エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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バカンスの果て

 

「よし、良い調子じゃ……!」

 

 ボクの抵抗も意味をなさず、ボク達は神殿の中に避難してきた。

 お爺さんは、神殿の中に入って直ぐに、竜の魔法を使って、パパ達の戦いの様子を覗き見ることを始めたけど、それで覗き見る戦いに意識を向けつつも、ボクの方にも意識を向けていることがわかる。

 

「これじゃ、パパのところにいけない……」

 

 隙を見て戦いの場に行こうと思っていたボクは、お爺さんの目が光っていることもあり、この神殿から抜け出すことも出来ずにいた。

 

「でも、仮に抜け出したとしても、ボクの力じゃ何の役にも……」

 

 パパが言ったように今のボクには力が無い。

 助けに向かったところで、足手纏いになるのは目に見えている。

 

「力が……力があれば……」

 

 ボクはそう言って、ふとこの場にある白い炎のようなものに目を向けた。

 

「神の欠片……あれがあればボクでも……!」

 

 だが、あれを手にするのも、それはそれで難しいだろう。

 

 あれはこの竜の里でとても大切なものだ。

 どれだけピンチに陥ろうとも、神が言ったその時まで、決して手を触れず、このままの現状を維持し続けるつもりだろう。

 実際に黒い液体に取り憑かれたボクのお母さんだと言う竜が、この里を襲撃してきて、明らかに神が言ったこの里が危機に陥った時という条件を満たしているのに、欠片の力を手に入れてあの敵に立ち向かおうとはしていない。

 

 恐らくどれだけピンチになろうとも、神の欠片の力を使うつもりはないんだ。

 それこそ、パパ達がやれたとしても――。

 

「ああっ! 何と言うことじゃ! こんなことが!? ヴァレリー!!」

 

 パパ達の戦いの様子を見ていたお爺さんがそんな悲痛な声を上げる。

 

「ま、まずい……避けるじゃ! そ、そんな……」

 

 次々と語られる焦りを現したような声。

 それを聞いて、現場の状況が相当不味くなっているのをボクは実感した。

 

「このまま、じっとしているなんて、ボクには出来ない!」

 

 ボクはそう言うとお爺さんの目から逃れて走り出した。

 お爺さんは悪くなったパパ達の戦況に目を取られて、ボクへの監視が緩くなってしまっていたのだ。

 だからこそ、ボクはお爺さんに気付かれる前に、そこに近づくことが出来た。

 

「このままでは神の欠片が……! !? ノルン! お主! 何をしておる!?」

 

 お爺さんがボクの動きに気付くがもう遅い。

 ボクの手は既に白い炎に触れる寸前だった。

 

「やめ――やめるんじゃーー!!!」

 

 お爺さんの叫びを無視して、ボクが白い炎に触れると、ボクの体はその白い炎に包まれて、ボクは意識を失った。

 

☆☆☆

 

 気付けばボクは白い空間にいた。

 その空間は白い炎と同じ、神聖な神の力で作られているもののようだった。

 

 そして、そんな空間の中で、目の前に一人の女の人がいた。

 

「おおっ!? 来たね! よかった、このまま出番なしかと思ったよ!」

 

 その女の人はボクを見つけるとそんな風に喜び始めた。

 

「出番なし?」

 

 ボクは突如現れた女の人の不可思議な発言に思わずそう言葉を返す。

 そのボクの言葉に、女の人は語り始めた。

 

「ルートは幾つも用意しておいたし、君がボクの元に来ることになるルートを、彼が通らない可能性だって十分にあった。それこそ、事前にそうなると定められた運命――ゲームと同じような結末になることだってあり得たわけだ」

 

 そう言って女の人はやれやれと肩をすくめる。

 

「自分が用意したこととは言え、この世界の創世の時から、何万年もその時の為に待ち続けたのに、別ルートに行くことになったから、出番すら与えられず、アケロンみたいな気持ち悪い奴に取り込まれる結末を迎えるとか、最悪の終わりだろ?」

 

 そう捲し立てるように語る女の人。

 だけど、ボクはそれを聞いても、頭の中が疑問でいっぱいだ。

 

「何を言ってるのかわからない」

「あれ? そうかい?」

 

