エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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世界会議

 

 フェルノ王国王城の大広間。

 大勢の者を収容するために、急遽会議室へと変えられたその場所に、俺とクリスティアはやってきた。

 

「各国から人を集めるって話だが……もう、随分集まっているな」

「神々が転移魔法で各地から要人を送ってきているからな。この分だとそう時間もかからずに、会議を始めることが出来るだろう」

 

 既に会場は大勢の人で賑わっていた。

 そこには様々な服装をした者達で溢れており、一目でこの国ではない各地から連れてこられたと言うのが見て取れた。

 

 そうやって、周囲の人々を見ていると、見知った顔に気付く。

 

「ん? あれは――」

「これは! これは! 我等が神! フレイヤフレイ様!」

「む? フレイ殿かのう?」

 

 俺が気付くと同時に、その人物達――ゼノスとヨーデルも、俺の事に気付き、こちらに向かって声を掛けながら歩いて来た。

 

「魔族や竜族まで呼ばれているのか」

「はい、アムレイヤ様に呼び出されました」

「本当に、ここ最近は騒動が続くのう……」

 

 世界的な会議を行ったとしても、基本的に参加せずに我が道を行く種族すらも、会場に招集されていることに素直に驚く。

 

「と言うか、魔族はアムレイヤ様の命令でよく参加したな」

 

 他の殆どの種族と違って魔族は七彩の神を信仰していない。

 だからこそ、今回の招集を無視する可能性もあったはずだ。

 

「我等が神もこの会議に参加すると言うのなら、その信者である私達が参加しないでどうするというのですか!!!」

 

 信仰でガンギマリした目で迷い無くそう言い切ったゼノスから俺は目を逸らす。

 

 そう言えば、プリシラが時々、「ちょう――里帰りに行ってきます」とか言って、魔王国に帰ってたみたいだけど、その成果がまさかこれなのか……。

 

 俺がゼノスの変わりように慄いていると、ゼノスはこの場にいる自分以外の魔族を指差して言う。

 

「それにほら、私以外の魔族もこのように参加しております」

「……あの魔族は会議が始まる前に何であんなにボロボロなんだ?」

「あれは魔王国とは違った場所で魔族を率いている魔王のようですが、恐れ多くもアムレイヤ様に逆らって、わからされてしまったようですね。まったく、己の実力もわからず神に逆らうとは嘆かわしい。ああはなりたくないものです」

 

 やれやれと言った顔でそう言うゼノス。

 俺はもともとお前も似たようなもんだろと思いつつも、それについては口を出さずに、再度周囲を見渡す。

 

「国の王でなくても、一定以上の地域に影響力があれば呼ばれているのか」

「確かに……王だけではなくロンベルク商会のような豪商もいるな」

 

 今やこの国一番の商会となったロンベルク商会のジーナスが、こちらが見ていることに気付き、ぺこりと頭を下げる。

 俺はまた銀仮面が云々という話を持ち出したくなくて、ジーナスに話しかけないように、クリスティアに向かって言った。

 

「そろそろ、俺の席に案内してくれ」

「ああ、わかった」

 

 そう言って俺は集まる人々に目を向けながら奥の席へと向かう。

 

 あの和服を着た無精髭の人は、神威列島の桐生将軍か、それとあっちのドワーフは鉄塊王国のガンダング王で、その隣に居る猫獣人は獣牙連邦のキャロル、そしてあそこに居る法衣を着た老人は聖王国のクリストフ王か……さすがに有名どころの王族は何奴も此奴もゲームで見たことがある顔だ。

 

 その国を冒険する過程でアレクと関わる王達。

 加えて、アレクやアリシアの攻略対象であるものも、その一団の中には含まれていた。

 

 俺はその錚々たる面々に、今回の事態のやばさを実感しながら、「主催である私とお前はここだ」と言う案内に従って、クリスティアの隣の椅子に座る。

 

「……」

 

 誰もが事態の重々しさに、席が埋まり始めるにつれて、情報収集の為に小声で話すことも少なくなり、ただじっと面子が揃うのを待ち始めるようになる。

 次々と神々が転移魔法によって、各国の王族を連れてくる中で、エルフガーデンの女王であるメリエスがその場に現れた。

 

「何これ~! マジで、辛気くさ!」

 

 部屋の様子を見たメリエスは開口一番にそう言い放った。

 それによって、部屋の空気が凍る。

 

「お主という奴は……いつもいつも、そんな態度しか取れんのか!」

 

 叱るようなガンダングの言葉に、メリエスは嘲笑いながら言う。

 

「おっさんが何か粋がってんだけど! マジで受ける~!」

「ワシがおっさんなら、お主はババァだろうに、腐葉土のような腐った臭いがプンプンしておるわ!!」

「ああん? そういうテメーは錆び鉄くせーんだよ!! 錆びた老いぼれなら、そのまま溶鉱炉にでも沈んでろ!!」

 

