エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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ゲームクリア

 

 村の中央に設置された大きな焚き火台の元に、その村に住む全ての村人が集まり、固唾を呑んで映像水晶から映し出されるフレイと異界神獣の戦いを見守っていた。

 

「凄い戦いだな……」

 

 村人の一人がそう言いながら焚き火台に木を放り込む。

 何故こんな時にキャンプファイヤーをしているかと言うと、フレイが炎を転移させて攻撃をするための炎の転移元として、世界各地の村や都市にキャンプファイヤーの実施を依頼していたからだった。

 

 属性攻撃が効かなくなったため、今は物理攻撃に切り替わって炎を取り寄せることは無くなっているが……それでも村人達はまた使うことになるかも知れないかと、必死で炎の勢いを維持しながら、戦いを見続けていたのだ。

 

「でも、やっぱ神様は凄いな……あんな戦いはオラ達には出来ないもんな……」

 

 村人達は畏敬の念を見せながら、戦いに挑む神の姿を見据える。

 異界神獣を手の平で転がすようにしながら、格好良く戦う神の姿は、戦いと縁遠い彼らに取っては、とても頼もしく、そして輝かしいのものに見えたのだ。

 

 ――そして、村人達がそう思うのはフレイの狙い通りだった。

 

 世界中に映像水晶を配備し、世界の人々がこの戦いを見られるようにしたのも、わざと技名を言いながら自然現象を転移させたのも、格好付けるような言い回しや仕草をしているのも、全ては世界中の人々に神が世界を守るために凄い戦いを繰り広げていると認識して貰う為のものだったのだ。

 

 何故、フレイはこのようなことをわざわざしているのか。

 その理由は、フレイが神になったばかりの無名の存在だからだ。

 

 銀神教などが活動を開始し、銀の神フレイヤフレイの存在を広めていると言っても、それはここ数年の話であり、全世界に広がっているというわけではない。

 だからこそ、今回の戦いが始まるまでの世界中の人々の認識は、よく分からないけど最近神になったらしい奴が、異界神獣という化け物と先陣を切って戦うらしいという程度の関心の薄い認識しか持っていなかった。

 

 それを何とかして変えようとフレイは考えていたのだ。

 なぜなら、関心の薄さは当事者意識の欠如に繋がるからだ。

 

 例えば、スポーツなどでは、親しみがある地元の球団などを応援し、その勝利を自分のことのように喜ぶと言ったことがあり得る。

 だが、例え地元に住んでいても、その球団に関心が薄ければ、今年の日本一を決めた勝利であったとしても、その勝利を自分のことのように喜ぶと言った事態に繋がることはないだろう。

 

 言ってしまえば、それは対岸の火事とも言うべきもの。

 どれだけ大変なことが起こっていようとも、自分に直接関わり合いのないものなら、人はそれを無視して何も無かったかのように生活を続けるのだ。

 だからこそ、この決戦が行われている時でも、この世界の人々は世界の命運をかけた戦いなど自分には関係ないと考えて、それらを全て忘れ去っていつも通りの日常を送る可能性があった。

 

 普通の主人公なら、皆の日常を守るためと言って、その行いを肯定するのかも知れないが、そんな高尚な気質を持たず、全てを利用し尽くしてでも勝利を得ようとするフレイに取っては、それは許せない行いだった。

 

 だからこそ、そうさせないために映像水晶を使って戦いを見せつけた。

 

 人は対岸の火事を気にかけること何てない。

 そんな、モブの心理を身をもって知り尽くしているフレイだからこそ、全ての人々を当事者にするために、銀の神フレイヤフレイという存在を認識させたのだ。

 

 そして、そう言った仕込みはもう一つ存在している。

 

「あれはオラが切った木で出来た杭だ!」

「ってことはあの中身は私が作った薬品か……!」

 

 感慨深げに村人達はその道具が使われるのを見つめる。

 フレイが振るっている様々な道具は、彼らの言葉通り、彼らが協力して作り上げたものが含まれていた。

 だからこそ、自分が作った道具を使われた村人達は言う。

 

(私達もあの神――フレイヤフレイ様と一緒に世界の為に戦っているんだ!)

