エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「ヴィルヘイム様……遂にこのときが来ましたな」
「ああ、ゲオルグ、これまでよくやってくれた」
季節は春。
予定通り、順調に進んだ計画は、遂に実行の時を迎えていた。
感無量と言った様子のゲオルグの言葉に対して、ヴィルヘルムはこれまでの苦労を労うようにそう言うと、その場に居るコンラートに尋ねる。
「贄は?」
「ここに用意してあります」
そこに合ったのはダイヤやルビーなどの宝石を加工したアクセサリーや、金銀と言った貴金属、そして着飾った服を着せられた様々な年齢の美男美女だった。
「うむ。これなら問題ないだろう」
そう言って頷くヴィルヘイムに対して、ふとあることに気付いたゲオルグは、そのことについてヴィルヘルムへと問いかける。
「今日はセルゲイ殿はおられないのですかな?」
「ああ、彼奴にはルイーゼとティナを帝都郊外へ連れ出して貰っている」
その言葉を聞いたゲオルグは得心がいったという様子で言う。
「ヴィルヘルム様もさすがに娘が可愛いようですな」
「ククク……そうでなければ、竜の里の件で邪魔された時に殺しておるわ」
神へ到るという自分達の計画を邪魔した存在をヴィルヘルムは許さない。
それなのにルイーゼが今も生きていられるのは、自分の娘であるルイーゼが可愛くて仕方ないヴィルヘルムが、手心を加えているからだった。
「これから現れるのは賄賂の通じる欲深い神。幾ら神とは言え、そのような輩に、我が至宝である娘達を渡すわけにはいかんからな。目を付けられるという事態を避けるために、この宮殿から遠ざけておかねばならん」
この召還の儀式で呼ぶ神がどんな趣味を持っているのかわからない。
それこそ、拷問などのアブノーマルな趣味を持った男神が現れる可能性もあり、それに目を付けられた女性がどのような目に合うかわからないため、自分の子供を大切にしているヴィルヘルムは、ルイーゼ達を儀式場から遠ざけたのだ。
「しかし……。それなら、コンラート様もここから離れた方が良いのでは?」
ヴィルヘルムの言葉を聞いたゲオルグがそのように疑問を露わにする。
それに対して、コンラートが意気揚々と答えた。
「私からこの場に居させて欲しいと頼んだのだ」
「ほほう……それは何故ですかな?」
「女神とは神の力を持つだけではなく、その誰もが見目麗しい存在だ。――私は常々思っていたのだ。勇者などと言う元々はただの平民が、女神という至上の玉体を手にし、好き放題に味わっているのに、皇帝である私達が、ただの人間の美姫を相手にしなければいけないのはおかしいと」
そう言ってコンラートはアムレイヤ達を思い浮かべ、そしてこれから現れるかも知れない同等の美しさを持った女神を妄想し、それを蹂躙する自分の姿を想像しながら、愉悦の笑みを見せて言う。
「人類の王たるエデルガンド帝国の次期皇帝である私の妻には、世界を統べる女神こそが相応しい――! そうだろう?」
「ククク……まったく、我が息子ながら欲深い男よ……!」
コンラートの言葉を聞いたヴィルヘルムは、そこに王者としての傲慢を見て、それでこそ、この世界の王だと笑みをこぼす。
そして、神を妻にするという大それた欲望を公然と言ったコンラートに、ゲオルグは驚きながらも、その威風堂々とした姿に感心を抱く。
「ヒッヒッヒ! 神を妻にしようとは! 豪胆なお方だ……!」
「ゲオルグ。雑談はこのくらいにして、そろそろ始めよう」
「ヒッヒッヒ! では始めますかな」
ヴィルヘルムの言葉を受けて、ゲオルグは召喚石に力を注ぐ。
召喚石に取り付けられていた装置によって、本来は世界の危機が迫らなければ動かないはずの召喚石が動き出し、光を放ちながら召還陣をそこに出現させた。
「おお! ついに現れるのか! 我等の神が!」
ヴィルヘルム達が期待しながら見守る中で――魔法陣から、複数の絵の具を混ぜ込んでマーブル模様となったような液体が現れ始めた。
「むむむっ? なんだこの汚い液体は……?」
召喚石に魔力を込めながら、神が現れるはずの魔法陣から溢れだした液体を見て、ゲオルグがそのように疑問を口にする。
