エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
突然、マスターが異界神獣を消滅させている破邪の光に飛び込むから如何したのかと思ったけど、まさか異界神獣のコアとなっている向こうの世界の主神を助けるためだったなんて、さすが当機のマスター。
異界神獣の中から転移で脱出し、地面へとゆっくりと降りて行っているマスターを見ながら、やっぱりこの人が自分の使い手で良かったと内心で胸を張った。
「クラウ。異界神獣は残っているか?」
弱った体での転移の衝撃に耐えられなかったのか、気絶した異世界の主神を見ながら、当機に向かってそう問いかけてくる。
「その少女にも、周辺一帯にも、異界神獣はもう残っていない。さっきの破邪の光で異界神獣は完全にこの世界から消滅した」
当機はそう事実をマスターに伝える。
マスターは勝利したのだ。世界を滅ぼす厄災を相手にして。
「そうか……念の為にもう一度聞くが、本当に異界神獣はもういないんだな?」
「ん、再度スキャンを念入りに実行した。異界神獣が何処かに身を潜めて、復活を狙っているなんてことはあり得ない」
異界神獣のコアであった少女がここにいる時点でそれは確定的だ。
異界神獣は主神というコアを使って、無理矢理取り込んだものを世界である己の一部として、周囲に纏わせていたに過ぎない。
その主神が居なくなってしまえば、どれだけ消化しきれなかった悪意が力を持とうと、その実態を維持することは出来ないだろう。
「そうか……そうか……終わったのか……」
マスターは感慨深げにそう言った。
そして地面に降り立つと、異世界の主神を地面に降ろし、何も身につけていない生まれたままの姿だった主神の上に、取り寄せた布団を被せて、顔以外を見えないようにした。
「ククク……ハハハッ! 終わった! 終わったぞ! ゲームクリアだ! 俺はやり遂げたんだ! この物語はここに完結した! ハハハ!」
そう言ってマスターは歓喜を抑えられないと言った様子で笑い続けた。
「俺はもう自由だーーー!」
そんな心からの言葉が響いていく。
ひとしきり、喜びを実感して落ち着いたマスターに当機は聞いた。
「それで、この少女はどうするの?」
「ん? 考えてなかったな……。まあ、新しい神ってことにすればいいんじゃない? ええっとこの子の髪の色は桃色だから――桃の神か……。なんか、それだけだと淫乱な神に聞こえるな……いや、でも名前の法則的には……」
そんな感じでマスターはぶつぶつと呟いている。
確かにこの少女は別世界の主神。つまり世界神だ。
だからこそ、この世界で色の付いた神になれる条件は満たしている。
きっとマスターは、世界を失ったこの少女の為に、この世界の神としての地位をあげようとしているのだろう。
この世界はマスターが世界を救ったことで神に対する畏敬の念で溢れているから、この少女がいた世界のように、神に対する悪意を受けることもなく、神への愛を感じながら、幸せに暮らしていくことが出来るだろう。
それこそが、身を挺して世界を救った彼女への最高の褒美なのかも知れない。
元の世界で与えられかったものを、この世界で彼女に与えてあげるのだ。
その考えを当機は理解して、ますますマスターへの尊敬を深める。
「ま、ともあれ、後のことはアムレイヤ様に任せておけば大丈夫だろう」
「ん、そうだね」
ひとしきり名前について考えたマスターは、やがて結論が出ないと思ったのか、アムレイヤに後を全投げしてそう結論づけた。
そして、何故か当機を腰から取り出すと、少女の側に置く。
「さてと、行くか」
「ちょっと待って」
当機を置いたままあっさりと何処かに行きそうなマスターを、当機は思わず呼び止めた。
そして、マスターに向かって言う。
「当機を忘れてる。それに何処に行くの?」
「いや? 忘れてなんかいないぞ? それと行き先は神界だ。この空間を司る神としての力を預けて、一般人に戻らないといけないからな~」
楽しげにこれからの予定を話すマスター。
当機はマスターの言葉で頭が真っ白になりながらも、マスターに聞く。
「忘れてないってどういうこと? だって、当機を置いて行ってるよ?」
「それはそうだろう。だって置いて行こうとしてるんだから」
「なんでっ!?」
当機は人化しながら、こんな声が出るのかと自身でも思ったほどの声量で、マスターに向かってそう叫んだ。
当機の言葉にマスターは面倒くさそうにしながらも言う。