 

 共に戦うという思い、それは連帯感を高め、当事者意識を強める。

 多くの人々が銀の神フレイヤフレイを、自分達と共に戦う仲間だと認識し、そして自分達の勝利の為に、その活躍を強く願い、祈りを捧げていった。

 

 そう、この時――銀の神フレイヤフレイは、主神である紫の神セレスティアを越えて――世界で最も有名な神となった。

 そして、フレイの狙い通りに高まった信仰は、フレイの空間を司る神としての能力を強化し、その力を持ってフレイは戦いを優勢に進めていく。

 

 何度も何度も、手を替え品を替え、様々な道具を利用し、これは世界の総力を結集した戦いだと、お前達も一緒に戦っているのだと、見せるつけるようにして、異界神獣と戦って行くフレイ。

 それによって、世界中の熱はどんどんと高まっていく。

 

 それは一種のショーだった。

 世界を救うという物語を一幕を、フレイは全世界の人々に見せつけたのだ。

 

 この世界の自然現象や、人々の力を結集した道具だけではなく、フレイは人々の信仰心すらも利用し尽くすために、自らを物語の主人公という名の道化にして、異界神獣との戦いという舞台で踊り続けていたのだ。

 

 フレイの努力の成果はしっかりと現れ、異界神獣は目に見えて弱っていく。

 しかし、その時、村人の一人が映し出される映像を見て気付いた。

 

「異界神獣の姿がまた変わったぞ!?」

 

 映像の中で異界神獣は再び変異を始めていた。

 悪魔のような見た目だった異界神獣は、その肉体から亀のような甲羅や、獣のような体毛、鳥のような羽に、竜のような鱗など、様々な生物の特徴をまるでキメラのように出し続け、壊れた生物としての姿を見せつける。

 

「なんておぞましい……」

 

 村人の一人が思わずそう口にする。

 村人達に取って、何よりも、気味が悪かったのは、異界神獣の肉体の至る所に、様々な生物の顔が生えていることだった。

 そして、その顔達は次々と呪詛を語り続ける。

 

『金だ! 金をよこせ! じゃなきゃお前を殺す!』

『私だけがこんな目に合うなんて許せない! そうだあの女も私と同じように悲惨な目にあえばいいんだ!』

『価値のないゴミが、平民のくせして、俺に逆らおうとするから、そんな無様な目に合うんだ』

『きゃははっ! ほんと馬鹿だよね~ちょっとおだてれば、あのおっさん達は直ぐにお金を払ってくれるんだから、私の人生ほんとイージー』

『新しく入った新人、いい女だよなぁ……今度酔わして犯してやろうかな』

『殺してやる! 殺してやる! 殺してやるぅううう!』

 

 まさに人々の悪意を集めたかのように言葉を吐き続ける複数の顔。

 それを見て、そして聞いて、人々は嫌悪感を露わにした。

 

『世界中の皆、聞いて欲しい――』

 

 そんな中で、フレイから世界中の人に向けてそう声が届く。

 

『異界神獣は再度変異した。これにより、属性攻撃だけではなく、物理攻撃も受け付けなくなってしまったようだ』

 

 映像の中では、フレイが自然現象や武器を異界神獣に当てているが、その全てに対して異界神獣は碌にダメージを受けていないようだった。

 キメラのように自らの世界の様々な生物の特徴を取り込んだことで、異界神獣はあらゆる耐性をその身に宿していたのだ。

 

『だが、私にはまだ切り札が残されている。この手にある聖剣が』

 

 そう言ってフレイは聖剣を振りかざした。

 誰もがその聖剣の輝きに目を奪われる。

 

『しかし、私の魔力だけでは、この聖剣を起動させるためには足らないのだ』

 

 フレイの真摯な声が世界に響く。

 

『少しでも構わない! 皆がこの世界の未来を願うなら――どうかこの私に皆の魔力を分け与えて欲しい!!』

 

 この世界を守るために戦っているものからの助けを求める声。

 それと同時に目の前に魔法陣が現れた。

 

 村人達はその魔法陣に魔力を込めればいいのだと直感的に理解し、フレイヤフレイの勝利を願いながら、次々と魔力を込めていく。

 

「信じているよ! フレイヤフレイ様!」

「受け取って! 私達の力を!」

「この世界に明日を!」

「勝ってください! この世界のために!」

 

 大勢の人々の願いを集め、聖剣は光輝く。

 

 その姿を見て、誰もが理解した。そして信じた。

 この神はきっと成し遂げて見せると。

 

☆☆☆

 

 俺の目の前で異界神獣は第三形態に変化していった。

 まるでサラダボウルのように、甲羅に毛皮に鱗と、選り取り見取りな特徴が追加されていく異界神獣を見て、俺はある懸念を抱く。

 

「ひとまずは試してみるか」

 

 俺はそう呟くと、異界神獣に自然現象を転移させた攻撃と、武器などを射出する物理攻撃を繰り返した。

 だが、そのいずれも、異界神獣にダメージを与えることは出来なくなっていた。

 

