エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「凄まじい戦いですね……。まるで世界同士がぶつかり合っているかのようです」
雷や炎など大規模な破壊の嵐が吹き荒れる、異界神獣とフレイが戦っている帝都上空を見て、アムレイヤは思わずそんな感想を口に出していた。
「仮に私達があの子に力を預けず、世界神としての力をまだ保持していたのだとしても、あそこまで戦う事は出来なかったかもしれません」
今や世界神まで成り上がったフレイ。
それとかつては同等の存在ではあったが、それでも自分達ではあそこまで善戦することは出来ず、呆気なくやられてしまったのではないかとアムレイヤは思った。
「これもお母様の導きでしょうか。感謝しなければなりませんね」
アムレイヤがそう言って、生みの親である創世神に祈っていると、フレイが氷漬けにして切り落とした太い触手から、何体もの分体が生み出されて、こちらに迫ってくるのを目にする。
「来ましたか……ゼノス!」
「はっ!」
それを目にしたアムレイヤは事前の手はず通り、ゼノスに号令をかけた。
アムレイヤの命を受けたゼノスは、犬型の魔物を従属させている魔族の魔獣使い達に向かって、更なる命令を下す。
「放て!」
「がぅ!」
ゼノスの命令と共に犬型の魔物達が飛び出す。
それは真っ直ぐ分体達の元へと進んで行き――。
そして、その肉体に触れたのに、取り込まれることなく戦い始めた。
その結果を見て、アムレイヤは喜びから思わず声を上げる。
「想定通り、あの分体――」
「おっしゃあああああ! 彼奴らに取り込む力はねぇええ!」
意気揚々と喋ろうとしていたアムレイヤの言葉に、途中から実家で話すような低い声色で上げられた歓喜の叫びが被せられる。
「……」
思わずと言った感じでアムレイヤがその方向を見ると、そこにはガッツポーズを取るエルフの女王であるメリエスの姿があった。
「おめえら! ヤクを出せ! 彼奴らを殲滅するぞ!」
「ひゃっは~!!」
メリエスの号令に合わせて、エルフ達が次々と懐から薬を取り出す。
そして、そのエルフ特製の霊薬を、迷わず飲み込むと、エルフ達の目がまるでやばい薬でもやったかのように、常軌を逸したものになり、そしてエルフ達はアムレイヤの指示も待たずに、発狂したように分体達に突撃していってしまった。
「……。……分体には他者を取り込む能力は無いようです。そのため、当初の想定通りに、魔法部隊によって数を減らした後、白兵戦を行って奴らを駆逐します!」
「はっ!!」
エルフ達のことなど何も無かったかのように、話を元に戻したアムレイヤは、そう言って全軍に命令を下した。
それを受けて、各軍は侵略者を倒す為に動き出した。
☆☆☆
連合軍と分体の戦いは、連合軍が押されている状況にあった。
連合軍は数が多いが、それ以上に世界を丸ごと飲み込んだ存在である異界神獣の分体の方が数が多い。
そして、何よりも連合軍側を不利にしていたのは――。
「また、飛んでる奴が来たぞ!」
「クソ! あっちにはどんだけ飛ぶ種族がいるんだ!」
「竜族は何をやっている!?」
「向こうの竜族を相手にするので手一杯だとよ!!」
完全に制空権を奪われてしまっていることだった。
こちらの世界とは違い、異界神獣が飲み込んだ世界では、羽の生えた人や、虫のような姿をした人など、こちらの世界には居ない、自力で空を飛ぶことが出来る種族が多く存在していた。
そんな空を飛ぶことが出来る種族達が、地表からしか攻撃出来ないこちらの世界の攻撃を抜けて、次々と空中から集団の中央や後衛に向かって魔法が放っているため、進んでくる分体を抑え込もうとする戦線が崩壊しかけていたのだ。
竜族や神などこちらでも飛べる者達が必死で対応しようとしているが、相手側の竜族や神を模した分体の相手で手一杯のため、助けに入ることも出来ない。
「我が神からこの場を託されたが……些かこれは不味いな……」
鳥人を魔法で叩き落としたゼノスが思わずそう口にする。
まだ戦争は始まったばかりだ。
