エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
さて、そんな一禍だから俺のヒロイン候補にはなり得ない。
だが、それでもフレイの忠実な僕であった点は役に立つ。
だからこそ、俺は原作と同じように一禍を自分のメイドにしようと考えたのだ。
「え、えっと……わ、わたしをどうするつもり……ですか?」
卑屈そうな顔でそう切り出す一禍。
俺はしっかりと目線を合わせて彼女に言う。
「君には俺のメイドになって貰おうと思っている」
「メイド……? でもわたしは……」
「忌み子とかは関係ないさ。メイドに大切なのは気持ちだ」
「気持ち?」
「そう。俺の側で俺の為に尽くしてくれるという思い。それが何よりもメイドという職業で必要なことだ。メイドというのは主人の側で働く者だからな。信頼が何よりも大事っていうこと」
俺はそうしっかりと言及しておく。
一禍をメイドにするのはゲームでも見せた忠誠心を期待してなのだ。
……まあ、最終的に寝取られているから、その忠誠心ってどうなんだと言われかねない気もするが、少なくともフレイが生きている間は寝取られなかったわけだから、俺が生きている間は明確には裏切らないだろう。
――いや、自分で考えておいて、何かちょっと不安になってきたな。
エロゲーキャラの下半身で容易く覆る、ゆるゆる忠誠心を信じ切るのは危険か?
でも、他に協力者になりそうな人材はいないしな……。
協力者なんて、侯爵家の立場を使えば幾らでも作れるだろうと思うかも知れないが、俺が作ろうとしているのは恋愛における協力者だ。
その点を考えれば、実家の思惑が絡み始めるシーザック家関連の連中は信用出来ないし、俺が交流しやすい男の知り合いは、ヒロインを寝取りに来る可能性があるため、可能な限り使いたくはない。
なのでシーザック家に関係ない女性の協力者が必要だが、女性なら誰でもいいと言う訳でもない。
その理由は俺が前世を含めて童貞だからだ。
俺は自分の身の程をよく知っている。
家族以外の女性と碌に接したことのない俺は、協力者として行動を共にすることが多いその女性に、惹かれてしまう可能性は否定できない。
普通に恋心を持ったのなら、それでいいんじゃない? と思うかも知れないが、俺はそうは思わない。
なぜなら、俺がその相手に恋心を持ったのは、俺が恋愛弱者で経験が無いから、惚れてしまっただけで、それが本当に俺のヒロインか分からないからだ。
女性には男性に見せない裏の顔があると恋愛経験の少ない俺は思っている。
協力者とはそう言ったヒロイン候補達の実態を調査するためにも必要なものであり、その協力者自体に恋をしてしまえば、そう言った裏の顔の調査がされていない相手と付き合うことになってしまうかもしれない。
よくある話だ。
目の前では相手のことを好きだと囁きながら、裏では他の男と乳繰り合っていたり、付き合ったのは金の為で、あんな男とは顔すら合わせたくないと、裏で他の女性と共に嘲笑うなんていうことは。
そしてそう言った手合いは往々にして男を誑かすのが上手い。
恋愛経験が豊富ならそんなものには騙されずに、或いは騙されたとしても気にせずにまた次の恋へと向かっていけるのかも知れないが、童貞で恋愛経験の殆ど無い俺からして見れば、自力で裏の顔に気付くのは無理だし、騙されていたのなら二度と立ち上がれないほどに傷ついてしまうだろう。
童貞を舐めないで欲しい。
三十歳まで童貞でいる者は、恋愛に対してピュアな存在なのだ。
だからこそ、協力者という第三者の目で調査する人物が欲しい。
そしてその第三者は、紙防御力な俺が惚れない相手がベストなのだ。
その点を考えれば攻略対象というのは全ての条件に合致した存在だ。
アレクの女である彼女達を寝取るつもりは俺にはないし、アレクのヒロインだからこそ、当たり前のように彼女達は全員女性で、ストーリーを引っ張るだけの何かしらの特別さを持った優秀な人物が多い。
だからこそ、攻略対象者は俺の協力者の役割を充分に果たせる。
この一禍もその一人だ。
攻略対象である彼女を、俺は恋愛対象どころか、異性として見るつもりもない。
そして元からフレイの部下でもあり、そのまま協力者にしやすい。
これほど条件に合致した人物は存在しない。
だからこそ、何とか仲間に引き入れたい所だった。
「まあ、恩を売れば何とかなるか」
俺は一禍に聞かれないようにそう呟く。
一禍のゆるゆる忠誠心を信じ切ることは難しいが、それでも可能な限り恩を売っておけば、裏切る可能性を少しでも減らすことができるだろう。