 素直に気持ちを表したボクの言葉に、女の人は意外そうな顔をした。

 そして、失敗したな~と言った感じで言う。

 

「いやはや、人付き合いが少なすぎて、相手の理解度も確認せずに、何の説明も無く好き勝手に喋ってしまうのは、ボクという存在の悪い癖だな~」

 

 また勝手に何かに納得して喋り倒す女の人。

 ボクはこのままだと埒があかないと考えて、その人に向かって言う。

 

「ねぇ! ここは何処なの? ボクは神の欠片に触れたはずなんだけど……」

「ここかい? ここは神の欠片の力で作られた疑似空間の中さ。君が神の欠片に触れたことで、その力が君を飲み込んでこの領域を作り上げたんだよ」

 

 女の人はそう言って状況を語る。

 ボクはそれを聞いて、この女の人に不信感を持った。

 

「……なんでそんなことを知ってるの? そもそも、君はだれなの?」

「ボクかい? ボクはそうだな……」

 

 そう言って、女の人は少し考えた後、ボクを見つめて言った。

 

「ボクは君だよ」

「……何言ってるの? ボクと君は違うじゃん。ここに別々にいるよ?」

 

 わけのわからないことを言いだした女の人にボクは思わず言い返す。

 

 ボクだと言われても、ボクは今ここにいる。

 目の前にいるこの人がボクなわけがない。

 

 ボクのその返答を聞いた女の人は笑い始めた。

 

「ははは! 確かにそうだ! 別々に存在しているよね! まあ、そもそも分体同士とは言え、記憶を継承せず、肉体が別物になっているものを、果たして同一人物と言えるかという問題もあるけど……。あれだ、彼の世界の言葉で言うと、テセウスの船ってやつからな? 人それぞれが持つアイデンティティーの――」

「ねぇ! 結局! 誰なの!?」

 

 また話し出しそうな女の人を遮ってボクはそう叫ぶ。

 あまりのんびりしている時間はないのだ。

 外ではパパが今も危険な状態になりながら戦っている。

 

「う~ん。そうだな……。じゃあ、ここではウルズと名乗ろうかな。別にボクと繋がりがあるわけでもないけど、君の名前や今回の状況を考えれば、この名前が名乗るに相応しい名前というやつだろう」

 

 そう言ってウルズは茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる。

 そんなウルズに対してボクは言った。

 

「それで、如何すれば力を得られるの!? 外ではパパが戦ってるの! ウルズが力をくれるというのなら、速くボクに力を渡して!」

 

 ボクが焦りながらそう言うと、ウルズは何かに納得したように言う。

 

「さっきから話を急いでいたのはそれが原因か。安心していいよ。ここは簡単に言ってしまえば精神と時の部屋――外とは流れる時間が違うからね。ここでどれだけ長い時を過ごしたとしても、外では1秒も経ってはいないのさ」

「そう……なの?」

 

 ボクはその言葉を聞いてほっとため息を付いた。

 ウルズの話が本当なら、外の状況はボクが欠片に触れた瞬間から、殆ど変わっていないということだからだ。

 

「そして力に関してだけど……既に君の中に取り込まれている」

「ほんと!?」

「ああ、本当だとも。わざわざこの場で嘘はつかないよ」

 

 そう言ったウルズの言葉に嘘はないように見えた。

 つまり、ボクにはもう創世神が残した神の力が宿っているのだ。

 

「やった! これでパパを助けられる! 今すぐにここを――」

「だけど、君はまだ力を扱う事は出来ない」

 

 喜び勇んでこの空間から脱出しようとしたボクにそんな言葉が投げかけられた。

 だからこそ、ボクは思わずそれを聞き返す。

 

「え!? なんで!?」

「力を扱うに相応しい肉体も、力を制御出来る知識も、君にはないからだ」

 

 そう明確にウルズは理由を告げた。

 

「肉体に関してはこの場にいれば勝手に成長する。それなりの時間をこの空間の中で過ごすことになるけどね。だけど知識は勝手には身に付かない」

 

 そう言うとウルズはこの空間に大量の本を出現させた。

 ドサドサと何処かから本が現れて落ち続ける中でウルズは言う。

 

