エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
その為、説明が長めになっているのでご注意ください。
「異界神獣……」
俺の言葉に、クラウは何かを考えるようにしてそう言う。
「構わない。だけどその前にマスターにして欲しいことがある」
一応は出来ないってことはないみたいだな……。
「わかった。何をすればいい?」
「しゃがんで、おでこ出して」
「わかった。こうか?」
俺はクラウの前でしゃがみ、額をクラウに向ける。
そしてその額に向かって、クラウが手を突き出した。
「えい」
「いった!?」
額に向けたクラウの手から静電気のようなものが走り、俺はそれが額にぶつかったことで、思わず痛みによって声を上げる。
「静電気みたいな何かが……いきなり何するんだよ」
唐突に静電気のような何かをぶつけてくると言う行いに、俺はクラウに対して、思わずそんな不満をぶつける。
そんな俺に対して、クラウは何てことのないように言う。
「状況確認の為、マスターの記憶をコピーした」
「……は? 記憶をコピーした? 何を言ってんだよ?」
俺はクラウのわけのわからない言葉に対して思わずそう問いかける。
しかし、クラウはそれに答えず、手に入れたばかりの情報を確認しているかのように、ぶつぶつと何かを呟き続けている。
「地球、転生、インフィニット・ワン、攻略対象……む、これは当機?」
ぶつぶつと何かを参照していたクラウは、そこで何かに気づき、眉を寄せる。
「ん、だいたいわかった。当機はマスターに救われてたんだね」
クラウはこちらを見て、俺に向かって深々と頭を下げると言う。
「ありがとう。マスター。当機を救ってくれて」
「お前はさっきから何を言ってるんだ……?」
勝手に喋って、勝手に納得して、勝手にお礼を言い始めた相手に対して、俺は思わず呆れたような口調でそう言葉を返す。
そして、改めて先程と同じ質問をした。
「と言うか、さっき俺の記憶をコピーしたとか言っていたが、それはいったいどういうことだ?」
「そのままの意味。当機はマスターの記憶を複製して取得した」
「記憶を複製して取得なんて……そんな馬鹿な」
俺は思わずそう口走る。
触れただけで記憶をコピーするなんてあり得ない。
「何か答える? 何でもいいよ?」
「……そんなことを言われてもな……」
いきなり質問しろと言われても、質問内容に困る。
そうやって、思わず口籠もっていると、それを見たクラウが言う。
「なら、当機から何か答える?」
「……じゃあ、それで頼む」
「ん。マスターは転生者。地球からこの世界に転生した。マスターはこの世界をインフィニット・ワンと言うゲームを元にした世界だと思ってる」
スラスラとクラウは俺と来幸しか知らない事情を話し始める。
俺がそれを聞いて引き攣った顔をする中で、更にクラウは続けるように言う。
「この世界でのマスターの目的は理想のヒロインを得ること。攻略対象はアレクの女だから、信用出来なくてヒロインにしたくないと思ってるけど、それを抜きにすれば攻略対象はマスターの好みに当てはまるところがある者が多いから、彼女達をそう言った理由でヒロイン候補から外さなければならないことを苦しく思ってる。特にマスターが好きなタイプなのは――」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!!!」
俺はとんでもないことを言いだしたクラウの口を無理矢理止めた。
無理矢理手で口を塞がれたクラウは、それを外してこてんと首を傾げる。
「どうしたの? マスター?」
どうしたのって、いきなり何を言い始めてるんだよ此奴は……!?
俺は思わず、クラウに対してそう思う。
俺の記憶を複製したのは、インフィニット・ワンの名前が出たことや、地球から転生したということを知っていることで理解はした。
だけど、ただの記憶の複製で、なんで此奴は、俺のヒロインに対する考えや、それに纏わる感情まで、ペラペラと喋ることが出来るんだ!?
