エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
突如として来訪したルイーゼ達によってフレイ様が昏倒してから早一時間。
よほどショックだったのか、一向に起きる気配がないフレイ様を心配しつつも、昨今の情勢でフレイ様が倒れたと他の者に知られるわけには行かないため、私達は必死に主の不在を隠すための対応にひた走っていた。
そんな中で既に帰られたアムレイヤ様より預かった二人の皇女を見て、対応に困った屋敷のメイド達が私に向かって質問を投げかけてくる。
「来幸様、あのお二方を如何するつもりですか?」
「……フレイ様が眠っている今、大国の姫を私達で相手するのは荷が重いです。なので、フレイ様の目が覚めるまで、あの二人の相手は、同じ客人の姫であるレディシア様方にして貰いましょう」
これはちょっとした嫌がらせだ。
あの頭のおかしな能力による事故とは言え、私が手に入れたかったフレイ様のファーストキスをあんな適当な場面で使い潰されたのだ。
冷静に対応しなければいけない状況だから無理をして取り繕っているが、実際は腸が煮えくりかえるほどの怒りを覚えている。
だからこそ、あの狂人達の元で少しは痛い目に合うといい。
巻き込まれるティナ様は可哀想だが、あの狂人達も子供に無法を働かない程度には、最低限の理性は残っている。
故に、被害に遭うことになるのは、ルイーゼだけだろう。
そう考えて客人の手配をした後、更なる来訪者がその場にやってきた。
「ちょっと! フレイが倒れたって本当!?」
「……その件は箝口令が敷かれているはずですが?」
突如として現れたエルザは何故かフレイ様が寝込んだことを知っていた。
私はそれを疑問に思い、探りを入れるようにそう問いかける。
「薄々察してるくせにわざわざ聞かなくていいわよ。フレイの動向を探るためにスパイの一人や二人、この屋敷に仕込ませてるのは当然でしょ?」
「やはり、そうでしたか……」
この屋敷の使用人達は全て私の支配下にあるが、近年急増した無窮団や銀神教関連で屋敷を出入りする人々は、完全にこちらの手を離れた存在になっている。
その中の何人かが、エルザがこちらの情報を探るために送り込んだスパイだったということだろう。
これはエルザだけではなくユーナも同様のことをしてそうですね……。
私は内心そう思いながら、今回の異界神獣の騒動が片付いたら、入り込んだスパイ達の大掃除を必ずしようと心に決める。
「フレイの元まで案内してくれるわよね?」
「……はぁ。仕方ありませんね。ここで騒がれてフレイ様の不在を公表するわけにも行きませんし、このことを口外しないというのなら、案内いたします」
「あたしだって、さすがに状況のやばさは理解してるわよ。だからこそ、この数週間、フレイに合わずに自領で準備を整えていたわけだし」
エルザがそう言ったのを聞き、私はエルザを連れて歩き始める。
「まったく……。神も、各国の王も、ただの公爵家の令息の彼奴に、重いものを背負わせすぎでしょ。世界の命運なんてそんなもの、本来なら神や王が何とかするべき事柄でしょうが」
ここ最近の時勢に思うところがあったのかエルザがそう怒りを露わにする。
「だから、せめてあたし達は、あたし達に出来ることをして、彼奴の背負ってるものを少しでも軽くしてやらないといけないわ」
「……そうですね」
私はエルザの意見に同意した。
確かにフレイ様はゲーム知識という特別な知識を有している存在だ。
だけど、それはあくまで特別な知識があるというだけで、彼の本質はただ理想の恋愛がしたいと思って足掻く、ごく普通の少年と同じものだ。
今回の状況のように、世界の命運を背負って戦わされるなんてことは、そんなごく普通の少年には似合わないものだ。
だからこそ、似合わない役目として負わされた世界の命運という重い荷物を、少しでも軽くするために私が頑張らないといけない。
「あたしは彼奴のヒロインだしね」
「それは違うと思います」
そこは同意できなかった。
フレイ様のヒロインは私だからだ。
「……此奴……しろ!」
「何かしら? この道の先が騒がしいようだけど?」
この先にあるフレイ様が寝ている部屋が騒がしいことにエルザが気付く。
私自身も状況がわからず、もしものことを考えて、フレイ様の安全を守るために、駆け足でその部屋と近づき、中に飛び込んだ。