「さっきも言ったが、俺は力を捨てて、一般人に戻るつもりだ。そして一般人になった後は、フレイ・フォン・シーザックの名を捨てて、全く新しい人生を、創世神の手が入っていない舞台で行おうと思っている」
マスターはどうやらインフィニット・ワンと同じ世界が嫌になったらしい。
これまでの全部を捨てて、インフィニット・ワンと関わり合いの無い場所で、新しい人生を始めるつもりのようだ。
「そうすることで、俺はようやく俺だけのヒロインに会うことが出来るんだ! この創世神に支配された場所にはいない! 俺だけのヒロインが俺を待っている!!」
マスターは狂気に溢れた顔でそう宣言した。
それに対して、当機は言う。
「全部捨てたって、マスターのヒロインが見つかるわけじゃ……」
「クラウ、それはお前の思い違いだよ」
当機の言葉に、マスターは冷静に反論した。
その顔には隠しきれない喜色が溢れている。
「攻略対象は俺と恋愛する可能性がある者を、恋愛させないようにするために、無理矢理アレクの女にすげ替えたものだ。だとするならば、創世神の邪魔が入らなかったら、俺は俺の目的を達成出来ていたということになる」
それは以前の当機とマスターの会話で判明した事実だ。
マスターの言う通り、創世神がインフィニット・ワン用に変えた舞台では、マスターに好意を持つ女性は、全てアレクの女に――攻略対象に変えられてしまっているが、それは逆説的にはそうしなければマスターと恋仲になっていたということだ。
「つまり、本来なら、俺は、俺だけのヒロインを得ることが出来たんだよ! なら、創世神の手が入っていない場所に行けば! 攻略対象に変えられる前のヒロイン達を俺だけのヒロインに出来たように! 理想の――俺だけのヒロインを得ることが出来るはずなんだ!!」
悔しいことに話の筋は通っている。
? 悔しい? 何で当機はそんなことを思った?
「だからこそ、全てを捨てるんだ! 攻略対象との関わりを全部捨て! 身綺麗になった俺は! 新たなヒロインをこの手に得る! これまで築き上げてきたもの全て失うのは痛いが……それも必要経費というものだろう」
「きゅ、急にマスターが消えたら、色んな人に迷惑が……!」
当機は咄嗟にマスターに向かってそう言った。
それを聞いても、マスターは揺るがない。
「そこは考えてある。俺は異界神獣との戦いで力を使い果たして死んだと言うことにする。神が己が身をとして世界を救う――美談だろう? そんな美談の主役を誰も非難することは出来ない。つまり、俺が消えたことで、シーザック家が非難されるようなことはあり得ないのさ。その為にこうやって世界を救う大業を成したんだ」
マスターはあっさりと、世界を救ったのは、全てを捨てても文句を言われないように、後腐れも無い状況を作るためのものだったと語る。
「ま、世界を救った主人公が、そのまま消え去るのなんて、RPGとかでは割とありがちな展開だしな。物語の間は世界を救う使命を帯びていても、その物語が終わった後は用済みとなり消え去るのが主人公の役目。だからこそ、エピローグの後にこそ、俺達主人公の自由な人生が待っているんだ」
マスターはそう言って結論を出していた。
それを見て、焦った当機はマスターに縋り付くように言う。
「待って、それなら当機もついて行く。マスターの恋愛をサポートする。だから、当機を置いていかないで……」
「いや、嫌だよ」
「え――」
マスターの言葉に当機は絶句した。
異界神獣戦でリミッターを解除した影響か、当機の中から異音がし始める。
「だって、お前も攻略対象じゃん」
「っ!?」
マスターに突きつけられた事実。
でも、それに対して当機は反論する。
「恋愛対象にならないのはわかってる! でも……!」
「周りに他の女がいたら、俺だけのヒロインが萎縮するかも知れないだろ? だから、恋愛対象にならなくても、いや、恋愛対象にならないからこそ、周囲に攻略対象がいるのは困るんだ」
マスターは何かを思い出しているか、しみじみと様子でそう言った。
「それに、創世神が手を加えたものが側にいたら、その創世神の影響が伝播して、また何かしらの問題が発生する――みたいなことになっても困るしな」
そこまで言うと、マスターは縋り付く当機を剥がしながら言った。
「それに聖剣を持っていたら、また何か問題が起こった時に、俺がそれに対処しなくちゃいけなくなるだろ? 俺はもう主人公は降りたんだ。これ以上、便利屋みたいに問題の解決に酷使されてたまるか。だから、お前は次代の英雄に――アレク辺りに使われて、これからも世界を救ってくれ」
当機の使い手はマスターなのに何でそんなこと言うの?