クラウが喋ったことは俺が普段考えていることを言い当てていた。
俺は転生前にインフィニット・ワンというゲームに嵌まっていた。
エロゲーやギャルゲーを熱中するようにプレイすると言う事は、そこで攻略する対象となる攻略対象を恋人にしたいと思ったからであり――端的に言ってしまえば、インフィニット・ワンの女性の攻略対象の大半は、俺が好きになってしまう要素を持っていたからこそ、俺はインフィニット・ワンというエロゲーに熱中して、隅から隅までその世界を堪能しようとプレイし続けたのだ。
世の中では、エロゲーやギャルゲーのシステムが素晴らしくて、ゲーム的な要素で熱中していたみたいな話を聞くこともある。
だが、俺はそんなんじゃなく、純粋に好きなキャラが居たから、そのキャラと自分の現し身である主人公との恋愛模様が見たくて、エロゲーをやっていたのだ。
だが、例え転生前に好きなキャラだったとしても、いや、むしろ、そのキャラが好きだったからこそ、現実化したこの世界で、俺だけのヒロインになれないというのなら、心を鬼にして諦めないといけない。
下手に可能性がない相手に気持ちを残し続けてしまえば、それこそ何処かに居るはずの俺だけのヒロインを探すための大きな障害になってしまうからだ。
「いや……もうそこまでで充分だ」
俺は何故かどっと疲れて、思わずそこに腰を下ろしながらそう言った。
そして、恐る恐るクラウに向かって聞く。
「お前は、その記憶のコピーで、俺の何処までを知ってるんだ……?」
「マスターが記憶していることの全て。転生前の記憶、転生後の記憶、そしてそこに纏わるマスターの感情も」
「か、感情も……?」
「ん。記憶と感情は結びついている。だから、記憶を取得すれば、その時の感情も知ることが出来る」
そう平然とクラウは語る。
どうやら、先程のたった一回の接触で俺の全ては知られてしまったらしい。
「これが当機の性能」
何処か無表情ながらに、ふんすっと言った感じのどや顔感を出すクラウ。
そこには自分の性能を誇る気持ちと、それをマスターである俺に見せびらかして示したいという気持ちが現れているように見えた。
……此奴、こんな性格だったか?
俺はゲーム時代のクラウを思い出して思わずそう思う。
インフィニット・ワンのクラウは、初めの方は、もっと綾波○イ系と言うか、無感情で命令通りに動くって感じで、次第に自我を獲得していくと、元気で生真面目な感じの性格になっていったはず……。
そこまで考えたところで、俺は内心で首を振った。
いや、記憶喪失から自我を獲得していったのと、元々の自我が完全に残っているのでは、殆ど別人みたいなものか……。
俺がそんなことを考えていると、もっと見てと言わんばかり、クラウが先程の話を続ける。
「例えば、何でマスターがアレクに攻略対象を押し付けるのかもわかる」
「おい」
「好きなところがあるけど、いずれ裏切るかも知れない相手に、もしかしたら――と裏切られずに済む可能性を考え、まだ俺だけのヒロインになれると、縋り付きそうになるのが嫌だと考えている。だから、さっさとアレクとくっ付いて、自分を裏切って貰うことで、『俺が考えていた通り、此奴には俺だけのヒロインになる可能性がなかった! 此奴を相手にしなかった俺は正しかったんだ!』とそう言える状況を作って安心したいと考えている」
「いい! もうやめろ! 俺の話はもううんざりだ!」
俺はぶち切れながらそう言いきった。
そして、クラウに向かって怒鳴るように言う。
「俺のプライベートは無いのか!? これはプライバシーの侵害だ!!」
「当機の利用規約に使用者の個人情報を取得して利用することは記載されてる。当機を引き抜き、規約に同意している以上、その範囲内の機能の行使であるこの行為は、問題ある行動に当たらないと当機は考える」
「なっ……!?」
個人情報の範囲が広すぎ! ってか、喪失してる利用規約は、利用規約の体を成していないだろ!