 やっぱ、複数の生物の情報を取り込んだキメラになったことで、属性攻撃だけではなく物理攻撃も含めたあらゆる耐性を獲得したみたいだな……。

 

 俺は内心でそう考えながら心の中で舌打ちをする。

 これだけの耐性を獲得されると、あらゆるものを転移させられる俺でも、明確にダメージを与えるものを用意することは難しい。

 

 何がまだ効くかを調べる為に、色々と試すことに時間を使ったら、その隙を突かれてやられかねないか……これは潮時だな。

 

 俺はそう考えると、鞘から聖剣を抜き放った。

 それを受けて、クラウが俺に対して言う。

 

「当機の出番?」

「ああ、頃合いだろう。もう向こうも絞りかすだけみたいだしな」

 

 俺がそう言って示した先では、複数の顔をその体に生やした異界神獣が、次々とその顔から、様々な存在の悪意と思われるものを喋り続けていた。

 

「異界神獣は世界を喰らった。そして悪意という毒があり、それを含めて消化出来なかったものが、その肉体を覆ってあのマーブル模様の液体になった」

 

 耳障りな異界神獣の声を聞き流しながら、俺は続けるようにして言う。

 

「つまり、異界神獣の肉体を構成するのは悪意とそれ以外だ。ああやって、悪意が漏れ出てきたと言う事は、悪意以外の消化出来なかったものが削られて、異界神獣が完全に消化できなかった悪意という毒しかもう残っていないってことだろう」

 

 俺は異界神獣の今の状態についてそう結論づける。

 悪意という毒を隠していた外殻が無くなったからこそ、異界神獣は悪意を次々とまき散らす、この第三形態とも言うべき姿になったのだ。

 

「マスター。油断は禁物」

 

 あと少しで倒せるという意味で言った俺の言葉に対して、クラウが気を引き締めるように忠告を行ってくる。

 

「悪意は人の強固な思念の一つ。ここからは何が出てくるかわからない」

 

 魔が差したという言葉があるように、殺人や盗みなど普段は自ら行えないような行為でも、人は悪意さえあれば簡単にそれを実行してしまえるようになる。

 つまり、悪意とは人の行動を簡単に変えてしまえるほど、強い影響力と強靱さを兼ね備えた強固な思念であると言えるのだ。

 

 そんな、悪意が主体となって形成された状態――。

 クラウの言う通り、ここから異界神獣がどう変貌するかわからない。

 だからこそ、俺は言う。

 

「わかってる。もう出し惜しみはなしだ――聖剣を使って一撃で終わらせる」

 

 そしてこの戦いを撮っている映像水晶に向けて俺は語りかける。

 

「世界中の皆、聞いて欲しい――」

 

 舞台は完全に整った。

 

「異界神獣は再度変異した。これにより、属性攻撃だけではなく、物理攻撃も受け付けなくなってしまったようだ」

 

 ここから先はこの物語のフィナーレだ。

 

「だが、私にはまだ切り札が残されている。この手にある聖剣が」

 

 そして、フィナーレには相応しい終わり方が存在してる。

 

「しかし、私の魔力だけでは、この聖剣を起動させるためには足らないのだ」

 

 つまるところ、それは――。

 

「少しでも構わない! 皆がこの世界の未来を願うなら――どうかこの私に皆の魔力を分け与えて欲しい!!」

 

 『宇宙のみんな! オラに元気をわけてくれ!』だ!

 

 最終決戦でのお約束。

 世界中の人々が主人公に力を託して、主人公が本来勝てない強大さをもった悪の親玉を倒すパターン。

 

 俺はこの結末に向けて、これまで散々準備を行ってきたのだ。

 

「マスター。世界中の人々の祈りと魔力が集まってる」

「聖剣起動までの進捗率は?」

「現在30%……40%……」

 

 進捗率を伝えるクラウの声が淡々と響く。

 聖剣に集まる膨大な魔力を危険視したのか、異界神獣は自らの変貌を停止すると、俺に向かって触手と魔法を放ってきた。

 

「今までの全形態の技が使えるってことか!」

 

 俺がそう言った瞬間、異界神獣から肉体の一部が射出される。

 俺はそれを咄嗟に盾で防ぐが、その盾を貫通してきたため、二つ目の盾を瞬時に展開して、その盾でそれを受け止めた。

 受け止めたものの、半分盾を貫いたそれをみて、俺は思わず叫ぶ。

 

「これは――槍か!?」

 

 それは神々しい装飾がなされた美麗な槍だった。

 明らかに伝説の武器として扱われてそうなその風貌と力に、俺はこれが向こうの世界での神槍だと理解する。

 

