エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「あれが異界神獣……」
ゴクリと帝都に巣くう異形の様子を見て、何処かの兵士がそう呟く。
それと同じような顔をした大勢の兵士が元帝都を囲むように配置され、そして誰もがその時を待っていた。
時間はあっという間に過ぎるもので、遂に決戦の日がやって来ていた。
各々の国が今日の為の準備を終え、それぞれが思う万全の形で、決戦が始まるのを緊張しながら待っている。
それは俺も同じ事だ。
今日に向けた全ての準備を終え、俺は必ず勝てると自分に言い聞かせながら、この世界救済のための連合軍のリーダーであるアムレイヤの言葉を待つ。
「世界を守るための戦い、今日この日のために集まってくださって感謝いたします」
映像水晶によってアムレイヤの言葉が、各地に展開する連合軍や、事前に俺の手で映像水晶が設置されていた世界各地の街や村へと届けられる。
誰もが、この世界の存亡をかけた戦いに注目し、固唾を呑んでその始まりと、その戦いの結末を見届けようとしていた。
「敵は世界一つを丸ごと飲み込んだ化け物。これまでに無いほどに恐ろしく、そして強大な敵となります」
真剣な面持ちでそう語るアムレイヤ。
その態度は演説慣れしているかのように堂々としたものだ。
まあ、それもそのはず。
この演説は、また変なことを言われて士気が低下したらやってられんと思った俺が、内容の添削と演説の練習を付きっきりで手伝ったものなのだから。
「ですが! それでも私達は戦わなければなりません! この世界を守るために! 大勢の人々に明日という未来を紡がせるために!」
演説なんてしたことがないと言うアムレイヤに色々と教えるのは苦労した。
そもそも、割と早い段階からこの世界で一個人としての生活を楽しんでいたアムレイヤは、大勢の人の前で何かを喋ったこともなかった。
つまり、本当に何もかもを一から教えることになったのだ。
正直言って、神様ならもっと人への説法とか、そういうの経験しておいてくださいよ……と本気で思ったものだ。
「強大な力を持った敵と戦わなければならない状況――しかし悲観することはありません! それは貴方達が自らの側にいる者に目を向ければわかります!」
アムレイヤの言葉を受けた兵士が自分達の周囲を見回した。
「そこには誰がいますか? 貴方達には何が見えますか? きっと貴方達の目には、共に戦う仲間として、大勢の人々が映っているはずです! それは、人や獣人、ドワーフにエルフだけではない! 本来は手を取り合うことがないような魔族や竜族も含めて! ありとあらゆる種族が! そしてそれを取り纏めるありとあらゆる国家が! 世界を救うために思いを同じにしてこの場に集っています!!」
その言葉に周囲を見ていた兵士達が、共に戦う者達の大きさに気づいたように、安堵の表情を浮かべ、そしてやる気を漲らせていく。
「敵は世界そのものと言える存在! しかし、対応する我等もこの世界そのものと言える軍勢です! あっさりと滅びてしまった不出来な世界に! こうして手を取り合い! 立ち向かうことが出来る私達の世界が! 負ける道理はありません!」
そこまで言った所でアムレイヤは俺に視線を向けた。
「フレイヤフレイ!」
「っは!」
アムレイヤの呼びかけに応じて、俺はアムレイヤの前に踊り出る。
「先陣は貴方に任せます! この世界の威光を侵略者に示すのです!」
「かしこまりました」
俺はそう言って世界神の権能の一つである飛行能力を使って元帝都に向かった。