「だから、お勉強をしよう。なに、時間は無限にある。君の心が折れない限り、幾らでも君は知識を身につけることが出来るよ」

「お、お勉強……」

 

 ボクは目の前に現れた大量の本を見て、思わず後ずさりをしてしまう。

 

 お勉強はそんなに好きではない。

 パパが教えてくれるのならまだいいけど、こんなところで一人寂しく、本を読んで学ぶなんて、とても耐えられそうにない。

 

 そんなボクの気持ちを見抜いたのかウルズが言う。

 

「これは君の為でもあるんだよ。どうせ君が父親と慕う者に、竜の知識は自分には教えられないから、君をこの里に置いていくとか言われたんじゃない?」

「っ!? なんでそれを知ってるの!?」

 

 ウルズがボク達の状況を言い当てたことに、思わずそんな驚きの声をあげる。

 それに対してウルズは「やはりね」と納得したように呟いて言った。

 

「持っている情報から導き出した単純な推察だよ。彼の状況を考えれば、君のことをそんな風に言いくるめて、捨てるんじゃないかと思っていたからね」

 

 捨てる――その言葉を聞いたとき、ずきんと心が痛むのを感じる。

 なんだかんだ真っ当な理由はあるが、パパがボクを別の人に託す形で、捨てようとしていることに、変わりはないことに気付かされる。

 

「確かに子供は一人じゃ出来ることは少ない……。だから、こうやって大人の都合に振り回されて、自分の思いと違う結果になってしまうこともある……」

 

 ウルズはボクの思いを代弁するかのようにそう語る。

 そうしていたウルズは、にやりとイタズラをするかのように笑うと言った。

 

「――でも、それって大人になってしまえば関係のないことだよね?」

「――え?」

 

 何てことも無いようにそう言いきったウルズにボクは思わずそんな声を上げる。

 そんなボクに語りかけるようにウルズは言った。

 

「単純な話だよ。君は竜の知識が無いからと竜の里に預けられることになった。だけど、必要な竜の知識が君の中に既にあるのなら、その前提は成り立たない」

「あっ! そっか! 竜の知識があれば、竜の里にいる必要もないんだ!」

「そう、その通り。誰かが君の行動を決めてしまうのは、君が子供で知識も力もなく、誰かが庇護しないといけない立場にあるからだ。だからこそ、それを崩すには君が力と知識を身につけ――独立した立派な大人になるのが一番なんだ」

 

 そう言うとウルズは何冊かの本を手に取ってボクに手渡す。

 

「これを見てみなよ」

「これは?」

「これは漫画や小説――ヒーローやヒロインが紡ぐ、物語を楽しむものだね」

 

 ウルズは簡潔にそう説明した後、続けるようにして語る。

 

「たぬきドロップに、うちの娘の為ならば俺は勇者だって倒せる……他にも色々とあるけど、どれも君と同じように、血の繋がらない父親役に拾われて、そして大人へと成長していく過程を描いた物語さ」

「ボクと同じような物語……」

 

 ボクはじっとその本を見つめた。

 そんなボクに向かってウルズは言う。

 

「ずっと知識のための勉強を続けるのも大変だろうからね。息抜きとしてそれを読んで、大人になるって言うのがどういうことか学ぶといいよ」

「うん! わかった! ありがとう、ウルズ!」

 

 ボクはウルズの言葉を聞いて、素直にお礼を言った。

 それを受けて、ウルズはきょとんとした顔をする。

 

「まさか、自分にお礼を言われるとは……貴重な体験だね、これは」

 

 そう言って照れたように頬を掻くウルズ。

 

「彼の取り巻く環境が面白いことになりそうだから分体を送り込んだけど、これから君と過ごす時間だけでも、君を送り込んだ意義はあったかも知れないね」

 

 そう言って、ウルズはボクへの指導を始めた。

 

☆☆☆

 

 あれから、ボクのこの空間での生活は続いていた。

 もう、どれだけの時間が経ったのかもわからない。

 

 長い時の中で、ボクは自分に必要な知識を身につけていった。

 だが、それよりも、ボクの中で強くなっていくものがあった。

 

「パパ――!」

 

 ボクは寝っ転がりながら、何度も読んだことでボロボロになった本を読んで、そう言って目を瞑る。

 