ここで消耗をしてしまえば、何時まで続くかわからない異界神獣との戦いにおいて、こちらの体力が先になくなって負けかねない。
「お父さん。そう心配しないで大丈夫です」
「プリシラ。どうしたと言うのだ?」
「もうすぐ、来るはずですから」
「来る? 何が――」
ゼノスがそう呟いたその時、光線のようなものが戦場の後方から飛び出し、空に舞っていた様々な種族の分体達を、次々と撃ち落としていた。
「あれは――!?」
ゼノスが驚く中で、後方より現れた空飛ぶ船から声が響く。
「あちし達は無窮団! これより決戦に参戦するでち! 空飛ぶ敵は、あちしらが全て撃ち落とすでち! 全軍! 一斉射撃でち!!」
その言葉と共に、再び光線が乱れ飛ぶ。
この場に駆けつけた援軍――それは、フレイの命令でギリギリまで遺跡の復元を行っていた無窮団率いる学者達の集団だった。
彼らは復旧させた遺跡である異世界航行船に載ると、その武装を最大限に利用して、次々と竜族も含めた空を飛ぶ分体達を撃ち落として言った。
その様子を見てゼノスは叫ぶ。
「今が好機! 我が魔王軍! 前線を押し上げるぞ!」
「おう!」
腐っても一国を率いる立場。
ゼノスはこれを好機とみると、配下の強力な魔族達に命令を下し、壊れかけた前線を立て直す為に、次々と敵を潰しながら、前へ前へと進んでいった。
☆☆☆
元帝都の正門側の場所で、ゼノスが前線を押し上げている頃、帝都を囲むように配置された別の部隊――神威列島の軍を中心とした第三軍団では、国軍に所属していない立場の少女が必死になって分体を魔法で焼いていた。
「ただ待っているだけなんて、わたくしには出来ませんわ」
それは滅びた帝国の皇女であるルイーゼだった。
彼女は故国のあった地を解放するために、自分が出来ることはしたいと考え、他の冒険者や有志達のように、個人枠としてこの決戦に参加していた。
そんな彼女が第三部隊に配置されたのは、元帝国だった国々の軍が居る第一軍団だとやりにくいだろうという気を利かされたのと、人任せにせず自分の手で何とかしようとした気概を第三軍団の指揮官である桐生が気に入ったからだった。
そうやって、戦い続ける第三軍団の前で異変が起こる。
「え? おじさん……」
一人の兵士がそう言って手を止めた。
彼はルイーゼと同じ帝国出身の義勇兵だった。
厄災が起こった時は他国に出掛けていて無事だった彼は、自分の故郷が滅んだことや、それによって家族が死んでしまったことで、異界神獣に対して強い憎しみを持ち、それを打倒するために連合軍に義勇兵として参加していたのだ。
だからこそ、あり得ないとわかっていても、自分の目の前に叔父の形をしたものが現れて、その手が止まってしまう。
「馬鹿! 手を止めるな!」
「あ……がぁっ!?」
その兵士は手を止めてしまったせいで、その叔父の形をしたものに、剣で体を貫かれてしまった。
血を吐き出して倒れてしまった彼を庇う為に、別の兵士が叔父の形をしたものに斬り掛かり、そして抜けた穴をカバーするように陣形を組んでいく。
そして、その出来事は始まりに過ぎなかった。
まるでそうすることが効率がいいと学習したように、次々とマーブル模様だった液体は様々な色へと変化し、それが人の形を作ることで、異界神獣が取り込んだ瞬間の人々の姿を再現していく。
それを見て桐生は吐き捨てるように言った。
「汚い手を使いやがる……!」
目の前に居るのは帝都が滅んだ時に取り込まれた人々だ。
それは単純に知り合いがいるかも知れないというだけではなく、ごく普通の主婦や老人に幼い子供など、攻撃をしにくいと心理的に思ってしまうような姿をして、この場に分体として出現していた。
「見た目に惑わされるな! 此奴らはただの分体だ!」
そう言って桐生は近くに居た子供を切り捨てるが、誰もが桐生のように割り切って敵を倒せるわけではない。
「わ、わかってるけど、こんな女の子を……ぐあぁ!?」
そう言って目の前にいる十歳ほどの幼女の姿をした分体を殺すのを戸惑う兵士。
だが、次の瞬間にその幼女が突如飛び出し、刃物のように手を変異させたもので、その兵士を切り裂いて殺した。
