エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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銀の鎖

 

 異界神獣が光に包まれた辺りで、嫌な予感がした来幸は、異界神獣とフレイが戦っていた場所に向けて走っていた。

 その時、何処からか声が聞こえてきた。

 

『そっちじゃない。こっち』

「!? 誰ですか!?」

『クラウ、こっちに来て』

 

 短く自分の名を告げる声。

 頭の中に直接来るような声に困惑しつつも、来幸はフレイがクラウを腰に帯びていたことを思い出し、クラウの言葉に従って進路を変えた。

 

 しばらく走っていると、やがて人影が見え始める。

 だが、そこに居るのは、探していたフレイでは無く、人化したクラウと、布団で裸体を隠す十代前半とみられる少女の姿だった。

 

「クラウ、フレイ様は――?」

「全てを捨てて、神界に消えた」

「全てを捨てて? どういうことですか?」

 

 来幸はクラウの言葉を聞いて、問い詰めるようにそう言う。

 クラウはそんな来幸の様子も気にせずに、マイペースに来幸に頼み事をする。

 

「それを話すためにも集めて欲しい人がいる。レシリア、エルザ、ユーナ、ノルン――この四人とクラウ達で、何処かで話をしたい」

「どう言う理由でその四人と私を選んだんですか?」

「後で話す」

 

 何を聞いても梨の礫と言った感触に来幸はため息を一つ吐くと、気絶している布団で裸体を隠した少女を布団ごと抱きかかえた。

 

「わかりました。ともかく、この方を何処かに預けてからにしましょう」

「ん、それで構わない」

 

 来幸達はその場を離れ、アムレイヤに少女を預けると、連合軍の者に言伝をし、レシリア達を異世界航行船の一室に呼び集めた。

 

☆☆☆

 

「ん、これで全員揃った」

 

 クラウは異世界航行船の一室で来幸達を見回してそう口にする。

 

「それで? 話って何なのよ? フレイはどうなったわけ?」

 

 理由も聞かされずこの場に集められたエルザは、いらついた様子で自分達を招集したクラウに対してそう切り出した。

 

「もう少し待って、これから話す情報は他の者には漏らしたくない。人払いが完全に済んでから」

「……確かに、何人かが外で聞き耳を立ててるみたい」

 

 クラウの言葉を聞いたレシリアが魔法で調べると、部屋の外から風魔法を使って、何人かの者が来幸達の会話を盗聴しようとしていた。

 

(戦いの後にフレイ様が姿を見せないことで不安がっている者も多い。そんな中で、急に集まった私達を不審に思って、後を付けてきたのでしょうね……)

 

 来幸は外で聞き耳を立てている者がどういった者なのかを推察する。

 

「しょうがないな~」

 

 ノルンはそう言うと、懐から植物の種を取り出した。

 そして、扉を開けると、それを外に向かって放り投げる。

 

「うわっ!? なんだこれ!?」

「植物が急に――!」

「ち、力が抜け……!」

 

 ノルンが投げた植物は急激に生長し、そして外で聞き耳を立てていた者を次々と拘束して、そのまま異世界航行船から追い出していく。

 やがて、伸び続けた植物は、異世界航行船の全てを多い、この船に近づく者全てを拘束する障壁となった。

 

「この植物は拘束した相手の魔力を吸い取るから、風魔法を使って盗み聞きされる心配はもう無いんじゃないかな」

 

 ノルンのその話を聞いて、ユーナが感心したように言う。

 

「拘束するだけではなく、魔法も封じるなんて、これは凄いですね……」

「なにこれ、こんなのいつの間に出来るようになったの?」

 

 始めてノルンが見せた技術に、レシリアは警戒したようにそう言う。

 

「種から植物を生長させるだけなら元から出来たけど、この植物を見つけるのに時間がかかったから、使えるようになったのは最近かな~」

 

 ノルンは警戒するレシリアを気にせず、あっけらかんにそう言う。

 

 この植物は、異界神獣対策の為に、各地を飛び回って準備をしていたときに、ノルンが偶然見つけたものだった。

 本来なら、エロゲスライムのように、攻略対象を拘束してお色気イベントを起こさせるためのものであり、それと同じものを創世神がこの世界に実装していた。

 その為、一度拘束してしまえば、その拘束した対象の魔力を吸い取り、魔法や魔導具の発動を妨害して、抜け出すことが出来ないようにするものなのだ。

 