俺はまるで機械のように、規約に関する話だけ流暢に、問題がないことをひたすら弁論するクラウに、思わずそんな感想を持った。
「安心していい。手に入れた情報は他者に漏らしてはいけない規則になってる。これは当機とマスターだけの秘密」
「もういい、わかったよ……。さっさと異界神獣の話をしてくれ」
俺がさっさと本題に入れと命じるとクラウは言った。
「その話をする前に、創世神とそれに纏わる運命について理解する必要がある。少し長くなるけどいい?」
何唐突にサ○八語録使ってんの?
語録のせいでなんだかとてつもなく有耶無耶になりそうな雰囲気があるが、ともあれ必要があるというのなら、聞かなければ話は始まらない。
「何でも良いから、手短に頼む……」
「ん、マスターはエルミナでアムレイヤにあった時、創世神が聖遺物を残したという話を聞いて、まるで初めから誰か手にするのか決まっているかのように聞こえると思ったことがある」
「まあ、確かにそうだな」
かつて浜辺で聞いた聖遺物に纏わる話――創世神がいずれ起こる世界の危機の為に、全てに対応出来る万能の願望器としてではなく、それぞれの危機に合わせた機能の聖遺物を作ってこの世界に安置したというもの。
それを聞いて俺は、いずれ起こる世界の危機に合わせたものを作り、それを手にする予定の者だけが、それを手にすることが出来ると言うのなら、聖遺物を扱うに相応しい者が手に取れるというよりも、初めから誰が手にして世界の危機と戦うかまで決まっているように聞こえると思った。
「マスターの考えは正しい。創世神は自分の世界の未来をシュミレートする能力と、その中で因果に干渉することで運命を操作する力を持っている」
「っ!? やっぱり、あの言い回しはそう言うことだったのか……。つまりは、創世神にその力があるからこそ、今後、世界に現れる危機も予見出来たし、それに合わせた道具を残すことも、それを使わせる相手を選定し、因果を操作することで実際にその相手に聖遺物を使わせるようにすることも出来るってことだな」
「それは少し違う」
「? 何が違うって言うんだ?」
俺の発言を否定したクラウに、俺は思わずそう返す。
「創世神は聖遺物を使う者の因果を操作しない」
「何でだ? 創世神の能力を考えれば、そうするのが一番だろ? 因果を操作しなければ、下手したら聖遺物を使わせる予定の其奴――めんどいから、これからは主人公って呼ぶが、その主人公が聖遺物を手に取らない可能性があるだろ?」
俺のその言葉にクラウは頷く。
「確かに、主人公が聖遺物を手に取らない可能性は出る」
「なら――」
「だけど、創世神の目的を思い出して」
「創世神の目的? ……確か、自分好みの世界を作って、そこに自らの分体を送り込み、そこで一個人としての人生を過ごして、その経験をフィードバックすることで、様々な世界を生きると言う経験を楽しむんだっけか」
確かVRゲームが現実化した世界の人みたいな遊び方をする奴らだったはず。
「そう。創世神の目的はその世界を個人として楽しむこと。そこでマスターに聞きたい。マスターは一から十まで全てを自分で作ったゲームを、自分でプレイする事になったら、そのゲームを心の底から楽しめる?」
俺はクラウのその言葉を聞いて考える。
自分が一から十まで全てを作ったってことは、システムを知っているだけではなく、ストーリーやイベント、細かいクエストやその報酬なんかも、全て事前に知った上でゲームをプレイするってことだろ? そんなの――。
「絶対に楽しめないな。自分が全部作ったってことは、何から何まで知ってるってことだよな? そんな未知の楽しさが何もないゲームをプレイしても、ただ物語を進める作業をしているような気持ちになるだけで、クソつまらんだろ」
「それと同じことが創世神にも言える」
俺の言葉を受けて、クラウはそうきっぱりと言い切った。
「因果とは炎のようなもの。強い因果を持った者が居れば、それは別の者へと飛び火し、その者もその因果に巻き込んで、大きな運命の流れを作る」
「因果が炎か……まあ、そう言われればそんな感じもするな」