広がる混乱と動揺。
それは第三部隊の士気を急速に下げていき、第三部隊は押されていく。
そして、試練はこの部隊に参加しているルイーゼの前にも訪れていた。
「姫様、共にかの存在と一つになりましょう」
「セルゲイ……」
言葉を発しながらにこやかに近づいてくるセルゲイの形をしたもの。
それを見て、ルイーゼの手も止まる。
「貴方が愛したもの。帝国の全てはかの存在と共にあります。貴方も取り込まれれば、その全てを取り戻し、そしてかつての幸せを享受することが出来る」
「わ、わたくしは……」
近寄ってくるセルゲイに向かって手を向けるが魔法を放つことが出来ない。
ルイーゼの頭には、セルゲイや他の者達と過ごしたかつての帝都での日々が蘇り、偽物だとわかっていても、セルゲイに手を下せなかったのだ。
「さあ、姫様もこちらに!」
「あ……」
充分に近づいたセルゲイは悪意に塗れた笑みを見せると、そう言って隠し持っていた剣をルイーゼに向かって振り抜いた。
それに対して何の対処も出来なかったルイーゼが死を覚悟したその時、何処からともなく現れた矢が、セルゲイの剣を持った腕を抉り飛ばす。
「くだらない……」
そう言いながら、その場に現れた人物。
それを見て、ルイーゼは叫んだ。
「シルフィー!」
「所詮は形だけを真似した人形なのです。拙の知っているセルゲイなら、例え死んだとしても、姫様に向かって手を上げるなんてことはしなかったのです」
そう言ってセルゲイに向かって矢を構えながら、シルフィーは言う。
「姫様。姫様の覚悟はその程度なのです? 帝国が滅んだことは拙も聞いたのです。それでも、姫様がここにいるのは、この帝都があった地や、取り込まれてしまった人々を、異界神獣から解放したいと思ったからではないのです?」
「それは……」
シルフィーの言葉がルイーゼに突き刺さる。
「だったら、戸惑ってはいけないのです。異界神獣に取り込まれ、失われてしまったものは、もう戻ってこないのです。それならば、一刻も早くあの人形共を倒して、彼らを異界神獣に利用される立場から、解放してあげるべきだと拙は思うのです」
「そう……ですわね」
そう言うとルイーゼはセルゲイへと手を向ける。
それを見て、セルゲイは叫んだ。
「姫様! 貴方は私より、そんなエルフの言葉を聞くのですか!」
「貴方はセルゲイではありませんわ!」
セルゲイの言葉を聞いたルイーゼはそう叫ぶ。
「セルゲイはわたくしを守って死にましたわ! 皇女を守り切って命を落とす――近衛騎士として立派な最期でしたわ! ……その死を愚弄することは! 例えセルゲイの姿をしていようとも! わたくしは絶対に許しません! フレイムスピア!」
ルイーゼの放った魔法がセルゲイに命中し、セルゲイはマーブル模様の液体に戻って、その存在を焼かれていく。
その姿を見て、例えそこにいないのだとしも、異界神獣に取り込まれたセルゲイに向かって、ルイーゼは言った。
「ありがとうセルゲイ――。貴方の最後の言葉の通り、わたくしは過去を乗り越えて、健やかに……幸せに暮らして行って見せますわ」
そう言った彼女の元にシルフィーが近づく。
「決意を決められてよかったのです」
「シルフィー。貴方はどうしてここに?」
そんなシルフィーを見て、ルイーゼがそう言う。
ルイーゼは、竜の里の事件の後に帝都を出て行ってずっと音信不通だったシルフィーが突如として自分を助けてくれたことを驚いていたのだ。
「うぅ……。拙はあの後フェルノ王国に向かったのですが、突如として制定されたフェルノ王国のエルフ入国禁止法のせいで、フレイの元に迎えなかったのです」
竜の里事件の直後、エルフの危険性を再認識した王族と高位貴族であるフレイ、エルザ、ユーナの連名による進言によって、フェルノ王国では堕落を齎すエルフの入国を一斉に禁止している状況にあった。
それに巻き込まれたシルフィーは、フェルノ王国に入国することも出来ず、何とかして入国するための伝手を得ようと、周辺各国をウロチョロしている間に、異界神獣による今回の騒動が起こってしまったのだ。
