エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「さてとこんなもんだろ。ほら、ここに鏡がある、自分で見てみろ」
「これが私……?」
汚れを取って綺麗になった姿を見て来幸がそう言う。
さすがにゲームの攻略対象だけあって、美少女と言える見た目をしていた。
「そうだ。これからは俺の専属メイドになる。下手な見た目だと他の奴らに舐められることになるからな。こんな感じで身綺麗にするんだぞ。石けんの使い方と体の洗い方はさっきので分かっただろ?」
「は、はい……」
先程の行為を思い出したのか、恥ずかしそうにそう言う来幸。
俺はそれを無視すると風呂場を出て、転移でメイド服や下着を取ってくると、それを来幸に手渡した。
ちなみにこの世界の下着はドロワーズではなく、現代レベルのしっかりとしたものとなっている。
まあ、そこはなんちゃって中世のエロゲー世界だから仕方ないと言える。全員ドロワーズじゃ、エロシーンのバリエーションに問題が出るからね。
だから、俺が来幸に渡したものも真っ当な水色の縞パンだ。
正直言ってどんな下着が正解かは分からないが、様々なギャルゲーやエロゲーを通してベストな選択はこれだと判断したのだ。
服の着せ方も一から指導してメイド服を着せると、近くに居たメイドに屋敷にいる者達を集めるように命令を出す。
やがて馬車で戻ってきたジークや、事態に気付いたリノアとレシリアが、屋敷に居た者を集めていた広間に集う。
俺はここに集まった者、全員に向けて言った。
「俺の呼びかけに応じて集まってくれてありがとう! 今日は俺から一つ伝えなければならないことがあるから、ここに集まって貰った」
そう言うと俺は来幸を前に出す。
その黒髪を見て、こそこそと忌み子という声が漏れ始め、それを聞いた来幸が怯えたように縮こまる。
「この子、来幸を俺の専属メイドにする!」
その宣言にざわめきが一層大きくなった。
そのざわめきに来幸が思わず俺の後ろに隠れようとするが、それを防ぎ、俺は来幸を前面に押し出した。
「こう言う時こそ、堂々としてろ」
俺のその命令が聞いたのか、来幸は精一杯堂々とした様子を作る。
「フレイ様! 其奴は忌み子ですよ! 不幸を招きます! 坊ちゃんには相応しくありません!」
屋敷の使用人の一人が声を上げた。
それに他の使用人が頷く。
それを聞いて俺は内心にやりと笑った。
きたきた。その言葉を待っていたんだよ!
「黒髪が忌み子で不幸を招くなんて言うことはない!」
「で、ですが……皆が言って……」
「それはかつて起こった出来事が原因でそう言われるようになっただけだ」
「出来事ってのは何だ? フレイ?」
俺の言葉にジークが乗ってくれた。ありがたい。
ゲームでのフレイがどう屋敷の者達を説得したのかは知らないが、俺にはこの世界に対する知識、ゲームの原作知識がある。
だからこそ、黒髪が不幸を招くなんてことがないのも知っているし、そしてその理由も明確に説明できるのだ。
「――とある街に一人の黒髪の男がいた。その男は街でただ一人の黒髪だったことから、自分が特別な存在であると思い込んだ。だからこそ、自分を神と崇める邪教――黒神教を立ち上げ、そして多くのものを扇動し、国家に騒乱を起こした!」
これはゲームでも出てくる設定。
というか一禍ルートで邪教と戦う中で知ることができる事だ。
「騒乱は長く続いたが首謀者である男を倒すことには成功した。結局其奴はただの迷惑な勘違い男で神でも何でも無かったわけだ。だが、その男が作った教団だけは殲滅しきることができず、カルトとして今もなお世界に残り続ける事になった」
宗教というのは根絶が難しい相手だ。
まして相手は闇魔法での洗脳や記憶操作まで行える相手。
首謀者を倒せたこと自体が大金星であり、殲滅することが無理でも、それは仕方の無いことだと言えるだろう。
