「他の奴らが昔研究していた! お前のその力! ディノスのもんだろ! それなら、神由来の結界を越えることはできねぇ!」

「此奴……!」

 

 もっと早く気付くべきだった……!

 七彩の神の結界を改修出来るってことは、神の結界に対して手を加える力を持っているってこと――つまり、神の結界を扱えるってことだったのか……!

 

 俺は自らの失敗を悟る。

 相手が自分に対する特効能力を持っていると知らず、危機感もまるでないままに、暢気に戦い続けていたのだ。

 

 それに此奴は俺の転移について神の結界だけが弱点だと気付いている――!

 

 俺はその事に内心で驚愕を露わにする。

 なぜなら、その事実は俺が空蝉の羅針盤を手に入れて、その能力を検証することによって、ようやく知り得た事実だからだ。

 

 俺はこの世界に転生して、一番始めにディノスと戦った。

 その時はこの世界の知識についてはゲーム知識だよりであり、転移を封じるために使う結界魔法を扱えるのは聖女だけだと思っていた。

 だが、それはゲーム上での結界魔法の使い手が聖女しかいなかったからそう思っただけであり、実際にはこの世界では聖女以外でも結界魔法を使う者がいたのだ。

 

 その事実が判明した時、転移を多用する戦闘スタイルを身につけていた俺は、その弱点になり得る存在に対して様々な検証を行った。

 

 結果としてわかったのは、空蝉の羅針盤以外の転移では、聖女の結界以外であっても、結界を越えて転移をすることは出来ないが、空蝉の羅針盤なら、聖女の結界以外であるのなら、そのまま飛び越えて転移が出来ると言うことだった。

 

 この結果から俺は一つの仮説を立てた。

 

 ディノスは転移の力に特化した強力な魔族であり、その転移は通常の人が扱う結界であれば、無視して転移出来るほどの強力なものだった。

 だが、神の血を持つことで発現するユニークジョブである聖女は、血の源流となった七彩の神の力の一部を受け継ぐ存在であり、その神の力の一部を模倣することで強力な神の結界を疑似再現していたから、ディノスは聖女の結界だけは越えることが出来なかったというものだった。

 

 勇者のジョブにはあり得ないほど強力な専用のパフ魔法があったり、賢者が様々な禁呪を使えることから考えても、その考えは間違いではないだろう。

 あれらの神の血が必要なユニークジョブが強力なのは、この世界で最強の存在である七彩の神の力の一部を使用することができるからなのだ。

 

 つまるところ、空蝉の羅針盤を相手にするためには、聖女のような神の結界を扱えるものか、ディノスを倒した時の俺のように自らの身を犠牲にして、高濃度の他者の魔力で相手の転移発動を阻害し続けるしかないということだ。

 

 それを知ったからこそ、俺は安心して転移を使い続けてきた。

 だが、その絶対的な優位性は今ここで崩れ去ることとなった。

 

 俺の天敵になり得るのは身内であるリノアとレシリアだけだと油断していた――!

 まさか、竜も同じように神の結界が使えるとは!

 

「クソ! 結界を壊せば……!」

 

 俺はそう言って烈火で結界を破壊しようとするが――。

 

「遅ぇ!」

「っがぁ!?」

 

 竜の頭部に変化したアケロンの尻尾は、唐突に軟体生物のように姿を変え、そこから伸びた奴の尻尾が俺の腹を抉り、そのまま弾き飛ばした。

 アケロンの尻尾の勢いは凄まじく、弾き飛ばされた俺は、轟音とともに地面へとぶつかり、そのダメージによって血を吐き出す。

 

「フレイ様!」

 

 弾き飛ばされた俺を見て来幸達がそう俺の名を呼ぶ。

 だが、俺は倒れ伏した状態から立ちあがることが出来なかった。

 

「う、ぐ……くそ……」

 

 体を起こそうとするが痛みで体が動かない。

 強烈な尻尾の一撃と地面に叩きつけられたことで、身体強化でダメージを軽減させたのにも関わらず、内臓を傷付けられるほどの深い傷を受けていた。

 

 何度も血を吐き出す俺を見て、俺を助けるためにレシリア達は俺の方へと駆け出そうとする。

 その一方で、エルザとユーナはそんなレシリア達の動きをアケロンから守るために、空の上でアケロンに向かって魔法を放っていた。

 

「ちまちまと! めんどくせーなぁ!」

 