「そしたら、世界の命運をかけた決戦があるとかで、無理矢理エルフガーデン軍に入隊させられることになって、この状況なのです」
周辺各国を彷徨っていたシルフィーは、戦力を欲したエルフガーデンのエルフに捕まり、本国へと強制送還されることになってしまった。
本国で快楽漬けにされて、ビッチエルフに調教されるのかと戦々恐々としていたシルフィーだが、異界神獣に取り込まれたくないエルフ達は、何が何でも異界神獣を根絶するつもりだったため、エロいことをされることもなく、強くなるための厳しい軍隊生活を送ることになっていたのだ。
「エルフガーデン軍に? では他のエルフ達も――」
「既にここで戦っているのです」
そう言ってシルフィーが目を向けた先、そちらの方にルイーゼが目を向けると、そこでは複数のエルフ達がラリった様子で暴れるように敵を倒していた。
「殺せ殺せ~!」
「ひゃっは~!」
「くすりぃ~! もっとくすりぃ~!!」
目を血走らせながら、何処かの世紀末の蛮族のような感じで、分体の見た目が女子供であろうとも、まるで気にせずに殺戮を繰り返していく狂戦士達。
それによって、一般人の見た目の分体に手出しが出来ず、追い詰められていた第三部隊は、少しずつだが体勢を立て直すことが出来ていた。
「まさかエルフに助けられるとはな……」
エルフ達のあんまりな様子を見て、桐生は苦笑しながらもそう呟いた。
そして第三部隊に指示を出す。
「エルフ達が持たせている間に陣形を組み直すぞ!」
「はい!」
桐生の言葉で軍が動いていく。
そんな中で、シルフィーがルイーゼに言った。
「姫様。姫様もまだいけるのです?」
「当たり前ですわ! ここで立ち止まるわけにはいきませんもの!」
「それでこそ、なのです!」
そう言うと二人で分体達へと向かって行った。
☆☆☆
「駄目だ……前線が脆すぎる……!」
フェルノ王国を中心とした第二軍団。
こちらは他の軍団のように特殊な敵が現れたと言うわけでもないのに、完全に異界神獣の分体の勢力に押され、そして戦線が崩壊し始めていた。
「如何するの!? クリスティア王女! これってやばいよね!?」
遊撃部隊である獣牙連峰を中心とした第六軍団。
それが助けに入っているのに、戦況は一向に改善されていない。
その為、第六軍団の指揮官であるキャロルは、第二軍団の指揮官であるクリスティアに向かって、事態の打開の方法を問いかけていた。
(純粋に我が国の戦力が不足している……! 内乱の影響で戦うことが出来る貴族が減っているのもあるが、私を王と貴族達がまだ認めていないせいで、こちらの命令がまともに届かず、勝手に行動されて各個撃破されてしまっている……!)
かつてのフェルノ王国の内乱は早期に終結出来たものの、ユーゲント公爵派とダルベルグ公爵派に少なくない犠牲者が出てしまっている。
それに加えて、弱腰の王によって、ダルベルグ公爵派が生き残ってしまったことで、その傘下である派閥の者は、未だにクリスティアを次期王と認めず、その命令を無視してしまっている状況にあるのだ。
そして、その身勝手な行動によって、ユーゲント公爵派の軍勢が、自分達を守るための行動を始めてしまい、全体的な陣形が崩れる事態に陥っている。
その状況を補うために、フェルノ王国軍の一部を率いるユーナや、中立派であるノーティス公爵軍は必死になって頑張っているものの、それでも国の大勢を担う二派閥が機能しないことには、状況を打壊することは難しかった。
(不甲斐ない……! 世界の危機だというのに、我が国がこんな体たらくを見せることになるとは……!)
クリスティアは思わず唇を噛みしめながらも、事態を好転させるためにひたすら指揮を執って、何とか状況を打壊しようと足掻く。
だが、一度崩壊し始めてしまった戦線は、どれだけ指揮を執って補おうとしても、挽回することは出来ないようなものだった。
「やばい! やばいよ~! どうしよう~これ~!」
キャロルが喚き叫ぶ中で、一隻の空飛ぶ船がクリスティア達の後方に降り立つ。
「クリスティア様! 援軍です!」
「援軍だと!? これ以上、何処から……」
既に援軍を派兵出来る第六部隊からの援助は受けている。