大勢の人が一人の英雄が巻き起こす運命に巻き込まれ、やがて世界を救済する物語が紡がれていく……そう考えれば運命を作り出す因果というのは、周りを巻き込んで燃え上がる炎のようなものなのかも知れない。
「そして、因果というものは、長く操作すれば操作するほど、主人公のような世界の中心にいる者を操作すれば操作するほど、深く世界にこびりつき、そして影響を残す」
クラウの例えの通り、炎のような性質ってのが重要なところか。
長く操作する――つまり燃え続ければ、その間ずっと他の場所に飛び火して、同じように燃え上がらせる可能性があるってことになるし、主人公のような世界の中心的な人物が燃えていれば、それに関わる世界中の重要人物に飛び火して、その影響は世界へと拡散していくことになると。
「創世神はそれが嫌。操作した因果がくすぶり続けた世界は、創世神がシミュレートしたような決まり切った結末の世界へと収斂する。そんな全てを見知った世界は、創世神にとって何の未知もなく、つまらないため遊びたいとは思えなくなる」
創世神の目的はその世界を楽しむこと。
ジャンルや基本システムは自分で決めたとしても、そこで行われるストーリーは、できるだけ自分が関与しない、全く未知のものにしたいということか。
「だからこそ、創世神は主人公の因果を操作しない。それを行ってしまえば、その時代を超えた先、自分がプレイする為の未来で、自分がシミュレートしたものと同じ、見知ったつまらない物語が展開されることになってしまうから」
そこまで言った所でクラウは続けるようにして言う。
「それに主人公を因果を使って一から操作すると別の問題も発生する」
「別の問題? それはなんだ?」
「因果を使って一から操作した主人公はその因果に縛られる。つまり、創世神が用意したその因果の通りの強さを越えることが出来ないということ」
俺はそのクラウの言葉を聞いて疑問を抱く。
「創世神は未来予知が出来るんだろ? だったら、その創世神が必要とした強さがあればそれで充分なんじゃないか? 因果を操作すると主人公の強さに限界が出るのだとしても、目的を達成出来るのなら、特に問題はないように思えるが……」
俺のその言葉に、クラウは首を振って否定の気持ちを示す。
「創世神は確かに作ろうとしている世界をシミュレート出来る。だけど、それでシミュレート出来るのは、その世界の中の出来事だけであり、外の世界――異世界からやってくる問題は、基本的にシミュレートの対象にすることは出来ない」
「シミュレートの対象に出来ない? どうしてだ?」
「何が来るからわからないから」
「何が来るかわからない……? それをシミュレートするのが、創世神の力なんじゃないのか?」
「世界を家に例えた場合、家の中の物は何処に何があるのかわかるから、物が落ちそうなど未来を想像することが出来る。だけど、窓の外から何をやってくるかは想像出来ない。もしかしたら、野球少年が外にいて、ボールを投げて来たせいで突然窓ガラスが割れるかも知れない」
俺があまり理解していないことに気付いたクラウは、そう言って世界を家に例えるたとえ話を始めて来た。
だが、俺はその内容に思わず突っ込む。
「いやいや、野球少年がいることを、窓ガラスから外を見て気づければ、ボールが飛んでくる可能性も予想することが出来るんじゃないか?」
「それは外に何があるか知ることが出来る時の話。世界の外である狭間の空間には何でもありの創世神がうようよしている。そんな何でもありの空間から、何が来るかなんて誰も予想することは出来ない」
なるほど……所謂シュレディンガーの猫の逆バージョンってことか。
箱の中の猫がどんな状態になっているか、箱の外から伺い知ることは出来ないが、一方で箱の中の猫側も、世界がどんな状況になっているのか把握出来ない。
「世界とは閉じた空間。創世神達はその閉じた空間内のことなら、何処までもシミュレートすることが出来るけど、一方で異世界からの侵略に関しては、その未来予測に含めることが出来ない」