なろうの奴隷ちゃん作戦だ。
本来ならある程度メイドとして仕上がるまで、他の者に手伝わせることも考えていたが、可能な限り、俺自身が直接世話をやくことで、より恩を売ろうというのだ。
しかし、なろうと言えば、同じ童貞なのに、トロフィーヒロインによるハーレムで何であれほど喜べるのだろうと俺は思ってしまう。
出会って直ぐに惚れる女、チートを見て媚びをうる女。
どうしてそんな相手を信用出来るというのか。
出会って直ぐに惚れるなら、きっとなろう主人公以外にも惚れる。
チートに惚れたのなら、なろう主人公より強いチートに流れる。
手に入れやすさというのは、同時に失いやすさでもある。
簡単に手に入るヒロインであればあるほど、その思いは軽く、チートを失えば、直ぐさま裏切り、別の誰かのヒロインになってしまうようなものなのだ。
そんな相手、肉体関係を結ぶだけなら便利かも知れないが、恋愛をするための、ボーイミーツガールするためのヒロインとしては不適切だと言えるだろう。
そこで俺はふと気付く。
ああ、目的意識の違いかと。
今まで女性とエッチをしたことがないから、どんな相手でも良いから自分に惚れた相手とただれた関係を築きたいという性欲重視の者と、俺のように女性とエッチすることよりも、得られなかった青春を得るために、ヒロインとのボーイミーツガールの青春の日々を送りたいという感情重視の者、同じ童貞でもこの二つのパターンの人物が存在しているということだろう。
性欲重視のものならば、その場限りの関係だっていい。
だからこそ、俺のように相手が裏切るなんて考えもせず、その場その場でヒロイン達との相手を楽しんですることができる。
一方で俺は、例えその場での肉体関係を楽しめたとしても、ヒロインに裏切られて後からその思い出を汚されることになるのが嫌だから、しっかりとした自分だけのヒロインを探そうと足掻く。
そう考えると俺は童貞の中でも面倒くさい部類だと言える。
自分でも少なからずその自覚はある。
だが、しかたがないだろう。
誰が何を言おうとも、自分の心だけは偽れない。
恋愛とは究極の自己満足だ。
だからこそその価値を己で噛みしめられなければ、俺自身がその恋に納得出来なければ、その恋に何の意味もないのだ。
俺の満足する恋は俺だけのヒロインを得ることで成就する。
故にこんな所で立ち止まっている訳にはいかない。
不安があろうとも、媚びを売ってでも、利用できるものは利用して、必ず俺だけのヒロインを探し出すのだ。
「あの……」
そこで一禍が声を掛けてきた。
少し、思考に耽りすぎていたようだ。
「あ~。つまりだ。君が忌み子かどうかなんていう、君の立場は俺に取ってはどうでもいいって事だよ。君が俺に尽くしてくれそうだと思ったから、その心意気を買って君を俺のメイドにしようと思ったんだ」
「なんで出会ったばかりのわたしに対してそんな風に思ってくれるんですか?」
「……それは後で話すよ。君がメイドとして成長したらね」
協力者にするからにはゲーム知識について話すことになる。
そこでおのずとその理由は知ることになるだろう。
「さて、ところで……君はなんて言う名なのかな?」
本当は一禍という名だと知っているが、それを信頼関係を築く前のこの段階で言うのは不自然だ。
だから、一応彼女に対してその名前を聞いたのだ。
「名前……?」
「そう。君の名前」
「わ、わたしの名前は……。……ありません」
「そうなのか?」
「……」
意外だった一禍には名前が無かったらしい。
まあ、忌み子だったから親に名を付けられていない可能性もあるかとは思ったが、ゲームでは一禍という名前で登場し、その名前に関して特にイベント等も無かったので、親から付けて貰った名前だと勘違いしていた。
となると、一禍というのはゲームでのフレイが付けた名前だったのだろう。
忌み子とは言え、一つの禍なんて、良くない名前を付けるなんて、フレイも結構酷いところがあったんだな~と思う。
まあ、家族関係で荒れてて思わず付けてしまったのかも知れないが。
ともあれ、名前がないままにはしておけない。
何かしらの名前を俺の方で付けた方が良いだろう。
ゲームと同じように一禍と付けるべきかと考えた所で、俺の脳裏にアレクと一禍のプレイシーンが思い浮かぶ。
「一禍! 一禍!」と叫びながら腰を振るアレク。
そしてそれに思わず「アレク!」と返してしまう一禍。
そんな声優の迫真の演技と美麗なCGを思いだした俺は、思わずげんなりとした気持ちになってしまう。
これから一禍は俺のメイドとして常に側に居て貰うことになる。