そう考えて、クリスティアが後方へと目を向けると、そこには彼女が見知った顔が並んでいた。
「メジーナ……!?」
「お久しぶりです。クリスティア様」
そう言って頭を下げたのは学友であるメジーナだった。
彼女はクリスティアに向かって言う。
「世界各地から集めてくるのは時間がかかりましたが……何とか間に合ったようですね」
「集めてきた……? 何をだ?」
「それは勿論! 我が同志達です!」
そこに居たのは、まだ幼い貴族の令嬢や令息達、そしてそれ以外の人種も服装もバラバラな多種多様な人々の集団だった。
「銀仮面様に救って頂いた我等銀仮面ファンクラブ! 今こそ、あの方の世界を守りたいという意思に準じ、世界の為に戦う時です!」
「うおおおおおお!!!!」
その言葉と共に大地が震えるような歓声が響く。
フレイが節操無しに救い続けてきた人々が、救って貰った借りを少しでも返そうと、命がかかったこの戦場に集結したのだ。
「さあ、クリスティア様! この部隊の指揮官である貴方が命令を!」
「あ、ああ……。わかった。銀仮面ファンクラブ! 崩壊している前線を立て直す為の時間稼ぎをしてくれ!」
「はっ! うぉおおおおおおお!!」
クリスティアの命令を聞くと、銀仮面ファンクラブは、叫びながら我先にと敵陣へと突撃していく。
ただのファンクラブにどれほどのことが出来るのか――そう思っていたクリスティアの目の前で、次々と分体達が銀仮面ファンクラブによって討ち取られていった。
「強い……!」
クリスティアは思わずそう口に出す。
だが、それも当然のことだ。
ゲームの攻略対象というのは、基本的に他のモブとの差別化の為に、何らかの特徴を持たせて優秀になるように下駄を履かされている。
それはフレイの恋人にさせない為に、無理矢理運命を変えたヒロイン達も同じであり、ゲーム上のヒロインにする過程で創世神による強化の手が入っていたのだ。
それに加えて、アリシアのヒーローなど、元からフレイの助けになるようにと配置された攻略対象達は優れた素質を持っており、結果的に銀仮面ファンクラブは優れた才能を持つ者が集まった集団とかしていた。
「当たり前です。私達は銀仮面様から託されたこれで、今回のように私達の手が必要になる時のために、訓練に励んでいたのですから」
そう言って、メジーナが見せたのは夢魔の懐中時計だった。
銀仮面ファンクラブが幾ら攻略対象として素質に溢れているのだとしても、それを磨かなければ真っ当に戦う事は出来はしない。
それなのに、彼らがこうも戦う事が出来ているのは、メジーナの持つ、メジーナルートの攻略特典であるこの懐中時計のおかげだった。
懐中時計で行くことが出来る夢世界は、そこで失った処女膜が、起きた時には何事も無く無事であるように、例え夢の中で死ぬほどの怪我を負ったとしても、現実の肉体には何の影響もなく、死なずに生還することが出来るのだ。
だからこそ、彼らはその死んでも蘇られる夢世界で、何をやっても死なないからと何度も死にそうになるほどの訓練を重ね、その結果として素質だけは充分にあった攻略対象達は、一騎当千の強兵へと姿を変えたのだ。
一人一人が達人級の攻略対象達によって戦線は立て直す。
次々と分体が倒されることで、戦線は持ち直していった。
(ただの学生や一般人が、こうして世界の為に自らを鍛えてこの場に立っているのだ! 貴族として人々を守らなければいけない我々が、我が身可愛さで戦う事を止めてはならない……!)
そして、クリスティアはここで覚悟を決めた。
「第二軍団に通達する。こちらの命令に従わないダルベルグ公爵派を、後ろから分体に向かうように押し出せ! もし逃げるようだったら切り捨てても構わん!」
その命令によって、第二軍団の面々がダルベルグ公爵派を押し出す。
幾ら命令を聞かないと言っても、彼らだって命は惜しいもの、後ろからは第二軍団が、そして前からは分体が迫る状況に陥った彼らは、生き残る為にこれまでと違って必死になって分体と闘い始める。
(例え未来で問題が残るのだとしても、ここで勝利を得る!)