 分体を取り込んだ生物の情報ではなく、取り込んだ無機物の情報で変貌させて、それで作り出した武器を飛ばしてきたってわけか……。

 

「キャハハハ!!」

「なるほど。自分がやられて嫌だったことを、俺にそのままやり返し始めたってことか、まさに悪意の塊らしい行いだな」

 

 複数の顔がこちらを嘲笑うように笑い、武器を撃ち続けてくる。

 それを見て、俺は異界神獣の目的を察し、そう呟いた。

 

 触手に、魔法に、武器……まるで激ムズのシューティングゲームだな。

 

 画面いっぱいに広がる弾幕を避けるゲームのように、周囲を覆い尽くすように展開されるそれらを必死で避けていく。

 

 シューティングゲームはあんま得意じゃないんだけどな……。

 

 転移があるからある程度は何とかなるとは言え、それでも俺が散々異界神獣にしてきたように、物量による攻撃はかなり厄介なものだ。

 躱しきれずに、槍が頬を掠めて血を流した時、少しでも早く伝えないといけないと思ったのか、焦った様子でクラウが言う。

 

「マスター! 充填率100%! 聖剣を撃てるよ!」

「……クラウ、それが限界か?」

 

 俺はクラウに対して思わずそう問い返した。

 

「それはどういう――」

「その100%は安全に使用できる範囲での限界なんじゃないのか? リミッターを外せば、もう少し魔力を溜めることが出来るんじゃないか?」

「それは……確かに溜められる……。だけど、そんな無茶をすると、確実に機能に損傷が起こる! 二発目は撃てない!」

 

 二度目を撃てなくなるから止めた方が良いというクラウ。

 だが、俺からして見れば、その考え自体がこの場には相応しくない。

 

 物語のフィナーレで、必殺の一撃を撃ったけど、ラスボスを倒せなかったから、同じやり方の二発目を撃ちます――なんて物語があり得るか?

 

 この物語は俺が異界神獣を倒す物語だ。

 だとするなら、その結末に相応しい倒し方になるはずだ。

 

 俺が創世神の立場なら、倒しきれずに二度目を放つなんて言う、無様な結末を絶対に用意しない。

 だからこそ、俺は創世神が用意したと思われる展開に全力で乗って、一撃で仕留めることに全力を尽くす必要があるのだ。

 

「一撃で仕留めなければ先はない! 後のこと何てどうでもいい! 今ここで全てをかけろ! お前ならそれが出来るだろう!? ――相棒!」

「――っ!? うん!!」

 

 俺が言った相棒宣言に、クラウは一瞬驚くと、嬉しそうにそう言う。

 

「充填率110……120……」

 

 再びカウントを始めたクラウ。

 その中で、俺は敵の攻撃を避け続ける。

 

 今の状態の異界神獣が俺以外の相手に攻撃を始めると、こうやって逃げ続ける事も出来なくなるので厄介だったが、散々馬鹿にされた異界神獣の悪意は、俺をぶちのめさなければ気が済まないらしく、俺以外を狙うことはなかった。

 

 そうやって異界神獣の攻撃をやり過ごしているとクラウが叫ぶ。

 

「っ――! 充填率200%! ここが……当機の限界っ!」

「聖剣抜刀!」

 

 苦しそうなクラウの言葉を聞くと同時に俺はそれを起動した。

 聖剣の刀身が分離して展開されていく、そして分離したことで空いた中央の隙間に、凄まじい魔力を秘めた光の刃が生み出された。

 

 今までみていた異界聖剣クラウソラスの刃――それはただの鞘なのだ。

 刃に見せていた鞘を展開することで現れる、この光の刃こそが、異界聖剣クラウソラスの真なる刀身。

 

 聖剣を抜き放ったことで生まれた光の本流の余波で吹き飛んでいく異界神獣の攻撃を見ながら、俺は聖剣を頭上に掲げ、そして一気に振り下ろした。

 

「世界を照らせ――! 光の剣(クラウソラス)!!」

 

 自分の攻撃が効かないと悟った異界神獣は逃げだそうとしていたが、破邪の光がそれを許すはずも無く、異界神獣の全てを包み込んで消滅させていく。

 

「異界神獣の全体を光が包んでる。マスター、当機達の勝利」

 

 光に抗えず消滅していく異界神獣を見て、クラウはそう嬉しそうに語る。

 俺はそれを聞いて、クラウに一つだけ質問をした。

 

「この光――俺には影響がないんだよな?」

「? 破邪の光だから。異界神獣のような世界の脅威にしか効かない」

 