「うぐぐぅ~! 離せ~!!」
「何をするかもわからないお前を! 離すわけないでしょ! この――娘を自称する精神異常者が!」
入った部屋の中では、ノルンがレシリアの結界で拘束されていた。
レシリアはぶち切れた様子でそう言うと、側に居たユーナに向かって言う。
「ユーナお姉さんも追加で魔法をお願い! 此奴相手だと、レシィの結界は破られるかも知れないから!」
「わかっています! アイスプリズン!」
拘束されているノルンに更なる魔法が降り注ぐ。
それを受けてノルンは叫んだ。
「変なことは何もしない! ボクはお見舞いに来ただけだよ! 娘としてパパを心配して来ただけ!」
「血のつながりもないアンタは娘でも何でもないって言ってるでしょ!」
レシリアとノルンは犬猿の仲だ。
血の繋がった本物の兄妹だからこそ、フレイ様と深い絆で結ばれていると、常日頃から豪語するレシリアと、血の繋がらない偽物の親子だからこそ、本当の家族になって深い絆で結ばれることが出来ると豪語するノルンはまさに水と油。
思想が根本的に違うだから、わかり合う事なんて出来るはずも無い。
「あ、エルザさんも来たんですか。――遅かったですね」
「はぁ?」
部屋に入ってきた私達に気付いたユーナが、エルザに向かって勝ち誇るようにクスリと笑いながらそう言う。
それを聞いたエルザは、眉を吊り上げて、怒りを露わにする。
こちらの二人も互いに仲が悪い。
お互いにフレイ様と親しい貴族や王族の令嬢としての立場が被っていて、そしてフレイ様を深く知る前とは言え、フレイ様を自分から振っているところも同じだ。
同族嫌悪か、それとも立場が似ているからこそ、フレイ様を横からかっ攫っていく危険性が高いと恐れているのか……ともあれ、フレイ様の見ていないところで、こうしてチクチクと牽制し合っているのは事実だ。
この状況に私は思わず内心でため息を吐きそうになる。
何奴も此奴も、フレイ様のヒロインになれると誤解していると。
まあ、でも、この状況は私に有利かも知れない。
こうして互いに潰し合ってくれれば、誰かとフレイ様がくっ付くこともない。
そうして誰とも付き合えないでいれば、フレイ様といえど、やがて妥協せざるを得なくなり、そしてその時にヒロインとして、フレイ様を得ることが出来るのは、真摯にフレイ様の側にいて支え続けた私だけだ。
私がそんなことを考えながら、しばし起こっている騒動を静観していると、突如として机に置かれたフレイ様の剣――確か異界聖剣クラウソラスが突如として美しい少女へと変貌する。
「静かにして。マスターが寝てる」
「なっ!? 何よあんた!?」
フレイ様からゲーム知識を教わっている私と、それを風魔法で盗み聞いたレシリア以外の者達は、剣が人に変わったことに驚き、争いを止めて異界聖剣クラウソラスの方へと目を向ける。
「当機はクラウ。マスターの剣」
「け、剣が人になるなんて……」
「人化するのはそこのドラゴンも一緒でしょ? 異界聖剣ならこのくらいは当然。余裕で人になれる」
ふんすと私達にどや顔を見せるクラウ。
そして、クラウは私達に向かって言い放った。
「貴方達は不要。うるさいだけで邪魔だから出て行って」
「はぁ? 邪魔だって言われて素直に出て行くわけないでしょ!」
「わたし達は師匠の看病をしに来ました。一人で看病するのは大変だと思います。わたし達が不要ということはないと思いますけど?」
「そうだよ! それにボクの生命を操る力なら、マスターの体力を回復させて、元気にさせることだって出来るし!」
クラウの言葉にエルザ、ユーナ、ノルンが猛反論をする。
しかし、それでもクラウは態度を変えない。
「必要ない。マスターのバイタルは当機の機能で把握済み。当機の性能なら一人でマスターの看病を行う事が出来る。ここに居られると邪魔なだけ」
そこまで言った所でクラウの目は私に向いた。
「そこのメイドも、もう来なくていいよ。貴方が持っているゲーム知識は当機も保有している。だからこそ、人の手助けなんてもう必要ない。これからのマスターの面倒は、マスターの道具である当機が全てみるから」
「……あ゛?」
思わず女性としてあまり相応しくない怒りの声が漏れる。
だが、それも仕方の無いことだろう。
此奴は今なんていった?