そのクリスティアの堅い決意によって、分体は次々と打ち倒され、そして戦況は第二軍団側へと傾いていくのだった。
☆☆☆
「あれは……別世界の神のようですな。こちらの神より、向こうの神の方が、数は多い形でしたか……」
目の前に立つ、圧倒的な力を帯びた二柱の存在を前に、思わずと言った様子でこの軍団の指揮官であるクリストフは呟いていた。
聖王国を中心に、七彩教に縁深い国々が集まった第四軍団には、各軍団の中で最大の危機が訪れている状況にあった。
それは異界神獣の世界の神を模した分体の登場だった。
神を模した分体は基本的にこの世界の神が相対して戦っているが、それで防げる数は、この世界で下界に降りている神の数である六柱までとなる。
その為、主神を除いて八柱いた異界神獣の世界の神を止めきることが出来ず、二柱の神がこうして第四軍団の戦場にやってきてしまったのだ。
その神々が第四軍団に向かって手を向ける。
すると、そこから光線が現れて、それは膨大な熱量を持って、その場に展開している第四軍団へと向かってきた。
「レシリア!」
「うん!」
それに対抗したのはフェルノ王国の一部でありながら、第四軍団に配置されることになったシーザック家の面々――その中の聖女達だった。
二人の生み出した結界が、光線と第四軍団の間に現れ、そして光線をその結界が受け止めていく。
「一撃が重い……!」
「レシリア! 耐えるのよ!」
圧倒的な力に耐えるようにレシリア達は結界を維持する。
やがて光線は力を失い、そこには壊れかけた結界だけが残された。
「守り切った……!」
「行くぞ!」
「命令されるまでもない!」
神が放った光線が結界に防がれるのと同時に走り出したのは、ジーク率いるS級冒険者達の集団だ。
この世界での最強格である彼らは、集団としての戦力が不足していた第四軍団に全て配置されており、そんな彼らは神すら殺すために敵へと向かっていく。
「あの戦いに割り込むのは難しい……。ならば、我等は我等のやり方で戦うのみ! 皆の者! 戦いに赴く彼らに強化を!」
クリストフのその言葉と共に、大勢いる武装神官達が、次々と強化魔法をS級冒険者や聖女に付与していく。
「これはありがたい!」
そう言うとジークは神へと斬り掛かる。
「息子があんな大役を背負って頑張ってるんだ! 父親としてかっこ悪い姿を見せるわけにはいかないんだよ!!」
そう意気込むジークと共に強化されたS級が次々と神とぶつかり合う。
この世界での最強格であるS級――それにこの世界最高峰の神官達が強化魔法をかけているが、それでも神を倒しきることは出来ない。
(異世界とは言え、さすがは神、これだけやっても押し切れないか……)
冷静に状況を判断していたクリストフは事態の不味さを理解する。
今は薄氷の上に立っているようなものだ。
S級が一人落ちた時点で、この戦況はひっくり返りかねない。
「しまっ――くっ!」
そしてクリストフのその懸念は現実のものとなってしまう。
油断したS級の一人が怪我をしたのを皮切りに、次々とS級がダメージを負い、あっという間に戦況が神々の側へと傾いてしまう。
「このままでは――!」
他の神と戦っている七彩の神に救援を求めるべきか?
クリストフがそう考えたその時、空から一隻の船がこの場に降り立った。
それは、銀仮面ファンクラブが動き出したのと時を同じくして、動き出していたもう一方の組織――銀神教の面々が乗った船だった。
船から下りた人々は直ぐさま、S級に回復魔法を放つなど、各々が出来る形でこの戦場への介入を始める。
「銀神教!? でも、援軍が少し来た所で……」
突如として現れた銀神教に驚いたレシリアがそう口にする。
天才であるレシリアには結果が見えていた。
例え、銀神教が加勢したとしても、二柱の神である敵との絶対的な差を覆すことはできないと。
「手はありますわぁ。貴方にその覚悟があればですけどぉ」
そんな中で、銀神教の教祖であるレディシアは余裕を見せながら、レシリアに向かってそう語りかける。
「レディシアお姉さん。手段があるって言うの? レシィに必要な覚悟って?」
「人を辞める覚悟はあるかしらぁ?」
その一言だけで、レシリアはその手段が何か気付いた。
そして、その上でレシリアは宣言する。
「レシィはまだお兄様としたいこといっぱいあるもん! だから、こんなところで死ぬわけにはいかない……! その為なら人を辞める覚悟くらい! あるよ!」
「いい返事だわぁ~。さすがあの方の妹君」
レディシアはそれだけ言うと、この場の戦いを世界各地に映している、映像水晶に向かって語りかける。
「ここで戦っているレシリア様はぁ! 異界神獣と戦っている銀の神フレイヤフレイ様の妹君なのぉ! 神と兄妹――それすなわち、その者も神であるということぉ! このお方は白の神なのよぉ!!」
レディシアは全世界に向けて、堂々とレシリアが神だと偽った。
だが、既に兄が神扱いされていることから、その発言には一見すると信憑性があり、映像を見ていた純真な人々は、レシリアが神であると誤認した。
「これから銀神教は、白銀教へと名称を改めるわぁ! この世界を救いたいと思っているのならぁ! この場で異世界の神と戦っている白の神への祈りを!」
その言葉と共に、途方もないエネルギーがレシリアに流れ込んできた。
神になるためには解脱した精神性が必要となる。
だが、神の血を引き、そして世界中から大量の信仰というエネルギーを集めたレシリアは、神である兄と兄妹という事実、聖女という神の力をずっと扱っていた立場、そして持ち前の才能を利用して、それを強引に無視して神へと転じる。
「悪いけど! レシィ達の世界に! 貴方達みたいな神は不要なの!」
そう言うとレシリアは、信仰によって自らに集まったエネルギーを、攻撃のために一カ所に集中させる。
圧倒的な力の奔流に焦った二柱の神は、レシリアが攻撃に移る前に潰すため、レシリアに向けて光線を放とうとする。
――攻撃に力を使っているレシリアでは、自身の身を守ることが出来ない。
(ここだ――!)