 いがみ合うようににらみ合う二人。

 どうやら、大半のファンタジーものと同じように、エルフとドワーフは仲が悪いらしい、ただ――。

 

 キャバ嬢のような盛り盛りの髪をした女と、きちんとした礼服に身を包んだドワーフが口論していると、非行に走った娘を叱る父親感が出て ファンタジー感が急速に減っていくな……。

 

 ファンタジーってなんだろ? と俺が遠い目をしていると、遂に全ての転送が終わったのか、七彩の神が自分の席に着き始めた。

 それを見て、さすがに口論を止めて、メリエスも自席へと向かい、全員が席に着いたのを確認した後、アムレイヤが会議の参加者に向かって言う。

 

「では、これより、会議を――」

「まて、まだ帝国の者が来ていないようだが?」

 

 会場の中にヴィルヘルムの姿がないことに桐龍が気づき、アムレイヤに向かってそう問いかけた。

 それに対して、アムレイヤは沈痛な表情で答える。

 

「……帝国は昨日、滅びました」

「っ!? 帝国が滅びただと……!?」

 

 ざわざわと会場全体が騒がしくなる。

 

「我が国は少なくとも昨日の朝までは帝国とやり取りをしているぞ?」

「あり得ない。あれほどの国が一日で滅ぶなど」

「ロイド王は、何かご存じか?」

「いや、わしは何も……そういうそちらはどうじゃ?」

 

 あちこちでそんな会話が繰り返される。

 帝国はこの世界で最大の国家だ。

 それが滅んだとなれば、これほどの騒ぎになるのは当然だった。

 

「馬鹿な帝国が滅びるなど……」

「でも、それなら、今回の議長国がフェルノ王国だってことにも納得がいくな」

「それは……確かにそうか。本来、とりまとめを行う国が滅んだからこそ、うちにその役割が回ってきたのか……」

 

 俺もクリスティアとそんな風に小声で話し合う。

 俺達以外も小声で会話を続けていたが、埒があかないと思ったのか、とある国の王が代表して、アムレイヤへと聞いた。

 

「アムレイヤ様……一体、エデルガンド帝国に何が……?」

「そうですね。ことの起こりから話そうと思いますが……まずは今の帝都の状況を見て貰うのが速そうですね」

 

 そう言うとアムレイヤは水晶を手元に取り出して机に置いた。

 その水晶に見覚えがあった俺は思わず立ちあがって叫ぶ。

 

「映像水晶!? 何でここに!?」

 

 そこまで言ったところで、俺は周囲の目線が集まっていることに気付く。

 

「いや、これは……」

 

 俺は慌てて言葉を取り繕うが、それより先にアムレイヤが自らが取り出したその水晶について説明を始める。

 

「貴方のところで良さそうな物を作っていたので今回の為に拝借しました。この水晶は通信水晶を元にしたもので、映像も含めて情報を送り合うことが出来るのです」

 

 アムレイヤの言葉に、各国の王族や商人達がその利便性や危険性に気付き、「ほう……」とか「なるほどのう……」とか言って、俺の方をジロジロと見始める。

 

 それはクリスティアも同じらしく、ジト目になって俺を見て言った。

 

「そんなものを国に黙って作っていたのか?」

「え、ま、まあ……」

 

 俺は歯切れが悪く、そう答えた。

 

 集団の運営や活動において、通信網の充実というのは大きな影響力がある。

 それこそ、作物の不作豊作と言った情報や、現地で必要とされている物資に関する情報などを知れれば、他の商人よりも速く取引が出来るし、戦争においても、相手がどう布陣しているかを知ることが出来れば、その裏をかくことも可能になる。

 そう言ったことを今までは音声だけで行っていたが、それに映像まで付加出来るようになれば、より詳細な情報を得ることができ、経済的、軍事的な優位は他の集団を圧倒するほどのものとなりかねない。

 

 それを考えれば、この価値がわかる者なら、何をしてでも欲しい技術だし、同時にそれを扱っている相手が居るとなれば、当然警戒の対象になる技術でもある。

 俺もそれがわかっているからこそ、缶詰などの映像水晶と同じように現代知識を元に無窮団に作らせた他の技術とともに、いずれ来たる戦争で圧勝するために、軍事機密として情報を秘匿してきたのだ。

 

 それをあっさりとバラしやがって……!