 目を瞑るとそこには妄想のパパが現れた。

 そのパパは読んでいる漫画と同じように『まったく甘えん坊だな』と言って、ボクを優しく抱きしめてくれる。

 パパに抱かれたボクは至上の快楽を感じて、その場で自分の体を抱きしめて、身悶えをしながら転げ回る。

 

「またそれを読んでいるのかい?」

 

 そんなボクの様子を呆れたように見ていたウルズがそう言った。

 そんなウルズに対してボクは言う。

 

「うん! だって全然飽きないんだもん!」

「まあ、それはいいけどさ……。夢女子みたいに、漫画の父親枠と娘役を、自分達に塗り替えて、その物語を妄想して身悶えするという、恥ずかしい行いを、自分と同じ存在がしているのを見ることになる、こちらの気持ちも少しは考えて欲しいな」

 

 やれやれとため息を付きながらウルズは言う。

 そんなウルズの言葉に、ボクは明確に否定の言葉を浴びせた。

 

「無理だよ! だってこの気持ちを抑えられないんだもん!」

 

 長い時の中でパパへの気持ちはどんどん強くなっていった。

 それは、もはや、自分でもどうにもならないものだった。

 

 どれだけ時が経っても、どれだけ知識を詰め込んでも、どれだけ物語を読んでも、パパのことだけは色褪せること無く全てを思い出せる。

 それ以外のことは殆ど思い出せなくなったが、別にそんなことは些細なことだ。

 

 元から生まれてから、神の欠片に触れて、この閉ざされた空間に入るまで、まともに関わり合いになったのはパパだけなのだ。

 それを考えれば、パパ以外の記憶がなくなったって、何の問題もない。

 

「ああ、パパに早く会いたいな~」

 

 ボクは思わずそう呟く。

 ここから出て、悪い敵を倒して、大人になったボクでパパと再会するのだ。

 立派になったボクを見たら、きっとはパパは父親として喜んでくれるはず。

 

「そうしたら、この漫画みたいに、愛してるって言ってくれるよね? パパ?」

 

 パパから一度も言われてない言葉――。

 

 それを言われた時のことを妄想しながら、ボクはそう呟く。

 それを見ていたウルズが頭が痛いと言った雰囲気で頭を抑えて言った。

 

「……何と言うか、変に熟成されちゃったって感じだね……」

「パパ、パパ、パパ、パパ――」

「うぇ……見ているだけで精神汚染されそうだ……」

 

 ここで学んだ知識を使って自分を慰め始めたボクを見て、ウルズはドン引きしたような顔をしながら、ボクからそそくさと離れていく。

 

「おかしいな。根源は同じはずなのに、そんなことになるなんて……。確かにちょっと面白そうかなと思って、本の選定には手を加えたけど……」

 

 ボクの様子を伺いながら、しきりに首を捻りながらウルズはそう言う。

 そして、何時もようにブツブツと喋り始めた。

 

「まさか、ボクにこんな一面が? 創世神――全てを生み出す母だからこそ、母性や父性を求めているところがあったということなのか……」

 

 悩んでいたウルズは何かしらの結論に到達したようだ。

 そして、何かを決めたのか、ボクが自分を慰め終わったのを見て、ボクに言う。

 

「そろそろ、終わりにしようか」

「え? 何が?」

 

 はあはあと息を乱しながらボクがそう言うと、ウルズはそれに答える。

 

「君の肉体は完全な大人へと成長した。それに知識に関しても、必要なものは全て詰め込んである。ここの役割ももう終わったということだよ」

「そっか~」

 

 ボクはその言葉に少しだけ寂しさを覚えた。

 これだけ長い時を一緒に過ごしたウルズとも、もうお別れなのだ。

 

「この空間が無くなったら、君はどうなるの?」

「ボクのことを心配してくれるのかい?」

 

 ボクの言葉にウルズがそう返した。

 それにボクは頷く。

 

「それなら気にする必要はない。この空間が終わるときに、ボクを含めた残りの神の力も、君に取り込まれることになるからね。言ってしまえばボクは君の一部になるってことさ。今のこの人格は消えることになるけどね」

 

 何てこともないようにウルズはそう言った。

 その言葉に対して、ボクは思わずウルズに問いかけた。

 