それまで力を温存していた来幸は、今が自分が動くときだと判断した。
自身に残る魔力――その全てを使って、神をペテンにかける。
「!?」
神が放った光線は見当違いの方向に飛んでいった。
来幸が放った闇魔法が神を騙したのだ。
「お兄様の邪魔はさせない! これで終わりだよ!!」
レシリアのその言葉と共に、必殺の光線が外れて動きが止まった二柱の神の元へ、信仰による莫大なエネルギーを一点集中させた光の魔法をぶつける。
その圧倒的な威力によって、神々は欠片も残さず消え去った。
「勝った……! 異世界の神に! 偽りの神に勝った!」
歓声がその場に響く。
二柱の神を相手に勝ち残るという大金星。
第四軍団の戦場は、第四軍団側の勝利で幕を閉じた。
☆☆☆
「なんだぁ!? こりゃあ!?」
第五軍団の指揮官であるガンダングは思わずそう叫んだ。
目の前に居るのはこの世界では見たこともない奇っ怪な化け物達。
異形、異形、異形、異形――他の軍団と違い、様々な種類の化け物が、この第五軍団が受け持つ戦場へとやって来ていた。
「なんで、ワシらのところは、こんな化け物ばかりくるんだぁ!?」
ガンダングが知るよしもないが、これは、異界神獣が持つ、抗体のような、敵に対応して成長することで能力を変えていくという対応能力によるものだ。
義勇兵が多く優しさにつけ込みやすい第三軍団に帝都の人々を模した分体を送り込んだように、聖女やS級など強力な駒を持つ第四軍団に神という特級戦力を配置したように、飛行型が少ないと言う以外に特に弱点らしい弱点の無かった第一軍団と、弱すぎて成長することのなかった第二軍団以外の部隊は、各部隊の弱点を突くように異界神獣が成長し、対応を行っていた。
それは、この第五軍団でも同じであり、多少の生物なら、強靱な肉体を使用してあっさりと倒してしまうドワーフに合わせて、異界神獣が取り込んだ世界の様々な化け物をこの地に派遣していたのだ。
「く……さすがのワシらでも、あの巨体相手だと骨が折れる」
目の前に立つ巨大な怪物を複数人掛かりで倒したガンダングは、激闘によって流れた汗を拭いながら思わずそう口にする。
「王よ! あれはどうやって倒せばいいのですか!?」
「知らん! 取り敢えず殴っとけ!!」
現れる怪物はどれも見たことが無いようなもの。
どうやって戦うのがいいのか、それすらもわからない。
だが、それでも攻撃を続けなければ、こちらが押し負けてしまう。
「せめて持ち込んだアレを使えれば……だが、この巨体相手では、身動きの取れないアレはいい的になるだけだな……」
ガンダングが思わずそう嘆いた時、空から拡散する光の波動がやってくる。
「これは……!?」
ガンダングがそれに驚いている中で、地面の草が成長し、次々と巨大な怪物達を縛り上げていった。
そして、身動きが取れなくなった怪物達へ、強力なブレスが放たれ、怪物達に風穴を開けていく。
「ボク達が援軍に来たよ!」
「竜族か! 他の竜族の相手はいいんか!?」
この戦場に現れた竜族達にガンダングは思わずそう問いかけた。
それに対して、竜族の長老であるヨーデルは答える。
「異世界航行船とやらが受け持っておる。それで手が空いた竜族は、押されている場所の手伝いを命じられてやって来たというわけじゃ」
「それは助かる! 敵がデカくて困っていたところだ!」
分体を殴りながらガンダングは素直にヨーデルの救援を喜ぶ。
一方でヨーデルは浮かない顔をして、ブレスを浴びせた分体達を見ていた。
「ブレスが大して効いてないのう……。これは、ワシらが来ても、状況を変えられそうにないのじゃ……」
敵の分体は竜族から見ても大きな体を持っていた。
その為に、他の生物相手なら必殺となる竜族のブレスが、体の一部に穴を開けるだけで、明確なダメージに繋がっていない様子だったのだ。
「いや、それならワシに考えがある! 竜族が手伝ってくれるのなら! アレが使えるはずだ! ワシに着いてきてくれ!」