「まさか、これでお兄様を拘束するつもりで……!」

「うん。そうだよ。竜族の皆に神の力を封印されちゃったから、結界を使ってパパを捕らえることは出来ないし、その代わりとしてこれを用意したんだ。この植物で拘束して魔力を吸い取れば、空蝉の羅針盤も使えないだろうしね」

「おまえ……!」

 

 ノルンの話を聞いたレシリアは、大切な兄の貞操を脅かそうとする敵に怒りを覚えて、詰め寄るようにそう言い放つ。

 

「レシリア、言いたいことはわかるけど、後にしてくれない? 今はフレイがどうなったのか聞く方が先でしょ?」

 

 怒りに燃えるレシリアをエルザが窘める。

 そして、続くようにして来幸が言う。

 

「私でも把握出来ない事態が起こっています。ここは話を聞くことを優先して頂けませんか?」

「来幸でも……? うん、わかった……」

 

 フレイの協力者であった来幸でも知らない状況が起こっている。

 それを聞いたレシリアは、事態の深刻さに気付き、怒りを収めた。

 

 来幸達がノルンの行いについて話している一方で、クラウはノルンが出した植物を見ていた。

 

(あれはマスターの記憶で見た覚えがある。確か、ファッションビッチなエルフの第一王女のルートで出てくる植物だったはず……)

 

 フレイから取得した原作知識を思い出しながら、クラウはそう考える。

 

(異界神獣というラスボスを倒し終わったから、これより後の世界で新しく創世神が手を加えたものが現れることはない。だけど、あの植物のようにマスターが通らなかったルートは依然としてこの世界に残り続けている)

 

 創世神がフレイを主人公とし、世界に手を加えたのは、異界神獣という世界を滅ぼす厄災を、この世界が打ち倒せるようにするためだ。

 その為、この直ぐ後に同等の危機が起こるという事態でも無い限り、異界神獣という目的の厄災を退けた後は、フレイの主人公としての役割も終わりとなり、厄災へ対抗する為に世界に手を加える必要もなくなる。

 つまり、これから先の世界について、少なくとも次の厄災が現れるまでの間は、創世神による手が加えられていない自然な世界が運営されることになるのだ。

 

 だが、それはあくまでこれから先で追加されることはないというだけのこと。

 

 創世神は主人公自体を操れないため、異界神獣を倒すという結末へと主人公を導くために、数多くのイベントとそれによる複数のルートを用意している。

 今回フレイが通ったのはその一つであり、エルフの第一王女のイベントように、別ルートのものとして、まだ使用されず残ったままとなっているイベントは幾つも存在しているのだ。

 それらのイベントは、いずれ操作された運命に従って、アレクやアリシアが解決することになるのだろうが、それまでの間は、創世神がフレイの為に用意したイベントでもあるため、今回のルートで通ったイベントのように、フレイが関わることになってしまう可能性が高い。

 

(マスターの危惧は正しい。創世神が用意したこの舞台に居る限り、マスターが通らなかったルートのイベントに遭遇する可能性は残る。それらの可能性を完全に排除するためには、創世神の手が加わっていない場所に全てを捨てて行くしかない)

 

 クラウは冷静に事実をそう確認する。

 

(でも、だからって許さないけど)

 

 クラウはそう考え、自らの為にその口を開く。

 

「マスターは、全てを捨てて、神界へと消え去った」

「全てを捨てて、神界へと消えた? それってどういうことよ? いきなり過ぎて、まるで意味がわからないんだけど?」

 

 クラウが放った一言に対して、エルザが怪訝な顔をしながらそう言い返す。

 

「神界とは紫の神がおられる場所ですよね?」

「そのはずだよ! 神々が本来は居るはずの場所で、下界に降りるためには神としての力を――。あっ! もしかして、異界神獣を倒し終わったから、神としての力を紫の神に渡して、ただの人に戻ろうとしてるってこと?」

 

 聖女として神に関しての知識があり、異界神獣の分体との戦いの中で、自らも神になってしまったレシリアは、フレイがしようとしていることをそう推察する。

 

「なるほど、確かにそれなら、いきなり神界に行く理由になりますね」

「つまるところ、全てを捨ててと言うのは、神としての全てを捨てるってことか~。その為に神界に一時的に行ってるってことだね」

 

 レシリアの言葉を聞いたユーナとノルンは、その意見を元にクラウの言葉を理解し、暢気にそのような考えを話す。

 だが、一方でフレイをよく知る来幸は嫌な予感が止まらなかった。

 

(神としての力を捨てる為に神界に行った。それ自体は間違いないとは思います。けど、本当にそれだけで終わるでしょうか?)