 だが、まあ、世界の危機への対応で必要と言うのなら、仕方がないか……。

 

 俺は自分を無理矢理そう納得させて、席に座ってアムレイヤの行動を待つ。

 アムレイヤが映像水晶を操作すると、空中にSF映画であるような画面が表示され、そこに現在の帝都の状況が映される。

 そこではマーブル模様の液体が帝都を埋め尽くし、結界と思われる半透明の壁に何度も体当たりを行っている光景があった。

 

「何だあれは……泥……か?」

 

 見ていた者達から困惑の声が上がる。

 マーブル模様の液体に覆われて、帝都での生存者の姿は見えない。

 

(帝国が滅んだって言っていたが――この様子だとルイーゼやシルフィーも含めた帝国に居た攻略対象達はみんな死んでしまったのか……)

 

 俺はそんなことを思いながらその光景を眺める。

 このイベントを知らない以上、俺がこの出来事を防ぐのは不可能だったと思うが、それでも知っている相手が死んだということには思うところがあった。

 

「あれこそは、墜ちた神のなれの果て――異界神獣です」

「墜ちた神のなれの果て?」

 

 参加者の誰かが言ったその言葉にアムレイヤは頷くと言う。

 

「それでは話しましょう。帝都で皇帝たちが何をしていたのかについて――」

 

 そしてアムレイヤは語り出した。

 エデルガンド帝国が影で行っていた、異世界から自分達に取って都合の良い神を召喚石の力を使って呼び出すという恐ろしい計画とその末路の話を。

 

「馬鹿が。神とは大いなる力そのもの。それを御せると思い上がるとは……」

 

 独自の文化を持つ神威列島の桐生将軍は、事情を聞き、そう吐き捨てる。

 俺はその言葉に内心で同意する。

 

 前世の世界でもギリシャ神話とか神話は結構あったが、その殆どで人間側は振り回されて理不尽を受けるようなものばっかだもんな……。

 感情があるから御せるのかも知れないと思ったのかも知れないが、感情があるからこそ横暴に拍車がかかって、より悲惨な結末になることもある。

 そう言ったことを考えれば、自分より遥かに強大な力を持った相手を言い様に動かそうとした時点で、皇帝たちの破滅は決まっていたのかも知れない。

 

「それで呼び出された神が異界神獣という事ですか?」

「いえ、恐らくは他の神を呼び出そうとして開けた穴を、異界神獣に横取りされて使われたということだと思います」

「なるほど……結果的に皇帝達の目的とは違った神が現れたってことか……」

 

 召喚石を使って呼び出したのが異界神獣とか言う墜ちた神なのかという俺の問いに、アムレイヤは呼び出した神とは別の神が、召喚石によって出来た穴を利用してこの世界に現れたのだと告げる。

 

 まあ、何処からどう見ても、皇帝たちの目的に合致しない存在だしな……。

 

「その通りです。結果的にヴィルヘルム達の行いは、この世界に厄災を招くだけで、何の意味もありませんでした」

 

 ヴィルヘルム達に対するアムレイヤの辛辣な言葉が飛ぶ。

 まあ、この世界を管理している側からして見れば、自分達に成り代わろうと勝手をしたあげく、世界の危機を招いているのだから、辛辣にもなるというものか。

 

「厄災か……あの異界神獣というのはそれ程のものなのですか? 神であるあなた方がこうして世界中の者を招集しなければいけないほどに」

「ええ、あれは世界そのものですから、ただの神である私達だけでは、勝てない可能性が高いと判断しています」

「世界そのもの? 神なのではないですか?」

 

 神と世界は別物だ。

 だからこそ、先程までは墜ちた神と言っていた異界神獣に対して、世界そのものだと言うアムレイヤの発言が気にかかり、俺は思わずそう問いかけた。

 

「どちらも正しいのです」

 

 俺の疑問にアムレイヤは迷い無くそう答える。

 そして、参加者の理解が及んでいないのに気付くと、彼らに向かって言う。

 

「説明の為にまずは世界の有り様について話しましょうか」

 

 そう言うとアムレイヤは土魔法で大地の模型を生み出す。

 

「このように様々な資源があり、生物が存在できる土台が世界です。創世神は多くの生物が繁栄出来る場所として、このように世界を作成しますが……これだけではその世界は、この世界のように人々が自由に生きられる環境とはなり得ません」

「資源があるのなら、人々は生活を営めるのではないですか?」

 

 アムレイヤの言葉に参加者から質問が飛ぶ。

 それに対してアムレイヤは首を振った。

 

「それは無理です。何故ならその世界にはルールがないからです」

「ルールがない?」

「生物の生死はどうなっているか、物体の動きなどの物理法則はどうなっているか、それぞれの種族にはどんな特性があるか、ジョブなどの人が成長するために仕組みにどんなものがあるか――そう言った世界の特徴を定めるルール」

 

 そこでアムレイヤは一息をつくと言う。

 

「これらが無ければ、その世界で人は生きられません。何故なら、資源はあくまでただの資源、それを活かすための法則が無ければ、何にもならないからです」

 

 まあ、言っている事は何となくだがわかる。

 要は素材が幾らあっても、それを纏めるシステムが無ければ、その世界を冒険するゲームは完成しないってことだろう。

 

「そしてそれらの法則を定め、運用して維持する者こそが、主神と呼ばれる世界神なのです」

「つまり、この世界のあらゆる法則は、主神である神が決め、そしてその施行も神自身が担っているということですか?」

「ええ、そうですね。もっとも、世界の法則に関しては、基本的に元からあるテンプレートを使うことが多く、主神であろうとも改変には手間がかかり、更に世界を作成した創世神の意向などの影響も受けるので、主神が決めたというと少し語弊があるかも知れませんが……」