「消えることになるのが怖くないの?」

「怖くないね」

 

 ウルズはそうきっぱりと答えた。

 

「元々ボクの人格は本体のコピーだ。だからこそ、消えたとしても問題はない。それにここでの記憶や経験は、君を媒介にして本体に送られることになるからね。本体が楽しむ為の情報を作る――それこそが分体であるボクや君の仕事だ。こうやって、消え去ることも本望というものだよ」

 

 ボクはここで様々な知識を身につけた。

 だからこそ、ボクがどう言う存在なのか、そしてウルズがどう言う存在なのか、それらについてはもうわかっている。

 

 でも、理解していても、それに納得しているかは別だ。

 故にボクはウルズに向かって言う。

 

「ボクの人生も、そこで得た思いも、全部ボクのものだから、例えボクが何かの分体なのだとしても、それを本体に渡すつもりはないよ」

 

 ボクの意見とウルズの意見は違う。

 根源が同じでも、やっぱりボクらは別人だ。

 

 そんなボクの思いに気付いたのか、ウルズはにやりと笑う。

 

「――いいね。人生には価値がなければならない。そう言えるほどの価値を持った人生こそ、ボク達が求めて止まないものだよ」

 

 ボクのように別人だと否定する存在こそ、今までの自分が送ったことのない人生を持った、新しい物語を楽しめる存在だとウルズは考えているようだった。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 本体がボクの物語を楽しめるかどうかなんて興味はない。

 

 だから、ボクはウルズに別れを告げてこの空間を出ようとするが――。

 それをウルズが止めるように、ボクに向かって話しかけてきた。

 

「最後にいいかい?」

「なに?」

「君にとってのヒロインってなんだい?」

「ヒロイン?」

 

 唐突な話に思わず首を傾げる。

 ウルズは何が言いたいのだろうか?

 

「彼の周囲の女の子達は、自分なりのヒロイン像を持っているみたいだからね。消え去る前に、君にもそういうのがあるのか聞きたかったんだ」

 

 パパの周囲の女?

 そう言えば、薄らとだけど、何か周囲に変な女共がいたような気もする。

 

 その女達は何やら、自分なりのヒロイン像を持って、パパに接していたらしい。

 だけど――。

 

「いきなり、ヒロインとか言われても……わかんないよ」

 

 ボクは正直にそう答えた。

 ヒロインがどうのと言われてもよく分からない。

 

「あれ? そうなんだ」

 

 ボクの答えを聞いて、拍子抜けしたようにウルズはそう言った。

 そして、少し残念そうにしながらも言う。

 

「そっか。それなら仕方ないね。最後に気になったことを知れなかったのは残念だけど……これから頑張るんだよノルン」

「うん!」

 

 ボクはそう言って空間を破壊して取り込んでいく。

 

 そんな中でボクは考えていた。

 ボクが思うヒロイン像――それは何なのかと。

 

☆☆☆

 

 神殿から光が立ち上り、そしてその中から現れた竜。

 それを見て、俺もアケロンも、時間が止まったかのように硬直する。

 

「あの竜――俺様の神の欠片を!?」

「まさか、あれはノルンか!?」

 

 そして、同時に状況を理解して動き始めた。

 アケロンは自分の物にするはずだった神の欠片を奪った下手人に対して、怒りを見せながら飛んでいき、一方で俺は、あれが神の欠片を手に入れて成長したノルンではないかと考えて、様子を伺うことに決めて、隕石を落とすのを取りやめる。

 

 そんな俺達の動きを気にもせずに、ノルンと思わしき竜は、大きく息を吸い込むと、ブレスをアケロンに向かって放った。

 そのブレスは拡散する光の波動であり――その範囲には俺達も含まれていた。

 

「おいっ!? 嘘だろ……!?」

 

 味方だと思っていた相手に、敵と巻き添えでブレスを喰らって、俺は思わずそんな言葉を上げて身構える。

 だが、予想していたようなダメージはなく、俺は不思議に思いながら、同じようにブレスを喰らった周囲を見回した。

 

「何だ? ダメージがない? それどころか、体の調子が良いような……」

 

 ふと体を見ると、レシリアの魔力消費を減らすために、後回しにしていた小さな切り傷が癒えていくのが目に入った。

 