そこまでの説明を聞いたところで、俺はあることに気付く。
「いや、まて、それはおかしい。この世界を元にインフィニット・ワンを作ったにしろ、インフィニット・ワンを元にこの世界を作ったにしろ、創世神は異世界からこの世界にやってくるもの――クラウや異界神獣について知っている」
紫の神を落とすための最終DLCが今の騒動の元だとするなら、この世界を作った創世神は異界神獣の来訪を予想していたことになるのだ。
それは、異世界からの飛来物を予想できないという、クラウの説明と致命的に矛盾する話となる。
「当機に関しては、事前に当機を購入して、この世界に呼び寄せたからだと思う」
「購入?」
「複数の創世神が協力して作った世界救済機構――次元紛争管理委員会が当機の製造元。当機達は自らの世界に入ることが出来ない創世神の代わりに、その世界へと侵入し、世界神や勇者に使われることで、異世界からの侵略を退けるのが仕事」
ゲームで言ってた異世界を救う使命って奴か……。
「そして、恐らくだけど異界神獣については――この世界の創世神が、この世界の前に作った世界が、その異界神獣の元になった世界だからだと思う」
「この世界の前に作った――世界? いや、考えて見れば当然か。新しく世界を作り始めるってことは、前の世界は飽きたか滅んだかって事だもんな……」
俺はクラウの言葉に疑問を浮かべ、そして少し考えてその理由に納得する。
ゲームに置き換えて考えればわかりやすい。
それまで熱中して遊んでいるゲームを止めて、新しいゲームを買いにいくのは、そのゲームに飽きて新しいゲームが欲しくなったか、そのゲームがサービス終了して別のゲームをやらなくてはならなくなったからだ。
つまるところ、創世神は遊んでいた世界が滅んだから、代わりに遊ぶための世界を作るために、この世界を創造したっていうことだろう。
「創世神は世界の外を予想できない――。けどそれはあくまで情報がないから予想できないというだけ、元から異界神獣が居ると知っていれば、それを元に自分の世界に来る確率をシミュレートすることは出来る」
「窓の外がわからなくても、野球少年がいるって情報があれば、ボールが飛んでくると身構えることが出来るってわけだな」
「ん、だからこそ、インフィニット・ワンにはそれらの情報があった」
俺の言葉にクラウは頷いてそう言った。
そして、「話を戻す」と言って更に言葉を続ける。
「創世神は異世界が絡むことを完全には予想できない。世界の狭間の状況によっては、異界神獣は創世神の想定よりも強い状態でこの世界にやってくる可能性がある。そうなれば、創世神が想定した強さしか持てない主人公は、その相手に絶対に負けることになってしまう」
「それまで主人公を助けてきた因果という強制力が、主人公に対して絶対に負けるという結末を強制することになってしまうってことか……」
簡単に言ってしまえば、一から十まで操作して用意した養殖の主人公では、想定外の事態に対応出来ず、あっさりと負けてしまう弱さがあるということだろう。
だからこそ、主人公の因果を操作することは危険で、主人公が自らの意思で問題を乗り越えて強くなっていく必要があると。
「なるほど……主人公を操作しない理由はわかった。だけど、それだと、この世界の危機に対応出来ずに世界が滅んで、創世神は結果的に世界を楽しめない――ってことになる可能性が高いんじゃないか? 主人公を操作しない代わりにシミュレートを増やせば、それはそれで未来を知りすぎる形になるだろうし。創世神としては、因果操作もシミュレートによる未来予知も、出来る限り使いたくないって感じだろ」
使わないと自分が遊ぶ前に世界が滅ぶから、未来予知や因果操作をしているだけで、未知の世界を楽しみたいという創世神の観点を考えれば、それらについても可能な限り使いたくないというのが本音ではないだろうか。
だが、そうなると、主人公に対して聖遺物を渡すことが出来ず、用意していた厄災に対する対策が全て不発になって、創世神が遊ぶ前に世界が滅びかねない。
矛盾したこの状況――これを解決する手はあるのか?