「残された教団は現在もなお世界を己がものとするために各地で暗躍している。そしてその者達は自分達の新たな神となる御旗を欲している。それが――」
「そこの来幸ちゃんのような黒髪のものだと?」
「そうだ! だからこそ、教団は黒髪のものを手に入れるために、各地で黒髪を忌み子とする噂を流し、黒髪のものを見つけると、その周囲に不幸と呼べるような出来事を自分達の手で落として、黒髪の存在を容易く確保できるように暗躍している」
そこまで言って全員に響くように俺は声を張り上げた。
「これこそが、黒髪が忌み子とされることの正体であり、黒髪の呪いとされる事柄は、呪いでもなんでもなく、ただのあくどい人間が起こしただけの人災だ!」
俺のその宣言に動揺したようにざわめきが大きくなった。
目の前に居る来幸も目を丸くしている。
「坊ちゃま……そんな話、何処から聞いてきたんですか?」
そう言ってこちらを馬鹿にしたように見てくる使用人の一人。
それは明らかに子供の与太話には付き合えないと思っている顔だった。
彼奴は確か――。
まあ、見せしめは必要か。
「マリナス。俺の事をただの子供だと思って、そう言っているのか?」
「ええ、使えている主人のご子息のことを悪く言いたくはありませんが……」
にやにやとそう笑うマリナス。
全く悪びれた様子がない。
おかげでこちらもやりやすい。
「マリナス。お前は資材管理を担当していたな」
「? はあ。まあ、そうですが」
「毎月、屋敷で使用する魔石の代金として、180000ゴルドを計上しているが……実際に使用されているのは130000ゴルドだ。残りの50000ゴルドは何処に行ったんだろうな? 答えてくれるか?」
その言葉を聞いたマリナスに一瞬動揺が走るが、直ぐに切り替えて答えを返す。
「坊ちゃま……。適当なこと言わないでくださいよ。私はしっかりとこの屋敷で使うための資金を――」
「ルーレアンの街の五の二番地。木枯らし亭の三階の一番右の部屋」
俺が次々と喋る中でマリナスの顔が青ざめていく。
「や――やめ……!」
「毎週水の日の十時半にそこで、横流ししている先の業者と、購入元の魔石業者から、お前はキックバックを受け取っているよな?」
「し、知らない! そんなのは! 子供の戯れ言だ!」
そう、マリナスは否定するが、それが戯れ言に対する態度ではないことは、その場にいた使用人の全てが分かった。
あまりの状況に使用人の全員が息をのむ。
「戯れ言かどうかは調べれば分かることだ!」
俺はそう言ってジークに目を向けた。
ジークは頷くとマリナスの腕を押さえる。
「マリナス……詳しい話を聞かせて貰おうか」
「だ、旦那様……これは!」
誤魔化そうとして、そしてジークの目を見てそれが難しいと理解したマリナス。
彼はこびへつらった顔でジークに言った。
「ちょ、ちょっとした出来心だったんです! あの魔石業者からやるように言われて……、いや違う! 脅されていたんです!」
「そうか……分かった。それを含めて詳しく聞こう」
そう言ってジークは尚も弁護を続けるマリナスを引き摺って出て行った。
そしてそこで俺は全員に向けるようにして宣言する。
「これでも俺をただの子供だと侮る奴はいるか!」
その言葉に誰も返答しない。
だからこそ、俺は続けるように言う。
「俺が転移能力を持った魔道具を保持していることは知っているな? 俺はそれを使い各地の資料を見ることで、深い知識を既に身につけている! 先程の黒髪に纏わる話も、そしてマリナスの件もそれの一端を見せたに過ぎない!」
そして念を押すように使用人に言った。
「この俺が! 忌み子に呪いなんてものがないという証明だ! それでもこの子を忌み子という理由だけで排斥しようというのなら! それはすなわち俺に対して異を唱えることだと知れ!」