 だが、その状況は一変する。

 突如としてアケロンの全身から多数の竜の顔が出現し、その全ての竜の顔が高濃度の魔力を纏い始めたのだ。

 

「嘘でしょ!? 此奴複数の魔法を……!?」

「この顔の全てが竜の魔法を放つのですか!?」

 

 それを見たエルザとユーナは思わずそんな声をあげる。

 それを見て、アケロンは愉快そうに笑った。

 

「あひゃひゃひゃ! その通りだよ! 竜の力を! 思う存分くらいやがれ!」

 

 その言葉とともに幾つもの魔法が現れる。

 それを見たレシリアは、咄嗟にユーナ達の足場を消すことで、ユーナ達を落下させて魔法からユーナ達を逃す。

 だが、幾つも放たれた魔法は、一つ躱すだけでは全てを躱しきれず、地面へと向かうユーナ達や、俺に向かってきているレシリア達に次々と降り注ぐ。

 

「や……ら……せるか!」

 

 俺は取り寄せた盾をひたすらにユーナやレシリア達の守りに使う。

 幾つもの盾が次々と消し飛ばされる中で、それによって生まれた時間を使い、ユーナやレシリア、そして合流したルイーゼとシルフィーが、防御用の魔法を放って魔法を防ごうとする。

 

「きっひゃ! 無駄無駄無駄! 幾らでも俺は魔法が撃てるんだぜぇ~! 発動する為の精神や魔力も! 贄にした千人分の命だけ! 使いたい放題なんだよ!」

 

 アケロンのその言葉の通り、魔法の雨は止むことは無かった。

 

 次々と魔力が切れて倒れていくユーナ達。

 ここが使い時と判断したのか、平民であり魔力の少ない来幸が、預けておいた大地を隆起させて自分達を覆うことで身を守る魔道具を使った。

 しかし、その大地の壁に対しても魔法が降り注ぎ、それは破壊される。

 

「おいおい~。あっさりと全滅してんじゃねーか! あひゃひゃひゃ!」

 

 頃合いとみたのか、アケロンが魔法を止めることで土煙が晴れたそこにあったのは、地面に倒れピクリとも動かない来幸達の姿だった。

 

「すげーな! 竜の力ってやつは! だが、こんなものは通過点でしかねぇ!」

 

 アケロンはそう言うと俺達とは別の場所に目を向ける。

 

「神の欠片だ! それがあれば俺はもっと強くなれる!」

 

 そう言ってアケロンは目を向けた方へと進んで行く。

 

「融合したことで竜に取り憑く力はなくなった! こんな雑魚共に構っている暇はねぇ! 他の竜が出てくる前に欠片を手に入れないとなぁ!」

 

 そしてアケロンはその場に突っ込んだ。

 そこで何かを手に入れるような動きをして、歓喜の笑い声を上げる。

 

「やった! 手に入れたぞ! 神の欠片を! これで俺はただの竜ではなく、神の竜になった! そうだ俺は神――! 黒神アケロン様だ! あひゃひゃひゃ!」

 

 そう言ってアケロンは何もない広場の上で笑い声を上げた。

 神殿は別の方向にあるのに、まるで神の欠片を手に入れたかのように愉悦を漏らして叫ぶ。

 

「あれ……は……。来幸の……魔法……か……」

「はい。そうですフレイ様。魔道具を使う前に魔法を使いました。地面に倒れていたのは、相手を欺くための演技です」

 

 そう言って駆け寄って来たのは来幸達だった。

 全員消耗しているが、大きな怪我はなく、何とか動けている。

 

 どうやら、大地を隆起させる前に闇魔法を使い、アケロンに幻覚を見せて操ることで、あの魔法の雨をやり過ごしたようだった。

 

「お兄様! 今、治療するね!」

「ああ。頼む……」

 

 俺はレシリアに回復魔法を掛けてもらいながら来幸に聞く。

 

「よく、竜相手に効果を通せたな」

「フレイ様の言う通り、竜相手では魔法耐性が高く、魔法を通すことは出来なかったと思います。ですが、あれは竜と術者と怨霊の融合体。そして、恐らく怨霊には手に入れやすい平民を使っていると思いました。だからこそ、脆弱な怨霊の部分を媒介にすることで、本体である術者に魔法を通したんです」

 

