エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
竜の隠れ里の騒動から一週間後、ルイーゼはエルミナに行ってからずっと帰ってこなかったせいで溜まっていた教育を受けることとなり、多忙な日々を送っていた。
「よ、ようやく。一段落つきましたわ……」
そう言って、机に項垂れるルイーゼ。
そんなルイーゼの自室に対して、ドアをノックする音が響いた。
「シルフィーなのです」
「入って構いませんわ」
「失礼するのです」
そう言ってシルフィーは部屋の中に入ってくる。
そのシルフィーの姿を見て、ルイーゼは思わず聞く。
「何処かに出掛けるつもりですの?」
「……お暇を頂きたいと思っているのです」
「――え?」
シルフィーの一言に思わず固まるルイーゼ。
そして、少し考えた後で、その目的に気付いた。
「もしかして――ダ、フレイ様のところに行くつもりですの?」
「そうなのです」
「そうですか……」
ルイーゼはそう言ってシルフィーとの約束を思い出す。
それはルイーゼが帝都に巣くうエルフ達を何とかするために、共に活動してくれる協力者を探していた頃のことだった。
ルイーゼはエルフの風評被害に悩まされながらも、その身を売って手っ取り早く金を稼ぐのではなく、傭兵として必死に日銭を稼いでいるシルフィーを見つけ、彼女なら協力者になってくれるかも知れないと話しかけたのだ。
同胞達の無法っぷりに、心を痛めていたシルフィーは、ルイーゼの協力者になることを了承し、彼女の護衛役として城勤めになることになった。
ただ、その時に一つの条件をルイーゼに突きつけていたのだ。
「運命の相手が見つかったら、それを追うために仕事を辞める……初めからそう言う約束でしたわね……」
「雇って貰った恩も返せず、申し訳ないのです……」
そう申し訳なさそうな顔をしてシルフィーは謝る。
それに対して、ルイーゼは残念そうにしながらも、シルフィーを責めずに言う。
「気にしないでくださいまし。友人である貴方がいなくなるのは寂しいですが、それでも運命の相手と添い遂げるというシルフィーの願いが叶うと言うのなら、わたくしにとってもそれは喜ばしいことですわ」
「姫様……」
「それに、この間の事件もあって、エルフ対策については、ついにお父様も動いてくれることになりました。シルフィーが抜けたとしても、その穴は何とかして埋めることが出来ると思いますわ」
この間の事件――竜の隠れ里の騒動の件だ。
アケロンを名乗る帝国人が明らかに個人では行えない、危険な呪術の成果を持って暴れ回り、場合によっては世界の危機にも繋がっていた事件。
ルイーゼはこれを受けて、帝都に戻ってくると直ぐに父親である皇帝の元に行き、神の力を模倣しようとしている謎の組織がいると、その危険性を伝えたのだ。
それを聞いた皇帝は、直ぐさまその事について調べるようにセルゲイに命じ、そして同時に国として全面的に調査をするから、ルイーゼは勝手にこの件について調査しないようにと、皇帝としてルイーゼに命じた。
皇女とは言え、皇帝から正式に命令されたということや、これまで好き勝手に行動していたこともあり、ルイーゼは自分が行っていた捜査の主導権をセルゲイに渡し、その手伝いをするという形でこの件に関わることになったのだ。
そうして捜査を進める中で、今回の一件が帝都に巣くうエルフ達が、面白半分で帝国の闇組織に通じ、協力して活動していることが原因だとわかった。
人間の悪意にエルフの技術が結びついた結果、相乗効果が生まれ、神の力を模倣した外法が生まれるというような、危険な状況が発生してしまっていたのだ。
この事態についに皇帝も重い腰を上げ、セルゲイを主軸にエルフ達への対策を行う部門が正式に立ちあがることになったのだ。
だからこそ、シルフィーが抜けたとしても、エルフ対策については、何とかなる状況へと変わってきていたのだ。
「時間はかかるかも知れませんが……これで帝都も良くなると思います。ですから、シルフィーは気にせずに自分の夢を追ってください」
「そう言って貰えて安心したのです」
そうシルフィーはほっとしたような表情で言う。
「それでは、これで失礼するのです。また何時か……なのです」
「ええ、また何時か何処かで会いましょう」
ぺこりと頭を下げてシルフィーはこの部屋から去って行った。
その期待に満ちた後ろ姿を見て、ルイーゼは思わず呟く。
「いいな……」
好きな人と添い遂げる為に全てを捨ててその人の元へと向かう。