 

 来幸はフレイが考えるであろうその先について思考する。

 

(このタイミングなら、フレイ様が消えたとしても、それを世界の命運をかけた戦いのせいにすることが出来る。そしてその状況なら、フレイ様が消えた事を糾弾し、フレイ様やその仲間達を辱めることが出来る者が現れることはない)

 

 フレイは、フェルノ王国の大貴族であるシーザック公爵家の一員としての立場や、白銀教が崇める神の一柱としての立場など、簡単に辞めることができない複数の立場を保持している。

 何も無い状況でそれらを勝手に止めて逃げ出してしまえば、それは彼自身や彼の身内への不名誉につながり、彼らが誹謗中傷に晒されかねない。

 だが、世界を救うために犠牲になったとなれば、そんな身を粉にして働いた存在のことを誰も糾弾することは出来ないはずだ。

 心の中では批判をする者はいるかも知れないが、それを表に出すことを許さない世論を作る流れに持って行けるのだ。

 

(つまり、今この時こそが、体裁を気にするフレイ様に取っては、本当に全てを捨てることが出来る唯一のチャンスなのでは?)

 

 来幸がその思考に至った時、クラウがユーナとノルンに向かって言う。

 

「ユーナ、ノルン、それは違う」

「違う?」

「何が?」

 

 自分達の意見を否定され、ユーナとノルンはそう返す。

 それに対して、クラウは死刑を告げる裁判長のように冷たく告げた。

 

「マスターは本当に全てを捨てた。クラウ達も含めて全てを」

 

 クラウの言葉が理解出来ず、場が静まる。

 

「マスターは、ここではない何処かで、一から人生をやり直すつもり」

 

 続けて告げられる言葉、それでその場にいる全員が理解する。

 クラウが言っている事は、フレイが自分達との繋がりも含めて、本当に全てを捨てて、全くの別人として、新たにこの世界で生きようとしていると。

 

「は? あり得ないでしょ?  ここまで積み上げてきたもの全てをなかったことにするなんて、そんなことするわけないわ」

 

 エルザはクラウの言葉を否定するように震えた声でそう口にした。

 

 フレイは今や世界を救った英雄だ。

 その権勢は今や望めば全てをその手に出来るほど高まっているだろう。

 そんな人間が、手に入れた栄光の全てを捨てて、一から人生をやり直そうとするなんてことが理解出来なかったのだ。

 そして、何よりも――自分との繋がりすらも切り捨てたことを、エルザは認めたくなかったのだ。

 

「一度振られて捨てられた身で、もう一度捨てられる可能性に気付かないの?」

「――っ!?」

 

 だが、クラウはそんなエルザの縋り付くような言葉を一刀に伏す。

 

「確かにあたしは振られたわよ! だけど、それとこれとでは話が違うでしょ! わざわざ全てを捨てて一から人生をやり直さなくたって、今のままでも自分だけのヒロインを探すことは――」

 

 そう語るエルザに向かってクラウが動き出す。

 クラウの言葉に動揺していたその場に居た者達は、その動きを止めることが出来ず、クラウはそのままエルザの額に手を当てた。

 

「っ! いったぁ!」

 

 クラウの手とエルザの額の間に静電気のようなものが走り、それがぶつかったことでエルザは痛みを訴え、その場で尻餅をついた。

 

「貴方、何をする気ですか!」

「語るより、見せる方が早い」

 

 ユーナ達が武器を手に取り、クラウを警戒する中で、クラウは何てこともないように、ユーナ達に向かってそう言い放つ。

 

「な、なによ……これ……。あれはあたしを描いた絵……?」

「エルザさん! 大丈夫ですか!? 何か、体に異常が……!?」

 

 何かに絶望したように青い顔でブツブツと何かを呟くエルザ。

 それを見かねたユーナがエルザに向かってそう叫ぶ。

 だが、エルザはその言葉すら、聞こえていないようにただ呟き続ける。

 

「あ、あたしが……あのアレクとか言う新入生と……裸で互いを求め合って……」

「な、何を言ってるんですか……? エルザさん……?」

 

 汚物を見たかのように吐き気を堪えるエルザを見て、状況を理解出来ないユーナが恐れるようにそう口にする。

 その一方である程度の事情を知っている来幸とレシリアは、クラウによってエルザが何を見せられたのかを察した。

 

(まさか、インフィニット・ワンの内容を……?)