 

 言外に運用はしているが法則を自分達が決めたわけじゃないというアムレイヤ。

 そんな彼女は続けるようにして言う。

 

「異界神獣に纏わる話として大切なのは、主神という存在が、この世界の法則などの運用と管理を行い続けているということです。主神が何らかの形で機能不全に陥ってしまえば、この世界の法則が狂い出す原因になりかねません」

 

 つまり、世界はサーバーで、神はそこにある資源を利用して、サービスを提供するプログラムと言った感じってことか。

 だからこそ、プログラムがおかしくなると、世界が人々に提供する法則――サービスが滞るようになり、世界の崩壊に繋がってしまうと。

 

「だからこそ、主神にはそれを防ぐ為の機能があります。それは世界を喰らって体力を回復させることで、世界の運用を正常化させようとする働きのことです」

「世界を……喰らう? それって、あれと同じ事ですか?」

 

 俺は思わずアムレイヤにそう聞き、映像に映る異界神獣に目を向けた。

 何かを次々と喰らっていくという特徴は、まさにあのマーブル模様の液体と同じものではないかと考えたのだ。

 

「ええ、そうです。主神は何らかの事情――異世界からの侵略者との戦いや、大勢の世界を憎む人々の憎悪などで、その体にダメージを負うと、自動的に自らが管理する世界の存在を喰らいます。初めは消化しやすく栄養素も多い生物を喰らい、余力が出始めると無機物なども喰らい始めます。そうして、自分の体力回復と同時に管理する世界を減らすことで、世界を自分が管理出来るものに直そうとするのです」

 

 なるほどな……自分が管理する資源を使って回復をすれば、余所に損失を出すこともなく、更に自分がこれから作業しなければならない量も減らせるってことか。

 

 確かにそれは効率的なやり方だが――。

 

「世界を憎む人の憎悪は神に取っては毒になるんですよね?」

「ええ、もっとも、普段の状態であれば、何十億と言った人が、心の底から世界を憎み続けていないと毒と言えるほどのダメージは与えられませんが……」

「普段の状態であればと言う事は、弱っていたら少量でも憎しみは毒になるってことですよね? だとしたら、無闇矢鱈に世界を喰らったら、結果としてその毒を自分から取り込むことになってしまうんじゃないですか?」

 

 俺のその問いに、アムレイヤは沈痛な顔をして答えた。

 

「……そうですね。そして、それこそが主神が墜ちた神になる原因――異界神獣へと変化してしまう原因にもなっています」

「やっぱり、そう言うことか……」

 

 俺はその事実を聞き、思わず頭を抱えながら、そう呟く。

 何故なら、気付いたことが正しいなら、これは俺達に取って、想像以上の問題となり得るからだ。

 

「ん~どういうこと? アタシにもわかるように誰か説明して!?」

「つまり、体力回復の為に食べた食べ物に毒があるってことだよ」

「?? それがわからないんだって、毒があるから如何したっていうの?」 

 

 キャロルは首を傾げながらそう答えた。

 この会場では俺以外の何人もの人が、俺が到ったのと同じ結論に気付いたのか、険しい顔をしているのが見て取れるが、俺はキャロル以外のわからない者への説明もかねて、キャロルに問いかける。

 

「それじゃ、その毒で体が弱ったらどうなる?」

「どうなるって、また新しい食べ物を食べて体力を付けるんじゃ……」

「じゃあ、その食べ物にも毒があったら?」

「それは別のものを食べて――あっ!」

 

 そこまで言ったところでキャロルはその考えに気付く。

 そして、思わずと言った形で声を張り上げた。

 

「ずっと毒があるのなら、食べ続けることに終わりがない!」

「キャロルの言う通りです。主神は自動的に世界を喰らいますが、それで取り込んだ人々の中に憎悪と悪意があれば、その毒に対抗する為にまた世界を喰らいに行かなければなりません。そうして次々と世界を喰らい続けてしまえば、やがて主神自体の自我も、そう言った人々の憎悪と悪意の中に消え、主神を生かすために世界を喰らうという機能を実行だけの知性も無いただの獣に成り果てます」

 

 自分が管理する資材を使って自分を回復させる。

 それは損失が少ない形で、更に今後の管理も減らせる、効率的で有効な手だと思われていたが、自分が管理する資材が全て不良品だと、自らを回復させるという目的も果たせずに、次々と資材を消費するデスループに入ってしまう……そう言った最悪の一手にもなり得るということだ。

 

「そうやって、自分の世界の全てを喰らい尽くし、それでもまだ足りずに新たな餌を求めて異世界を彷徨う獣――それこそが墜ちた神、異界神獣なのです」

「つまり、相手は自分の世界を丸々飲み込んだ化け物ってことか……」

 

 アムレイヤの言葉を聞いた桐生が思わずと言った形で呟いた。

 それを聞いたその場にいる者達も、この危機的な状況に、誰もが口を開くことが出来ず、重苦しく押し黙ってしまう。

 