「傷が……? いや、それどころか周囲の草が生長している……?」

 

 傷が癒えるだけではなく、ブレスの範囲に入っている草が、まるで時間を早送りにするかのように、成長してぐんぐんと伸びていた。

 

「時間――いや、違う。時間を進めただけではこうはならない。だとするならば――まさか、生命力か!?」

 

 時間を進めただけでは萎びた草が生長することは出来ない。

 そこまで考えたところで、この草は生命力が底上げされたことによって、そのエネルギーを使って、このように急激に成長しているのではないかと気付く。

 

「神の欠片を取り込んだことで、生命を操る力に目覚めたのか!?」

 

 起きている事象から考えれば、そう判断するのが自然だ。

 俺はそう自分の考えに結論を付けて――同時に疑問を抱いた。

 

 生命を操る力を手に入れたのはいい。

 だが、それを使って生命力を高めるブレスを、俺達だけではなく、アケロンにもぶつけて、如何するつもりだ?

 

 生命力を高めて俺達を回復させようとするのは理解出来る。

 しかし、それを敵にぶつけて敵を回復させる意図が読めない。

 

 俺がそう思っていると事態は動き出す。

 

「グギャアアアアア!?」

 

 そんな悲鳴を上げてアケロンが悶え苦しむ。

 そして、アケロンの黒い肉体がブクブクと膨張と収縮を繰り返す。

 

「な、何が起こっている?」

「クソ共がぁあああ! 今頃になってぇえええ!」

 

 理解出来ない状況に困惑する俺達を前に、アケロンはそう叫ぶと暴れるようにして、ブレスの効果範囲から逃げだそうとする。

 

「させないよ」

 

 しかし、アケロンが逃げ出すよりも速く、ノルンがそう言うと地面の木々が急激に伸び始め、その木々の中にアケロンを取り込んで拘束し始めた。

 

 植物+生命力とかN○R○TOの柱○かよ……。

 

 俺が思わずそんなことを思っていると、何かに気付いたレシリアが声を上げる。

 

「叫びが――大きくなってる!」

「叫び……? それってあの黒い液体が放っていたものか?」

 

 俺の言葉にレシリアは頷く。

 

「そうだよ、お兄様! あのアケロンとか言うのが、ヴァレリーと融合してからは、叫び声が聞こえなくなっていたけど、それが突然聞こえるようになったの!」

「聞こえなくなっていたものが、突然聞こえるようになった……か」

 

 俺はそう呟き、その原因について考える。

 何かが起こってアケロンの状況に変化が起こったのだとしたら、その原因はあのブレスしか考えられない。

 問題はどうしてそれが起こったかだが――。

 

「――そうか! あのブレスでアケロンの体を構成している――黒い液体となっていた亡霊達の生命力が上がったことで、アケロンの支配から亡霊達が逃れ始め、あのアケロンの内部で暴れ回っているのか!」

 

 亡霊の生命力って何? という話だが、この世界のレイスは死ぬことで、霊体という体に肉体を移しただけで、生命体の一種であるということを聞いている。

 それを考えれば、神の力を取り込んだノルンなら、その亡霊という生命体の生命力を底上げして、再度活動させるだけの気力を与えることが出来るのかも知れない。

 

「来るなぁああ! 来るんじゃねぇええ! ただの贄が! この俺様にぃいい! ガァアアア!?」

 

 俺の考えを裏付けるかのように、膨張と収縮を繰り返しながら、アケロンは俺達に見えない何かと戦うように、そんな悲鳴を上げて悶え苦しむ。

 

 アケロンは恐らく亡霊達をあの黒い液体に改造した組織の一人だろう。

 それを考えれば、亡霊達の恨みもひとしおか。

 

 アケロンの内部で何が起こっているのかはわからないが、叫び声から察するに、生け贄にされた亡霊達が、アケロンに反旗を翻し、今までの恨みを晴らすように、アケロンを食い殺そうとしているのだろう。

 

「やめろぉ……やめて……許してください……イギィイイイイ!」

 

 アケロンの声はどんどんと弱々しくなり、許しを請うように叫ぶが、それで亡霊が止まることはなかったのか、苦痛を受けたことによる悲鳴を上げ続ける。

 