「おい! 誰かこの液体を……ひょっ!?」
部下の誰かに液体を調べさせようとしたゲオルグは、突如として触手のように伸びた液体に貫かれ、そんな間抜けな声を上げた。
「こ、れ、は、は……あっ、あっ、あっ……!?」
貫かれた場所からドロドロと溶けるように、マーブル模様になりながら、液体と同化していくゲオルグは、そんな自己の存在の尊厳が冒涜されているような言葉にならない悲鳴を上げて、そのまま完全に液体に転じて消えていった。
「な、なんだこれは……!?」
人が服だけを残して液体に取り込まれて消え去る――。
そんな尋常ではない光景に、ヴィルヘルムは恐怖から震えた声でそう叫ぶ。
「ひぃっ! うわぁああああ!!」
「コンラート!」
恐慌したコンラートは、我先にとこの場から逃げ出した。
だが、謎の液体は逃げ出すコンラートを許さず、その液体を急速に膨張させると、コンラートに向かって触手を伸ばし、その触手がコンラートの足に触れた。
「あっ!? い、いやだっ――! 私はぁあああ!?」
ゲオルグのように貫かれたわけでもないのに、コンラートはマーブル模様の液体に触れられた場所から溶けていき、断末魔の叫びを上げながら、自らも液体になる形で、液体に取り込まれていく。
「ふ、触れてしまっただけでも終わりなのか……?」
気付けばマーブル模様の液体は水量を増すように膨張し、儀式場の床を水浸しにしていた。
それによって、多くの研究者達や贄となる美男美女の足がマーブル模様の液体に触れており、その者達が悲鳴を上げながら、溶けて液体と一つになっていく。
「まさか、これも神なのか……?」
自らも既に液体に触れ、ドロドロと溶けていく中で、逃げることを諦めたヴィルヘルムは、そのことに気付く。
「こんな、知性も無いようなものが……!?」
この事態に陥っても彼は認めたくなかった。
彼にとっては神というのは人を超越した高位生命体であり、このような全てを取り込むだけの知性のないただの現象を神と認めることが出来なかったのだ。
「は……はは……。もう止められん。我の帝国が滅びる……。神の力を思うがままにしようなど……我は取り返しの付かない思い上がりを……」
だが、それでもこれから何が起こるかは理解出来る。
ヴィルヘルムは自らがおかした途方もない過ちを後悔しながら、他の者達と同じようにドロドロに溶けて、世界を飲み込む禍つ神と一つになった。
☆☆☆
帝都の宮殿を液体が地下から突如と噴き出して破壊する。
帝都の人々は突然の事態に何も出来ずにそれを呆然と眺め――やがて洪水のように溢れだした液体に飲まれて、次々とその命を取り込まれていった。
それを帝都に近づきながら目撃したアムレイヤは言う。
「あの子の言う通り、世界の危機が訪れてしましましたか……!」
半信半疑だった紫の神であるセレスティアの話――。
自分がアレクの攻略対象だと言うのなら、自分を惚れさせる為の物語として、この世界に何らかの危機が訪れるかも知れないというもの。
(アレクとは誰なのか、攻略対象とは何なのか、わけがわからず、素直に信じることは出来ませんでしたが――それでもあの子が言った事だからと、準備をしておいて正解でした)
アムレイヤはセレスティアから渡された神器を握りしめ、同じようにそれを持って現場に急行している他の神々に向かって言う。
「予定通りに! これを発動する前に、可能な限りの命を救います!」
「了解!」
他の神々はアムレイヤの命令にそう声を上げて、それぞれが転移を利用して、四方八方に散るようにして帝都へと侵入した。
☆☆☆
「おっかいもの~! おっかいもの~! お姉ちゃんとおっかいもの~!」
陽気に歌を歌い、幼女が握った姉の手を嬉しそうに振り回しながら、姉を引っ張るように先へと進んでいく。
手を引かれる形となった姉――ルイーゼは、妹であるティナの楽しそうな姿に、微笑ましい気持ちになりながら、ティナを追うように先に進んでいく。
「ティナ。そんなに急いで進むと転びますわよ」
「大丈夫だもん! ティナ、そんなおっちょこちょいじゃないし!」
「ルイーゼ様の言う通りです。この先の店は貸し切ってあります。急いで行かなくても、物が売り切れてしまう心配はありません」