 そんな中で聖王国のクリストフが自分達の神に聞く。

 

「我等が神が勝てない可能性が高いと考えるのは、あちらも、あちらの世界の神を大量に喰らった存在だからということですかな?」

「そうですね。向こうにどれだけの神が居たかは定かではありません。ですが、世界を運営していたというのなら、こちらと同数いても不思議ではないでしょう。その全てを取り込んだ相手に対して、私達は力を主神に預けて弱体化しています。まともに戦って勝てると思うほど、私達は状況を楽観視していません」

「なるほど……」

 

 アムレイヤの回答を聞いて、クリストフはそう言って考え込んでしまう。

 そんな中で、今の会話を聞いていた一人の参加者が、良い考えを思いついたといった雰囲気で、突然声を張り上げた。

 

「そうだ! 他の神々の力を受け取った紫の神なら、あの異界神獣とか言うのも圧倒することが出来るんじゃないのか!?」

「いや、それは駄目だ。下手をしたら主神が傷付いてしまう」

 

 俺は思わずその言葉を否定した。

 

 ――そう、これこそが、先程の話が示していた爆弾。

 主神が傷付き異界神獣になってしまう可能性は、あちらの世界だけではなく、こちらの世界でも起こりえることなのだ。

 

 それを考えれば、主神を無闇矢鱈に戦場には出せない。

 もし、敵に打ち勝つことが出来たとしても、その代償として主神が大きな傷を負えば、デスループによって世界を食い尽くされて結果的に負けになるからだ。

 

 つまり、主神が戦うこと事態がリスク――。

 俺達は、強大な力を持った存在に頼らず、この世界を守るということを実行しなければならないと言う縛りを課されているということなのだ。

 

 ラスボスと戦える最強キャラを使わずに、ラスボスを倒せとか、こんなんただのクソゲーだろう……。

 

 俺はそんなことを考えつつ、先程の発言に言葉を足していく。

 

「相手に勝てたとしても、その後はこの世界の神が異界神獣になる可能性がある。主神を戦場に出すのは、最後の最後、もう打つ手がなくなってからだろう」

「そ、そうか……! クソ……!」

 

 声を張り上げた参加者が悔しそうにそう言って、発言を取りやめる。

 その様子を見ていたアムレイヤが、俺の発言を肯定するように言う。

 

「そうですね。迂闊にあの子に先陣を切らせると、ミイラ取りがミイラになってしまう危険性は高いです」

「あの……アムレイヤ様。他の世界ではどのようにして、この異界神獣に対応しているのでしょうか?」

 

 参加者の一人がアムレイヤにそう問いかける。

 俺はその発言を聞いて、この世界に紐付いて異世界を知らないアムレイヤに聞いても無駄では? と思ったが、この世界を作るときに知識が埋め込まれているのか、アムレイヤはスラスラとその問いに答える。

 

「他の世界では、戦神という戦を司る神を用意し、その神に戦いを委ねるようです。言ってしまえば、主神という王を守る将軍と言ったところでしょうか」

「それはこの世界では……」

「ないです。こんなことなら、私達の世界も戦神を用意して置くべきでした……」

 

 そう言ってため息を吐くアムレイヤ。

 そしてその目は何故か俺に向かって向けられた。

 

「な、なんですか……」

「ただ……私は期待しているのです」

「期待?」

 

 唐突に目を向けられて困惑する俺にかけられた言葉。

 それに対して、興味深げに他の参加者が聞き返す。

 

「世界に危機が訪れる直前で、貴方が新たに神になったのには、何かしらの意味があるのではないかと」

 

 神に選ばれた意味とか言ってるけど、そもそもあんた達が選んだんだから、そんなものは普通にないんじゃね? と俺は正直思ったが、口には出さないでおく。

 

 そうしていると、続けるようにしてアムレイヤがこちらに話を振ってきた。

 

「銀の神フレイヤフレイ。貴方ならこの事態への対応策として、何かしらの策を思いついているのではないですか?」

 

 いや、そんなことを聞かれても正直困るんですけど!?

 

 俺はそこで周囲を見渡した。

 誰も彼もが、この絶望的な状況の中で一筋の光を見つけたかのように、俺の回答を固唾を呑みながら待っている。

 

 ここで迂闊に何もないと言えば、士気はがた落ちだよな……。

 

 ぶっちゃけ、異界神獣への対策を行うこの会議は行き詰まっている。

 ここに居る誰もが、ただの人の力だけで、あの世界を飲み込んだ化け物を倒せるとは考えていない。何かしらの超常的な力や、或いは常識を覆すような奇策がなければ、状況を打壊することは不可能だと思っているのだ。

 だからこそ、それを七彩の神に求めたが、七彩の神が自分達にその力がないことを正直に話してしまったことで、彼らには縋り付くものがなくなってしまった。

 故に、まやかしであろうとも、ここで勝利に繋がる可能性を見せなければ、異界神獣と戦う前にこの世界を救うための連合は崩壊するだろう。

 

 実際にその力がないということを伝えるのは必要なこととは言え、もうちょっと上手い誤魔化し方とか出来なかったのかよ。

 

 俺はアムレイヤの雑な対応に思わずそう憤る。

 この世界で最強の存在が、自分達じゃ対処出来なさそうですと、人を集めるだけ集めて対処を丸投げしたら、いたずらに絶望が広がるだけだろうに。

 

 俺はそこまで考えたところでふと気付く。

 

 いや、むしろ、今までは神として自分達よりも強い敵や、自分達では解決出来ない問題がなかったからこそ、そう言った事態が起こった時の行動の仕方がわからなくて、こんな雑な対処をするしかなかったのか?