そう言うとガンダングは自軍の後方に向かっていく。
竜族が追っていくと、そこには巨大な鉄の城塞と呼ぶべき兵器があった。
「異界神獣に一発ぶち込むために用意したワシらドワーフの自信作! 対異界神獣兵器――鉄牙城だ!!」
「この城が……武器だって言うの!?」
ヨーデルと共にこの地に援軍に来ていたノルンがそう叫ぶ。
その言葉にガンダングは満足そうな顔をして言う。
「鉄で出来た城は守りが最強! ならば、そこに攻撃性能を加えれば! どんな相手だろうと打ち倒す最強の兵器が完成するって寸法よ!!」
ドヤ顔を見せながらそう言うガンダング。
それを聞いたノルンは純粋な疑問をガンダングにぶつけた。
「じゃあ、どうしてそれを使ってないの?」
「そ、それは……だな。フレイヤフレイ様に手伝って貰って、ここまで運んで来たものの、ここから動かす手段を何も考えておらんかったのだ……」
「ええ……」
あまりの計画性の無さにノルンは呆れたような声を出す。
一方で今の発言から自分達にして欲しいことを察したヨーデルは、ガンダングに向かってそれを聞いた。
「つまり、ガンダング殿はこれをワシらに押し出して欲しいと言うことじゃな?」
「その通りだ! 竜族が複数体協力してくれるのなら、鉄牙城を押し出して動かすことが出来るだろう? 巨大な敵には巨大な兵器! この鉄牙城なら! あの巨大な怪物達も打ち倒せるはずだ!」
「やれやれ、老骨にはちと厳しいが、これが最善の手のようじゃな」
そう言うと竜族は鉄牙城の後ろに回る。
「よし! ワシらも乗り込むぞ!」
それを見て、ガンダング達、第五軍団も鉄牙城に乗り込む。
「今こそワシらの力を見せるとき! 前身!」
その言葉に合わせて竜族が鉄牙城を押し出す。
後ろから押し出された鉄牙城は、城の下に付けられた車輪によって、軽快に走り始め、どんどんと加速しながら、分体に向かって進んで行く。
「パイルバンカー用意!」
「うっす!」
ガンダングの言葉と共に、鉄牙城の機構が動き始める。
城の正面――普通なら城門があるはずのそこには、ドワーフたちが作り出した巨大な破城槌が取り付けられていた。
「突貫!」
その言葉と共に鉄牙城が怪獣とも言える巨大な分体にぶつかる。
その衝撃で分体はよろめき、明確な隙を作り出した。
そこに――。
「放て!」
ガンダングの命令のもとパイルバンカーとなっていた破城槌が打ち出される。
城一つを使ったパイルバンカーの威力は凄まじく、分体はその巨大な体の半分以上をえぐり取られ、そしてそのまま散っていった。
それを見て、ガンダングは叫ぶ。
「わはははは! これぞ! ロマンよ!」
「残りの敵がこっちに向かってるっす!」
「バリスタと大砲で迎撃しろ! この鉄牙城は守りも強いのだ!」
竜族に押されて鉄牙城が再度移動する中で、城の上部に取り付けられた大量のバリスタと大砲を使って、次々と分体達を撃っていく。
そして、敵が怯んで出来た隙を狙い、次なる分体に体当たりを敢行し、二度目のパイルバンカーで相手を仕留めて行く。
「どれだけデカかろうと無敵の鉄牙城には勝てん! わははは!」
巨大な城が動くことによる攻防一体の戦術。
それによって、第五軍団は持ち直し、戦況を有利に進めていくのだった。
異界神獣とフレイの戦いに関しては、基本的にルートによって変化がない形になりますが、この連合軍の決戦はフレイが通ってきたルートによって、それぞれの軍団の優勢や劣勢、勝利や敗北の状況が変わります。
例えば、バカンスに行くのをエルミナではなく、神威列島にすると、そこで攻略対象である桐生将軍の娘の剣聖を目指す少女と出会い、イベントをこなすことによって、今回の決戦での状況が、竜族の支援がなくて壊滅する第五軍団と、エルフの助けを得ずに分体を殲滅する第三軍団といった形に変化します。
今回の戦いは基本的にベストなルートを通っていますが、フェルノ王国の内乱の後始末に失敗してしまったので、第二軍団が劣勢に追い込まれる形になってしまっています。