フレイ様の側に居続けると、そう言うヒロインになると誓った私に対して、用済みだからフレイ様の側にもういらないと、そう言ったのか?
それは絶対に許せないことだった。
今までの自分の全てを否定されるような行為を見過ごすわけにはいかない。
だからこそ、煽るように私は言う。
「記憶を失って、色んな意味でアレクに使われる剣風情が、フレイ様の道具を名乗るなんて片腹痛いですね」
「ふぅん……それを言うんだ。だけど、記憶を失ったその当機と今の当機は実質的に別人。そんな煽りは当機になんの効果も無い」
やれたらやり返せとばかりにクラウが言う。
「同一人物の貴方になら効くかもだけど」
「――っ!!!」
今、わかった。
此奴だけは何処まで行っても気にくわない。
そう思った私が、怒りのあまりにクラウに襲い掛かろうとすると、近くで騒がしくしたせいか、眠っていたフレイ様が目を覚ます。
「うるさいな……素直に寝させてもくれないのか……」
フレイ様はそう言って起き上がると、おもむろにハンカチを取り出して、「クソ……クソ……俺のファーストキスが……ごめん……俺だけのヒロイン……」と涙を流しながら、汚れた唇を拭うように何度も拭き始めた。
……あれをやられたのが自分だったら多分発狂していたな。
私は素直にそんなことを思う。
好きな相手にキスした後、その相手にまるで汚物に触れたかのように、泣きながら唇を拭われるとか、絶対に心が持たないと確信出来る。
同じ事を思ったのか、他の者達も微妙な顔をしていた。
ひとしきり、ハンカチで唇を拭き終わると、フレイ様は私達に目を向ける。
「それで、何でこんなにここに集まってるんだ?」
「あたし達はアンタの見舞いに来たのよ」
フレイ様の質問に代表してエルザが答えた。
フレイ様はそれを受けて、少し考えると言う。
「……見舞いはいい。それよりも今は決戦の準備をしてくれ。寝込んだ俺が言えることでもないが、一分一秒でも時間は惜しい状況だろ? 今は」
「ですが、フレイ様。少しは休まれた方が……」
私はフレイ様の身を案じてそう口にする。
ここのところずっと働き詰めなのだ。
少しは休まないとフレイ様の体調に悪影響があるかもしれない。
「必要ない。今回の騒動を終わらせることが最優先事項だ。だからこそ、お前達も決戦に向けて自分が出来ることを優先しろ。……どうせ無意味になるんだから」
ぽつりと最後に呟かれた言葉。
無意味になるとはどう言う意味だろうか。
異界神獣に負けて世界が滅んでしまえば、何をしようとも全てが無意味になると、そういうことだろうか、それとも――。
「では、俺はもう行く」
私がそれを考えている間に、フレイ様はそう言うと転移を使用して、何処かへと消え去ってしまう。
そして、その場には私達がぽつんとただ残される形となった。
「フレイ様……」
私は先程までフレイ様がいた場所をみて思わずそう呟く。
今のフレイ様は戦いに勝つことを全てにおいて優先している。
それは、この世界滅亡の危機においては正しいことなのかも知れませんが――まるで生き急いでいるように見えるその姿は、全てを終えた後、フレイ様自身が何処か遠い所に消え去ってしまいそうな、そんな印象を私に与えていた。
「貴方の側に居たいです……」
だからこそ、私は人知れずにそう呟いた。