目的の店へとどんどんと進んで行くティナに対して、護衛として側に控えるセルゲイがそのように注意を行う。
「む~! セルゲイはいつもうるさい!!」
「それが護衛の仕事ですので」
ティナが子供らしく怒りながらセルゲイに言うが、そんなティナの言葉を、セルゲイは涼しい顔で受け流す。
「ティナ、セルゲイは貴方のことを思って言ってくれているのですわ」
「そんなの知らないもん」
「まったく、もう……ごめんなさいね、セルゲイ」
「いえ、気にしておりません。こう言ったことは、ルイーゼ様、貴方の幼い頃で慣れておりますからね」
「えっ? わたくしはもう少しまともだったと思いますわ」
「それはご自身がそうだと勘違いしているだけです。昔も今も、ルイーゼ様はやんちゃで、本当に困ります」
「もう! 人をおてんば姫のように言わないでくださいまし!!」
和気藹々と話しながら進む一同。
帝都の何処にでもありそうな平和的な光景。
――だが、それは打ち破られることになる。
「きゃっ!? な、なに……!?」
突如として何かが破壊されるような轟音が鳴り響き、その轟音に怯えたティナが体を竦めながらそう言う。
音のした方へと目を向けたルイーゼとセルゲイは、宮殿をぶち破って突如としてあふれ出す、絵の具を混ぜたかのような気味の悪いマーブル模様の液体を目撃した。
「なんですの!? あの液体は……!?」
「馬鹿な……何だあれは……!? ゲオルグが失敗したのか!?」
動揺したセルゲイが放った失言。
それに気付いたルイーゼは、直ぐさま何かを知っているであろうセルゲイに対して、何が起こっているかを問い詰める。
「セルゲイ! これは何ですの!? 貴方は何を知っていますの!?」
「こ、これは……私も知りません。私が知っているのは、今日、ヴィルヘルム陛下が召喚石を用いて、自分達の意に従う神をこの地に呼び寄せようとしている――と言うことだけです!」
ルイーゼの詰問に観念したセルゲイは、素直に今日行われることになっていた神の召還に関して、ルイーゼにその全てを打ち明ける。
「神をこの地に……? 何の為にそんなことを!?」
「自分達が新たな神となるためです」
簡潔に答えたセルゲイの言葉。
それを聞いて、ルイーゼは真実を悟る。
「まさか――アケロンは貴方達の――!」
「お姉ちゃん! あのドロドロに触れた人が!」
ルイーゼにしがみついたティナが、洪水のように流れる液体を指差す。
その先では、液体に触れた人が溶けて、液体に取り込まれる姿があった。
「ティナ! こわい!!」
「だ、大丈夫ですわ。お姉ちゃんが守ります! フレイムウォール!」
恐怖からルイーゼに縋り付くティナ。
人が液体によって溶けて取り込まれるという事態に、ルイーゼ自身も恐怖しながらも、妹を守るために魔法を発動した。
炎の壁に接触した液体はジュッと音を立てて蒸発して消え去る。
それを見て、希望を抱いたルイーゼは言う。
「魔法は効果がある……! あの液体を近づけないようにすれば……! フレイムウォール! フレイムウォール!」
次々と魔法を放ち、炎の壁を作る。
それによって洪水は一時的にせき止められるが、炎の壁を避けるかのように、洪水から触手が現れ、炎の壁の上から、ルイーゼ達に襲い掛かる。
「っ!? 触手っ!?」
「馬鹿な……!? 壁を避けて――!? く、ここは私が!!」
咄嗟にセルゲイが剣を抜き放ち、その剣に炎の魔法を這わせて、その触手達を次々と切り裂き、触手がルイーゼに近づくのを防ぐが――ぴちゃりと足下で水音がして、セルゲイは自らの失敗を悟った。
「なっ!? 足下に液体が……。……ここまでですか……」
触手は炎の壁の上から攻めるだけではなく、壁の横から静かに内側へと入り込み、地面にぶつかって液体として、セルゲイの足下に迫っていたのだ。
「私が言える立場ではありませんが……姫様……どうか、健やかに……」
「死んでは駄目ですわ! セルゲイ!!」
そんなルイーゼの言葉も虚しく、セルゲイは液体に溶けた。
ルイーゼは必死に魔法を使い続けるが、健闘も虚しく目の前に触手が迫る。
(もう……駄目……! ダーリン!!)