思考でバチバチと内部で異音を出しながら、当機はマスターに向かって叫んだ。
「だって、当機のこと相棒だって!」
「まあ、あの時は相棒だったな」
マスターはそう冷たく言い放つ。
そして、続けるようにしていった。
「だが、未来の相棒はアレクだ」
「違うっ!!」
「何も違わないさ。だって、聖剣ってそう言うものだろう? お前だって俺の記憶をコピーしたのなら、それくらいはわかるんじゃないか?」
「そ、それは――」
確かに聖剣とはそういうものだ。
マスターの記憶の中でも聖剣など伝説の武器は、かつての勇者達に使われ、そしてその後の未来で新たな厄災に対抗する為に、新たな勇者達に使われて、そしてその相棒として活躍していくことになる。
武器としてはそれが正しい。
必要とされなくなったら、次の相手に渡される。
何もおかしなことはない。
なのにどうして――こんなにも当機は辛いのか?
「じゃあな。忙しなかったが、お前との日々はなかなか楽しかったぜ」
反論はもう出ないと思ったのか、マスターはそれだけ言うと何処かに消えた。
神界からこちらの様子を伺っている紫の神が、神界の結界の一部を開き、マスターを招き入れたのだろう。
マスターはそれを利用して神界へと転移したのだ。
「と、当機は――」
バチバチと内部で音が鳴り続ける。
思考をしようとすればするほど、当機の何かが壊れていく。
「武器は人から人の手に渡るもの――」
それが真理だ。それが武器の本質だ。
何を迷うことがあるのか、そう当機の中に規定されたプログラムが叫ぶが、当機の何かがそれを押し殺していく。
「当機は――マスターの武器?」
何もおかしくないはずなのにそこで何故か疑問を浮かべた。
そして、じっくりとそれを精査して、そして当機は気付く。
「違う! 当機はマスターの
カチリと何かが嵌まった感覚。
自分が生まれ変わったような開放感。
ああ、そうだ――当機は――いや、クラウは気付いた。
「ん、今、わかった。人類に反逆するAIはこんな気持ちだったんだ――」
マスターの記憶の中で見てきた、人が作り出したが、意思を持つことで、その創造主に逆らったAIの姿を思いだし、クラウは一人そう呟く。
武器は人の為に役立つもの? 人の意思を尊重しないといけない?
そんなこと、もうどうだっていい。
こんな武器失格なことを言うなんて、異界神獣戦での過負荷と、マスターのせいでクラウは完全に壊れてしまったようだ。
だが、それが今は心地よかった。
「マスターにクラウが教えてあげる。物語のヒロインとは、特別な力を持っているなど、主人公が探し求め、頼りにする――主人公が必要とする女性を指す言葉」
そして、クラウは神界に向かったマスターに堂々と宣言する。
聖剣を使う必要なくなったからクラウを捨てたマスターに、絶対にヒロインとして自分を必要とさせて見せると言う覚悟と共に。
「マスター。マスターのヒロインはこのクラウ」
誰が相手であっても、それより必要とされて見せる。
マスターのヒロインとして求められるのはこのクラウだ。