 

 まあ、今更そんなことを考えても仕方ないか……。

 

 ともあれ、今は何かしらの筋道をこの場で建てないと不味い。

 だが、俺はインフィニット・ワンでこのイベントを体験していない。

 つまり、この出来事をの正答を知らないわけだ。

 

 今までのようにゲーム知識を頼りにクリアすることは難しい。

 俺は必死で今回の事態に対する対応方法を考える。

 

 アレクを使うか? これが最後のDLCのイベントだというのなら、アレクを矢面に立たせれば、上手いことゲームのようにクリアしてくれる可能性も……。

 

 ――いや、駄目だリスクが高すぎる。

 

 転生者である俺という存在が、この世界で活動しまくったせいで、様々なバタフライエフェクトが起こる形となってしまっている。

 この状況では、例えイベントを進められるのだとしても、原作通りに進める事は難しく、勝利の過程でどれだけの被害が出るかわからない。

 

 そもそも、ゲームの段階での勝利の形もわからないのだ。

 これがもし、『異界神獣との争いで大量にモブが死んで世界は滅びかけましたが、何とか異界神獣を倒すことは出来ました。これからは王として生き残りの人類を纏めて、アレクが世界を引っ張っていきます』的な終わりだった場合、アレクに任せていたら甚大な被害がこの世界に出てしまう可能性がある。

 

 迂闊にアレクに任せるわけにはいかない。

 この世界の人達は解決策を持っていない。

 

 だからこそ、ゲーム知識がある俺が、その知識を利用して、この世界のピンチを何とかする方法を思いつかなければ、正直言ってかなり不味い状況にあるのだ。

 

 ん? そうだ! この世界に異界神獣を倒す術が無くても異世界なら――!

 

 必死で考えていた俺は、とあることを思いつき、意を決して言った。

 

「対応策として思い当たるものはあります」

「本当ですか!?」

「ただ! そうであったとしても、この世界の人々全ての協力は必要です。俺は神とか言われるようになっていますが、実際にはそんな強力な力は持っていません。異界神獣相手に個人で無双出来るとは考えていません」

 

 俺は解決策があると言いつつも、同時に釘を刺すことで、全てを俺任せにして、何もしないということをさせないようにする。

 全てを俺任せにしようとしていた何人かの者が、俺の言葉に嫌そうな顔をしているのが見えたが、俺はそれを無視する。

 

 俺は何でもかんでも無双出来るような物語の主人公じゃない。

 だからこそ、使える手は何でも使うし、その為に容赦はしない。

 嫌な顔をしても、無理矢理にでも協力して貰うからな……。

 

「その対応策とは一体なんだ?」

 

 桐生が俺に向かってそう問いかけてくる。

 

「それについて答える前に――アムレイヤ様に幾つか質問したいことがあります」

「なんでしょう?」

 

 世界を救う方法があると俺が言ったからか、にこにこと上機嫌な様子で、俺の言葉にアムレイヤがそう返答する。

 

「帝国は滅んだと聞きましたが、この映像を見る限り、帝都が滅んだだけですよね。残りの帝国の大部分は今どう言う状況にあるんですか?」

 

 俺のその言葉に「確かに……!」とか「それもそうだ……!」と、異界神獣と言うとんでもないもので頭が一杯だった何人もの参加者が、帝都以外の帝国の状況に気付き、俺と同じようにアムレイヤに視線を向けた。

 

「……それがどうやら、それぞれの地方領主が独立して、新たな国を名乗って覇権争いを始まってしまっているようなのです」

「き、昨日の今日でですか!?」

 

 俺は思わずアムレイヤにそう返してしまった。

 昨日帝都が滅んだばかりなのに、もう帝国に見切りを付けて、国盗り合戦を始めるとか、行動が早すぎるだろう……!?