「結界を一部解除する準備を!」
その言葉に従い、各方面にいる七彩の神が、元帝都を覆う結界の一方向を解除するための準備を始める。
「開戦!」
その言葉と共に結界の一部が解除され、元帝都から異界神獣が溢れだした。
☆☆☆
「始まったか……!」
俺はそう言いながら溢れだしてきたマーブル模様の液体と相対していた。
「このまま通すわけには行かないんでね!」
俺はそう言うと、世界中から雷を転移させ、それを集約する。
「災禍の神雷!」
俺はそのかけ声と共に、集約によって膨大な雷の槍と化したそれを、異界神獣に向かって振り下ろした。
凄まじい轟音と発光と共に、帝都から出てこちらへ向かおうとしていた異界神獣の体が次々と雷によって焼き尽くされていく。
「まだ、これで終わりじゃない……! 災禍の神炎!」
俺はその様子を見ることもなく直ぐさま次弾を用意する。
世界中に存在するありとあらゆる炎を少しずつ集め、太陽と見まごうばかりの炎球を生み出す。
そして、それを、雷で焼かれた異界神獣へとぶつけた。
「異界神獣――お前が世界そのものだって言うのなら、お前が闘う相手もこの世界そのものだぜ!」
異界神獣が焼けていく中で、世界からありとあらゆる自然現象を集めた俺は、主人公になりきるように、そう意気揚々と異界神獣に向かって宣言した。
世界中から何かを取り寄せる力――。
この力こそが、俺が世界神になって得た能力だ。
元々転移を多用していた俺は、空間を司る世界神となった。
簡単にいってしまえばパル○アとなったわけだが、それによって世界神の共通能力である飛行能力などと共に、空蝉の羅針盤を強化したような能力を得たのだ。
今の俺は、魔力が伴わないのなら、世界中の何処からでも、好きなものを取り寄せすることが可能で、魔力があるものでも、事前にマーキングをしていれば、何でも取り寄せることが可能となっている。
相も変わらず属性魔法は使うことは出来ないが、こうして世界中から自然現象を集めることで、擬似的な属性魔法を実現することが可能となっているのだ。
「おっと、こっちに来たか!」
焼き尽くされていた異界神獣は、俺を攻撃しないと削られ続けるだけと本能で理解したのか、外へと向かおうとしていた歩みを止めて、空にいる俺に向かって次々と触手を放ってくる。
「世界の風よこの手に! 災禍の神風!」
世界中から嵐を集め、カマイタチとして次々と触手を切り落とす。
この世界を住まう者を苦しめる自然災害、それが今はこの世界を守るための武器として、この世界の侵略者である異界神獣に次々と振るわれていく。
「っ!? 触手が太く……?」
「風で斬られても修復するため……! マスター!」
「わかってる! 回避する!」
異界神獣は細かい触手だと全てカマイタチに斬られると理解したのか、触手を一本に集約させ、そしてそれを俺に向かって放ってきた。
その触手はカマイタチで斬られるが、豊富な液体の量を利用し、直ぐさまその切断面を修復して、そのままの勢いで俺へと向かう。
凄まじい勢いで迫り来るそれを、俺は転移を使って回避した。
「残念だが、触手相手は慣れて――」
俺はそこで気付く。
何故、この世界を創世神はエロゲーにしたのかを。
そして、エロゲスライムや、夢世界での夢魔、そして竜の里で戦ったヴァレリー等、これまで触手を使うような敵が多かったのかを。
ラスボスである異界神獣と同じ触手持ち相手に経験を積ませたかったから、インフィニット・ワンを触手で女の子陵辱しやすいエロゲーにしたのか!