「だからこそ、創世神は周りの人間の因果を操作する」
「周りの人間の因果――それって攻略対象達のことか!?」
主人公の周りの人間の因果を操作する――その言葉で思いついたのは、主人公がその世界で冒険を繰り広げることで関わることになる攻略対象達だ。
「ん、正確にはその攻略対象に纏わる存在であるメインキャラも含まれるけど、マスターの予想は概ね正しい」
クラウは俺の言葉を肯定しながら、追加でイベントに関わるモブ以外の者も、そう言った因果操作の対象になると告げる。
「だが、攻略対象達だって物語の中心に関わる存在だろ? 主人公ほどの影響力はないにせよ、この世界の未来に因果を残すことになるんじゃないか?」
俺はそれを聞いて生まれた疑問をクラウに問いかけた。
俺のその言葉にふるふるとクラウは首を振った。
「それはない。主人公以外の者の影響力なんて高が知れている」
「……どうしてだ?」
「例えば、街道で盗賊に襲われる貴族令嬢が居たとする」
なろうの異世界転生ものではお決まりのイベントだな。
「その貴族令嬢の因果が操作されて盗賊に襲われているとして――その出来事が未来の世界に大きな影響を残すと思う?」
「それは――残さない……か」
「ん、貴族令嬢が盗賊に襲われるなんてありふれたこと。主人公がそれを助ければ、その世界の未来を決める物語の一部になることが出来るけど、それが無ければモブが一人死んだだけで、未来の世界には何の影響も残さない結末になる」
「……」
主人公と関わらなければ、モブには世界を変える影響力はない……か。
前世でモブとして何も果たせずに死んだ身としては、感情的には理解したくはないが、痛いほどそれを実感している話でもある。
「こんな風に、主人公の周りの者の因果を操作するのは、例え失敗に終わったのだとしても、主人公を操作することと比べれば、圧倒的なローリスクで行える」
貴族令嬢に齎された因果は盗賊に襲われるということ。
主人公を因果で操作すること出来ない以上、そこには誰かによって助けられるという因果は存在しないということになる。
主人公が別の道を通ったり、リスクを考えて助けるのを止めれば、その貴族令嬢は操作された因果のせいで盗賊に嬲り殺しにされることになる。
だが、例えそうなったとしても、未来に残される影響は、物語に関わらない貴族令嬢が盗賊によって殺されたというだけ、創世神が遊ぶ未来に因果の炎は残さない。
「そして一方で上手くいった時はハイリターンが期待出来る。さっきの話で言うと、盗賊に襲われた貴族令嬢を主人公が助ければ、そのままその貴族の親に伝手が出来て、国の騒乱という物語の舞台に主人公が踊り出ることになる」
主人公が上手く貴族令嬢の因果に引っかかり、そのイベントを攻略すれば、創世神が想定したとおりに、主人公はあれよあれよと巻き込まれ、世界を救うという最終目標に向けて、知らないうちに大きく進んで行くことになる。
「だからこそ、創世神は主人公以外の者の因果操作を多様する。そうやって一個一個のイベントを周囲の者を使って発生させ、そのルートを主人公の意思で攻略させることで、主人公の因果を操作することなく、その行動を操り、世界を救うという最終目標に向けて、大きく事態を進行させることが出来る」
「つまり、主人公の周りの奴らは使い捨ての存在ってことか、創世神に取っては」
「ん、その通り。創世神に取って重要なのは厄災を払う主人公。それ以外は替えの利く舞台装置でしかない」
惨いな……。
俺は素直にそう思った。
よくあるハーレム物の物語なんかでは、トロフィーヒロインと言われ、手に入れたら影が薄くなりフェードアウトする存在がいるが、創世神がやっていることはそれと同じ事ということだろう。
物語を進めるための舞台装置が必要だったから、その引っかかりとして主人公にそのヒロインを関わらせただけで、物語が終わればそのヒロインがどうなろうと構わないと、トロフィーのように飾り立てるだけで終わらせてしまう。
それが使い捨てにされる主人公の周囲の者の運命と言うことだ。