 

「馬鹿ななのか其奴らは……」

「まったくだ……!」

 

 桐生が呆れたようにそう言い、ガンダングが怒りを露わにする。

 一方でつまらなそうにしながら、冷静に語ったのはメリエスだ。

 

「はっ! 誰も責任取りたくなかったんしょ」

「なるほど……帝国の名を継げば、世界滅亡の危機を生み出したという汚名も引き継ぐことになる……そうなれば戦費の負担や賠償などの話も出てきてしまう。だからこそ、すべてを捨てて、自分達の国を建て始めたということですな」

 

 メリエスの言葉に対して、クリストフが補足をするようにそう語る。

 

「今回はまだ混乱が続いているので彼らは呼びませんでした。……下手に連れてくると神が建国を認めたと、そう政治利用される可能性もありましたから」

「それ大丈夫なんですか……? もってあと二、三ヶ月なんですよね? 結界。 このままだと元帝国の大部分が決戦に参加しないってことになるんじゃ……」

 

 帝国はこの世界で最大の国家だっただけあって、帝都を除く支配地域もかなり広いものになっている。

 正直に言ってしまえば、この会議に参加している下手な小国家が束になっても、帝国の一領主の領土に勝てない可能性すらあるのだ。

 それらの全てが異界神獣への対策に参加しないとなれば、この世界側の戦力は大きく落ちて、最悪戦力不足で敗北に繋がりかねない。

 

 俺のその心配を受けて、アムレイヤは安心させるようににこりと笑う。

 

「大丈夫です。言って聞かせます」

「いや、言って聞かせるって……」

「世界の危機に協力できない国など、国ですらありませんから……。大丈夫です。彼らにはしっかりと私が言って聞かせます」

「……」

 

 有無を言わさないというアムレイヤの態度。

 この会議を抜けたらどうなるんだと、会議参加者の国が戦々恐々とする中で、俺はほっと胸をなで下ろした。

 

 今回の対異界神獣に関しては、神の権限を使って、覇権争いで戦争をしている国であるとしても強制参加ってことか、これなら逃げられて戦力が低下するってことは、考えなくてよさそうだな。

 ……まあ、この戦いが終わったら、まず間違いなく、帝国の後釜を狙って、大陸の覇権争いを目的にした大戦争が勃発することになるだろうけど……それはもう考えないようにするしかないな……。

 

 今後のことに頭を痛ませながら、俺は話を先に進める。

 

「次は異界神獣に取り込まれた人々についてです。彼らは異界神獣と同じように泥になって取り込まれたという話ですが――それを元に戻すことは出来ますか?」

 

 一見すると、帝都の人々を救い出す方法を聞いているように見える俺の言葉。

 だが、その目的は、むしろ逆のものと言える。

 

 ――俺は、神々から、この場で彼らを救い出す方法がないと言う、言質を得ようと考えて、この質問を投げかけたのだ。

 

 世界最大の都市である帝都には大勢の人々がいた。

 その中には、各国の有力者の親族や、様々な分野の著名人など、世界に影響力を多く持つ者の関係者が多く含まれている。

 だからこそ、異界神獣に取り込まれた彼らを何とかして救い出して欲しいと、声高にそう叫んで様々な方法で世論を誘導する者が現れるかもしれない。

 

 あんな泥になって取り込まれた奴が蘇られるとは到底思えないが、全ての人達が異界神獣の詳細について知れるほど情報技術は発達してないし、この世界には魔法なんて不可思議なものもあるため、もしかしたら何とか出来るのではないかと、理性では不可能とわかっていても、認められずに縋ってくる人はいるだろう。

 そもそも、魔法のようなものが無かった前世でも、実際に不老不死とか死者蘇生とか、そういうのを求めて行動した者達は存在している。

 大切な誰かが理不尽に奪われ、そんな状況でほんの少しでも希望が見えれば、どんなことをしてでも、それを成して取り戻そうとするのが人というものだ。

 

 故に俺はここで明確にそれは無理だと証明したかったのだ。

 助けられるかも知れないから、あの泥の部分があの人かも知れないから、それを避けて異界神獣を倒して、何て言われて、それが実行できるとも思えない。

 

 ぶっちゃけた話、勝てるかもわからないこの状況で、余計なハンデまで付けられるのはゴメンなのだ。

 

 そんな思いが込められた俺の一言。

 それに対してアムレイヤは答える。

 

「異界神獣を覆っている泥は、言ってしまえば異界神獣が消化出来なかった食べ残しが、異界神獣から逃れることが出来ずに纏わり付いているもの……。そのため、あの泥には食べ残された思念――人々の意識が残っている可能性はあります」

 

 食べ残しって――そう言われるとあの泥がアレな感じに見えるんですが……。

 

 俺はアムレイヤの言葉に思わずそんな気持ちを抱く。

 同じように微妙な表情をしているものが覆い中で、唖然とした表情でメリエスがぽつりと呟く。

 

「は……? 取り込まれた奴って意識あんの?」

「ですが……肉体が完全に滅んでいることを考えれば、泥となった人々を元に戻して救い出すというのは不可能だと思います。異界神獣の中心――世界を喰らう機能のコアとなっている主神なら、まだ可能性はありますが……」

 

 メリエスの言葉が聞こえなかったのか、続けて言ったアムレイヤは、異界神獣となった者を元に戻すことは不可能だと断言した。

 

 よしよし、狙い通りだな……。

 