そんなシルフィーの自由さと、彼女の夢が叶って、二人がが隣に立って幸せそうにしている姿を想像し、思わず胸がチクリとなりながら、皇女としてではない一人の少女としての飾り気のないそんな感想を、ルイーゼは無意識に呟いていた。
☆☆☆
「――以上が現在の調査状況です」
「ふむ、わかった」
皇帝の執務室にて、セルゲイが皇帝に向かって報告を行っていた。
それを聞いた皇帝であるヴィルヘルムはそう一言呟くと、皇帝の言葉を待つセルゲイに向かって言う。
「少し、場所を変えるか」
「――はっ!」
ヴィルヘルムの意図を理解したセルゲイはそう短く答え、そしてヴィルヘルムの後を追うように進んで行く。
謁見の間についた彼らは、玉座に施された仕掛けを起動すると、椅子がずれて現れた階段を下り、何処かへと向かい始めた。
そうして、しばらく歩いた所でヴィルヘルムが口にする。
「この辺りでもう大丈夫か……。やれやれ、自分達で作った虚偽情報を、自分達で捜査してその報告を受けるとは……面倒くさくて肩が凝るな」
「心中お察しします。しかし、これも必要なことかと」
「ああ、わかっている。何処に神々の目があるかわからんからな。まったく、忌々しいことこの上ない」
ヴィルヘイムはセルゲイの労るような言葉にそう苛立ちを見せながら答えた。
それを受けて、セルゲイはヴィルヘイムの意図を口にする。
「この地に降りている六柱の神々はともかく、天上のおられる紫の神は、この世界の好きな場所を見渡すことが出来る。人の行いには軽々に口は出さないでしょうが、神へと到る力を得ようとする我等を見逃すとも思えませんからな」
「ああ、そうだ。だからこそ、こうやってこそこそと潜って活動するしかない。エデルガンド帝国の皇帝――この世界で最も尊い人である我がだ」
天界にいる世界神は下界であるこの世界のことを見ることが出来る。
同時に世界の全てを見れるほどのものではないが、影響力の強い国家や人物を中心に見ることで、この世界に厄災の兆候がないかを調べているのだ。
世界最大の国家であるエデルガンド帝国は、当然のように紫の神の監視対象であり、厄災を発生させる兆候がないか常に見られている。
国家間の戦争というような人同士が解決すべき、人の枠で収まるような争いなどは基本的に手を出さないが、今回のような、神に到る為の研究という、人類の手に負えない厄災に繋がりかねない事案については、下界に降りている神々や聖王国を使って、厄災を起こさせない為に粛正を行う可能性がある。
だからこそ、研究を続けるためには、神の目を欺く必要があった。
「召喚石――エルフ共から聞いた知識は役に立った。おかげでこうやって、神の目に見つかることもなく、我等は神になるための研究を進められている」
ヴィルヘイムは階段を降りきった先で、数多くの研究者達が様々な機材を利用して実験を繰り広げる空間の中央に存在する大きな石に目を向けてそう言った。
神の目を欺く方法――それをエデルガンド帝国に齎したのはエルフだった。
エルフ達が真面目に高位存在になることを目指していた頃、最初に自堕落な性質へと墜ちてしまったエルフは、神々の目を恐れていた。
と言うのも、神々から高位存在になることを期待されているエルフの中で、それに背くような行いを自分がしてしまえば、神々の期待を裏切ったとして、神々から粛正を受けることになるのではないかと考えていたからだ。
だからこそ、そのエルフは表面上は真面目なエルフを続けていたが、内心ではそれに耐えられないという思いをずっとため込んでおり、そしてその彼の鬱屈とした気持ちは、神の目が届かない場所を探す熱意へと変わっていった。
彼はエルフとしての長い人生とスペックの高い肉体を利用して、様々な場所を探し回り、やがてその場所を見つけ出すことに成功した。
それは創世神が残したものである聖遺物の周辺は、世界神よりも上位の神である創世神の力が壁となるせいで、世界神である七彩の神々は天界から監視することが出来ないというものだった。
それに気付いたエルフは、同じような考えを抱いていた仲間をその場に集め、そしてそこで今のエルフのような自堕落な生活を始めた。
神の見えない場所で急速に増えていった墜ちたエルフ達は、やがて自分の里にもそれを広め――神が止める間も無いままに、エルフという種族の全体があっと言う間に、今の堕落したエルフへと転じてしまったのだ。
そのような経緯があり、最初期に堕落したエルフの子孫達は、神々の目から逃れる方法について知っていた。