 どうしてそんなことを? という態度でそう答えるクラウ。

 だが、俺としてはこれが重要なことだったのだ。

 

「そうか、それなら良かったよ!」

 

 俺はそれだけ言うと光の中に飛び込んだ。

 俺の奇行に対してクラウが「マスターっ!?」と焦ったように叫ぶが、俺はそれを無視して、光の中心部へと向かっていった。

 

☆☆☆

 

「ああ、よかった……これで終われるんだ……」

 

 その存在は破邪の光で消滅していく異界神獣の中でそう呟いた。

 

 彼女は異界神獣が生まれた世界の主神だった。

 その世界は、文明の発展と共に神の存在が疑問視され、そしてそれによって人々から神の信仰が薄れてしまった世界だった。

 

 そんな中で、異世界からの侵略者が現れてしまった。

 彼女は必死でその脅威を説明したが、神を信じなかったその世界の人々は、異世界からの侵略者の脅威を軽視し、そして無視してしまったのだ。

 彼女はそんな彼らの代わりに、自らが先頭に立って、他の神々と共に必死で侵略者達との死闘を繰り広げた。

 何とか、侵略者達を討ち滅ぼすことが出来たものの、その戦いによる世界の被害は甚大なものになってしまった。

 

 世界が荒廃したその時、侵略者達に対して何の準備もしなかった人々は言った。

 

『神だって言うのに、どうしてあんな奴ら、さっさと倒せなかったんだ!』

『侵略者達に私の子が殺されたの! 神だって言うのなら! 生き返らせてよ!』

『世界がこんなになったのは、神なのに何も出来なかったお前らのせいだ!』

 

 ことここに至って、彼らは神を信じた。

 そして、信じた上で糾弾を始めたのだ。

 

 彼らは自分達の常識を越えた事態を見て、そしてそれによって齎された荒廃した世界を見て、責任の所在を求める為に、神の存在を認めたのだ。

 

 そうして、神への怒りで狂った人々は神への反逆を企てた。

 その中には、必死で戦ったのに無能だと断じた者や、思い通りにいかない全ての責任を神に押し付けた者、この程度の神なら打ち倒せると判断した者など、様々な者が含まれていたが、誰もが神の打倒という意思を持っていた。

 

 そうして、世界は、世界を救った神と人々の戦いへと移り変わった。

 

 侵略者達の戦いで傷付いていた彼女は、神と人との戦乱で更に傷付き、そして主神を守るための機能が起動する。

 だが、神を打ち倒そうとする人々の悪意は、彼女に取っては毒となり――やがて彼女は世界の全てを喰らうことになってしまった。

 

 異界神獣のコアとなった彼女はそれをただ見ていることしか出来なかった。

 守ろうと誓った自らの世界が、そしてそこに生きる全ての生物が、異界神獣に食われて、その肉体の一部になっていく姿を……。

 

 だが、それももう終わりを迎える。

 神々だけで戦って、そして世界から批判された自分とは違い、世界中の者と共に侵略者に立ち向かった勇者によって、異界神獣は打ち倒されたのだ。

 

「最後に……一言だけでもお礼を……」

 

 彼女はそう言って力を振り絞る。

 異界神獣の消滅に伴って消えかかっている彼女でも、最後の力を振り絞れば一言だけ話す幻影を飛ばすくらいのことは出来るのだ。

 

 これが、インフィニット・ワンというゲームの中での物語なら、彼女の希望通り、最後の力を振り絞った彼女の言葉を勇者が聞いたのかも知れない。

 

 ――だが、ここには、そんな結末を許さない者がいた。

 

「ふざけるなよ……」

 

 そう呟いた誰かに腕を掴まれていることに彼女は気付いた。

 

「貴方は……? 何故こんなところに……?」

 

 彼女の脳内が疑問で埋まる。

 だが、彼女の手を掴んだ少年は、まるでそれを気にせずに呟く。

 

「何満足して消えようとしてるんだ?」

「え?」

 

 自分がやろうとしていたことを言い当てられて彼女は驚く。

 ぶつぶつと呟く少年は、そのまま笑ってない笑みで彼女を見た。

 

「ここまで苦労させておいて、そんなビターエンドで終わってたまるかよ。お前には何が何でも幸せになってもらうからな」

「私は――」

 

 世界を滅ぼした自分が幸せになっていいはずがない。

 そう言い返そうとした彼女の言葉に少年の言葉が被せられる。

 

「お前の意見なんて聞いてない。俺はハッピーエンド至上主義なんだ」

 

 少年はそうだけ言うと、彼女を連れて、崩壊する異界神獣の中から消え去った。

 

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