「つまり、今までの触手持ちとの戦いは! 予行演習だったってことか! まったく、主人公は楽でいいね!」
先々を考えた完璧なお膳立てに対して、俺はそんな皮肉を口にしながら、世界中から冷気を集めた。
液体故に斬っても回復されるなら、固体に変えてしまえばいい。
「災禍の神氷!」
俺の狙い通り、太い触手は完全に凍り、それは液体部分で支えられず、地面へと落ちて割れて破片となっていった。
「この調子で少しずつ削って――」
「マスター! 割れた破片が変貌してる!」
「――っ!?」
クラウの警告を受け、俺がそちらへと目を向けると、凍り付いて落ちた太い触手の破片が、次々と何らかの生物の形を取り、マーブル模様の生物の姿をした何かが、帝都の外へと走り出していくのを目にする。
「あれは――!? 話にあった異界神獣の分体ってやつか!」
「ん、異界神獣がこれまで取り込んできた生物情報を元にした、餌を取ってくるための異界神獣の兵隊。どうやら、完全に切り離された肉体からでも、ああやって生成できるみたい」
当初の想定では本体からしか生成出来ないと思われていたが、こちらの攻撃で切り離した残骸からでも、どうやらあの分体達は生み出せるようだ。
そして、太い触手だったために、多数生まれてしまっている分体を見て、それらが四方八方に進み続けるのを防ぐ為に、舌打ちと共に俺は叫ぶ。
「っち! 災禍の神土!」
地面の中の土の位置を転移でずらし、地面から土の杭として隆起させ、次々と異界神獣の分体を串刺しにしていく。
だが、全ての分体相手にそれを行えたというわけでもなく、そして空を飛ぶような種もいたために、かなりの数の分体を取り逃してしまった。
「それなら炎で――」
「異界神獣からの攻撃が来る!」
「っ!」
俺はクラウの言葉と共に転移でその場を離れる。
すると俺がいた場所に複数の触手が襲い掛かっていた。
そして転移した俺の側にも――。
「こっちにも触手が……! 災禍の神炎!」
俺は咄嗟に集められるだけの炎を集めてそれらを焼き尽くす。
異界神獣は触れた相手を取り込んで自分の一部にする。
つまり、一撃でも貰ったら俺の負けだ。
早くも生じたゲームオーバーの危機に、思わず冷や汗が流れる。
「異界神獣はこちらに対応してきてる。マスター。他の者を気にしながら戦える相手じゃない。当初の想定通り、分体は連合軍に任せるべき」
「……そうするしかなさそうだな……」
出来ればこちらで分体も可能な限り削っておきたかったが、それをするだけの余力が俺の方にはなさそうだった。
だからこそ、元からの割り振り通り、連合軍があの分体達を全て倒してくれると信じて、俺がこの異界神獣を倒すしかない。
そんな風に考えていた俺に、クラウから声がかかる。
「マスター。何故当機を使用しない? 当機の破邪の力を使えば、もっと効率的に異界神獣を削ることができるはず」
「確かにそうかも知れないな……」
俺は再び集めた雷で異界神獣を焼きながらそう答える。
こうしてチマチマと自然現象を集めて異界神獣を攻撃するよりも、異界聖剣クラウソラスの聖剣としての機能を使って攻め立てた方がダメージを与えられる。
だが、それは――。
「まだ早い気がする」
「どういうこと?」
俺の回答にクラウが疑問の声を上げた。
それに対して俺は答える。
「クラウも前に行っていただろう? この物語の主人公が俺だって言うのなら、創世神がそのように定義したのなら、俺がしようと思ったことこそが、問題を解決するために必要な手順だと」
「……確かにいった」
「俺は此奴には第二形態があると思ってる。ラスボスってのは大抵、ある程度削ると第二形態、第三形態になって、プレイヤーを絶望の淵に立たせるもんだからな」
そう、まだこの段階では、聖剣を使ったとしても倒しきれる保証はない。
俺の想定通り、第二形態、第三形態となって、それまで使ってきた聖剣に対する耐性を得てしまったら、俺達は敗北することになる。
「俺がそう思っているのなら、きっとその考えは間違いじゃない。だからこそ、聖剣はまだ温存して、このまま転移を利用して削っていく」
一見、意味のないような主人公の行動も、結果的にハッピーエンドに繋がる布石となるように、異界神獣を倒すというこの物語が、俺が主人公の物語と言うのなら、その物語においては、俺が考えたことが何よりも正しいのだ。
つまり、第二形態以降を警戒して、聖剣を温存しておくべきと判断した、この俺の判断こそが正解となるはずだ。
……案外、この世界の存在では異界神獣を倒せなかった理由は、様々なゲームをプレイしてそう言うお約束を知って、聖剣を使わないなどの選択が出来る転生者と違って、敵を倒すために初めから全力で聖剣を使用してしまい、結果的に耐性が付いてしまって、それが原因で負けてしまうからかも知れない。
俺はふとそんなことを考える。
どちらにしろ、今、聖剣を使うのは無しだ。
「お前の出番は最後の最後、止めの一撃でだ! それまではこの調子で行く!」
俺はそう言うと再び自然現象を転移させ、次々と異界神獣に放った。