そんな彼らが帝国に来て、帝国で遊び回るための遊行費を得ようとした時、この知識は高く売れるかも知れないと、それがどんな使われ方をされるかも考えもせずに、その知識を皇帝に売ったのだ。
聖遺物周辺には神々の目は届かないということを知った皇帝は、自国の聖遺物である召喚石の側に研究施設を作り出し――聖遺物の周辺に神の目が届かないという情報を広めない為に、その場に情報を売ったエルフ達を捕らえたのだ。
「殺して……殺してくれ……」
「誰か……誰か……」
壁に埋め込められ、実験の為の魔力を提供するための電池になったエルフ達が、この空間に誰かが入ってきたことに気付き、そんな呻き声を上げる。
快楽主義者でどんな物事でも楽しむように生き、死すらも喜んで受け入れるという、一見無敵なように思えるエルフという存在。
だが、そんな彼らにも苦痛と感じるようなものはあり、終わりが見えない永遠の責め苦こそが、彼らが最も嫌うものだった。
故に、終わりもわからないままに、電池として魔力を吸い上げられる苦しみだけが続くこの状況は、エルフ達を発狂させるのには十分であり、それによって精神崩壊したエルフ達が救いを求めて、新たに部屋にやってきた者に、自らの死を懇願していたのだ。
そんなエルフ達を見て、セルゲイが侮蔑の表情をしながら言う。
「こんなものが神に最も近い人類だとは」
「ヒッヒッヒ! セルゲイ殿もそう思われますか」
自らの末路も想像出来ずに、危険な情報を売り渡すという、楽しければ何でも良いと言う危機感の欠如した愚かな存在が、神に近い種として扱われることに納得がいかないセルゲイの言葉に、杖で体を支えながら、この場に歩いてきた老人がそう言葉を返す。
「ゲオルグ殿」
杖を地面に突きながら歩く、猫背で目の隈が酷い、悪の老魔術師と言った風貌の老人を見て、セルゲイがそう言葉を返す。
セルゲイ達の元に歩み寄ったゲオルグは、手に持った杖でエルフを突いた。
それによって、状況が変化したことに気付いたエルフは、何かが起こるかも知れないと、その顔に悦楽の表情が浮かび上がる。
「ヒッヒッヒ! 喜んでおる! 本当に卑しい亜人どもよ! 此奴らが神に近いというのも、あくまで肉体的なスペックが高いというだけのこと! 偶然にも分不相応な肉体的な機能を与えられただけに過ぎん!」
そう言うとエルフを躾けるように杖で叩いた後、杖を地面に付けて、再び自分の体を支えながら、セルゲイは謳うように言う。
「真に神に近い種は何か? それは我等人族である! 我等こそが、神に到るに相応しい種なのだ! フェルノ王国で新たな神が誕生したことこそが、その証拠!」
実際にこの世界で新たな神となった存在を例に挙げながら、そう口にするゲオルグは続けるようにして言う。
「だからこそ、我等も神へと到ることが出来るのだ!」
自らの学説を信じる狂人のようにそう断言するゲオルグ。
そんな彼に対して、後ろから歩いてきた青年が声を掛ける。
「そう言うなら、さっさとその手段を見つけて欲しいものだね」
「コンラートか、お前もこちらに来ていたのだな」
「はい、父上」
ヴィルヘルムの言葉に帝国の第一皇子であるコンラートはそう答えた。
そして、その後に再びゲオルグを問い詰めるように言う。
「今、父上を煩わせている件だって失敗したのだろう?」
「アケロンの着眼点は悪くはなかったのだ。肉体を竜にすることで、竜にしか扱えない聖遺物の力を取り込み、神へと到るという発想はワシを唸らせたものだった」
そこで失われた才を惜しむようにため息を一つ吐くとゲオルグは言う。
「しかし、計画の実行が早すぎた。あと一年か二年準備する期間があれば、計画を成功させて、彼奴は神へと到ることが出来たであろうに」
「まさか、姫様が竜の里を調べ始めるとは思いませんでした。……エルフを野放しにさせすぎましたね」
セルゲイが後悔を滲ませてそう言うと、コンラートが馬鹿にするように言う。
「下らない正義感であれこれ口に出す彼奴が悪い。そもそも、エルフを野放しにすること自体は、父上の考えた策略の一つだろう?」
そのコンラートの言葉に、ヴィルヘルムは頷く。
「エルフ共を帝都に蔓延らせることで、我等の活動の隠れ蓑とし、もし誰かに気取られた場合は、奴らに罪を擦り付ける――その目論見自体は上手くいっている」
そこでヴィルヘルムは頭痛を抑えるように頭を抑えた。
「問題は想像以上に奴らが愚かだったことだ。おかげで想定よりも帝都の腐敗が進んでしまった。ここいらで一度引き締めるのも悪くはない」
そこまで言った所でヴィルヘルムは召喚石へと目を向けた。