「最小限の干渉で最大限の効果を、それが創世神達の基本姿勢。そしてその観点で考えれば、周囲の者を大勢操作するのは理に適ってる。何故なら、それぞれは小さい因果でも、一つの舞台に集結させ大きく燃え上がらせば、それは主人公を巻き込んで、その因果に対する関わりによって物語を進めることが出来るから」
「一つ一つは創世神による小さな干渉でも、それが大量に集まった場所に主人公がいれば、どれかのルートには必ず引っかかり、物語が必ず進展するってことだな」
「ん、そして一気に燃え上がった舞台は、燃えるものを全て燃やしたため、因果の炎はその場で消え去り、その舞台より後には何の影響も残さない」
上手いやり方だ。
誰かを大きく操作して各地に強い影響を残すのではなく、大勢の者を小さく操作することで、自分の操作による影響は残さないままに、思い通りに物語を進める。
そして、その操作された者が集まる舞台が一つであるのなら、その操作の影響はその舞台の中だけで終わり、未来に不要な影響は残さずそこで終わってくれる。
俺はそこまでの話を聞いて、その舞台に関して問いかける。
「その舞台ってのは――学園のことだな?」
「ん、その通り」
つまるところ、インフィニット・ワンという物語は、創世神による因果操作の結果を表した物語だったとうことだ。
創世神が操作した数多の攻略対象がいるルーレリア学園という舞台で、世界を救うために用意したアレクやアリシアと言った主人公が、攻略対象達の因果操作によって起こる出来事に巻き込まれ、それ乗り越えることで強く成長していくという物語。
それを考えると俺のしてきたことは――。
「不味いな……そうすると俺がしてきたのは、主人公であるアレクやアリシアが世界を救うために成長する機会を全部潰してきたってことなのか?」
創世神が世界を救うために全てを用意していたというのなら、結果的に俺はその全てを邪魔したということになってしまう。
つまり、俺が矢面に立って問題を解決しなければならない状況は俺の自業自得、世界を救うための者に用意された物語をねじ曲げた罰ってことだ。
「こんなことなら、原作通りになるように動いた方が良かったか……」
今更ながらに後悔する。
まさか、俺が原作通りにすべきだったなんて思うことになるとは思わなかった。
そう思い悩んでいる俺を見て、クラウは何故か首を傾げた。
「?? マスターは勘違いしてる」
「勘違いしてるって何をだよ。俺が主人公であるアレクやアリシアのイベントを奪ったことには変わりはないだろう?」
俺がそう言うとクラウは呆れたように言った。
「アレクやアリシアは主人公なんて大それたものじゃない。あれは設定が多いだけの舞台装置でしかないただのモブ。この世界の主人公は――マスター、貴方だよ」
クラウはそう突きつけるように俺に言い放った。
自分の世界の因果を操作して、主人公を誘導して行くなんて面倒くさいことをしなくても、世界と世界の間にある狭間の空間で、創世神が侵略者を直接倒せばいいのでは? と思うかも知れませんが、狭間の空間は言ってしまえば道路のようなもので、自分以外の創世神も利用するもののため、そう言ったことが行えないという事情があります。
どうしてかというと、何もないただの道路なら、キョロキョロと何かを探すこともなく、そのまま目的の場所に行くために通過すると思いますが、そこで創世神自身が侵略者と戦うなど目立つ行動をしていると、「道路で喧嘩してる奴らがいるぞ!」とばかりにぞろぞろと創世神が寄ってくることになってしまうからです。
創世神には、自分の世界が荒らされるのは嫌だが、他人の世界がどうなろうと気にしないというタイプが多く、創世神と戦う侵略者を見ると、荒れる世界を見る方が面白そうという理由で侵略者側に協力し始めます。
何でも作れる創世神同士の戦いは、一対一になった時点で千日手となり、相手側の人数が一人でも多い時点で負けが確定して、結果的に侵略者を倒すことも出来ず、逆に強化されてしまうという事態に陥ってしまいます。
こう言った事態が起こるのを防ぐ為に、他の創世神が興味を持って介入しないように、私有地である自分の世界に引き込んで、そこで侵略者をボコボコにする必要があると言った感じです。