 生命の力とか、神聖そうな力を使ってるのに、亡霊を元気にさせて、亡霊同士を食らい合わせて相手を殺すとか、やってることがエグいな……。

 

 俺は思わずドン引きしながらその様子を見続ける。

 アケロンの自業自得とは言え、絶対に同じ立場にはなりたくない、拷問のような恐ろしい光景が、その場で行われていた。

 

 そして、しばらくするとその時が訪れる。

 

「し、死ぬ……!? 馬鹿なこの俺が……何の為に竜に――イギャァアア!!」

 

 その断末魔の悲鳴と共に、パンっと弾けるように、アケロンの肉体を突き破るようにして、大量の亡霊が空へと飛び立っていく。

 

「生命力が上がって、黒い液体から元の亡霊へと戻ったのか!?」

 

 黒い液体は魔法か何かで亡霊が素材として変換されたもの。

 亡霊の生命力が上がったことで、その魔法への抵抗力がつき、変化した状態から元の亡霊へと戻ったのだろうと判断した俺は、レシリアに向かって叫ぶ。

 

「ともあれ! 今だ! レシリア!」

「うん! ゴーストパニッシュ!」

 

 悪霊に特効を持つ聖女の魔法。

 それが前回と同じように敵へと降り注ぎ――。

 今度は無効化されるということはなく、大量の亡霊達を昇天させ、長かったこの戦いは、遂に終わりを迎えたのだった。

 

☆☆☆

 

「……まだ息がある!」

「後は任せて!」

 

 全ての亡霊が消滅した後、ノルンは木々を縮めてヴァレリーを地面へと降ろそうとする中で、俺はレシリアと共に転移でそのヴァレリーの側へと移動し、急いでヴァレリーの容態について確認していた。

 

 そして、ヴァレリーの姿が元に戻っていることや、黒い液体が付いていないこと、それにまだ息があることを確認した後、レシリアに後を任せた。

 

 もう無理かと思っていたが……何とかヴァレリーも助け出せたか。

 

「まあ、終わり良ければ、全てよしか」

 

 後半完全に役立たずだったが、結果的には最高の結果となった。

 色々と予想外なことも多かったが……ようやく終わったという気持ちで、俺は思わずそんな風に呟く。

 

 そうして、しばらく待つとヴァレリーは地面へと降り立った。

 レシリアがその治療を続ける中で、竜として飛んでいたノルンも、俺達の近くの地面へと降り立ち、そして人化する。

 

「ノ、ノルンが成長してますわ……!?」

 

 その姿を見て、ノルンの母役を自称するルイーゼがそう声を上げた。

 目の前にいるノルンはルイーゼの言う通り、幼女だった少し前と違って、完全な大人の女性へと成長していた。

 

「ノ、ノルン……だよな?」

「うん。そうだよ、パパ。神の欠片の力で、何年もの時を過ごして成長したんだ。パパのために、ボクは頑張ったんだよ?」

 

 俺がノルンを警戒しながらもそう言うと、ノルンは満面の笑みで答える。

 

 一見すると、父親のピンチを救うために、覚醒して強くなった娘が助けに入ってきたという感動の場面。

 だが、まるで肉食獣に狙われた獲物のように、嫌な気配を感じた俺は、冷や汗を流しながら、後ずさりをする。

 

「ねえ? 何で後ろに下がったの? パパ?」

「いや、それは――。――っ!?」

 

 突然、俺に向かってきたノルンを見て、俺は瞬時に転移で移動する。

 俺が転移した後、俺が居た場所を見ると、そこにはそこに居た何かを抱きしめようとした体勢でいるノルンの姿があった。

 

 あ、あぶな……あのままあそこにいたら、確実に捕まっていた……。

 

「ノルン……いきなり何をするんだ?」

 

 俺は恐る恐るノルンに向かってそう言う。

 

 おかしい……これは明らかにおかしい。

 俺はノルンをしっかりと親子として育てることに成功したはずだ。

 

 それなのに今のノルンは――。

 

「何って? パパに抱きしめて貰うつもりだったよ? 頑張った娘を父親は抱きしめるものだもんね?」

 

 そう言って、俺を見るノルンの目は、他の攻略対象達と同じように、色欲に染まったものだった。

 

「わ、わざわざ抱きしめる必要はないだろう。ちゃんとお前の頑張りは理解しているぞ? 頑張ったなノルン」

 

 俺はそのノルンの目にびびりながらそう口にする。

 俺のその態度にノルンは不服そうに答える。

 

「なんで言葉だけで済まそうとするの?」

「ノルンは成長してもう大人になった。そんな相手に父親役ではあるが、異性である俺が、ベタベタとくっ付くわけにはいかないだろう?」

 

 自分の立場を思い出せ!