「ここから先で奴らに想定外のトラブルを起こされてはかなわん。何せ、我々の計画も最終段階に入ろうとしているのだから。――そうであろう? ゲオルグよ?」
「ええ、万事抜かりなく……このまま研究を進めれば、来年の春頃には召喚石を起動させることが出来るかと」
「ククク、そうか」
抑えきれない笑いを見せながらヴィルヘルムはそう口にする。
召喚石――それはこの世界の創世神が、世界に厄災が訪れた時に、その厄災から世界を救うための力として、異世界から条件に合う存在を呼び出すことが出来るようにと、用意した聖遺物。
エデルガンド帝国に、その前身の国の時代から伝わるものであり、世界の危機に対して、それに対抗する勇者を呼ぶようにと言い伝えられているものである。
それを思い出しながら、ヴィルヘルムは言う。
「何故、勇者如きを召還しなければならない?」
それは偽りのないヴィルヘルムの本音だった。
「勇者などこの世界にも存在するただの人だ。異世界から条件に合う存在を呼び寄せることが出来ると言うのに、そんな者を呼び出す理由が何処にあるのか」
「ええ、その通りですね。父上」
ヴィルヘルムの言葉にコンラートが、そしてゲオルグやセルゲイも頷く。
「どうせ呼び出すのなら、もっと優れたものを、我等の為になるものを呼び出した方が良い――そう、我は、この召喚石を使用して、我等の神をこの地に降臨させる! そして、その力を用いて、この世界の覇者足る我は神へと到るのだ!!」
これこそが、ヴィルヘルム達が現在進めている計画の目的だった。
自分達に都合の良い神を異世界から召還し、そしてその神の力を使って、自分達も神の領域に到る――その目的の為に、この世界の神々の目から逃れながら、仲間を集って研究を進めてきたのだ。
「コンラート、贄の準備も抜かりなく進んでおるな?」
「ええ、エルフ共の仕業に見せかけて、密かに各地から金銀財宝と、美男美女を収集しています。どのような神が現れようとも、納得して頂けるはずです」
「ヒッヒッヒ! 神と言っても意思を持った存在。彼らが欲するものを用意することが出来れば、交渉次第でその力を使うことは可能であろうからな」
「頭の固いこの世界の神々には賄賂は効かなかったが……何処かの世界には嬉々としてそれを受け取る神も存在するであろう。ならば、それを呼び出せさえすれば、我等の望みは叶ったも同然ということだ」
そう言って、ヴィルヘルム達はその未来を想像し、笑い会う。
……これはこの世界の神々のミスだった。
本来、神とは超越的な存在であり、畏怖されてしかるものだ。
それこそ、古代の時代では、人の手に及ばない隕石や落雷などが、神の怒りとして扱われていたように、人では如何することも出来ない存在だと畏怖されているからこそ、神の力を利用しようという不届きな者が現れないようになっていた。
だが、この世界では神は人に近づきすぎた。
神々が人と交流するために地上に降り、そして普通の人と同じように感情を見せながら、色々な者と交流を重ねる。
それは、神への親しみを持って貰ったり、神という存在の認知という点では、とてつもなく優れた手ではあるが、同時に神も人間と同じように感情があり、人と同じようにそれを利用することが出来ると言う侮りを生む結果となってしまった。
だからこそ、その破滅は避けられない。
エデルガンド帝国の滅亡と共に始まる世界の危機。
フレイが記憶していない、最後のDLCで追加されたシナリオ。
紫の神――セレスティアのイベントの始まりが刻一刻と近づいていた。
これで第五章は終了となります。
五章は執筆が間に合わなくて、途切れ途切れの更新になってしまい、七月まで時期が長引いてしまって、すみません。
次は終章となりますが、更新再開予定は11月でお願いします。
先が長くなってしまうので、ざっくりと終章の予告をしようと思います。
終章では、フラグを立てまくった通り、帝国がやらかして世界の危機が訪れる形となります。
それに対抗する為に七彩の神の招集の元、あのエルフも含めて、世界中の全ての国が連合を組み、厄災への対抗を始めることになります。
そんな中で、フレイは、さすがに世界が滅びたらボーイミーツガールな日々を送れないので、一旦ヒロイン探しを中断し、原作知識をフル活用して自分なりの対策を始めます。
その活動の中で知ることになる悪役転生の真実――全てを知ったフレイの下す決断とは、そしてフレイは理想のヒロインを手にすることが出来るのか。
とそんな感じの終章、どうか続きを楽しみにして、待って頂けるとありがたいです。