 

 来幸達がそう考えている間に、クラウは何をしたのかをエルザに告げる。

 

「それはマスターの記憶」

「彼奴の……記憶?」

「転生者であるマスターが前世の世界で見た、貴方達、攻略対象が本来辿るはずだった運命に関する記憶がそれ」

 

 そう、クラウがエルザに見せたのは、フレイがプレイしたインフィニット・ワンにおけるエルザルート関連の記憶だった。

 異界聖剣には、個人情報の保護規則があったが、既に壊れてしまっているクラウは、それを無視して、取得したフレイの記憶を他人に共有したのだ。

 

「転生者……? 攻略対象……? わけがわからない! 何なのよこれは! こんなのがあたしの運命だったって言うの!!」

 

 エルザルートと同時に共有された情報で、転生者や攻略対象の意味も、エルザはしっかりと理解してしまった。

 だが、それでも、今の自分が好きな人を謀殺して、今の自分が殆ど知りもしない男に、お馬さんのようになった自分を後ろから突かれて、喘ぎながら快楽にむせび泣く姿が、自分が辿るはずの運命だったということを認められず、エルザはそう叫ぶ。

 

「ん、それが貴方の運命。貴方は本来アレクと乳繰り合う予定だった。貴方はマスターのヒロインなんかじゃない。アレクのヒロインだった」

「だから、アレクなんて知ら――」

 

 そこでエルザは思い出す。

 ナルル学園の入学式の日、フレイが自分を振ったときに、攻略対象がどうのとか、アレクがどうのとか、言っていたことを。

 あの時はよく分からない言葉だと聞き流していたが――。

 

「まさか、これが……!? これが、あたしが振られた理由なの!?」

「そうだよ。マスターは自分だけのヒロインを求めてる。無理矢理犯されたとか事情があるならともかく、自分の意思で他の男に体を許したような女が、マスターのヒロインになれるわけがない」

「そ……んな……」

 

 がくりと力を失ったようにエルザが壁にもたれ掛かるように倒れる。

 

「もしかして――わたし達もその攻略対象とやらだったのですか?」

 

 燃え尽きたように、うんともすんとも言わなくなったエルザを見て、この場に自分達が集められた理由を考え、ユーナは恐る恐るクラウに向かって問いかけた。

 

「レシリア以外は全員攻略対象。マスターの協力者であった来幸は、そのことをしっかりと知ってるよね?」

 

 自分の話の裏付けを取るようにクラウは来幸に話を振った。

 そのことで全員の視線が来幸に集まる。

 

「あんた……このことを知っていたの? 彼奴の記憶の中で、自分がどんなことになっていたのかも?」

「……ええ。私はフレイ様の協力者だったので。……あの人を好きになった後、全てを聞かされました」

 

 来幸が放った一言。

 好きになった後に全てを聞かされたという言葉で、エルザは来幸がどんな思いで今まで生きてきたのかを察し、そして胸の内に抱いた怒りを静める。

 

「……そう。何も知らないあたしを嘲笑っていたのかと思って、文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、止めにするわ。あんたも苦労してんのね」

「はい……でも諦め切れなかったので」

 

 エルザの言葉に来幸は短くそれだけ返した。

 それだけで、来幸の気持ちはエルザに伝わった。

 

「何が何だか……」

 

 未だに困惑から抜け出せないユーナはそう口にする。

 何か、知った者しかわからないやり取りが、今この場で行われていると。

 

「ここにいる全員分の記憶はある。エルザ以外の者も、自分のルートに関するマスターの記憶を見る?」

 

 ユーナの言葉を聞いたクラウがそう言った。

 この場にいる攻略対象全員に記憶を見せることは出来ると。

 

「それは――」

 

 それを聞いて、ユーナは一瞬、エルザの方を見て口籠もる。

 

 あれほど気丈だったエルザが、あんなに憔悴するほどの記憶――。

 それを果たして見てしまっていいのかと考えたのだ。

 

「――いえ、見せてください。師匠の記憶を」

 

 だが、直ぐに自らの中で結論を出した。

 わけもわからず振られたユーナは、自分が振られた原因――その本質を知らなければならないと思っていたのだ。

 