 複雑に絡み合ったプログラムの脆弱性を突いて、本体であるプログラムをハッキングしたっていうところか、咄嗟にそれを思いつくとはさすがだな。

 

「そうか、よくやった」

 

 それが無ければ全滅していた可能性が高いため、来幸のやったことを理解した俺は、素直にそう称賛の声を掛けた。

 だが、来幸は浮かない顔をしてそれに答える。

 

「お褒めに預かり光栄ですが……恐らくは長くは持ちません。竜本体の抵抗力によって、そう遠くないうちにあの状態は解除されてしまうでしょう」

 

 脆弱性を突いたと言っても本体は強靱な竜。

 闇魔法による幻覚もそう長くは続かないと来幸は語る。

 

「そうか……」

 

 俺はただ一言そう呟いた。

 

 これは……もう、無理だな。

 

 俺はそう思い至った。

 

 来幸によって何とかアケロンが神の欠片を手に入れることを防ぐことが出来たが、さすがに相手も二度も嵌められるほど愚かではないだろう。

 だからこそ、次に神の欠片を狙われたら、俺達にはそれを防ぐ手はない。

 

 そして、アケロンが神の欠片を手に入れれば、奴は神竜へと至り、やがてこの世界で数々の不幸をまき散らすことになるだろう。

 

 ――それを許すわけにはいかない。

 

 だからこそ、俺は全員に向かって宣言した。

 

「ヴァレリーごとアケロンを殺す」

「……いいのね? フレイ」

「ああ」

 

 俺の覚悟を問うようにエルザがそう言う。

 俺はそれに頷いた。

 

 ここにいるのが、アレクじゃなくて、俺で悪いな……。

 

 俺は内心でヴァレリーに向かってそう謝罪する。

 

 もし、ここにいるのがアレクのような主人公だったら、こんな風に諦めることもなく、最後まで助け出せると信じて行動し、そして主人公補正でそれを実現してみせたのかも知れない。

 だが、ここにいるのはそんな主人公補正もない、ただの転生者でただの悪役であるこの俺――フレイ・フォン・シーザックだ。

 

 アレクのように奇跡のような出来事は起こせないし、小を生かすために大を敵に回す選択が出来るほど、意思の強さがあるわけでもない。

 俺はどちらかと言えば、物語に出てきて主人公と敵対する悪役のように、大を生かすためなら小を殺せる側の人間なのだ。

 だからこそ、神の欠片をアケロンが手に入れて世界の災いの元となる前に、ヴァレリーごとアケロンを殺すことに躊躇いはなかった。

 

「ああ!? なんだ!? これは!? 何もない広場じゃねーか!?」

 

 ついに闇魔法が解けてアケロンが幻覚に気付く。

 そして、その目は当然、俺達に向かった。

 

「てめぇらか! 俺様に幻術を使いやがったな! 許さねぇ! 神の欠片を手に入れる前に! てめぇらを皆殺しにしてやる!」

 

 そう言ったアケロンに俺は言い返す。

 

「いいや、殺されるのはお前だ」

「ああん!? 死に損ないが! イキってるんじゃねぇ!」

 

 そうして動き出したアケロンに向けて、俺は空から鉄球を落とすために、取り寄せた鉄球を転移させようとする。

 

 せめて痛みすらなく一瞬で――。

 

 そう思った俺が、転移を行おうとしたその瞬間、突如として本物の神殿から白い光が立ち上り始めた。

 

「んだっ!?」

「なにっ!?」

 

 アケロンも俺も互いにその事態に驚き、攻撃の手を止めて双方がその光が立ち上った方へと目を向ける。

 

 その場にいる誰もが白い光に注目する中で、神殿の屋根を突き破るようにして、一頭の竜がその場に姿を現す。

 その竜は桜色をした――ヴァレリーによく似た姿を持つ成竜だった。

 




 ディノスの転移は、高密度の他者の魔力で満ちていると転移自体が発動出来ず、神の結界という壁で遮られていると、その壁の先を転移対象とすることが出来ないと言う感じで、転移が出来なくなります。



 例えば、化け物になる不治の病にかかった女の子がいたとして、化け物になって他の者達を襲う前に殺そうってなるのが物語における悪役とかの立場で、そんな相手に対して今は無くとも彼女を救う方法は絶対にあるはずだと信じ切って、女の子を殺そうとする人々を敵に回して戦い続けられるのが、主人公の資質って奴ですよね。
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