 俺はそんな気持ちを込めて、ノルンに向かってそう言う。

 だが、返ってきた言葉は無情なものだった。

 

「なんで? 父親役だからこそ、ボクとくっ付くべきじゃないの?」

「は? 何でそうなる?」

「だって、そういうものだって、ボクは読んだもん! たぬきドロップとか、うちの娘の為ならば俺は勇者だって倒せるとか、その他にもいっぱい!」

 

 な……なんで……ノルンが俺の前世の世界にあった作品を……!?

 それも、最終的に父親役と娘がくっ付く作品ばかりとか……ふざけるなよ!?

 

「これは、創世神の仕業か……!? どうしてこんな真似を!?」

 

 俺は思わずそう叫ぶ。

 

 異世界を感知出来るのは創世神だけだから、ノルンが見た漫画を用意したのは、創世神だということになる。

 しかし、どうしてそんな真似をしたのか、その理由がわからない。

 

 俺を転生させたことといい、何を考えてやがる……!?

 

 俺がそう思っている中で、ノルンは続けるようにして言う。

 

「だから、成長したボクも、パパとつがいになるんだ!」

「いやいやいや! 親子で結婚なんかあり得ないだろ!?」

 

 俺は思わずそう叫ぶ。

 その言葉を聞いた瞬間、ノルンの目から光が失われる。

 

「どうして? どうして? どうして?」

「ひぃっ!」

 

 そう呟いて再び飛びかかってくるノルン。

 俺は瞬時に転移を発動し、その効果範囲から逃れる。

 

「どうして? 愛してるって言ってくれないの? ねぇ? パパ?」

「俺はお前を娘として大切に思っているが、異性として愛する気持ちは、一片たりともありはしない!」

 

 俺は次々と迫り来るノルンから逃げながらそう叫ぶ。

 

「俺は、理想の俺だけのヒロインを求めているんだ! 攻略対象であるお前は、俺の恋愛対象になりはしない!!」

「攻略対象……? そんなものは知らない!」

「うわっ!? 結界なんて使うなよ!?」

 

 俺が明確に拒絶の言葉を継げると、俺の言葉を理解出来なかったノルンは、そう叫んで俺に対して結界を発動してくる。

 俺は必死でそれから逃げながら、この世の不条理を呪い思わず叫ぶ。

 

「クソ! 逆レイプロリドラゴンが……! やはりこうなるのか!?」

 

 あの結界に捕まってしまえば、俺は逃げることも叶わずに、ノルンに美味しく頂かれてしまうことだろう。

 

 そうなったら、俺はゲームオーバーだ。

 

 清い体を失ってしまえば、俺は何時か出会う俺だけのヒロインを、胸を張って自分の恋人とすることが出来なくなってしまう。

 お互いを運命の相手とする決意があるからこそ、俺は絶対にその相手に対して不義理になるようなことをするわけにはいかないのだ。

 

「なんで!? どうして!? こうなった!? 元々はただのバカンスだったのに……俺は今回頑張っていただろう!? 父親役として完璧に過ごしたのに――! どうしてこうも! 何時も! 何時も! 上手くいかないんだ~!!」

 

 俺はそう叫ぶと長距離転移でその場から姿を消した。

 

 そうして逃げ出したものの、空間を跳躍したはずなのに、気配で俺を追跡してきたノルンと、俺は壮絶な追いかけっこに興じることになる。

 結局、俺の身に安寧が訪れたのは、結界の改修を終えて自由になった竜族が、総掛かりでノルンを抑え、ノルンの力を封印した後だった……。

 




本章は残り二話。
何時もの奴と、次章への繋ぎです。
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