「ボクにも見せて欲しい」

 

 続くようにしてノルンもそう口にする。

 フレイが自分を嫌がる理由、それを知らなければ何も始まらないと、ノルンなりに考えてのことだった。

 

「わかった」

 

 そう言って、ユーナとノルンの額をクラウはタッチした。

 それによって、静電気のようなものが起こり、二人はフレイの記憶を得る。

 

「そうですか……ラースがアレクと……その中でラースの振りをして、わたしがアレクと……」

「竜の里が滅んでボクの方からアレクを……? そんな……」

 

 フレイの記憶を得た二人は、エルザと同じように憔悴し、そして絶望によって顔を青く染めていく。

 そんな中で、クラウは来幸とレシリアを見た。

 

「二人はどうする? レシリアは妹に関する記憶で、来幸はマスターが話した内容のおさらいになるけど」

「それなら、見せてもらおうかな。お兄様の記憶なら何でも知りたいし、生まれるはずだった妹のレシリアにも興味あるし」

 

 クラウの言葉にいの一番にレシリアが反応する。

 クラウは、その言葉に従って、レシリアの額に手を当てた。

 

「へぇ~。これがお兄様の記憶……。そしてこれが偽物かぁ……」

 

 憔悴しきった三人とは違い、何処か恍惚とした様子でレシリアはそう言う。

 一人だけ攻略対象では無いレシリアにとっては、フレイの記憶は自分にダメージを与えるようなものではなく、むしろ大好きな兄の一部を知ることが出来ると言う歓喜を齎すようなものだったのだ。

 

「それで、来幸はどうする?」

「私は――」

 

 来幸は考えるフレイの記憶をここで見せて貰うかを。

 

(私はどんなことが行われたのかをもう知っている。だから、無理をしてここで記憶を見る必要はない。でも――)

 

 来幸は思い出す、自分を振ったあの時、苦しそうにしながら、攻略対象は無理だと、自分だけのヒロインが欲しいと言ったフレイの姿を。

 

(それでは、フレイ様の苦しみを本当にわかったことにならない。私はフレイ様の望みをねじ曲げて、自らの幸せを得ようとしている。だからこそ、自らの私欲のせいで齎されるフレイ様の苦しみをしっかりと理解しないといけない……!)

 

 その覚悟を持って、来幸はクラウに向かって言う。

 

「私にも見せてください。もう一人の私の記憶を」

「ん、わかった」

 

 そして来幸の額にも手が当てられ、そして来幸は本当の意味で、自分に関する原作知識を手に入れることになった。

 

「これが一禍……」

 

 それだけを呟き、怒りで拳を強く握る来幸。

 そうして、全員が記憶を得て、その記憶の内容を反芻する中で、青い顔をしたユーナがクラウに向かって言う。

 

「クラウさん。一つだけ教えてください。ここは――ゲームの中の世界なのですか? わたし達は――設定から作られたただの人形なのですか?」

 

 インフィニット・ワンというエロゲーに関する情報を得たユーナは、そこの登場人物として描かれた自分達は物語の中の創作の存在なのではないかと、自らの存在に不安を覚えて、クラウに対してそう質問したのだ。

 

「ここはゲームの中じゃないし、貴方達は設定から作られたわけじゃない」

「そうですか」

 

 ほっとしたような顔でそう言うユーナ。

 だが、それを否定するようにクラウが言う。

 

「でも、貴方達には設定が足されている」

「え?」

 

 クラウの言葉に疑問を抱く、ユーナ。

 それに対して、クラウは言う。

 

「今、貴方達にも教える。マスターを主人公にしたこの物語の全てを」

 

 そう言って、クラウは語り始めた。

 創世神と主人公――フレイが知ることになった悪役転生の真実の全てを。

 

 全てを語り終わった時、エルザは室内にあった机を蹴り飛ばしながら言った。

 

「ふ、ふざけんじゃないわよ! つまりは、あたしは本来なら彼奴のヒロインになれたってことでしょ!? それなのにフレイの行動を誘導するって目的のためだけに……好きでもないアレクとあんなことをする運命を作られるなんて!!!」

 

 怒りが収まらないのか、その場で地団駄踏むエルザ。

 

「エルザさんの言う通りです! わたし達にも意思があるんです! それを無視して、好き勝手に操って――絶対に許せない!!!」

 

 エルザの怒りに同調して、ユーナがそう叫んだ。

 一方で、暗い殺意を込めて、来幸は薄ら笑いをしながら言う。

 

「そう……ですか……。その創世神とか言うのが、全ての元凶……私とフレイ様の幸せを……愛し合う可能性を殺した張本人……。ふふ、ふふふ……。もし、目の前に現れたら……絶対に殺す……!」

 

 そんな中で、一人だけ創世神を知っているノルンは、明確にその人物を思い浮かべながら、怒りを見せていた。

 

(あの時、ウルズが言っていたのはそう言う意味だったのか! こんな事なら、あの時、ウルズをボコボコにしておくんだった!)