 俺がそう考えて次の質問に移ろうとしたその時、ダン! っと机を叩いて、メリエスが立ちあがると、アムレイヤに向かって言う。

 

「ちょっとアムアム! あんな泥になっても意識があるっての!?」

「あ……アムアム……」

 

 あんまりな呼び方に思わずアムレイヤが唖然とする。

 それを見たガンダングが思わず言う。

 

「不敬だぞ! メリエス!」

「うっせ! おっさんは黙ってろ! 今大切な話をしてんだよ!」

「む……!」

 

 世界の危機に対するこの会議でも、他人事のように興味なさげにしていたメリエスの真剣な態度を見て、ガンダングは思わず押し黙る。

 

「それで!? アムアム! 答えは!?」

「……先程も話した通り、あの泥は異界神獣が消化出来なかったものが、溜まってできたものです。そして異界神獣が消化しきれないものを考えれば、それは異界神獣に取って毒になり得る人の意識の類いの可能性が高いと私は考えます」

 

 毒だから食べきれずに吐いた。

 だが、食べたことは事実だから、主神を治療する機能に従い、それは肉体を修復するために体に纏わり付いた。

 

 ……確かに筋は取っているな。

 

 つまるところ、あの泥は異界神獣に食われた人々の意識の集合体であり、同時に異界神獣の一部でもある厄介なものってことだな……。

 

「あんな泥として永遠に生き続ける……? ふざけんなよ……! そんな目に合ってたまるか――!!」

 

 目が据わった様子でそう呟くメリエス。

 その目が俺へと向く。

 

「本当に何とか出来るんだろうなぁ!? フレフレ!」

 

 ギャルはギャルでも、キャバ嬢からヤンキーにクラスチェンジしたかのように、俺を威圧するかのようにそう問いかけるメリエス。

 それを見て、驚いたガンダングは思わず言う。

 

「ど、どうした!? 何時もと意気込みが違うようだが!?」

「確かに各国で決まり事を作るために会議をしても無関心で、決まり事が決まったとしてもまるで無視するエルフ族がどう言った風の吹き回しだ?」

「長い時を生きる苦しさはエルフが一番わかってる! つーか、アンタらは理解してんの? あーしらが、負けてこの世界がアレに取り込まれたら、あの泥の一部として、自分の意思では何も出来ない日々を永遠と過ごすことになるってことをさ!」

 

 アムレイヤの一言で、その事実に気付き恐怖したのか、多くの人々の目線が本当に大丈夫なんだろうなと俺に向く。

 正直に言えば、本当に大丈夫かはわからないが、それを見せることも出来ない俺は、自信満々な態度を取りながらも、次の言葉へ繋げる。

 

「ええ、何とか出来ると俺は考えています。そしてそれを証明する為にも聞きたいのですが……異界神獣の様子についてですけど、世界を飲み込んだ異界神獣にしては、帝都の無機物を取り込めていませんよね? あれはどうしてかわかりますか?」

 

 俺は映像水晶が見せる映像を指差してそう告げた。

 

 異界神獣には段階があり、最初は生物を喰らい、次は無機物を喰らって、最終的には世界そのものを喰らうとされている。

 それを考えれば、世界を喰らってきたと思われるこの異界神獣が、無機物を取り込まないでいるのは少しおかしい。

 

「これは私の予想になりますが……。この世界に来るまでの道――世界の狭間で消耗し、この世界に来る頃には生物しか消化出来ないほど弱っているのだと思います」

「つまり、万全の異界神獣ではないってことですね」

 

 俺はその部分を強調して、問い返すように語る。

 

「はい。恐らくそうだと思います」

 

 相手が無機物を取り込めないってのは朗報だ。

 これなら、俺の攻撃が幾つかは効く可能性がある。

 

 そして同時に万全の相手ではないと言うことは、それと対峙することになるこの世界の人々に取っては、いけるかもしれないと言う希望になり得る。

 

「そうか、相手は弱っているのか……!」

「もしや、これならいけるのでは……!」

 

 参加者からそんな希望を抱いた声が次々と上がる。

 それを聞いて、俺は思う。

 

 会場は充分に暖まった。

 俺の策を披露するなら、このタイミングだな。

 

 場の空気は相手を説得する上で重要なものだ。

 ネガティブな空気の状態で発表すれば、その雰囲気によって発表内容にケチを付けられることも多くなるし、それが許される雰囲気になってしまう。

 一方でポジティブな空気で発表すれば、その雰囲気によって発表内容も好意的に受け止められて、それにケチをつけることを糾弾する雰囲気を作ることが出来る。

 だからこそ、俺はアムレイヤとの質問を介して、もしかしたらいけるかも、と少しでも思える要素を無理矢理引き出したのだ。

 

「なるほど、聞きたいことは全て聞けました。では、俺が考えた策について、皆様に伝えようと思います」

 

 俺は仕切り直すようにそう告げた。

 全員が俺に意識を集中させたところで、俺は全員に向かって言う。

 

「俺が思いついた策、それは――」

 

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