そんな中で一禍という名前が出れば、今みたいにゲームでのアレクとの関係を思い出して、メンタルにダメージを受けることになりそうだ。
日常的にメンタルダメージを受けることになるのは避けたい。
そもそも一禍という名前自体良くないものでもあるので、せっかくだから、この機会に俺の方で改名をしようと思う。
「なら、俺が名前を考えてもいいか?」
「え……? は、はい……」
俺の言葉を聞いて、にへらと虐げられたものが定めを受け入れるかのような、弱々しい媚びた笑みを浮かべる一禍。
そんな彼女に向かって俺は言う。
一禍の新しい名前――それは――。
「来幸(こゆき)……ってのはどうかな」
「来幸ですか?」
「俺の知っている言葉で幸せが来るって意味だ」
「幸せが来る……」
「黒髪だから忌み子で禍を生んで不幸を呼び寄せるなんてことは、世間が勝手に決めつけたことだろ? 俺は黒髪だから不幸を呼び寄せるなんて考えはクソだと思うし、黒髪であろうとも幸せを呼び寄せることはできると思ってる。だからあえて、それを知らしめるこの名前にしたんだ」
現代日本人からして見れば黒髪が忌み子とか馬鹿にしてるの? って感じだ。
黒髪だから不幸を呼ぶなんてことはないし、そんなことを決めつけるのは、かつて黒髪であったものとして許せない。
故に来幸。
黒髪でも幸せは来ると、この世界の人間に宣言するのだ。
俺の言葉を聞いていた来幸はしばらく呆然としていたものの、急に瞳に涙を浮かべ、その場で声を押し殺すように泣き始めた。
「お、おい。どうした? そんなに嫌だったのか?」
そう言うと来幸は首を振るって否定する。
「違う……嬉しくて……」
「嬉しい?」
「そんなこと言われたの……初めてだったから」
そう言って完全に泣きだす来幸。
俺としてはもう如何したら良いのか分からない。
取り敢えず、泣き止むまで待って、落ち着いた来幸に話しかけた。
「それで来幸。俺のメイドになってくれるか?」
「はい! メイドというのはよく分からないですけど! 精一杯頑張ります!」
そう言って笑顔を浮かべる来幸。
一方で俺は心の中で頭を抱える。
そりゃそうだ。
碌に教育も受けていないならメイドって概念すら分からないよね。
これを一から教育とか大変そうだな……。
そんなことを思いながら来幸へと目を向ける。
明らかに栄養が足りないせいでガリガリの体。
ボロボロの服を来ていて、何より汚れきった体が臭い。
「取り敢えず、風呂に入るか」
「風呂?」
「ついてこい」
「わっ!?」
そう言うと俺は来幸の手を握った。
そして短距離転移を連続して行い、なるべく屋敷に立たないようにして、風呂場まで移動していく。
そして風呂場まで移動した俺は、来幸のぼろ切れのような服を剥がす。
「きゃ!」
俺の行動に来幸が思わず声を上げる。
だが、そんな事よりも俺の注意を引くものがそこにはあった。
「本当に胸にほくろがあるんだな……」
「え?」
俺の声を聞いた来幸が思わずそう聞き返すが、俺はそれを無視して、生まれたままの姿になった来幸の胸に存在する、ゲームのCGで見たのと同じほくろを注視した。
脳裏に思い出されるのはアレクと一禍の情事。
胸にあったほくろを舐められて仰ぐ一禍。
その舐められていた存在であるほくろが現実としてこうあると、やはりこの来幸はゲームでの一禍なんだなと強く実感する。
そんな風にげんなりとしていた俺の顔を見て来幸が首を傾げた。
「私の体におかしなところがありましたか?」
「いや、なんでもない。気にするな」
俺はそう言って話を打ち切り、来幸にお湯を被せて、石けんと体を擦る布を取り出して、来幸を洗い始める。
「く、くすぐったいです!」
時折当たり所が悪いのか艶やかな声をあげる来幸だが、俺としては微塵も興奮を覚えない状況だった。
栄養不足でがりがりなことや、まだ子供の体で俺自身も同年代であるというのもあるが、やはり、あのほくろを見たことで、攻略対象は攻略対象なのだと実感することになって、萎えてしまったのが大きいだろう。
この子は俺のヒロインになり得ないんだな。
そう思うと手を出そうという気概も完全に無くなる。
俺は俺だけのヒロインを追い求めるつもりだ。
そしてそんな理想のヒロイン像を相手に強いる以上、俺自身も相手に対して誠実であるべきだと思っている。
だからこそ、俺は、俺のヒロインとなる相手以外とは付き合うつもりもないし、他の相手との肉体的関係なども持つつもりはない。
それこそが、俺の誠意。
独善的な俺の恋愛を行う為に自分で課した制約だ。