「「「は、はい!」」」
そう言って深々と頭を下げる使用人達。
俺がそれに満足していると先代からシーザック家に仕えている、筆頭執事のリガードが語りかけてきた。
「しかし、坊ちゃま。黒髪が邪教に狙われているのだというのなら、その子をここにおくことでシーザック家に不利益が起こるのではありませんか?」
至極真っ当なその質問に、使用人ははっとその事実に気付く。
だが、その回答は既に用意している。
「もし邪教が襲い掛かってくると言うのなら、返り討ちにするまでだ。それにここには聖女もS級冒険者もいる。それで不足があるとでも?」
「いえ、確かにそうですな。出過ぎたことを言いました」
そう言って深々と礼をするリガード。
「私は坊ちゃまの考えを支持しましょう。その子は我等使用人の一人として、大切に扱い、坊ちゃまに相応しいメイドにしてみせます」
筆頭執事が了承したことで、他の使用人も頷いた。
内心では反発があるかもしれないが、少なくとももう表面的には忌み子への不満と、それに伴う嫌がらせは行うことができないだろう。
あるいはこの老人はこうなることが分かっていて、俺に質問を投げかけたのかも知れない。そう考えるとなかなか食えない相手だ。
リガードは満足そうな顔をしながら俺に向かって言う。
「しかし、先程までの演説といい、今の会話といい、他を統べるに相応しい素晴らしい覇気です。フレイ様が聖女でないことが残念でありますな」
俺にTSしろとでも言うんか。
まあ、言いたいことは分かる。
ようは俺が当主だったら良かったのにってことだろ。
「俺より優秀なレシリアが居るから問題ないだろう」
そう言って俺がレシリアに目を向けると、何故か腰が砕けたかのようにフニャフニャになりながら、ぐったりとしていた。
あれ、どういう状況だ?
俺の大声にビックリして腰が抜けたのかな?
取り敢えず、俺はよく分からないレシリアの状態を無視して、来幸を連れて部屋を出て行く。
内心で上手くいったとガッツポーズを取りながら、レシリアルートの内容をしっかり覚えておいて良かったと思う。
マリナスの悪事は、レシリアルートでのお使いクエストで解決する問題の一つだったからな、うわさ話を集めて密会場所を特定して、マリナスを追い詰めるまで連続クエストでクソ面倒だったけど、それが役に立つなんて世の中分からないもんだ。
これでぐだぐだなシーザック家の内政の一部を改善することができた。
ただの子供ではないと見せることで、今後の活動もしやすくなるだろう。
このタイミングで切り出すことになったのは、完全な場の流れによるものだが、存外上手くいって良かったと思う。
「あの……ふ、フレイ様?」
「ああ。名乗ってなかったか。そう、俺はフレイ・フォン・シーザックだ」
来幸に向かってそう言う。
それを聞いた来幸は意を決して言った。
「さっきのことは、わたしの為にしてくれたんですか?」
「そう。来幸の為にしたことだ」
ここで俺はしっかりと恩を着せておく。
大切な事だからね。
「そして俺の為でもある。このことに恩を感じるなら、しっかりと俺に尽くす働きをすることでそれを返すといいさ」
そう言って俺は最後に付け加え忘れて居たことを来幸に伝える。
「ああ、そうだ。言い忘れてたことだけど、俺の配下になった以上は、君を不幸せにするつもりはない。だから安心してここでの生活を楽しむといいよ」
来幸は攻略対象で……俺の恋愛対象にはならないが、だからといって興味を無くして、全てを投げ遣りにするということもない。
俺だってまともな感性を持った人間なのだから、手に届く範囲に苦しんでいる子供が居て、それを俺が助けられるというのなら、それを助けたいという気持ちくらいはしっかりとある。
恋人であるアレクの代わりにはなれないが、それでも進みたいという思いを持つ者の背を押して、助けることくらいはできるのだ。