ルイーゼがそう諦めたその時、周辺一帯の液体が、天より降り注いだ炎によって、次々と焼き尽くされていった。
「こ、これは……!?」
「お姉ちゃん……ティナたちたすかったの?」
驚く二人の目の前で、一柱の神がその場に降臨する。
「アムレイヤ様……」
「……この辺りで無事なのは貴方達だけのようですね……」
周囲を見て、アムレイヤはそう口にした。
皇家の血筋で魔法に長けたルイーゼだからこそ、洪水のように襲い掛かる大量の液体や触手を防げただけで、帝都の一般市民ではそのような芸当は出来ない。
その為、ルイーゼが防いでいたこの一帯以外は、既に液体に飲み込まれ、大勢の命が液体に溶けてしまった後だった。
(遠い昔、あの人と一緒に住んでいた帝都がこうなるとは……)
勇者とともに帝都で夫婦として過ごした日々を思い出し、そして荒れ果てた今の帝都の光景を見て、思わず感傷に浸るアムレイヤ。
そんなアムレイヤ達の元に、炎によって散らされたはずの液体が、再びアムレイヤ達を狙って迫り来る。
「糸のように細く――!? っち!」
アムレイヤはそれを再び炎で消し飛ばそうして――糸のように細くなった触手を見て、討ち漏らしてしまう危険性を考え、咄嗟にルイーゼやティナと共に、まだ液体に襲われていない帝都の外周に転移する。
「知性は感じられない……ですが、こちらの行動には対応する……。まるで細胞……つまり、これは、一種の免疫機構というわけですか……」
アムレイヤはそう冷静に分析しながら語る。
そして、何かを諦めるようにため息を吐くと、遠方にいる他の神々への通話を開き、そして命令するかのように告げた。
「ここまでです。術を起動します」
『っ!? 待ってよ姉さん! 術の起動は帝都の人々を救助してからって話だったでしょ? まだ、助けられるかも知れない人が……!』
『やめろ、ハイセトア。アムレイヤだってそれはわかっている。……これは、もう無理だということだ』
「ええ、ウライトスの言う通りです。どうやらこれは、抗体を得るかのように、こちらの攻撃に対応する機能を持っているようです。このまま帝都の民を助けるために時間を掛ければ、その間に生まれる変異の仕方次第で、私達神ですら取り込まれるリスクが出てきます。……ここで私達の誰かが取り込まれてしまったら、一時的にであってもこれを止めることは出来なくなるでしょう」
そこまで言った所で決意を露わにするようにアムレイヤは言う。
「ですから、帝都は見捨てます……この決定に異論は認めません」
「待ってくださいまし! 帝都を見捨てるってどう言うことですか!?」
アムレイヤの会話を聞いていたルイーゼはそう叫んだ。
だが、その悲痛な叫びを受けても、アムレイヤは揺るがない。
「見ての通りです。もはや、我々の力を持ってしても、帝都の民を助けることは不可能。……皇族として様々な教育を受けている貴方なら、それがわかるでしょう?」
「――っ!!」
アムレイヤが言う通り、どう足掻いても助けるのは無理だと悟ったルイーゼは、帝都の人々を助けたいという感情と、それが不可能だという理性の間で苦しみ、何も言えずに言葉に詰まる。
「貴方はそこで目を瞑っていなさい。大勢を犠牲にして今ある世界を守る――それは私達、この世界の神の仕事です」
そんなルイーゼにアムレイヤは優しくそう語りかけた。
『俺はアムレイヤの決定に賛成する。全員、術の準備を』
アムレイヤに続けて、ウライトスが同様の決定を下し、帝都を見捨てて術を発動させる準備を始める。
『帝都に一番思い入れがあるのは姉さんと兄さんだ。その二人がそう決めたのなら、僕もそれに従うよ』
二人の覚悟を見たハイセトアはそう言い、同様に残りの神々も、帝都の救助を諦めて外周部に転移して、手に持った神器を地面に突き刺した。
『準備は出来たぞアムレイヤ!』
「わかりました!」
そう言うとアムレイヤも神器を地面に突き刺し、叫ぶ。
「今ここに七色の神々の名をもって! 世界を守る! 破邪の結界を生み出さん! 起動せよ――! 六柱封陣!!」
アムレイヤの術の起動と同時に、帝都を六角形で囲むように配置された神器から、半透明な壁が現れて、帝都を囲んでいく。
それは地上だけでは無く、空中や地下まで及び、帝都全体を六角形の多面体のような結界で、完全に封じてしまった。
神器に力を込めていたアムレイヤはその結界の完成を見ると、神器から手を離し、半透明な壁の先にある現在の帝都の様子を見る。
「あの子の話だと一年は持つように作ったとのことでしたけど……」
ガンガンと何度も結界にぶつかり、その度に何らかの変化が生じるマーブル模様の液体を見て、アムレイヤは考えを改める。
「この様子だと持って二、三ヶ月というところでしょうね……」
世界を滅ぼす厄災を前にあまりにも短い残り時間。
それを理解して、アムレイヤは己の気を引き締め直す。
「直ぐにでも行動しなければ……」
そう言ってアムレイヤが振り返ると、もはやマーブル模様の液体しか見えない帝都を見て、ルイーゼは絶望したように地面にへたり混んだ。
「残念ですが帝都は――いえ、エデルガンド帝国は滅びました」
ルイーゼとティナに、アムレイヤは端的にそう事実を告げた。
「ここに居ても何もありません。さあ、私と共に行きましょう」
そう言って、ルイーゼに手を貸す。
ルイーゼが立ち上がり、別場所に転移する直前――帝都の方へと再度振り返ったアムレイヤはぽつりと呟いた。
「これが異界神獣――墜ちた神のなれの果てですか……」
アムレイヤはその言葉だけをその場に残すと、転移で別場所に移動した。