 

 そして同時に、自分のオリジナルである創世神に向かって怒りを向ける。

 

(こんな奴がボクの本流だなんて! そして、其奴のせいでこんな目にあっているだなんて! 絶対に許さない! そうだ! ボクなら本体へのフィードバックで、創世神に影響を与えることが出来る……。なら、それを利用してボクの思念で創世神を汚染してやる……! そうすれば創世神に復讐することが出来る!)

 

 自分の思念で創世神を汚染して、フレイを愛するようにすることで、自分のしでかしたことを後悔するようにしてやるとノルンは内心で誓う。

 

 そうして、その場にいる他の者が怒りに燃える中で、一人だけわなわなと震えながら、静かにしていたレシリアが思わずと言った様子で呟く。

 

「なんなのそれ……。攻略対象が、本来お兄様と付き合っていた相手を、付き合わせない為にアレクにあてがったもの……? じゃあ、レシィは?」

「元から可能性がなかったってこと」

「はぁっ!?」

 

 クラウの痛烈な一言にレシリアがぶち切れる。

 

「そんなわけない! レシィとお兄様は運命で結ばれた唯一の相手! だから、運命の相手同士のお兄様とレシィは結婚して幸せになるんだ!」

「マスターは真っ当な倫理観を持っている。実妹はさすがに相手にしない」

 

 レシリアの言葉にクラウは冷静に反論する。

 だが、レシリアもこんなことでは諦めない。

 

「確かに兄妹で結婚するのが忌避されているのは知ってるよ! でも、レシィならそれがあったとしても、お兄様にレシィを愛させるように出来る!」

「そうかも知れない。けど、他がいるなら、わざわざ選ばないよね?」

「……っ!」

 

 レシリアが言う通り、攻略対象では無いレシリアなら、兄妹婚という倫理観の問題があったとしても、交流の中でそれを忘れるほどフレイに自分を愛させて、フレイと幸せな結婚をすることは可能だったかも知れない。

 だが、それはあくまで可能だというだけの話であって、フレイが攻略対象を嫌がって他の女性を探しているように、別の場所にヒロインがいる可能性があるなら、わざわざ妹をヒロインに選ぶ必要はないのだ。

 

 レシリアが押し黙ったのを見て、クラウはその場にいる全員に告げる。

 

「これでわかったよね? どうしてマスターが全てを捨てたのか」

「創世神に弄られたこの場所では、フレイ様が目的とする自分だけのヒロインに出会える可能性がないから、全てを捨てて新天地を目指したということですね」

 

 来幸が纏めるようにフレイが全てを捨てた理由を推察して語る。

 

「ん、その通り。そして、それがマスターの選択だと言うのなら、クラウ達は受け入れたくないことを受け入れないといけない」

「受け入れたくないこと……? それはなんでしょうか?」

「これ以上、受け入れられないことなんてあるの?」

 

 クラウの言葉にユーナは疑問を覚え、記憶として見せられたインフィニット・ワンでの出来事に散々打ちのめされたエルザは、自らの状況を鼻で笑うように言う。

 

「ある」

 

 クラウはこれまでの淡々とした様子と違い、感情を見せながらそう口にする。

 

「クラウ達は絶対にマスターにヒロインとして選ばれないということ」

「……」

 

 それはここにいる全員が実感している事実だった。

 今まで通り、フレイが側に居る状況なら、自分を恋愛対象として見ていないと言っても、何時かは自分に振り向いてくれる可能性が残されていた。

 だが、それすらも出来ない状況になるということは、完全にフレイのヒロインとなるための戦いから脱落するということだ。

 

「そして、マスターが自分だけのヒロインを手に入れる可能性があるということ」

「それはっ――!」

 

 自分を差し置いて誰かがフレイのヒロインの座を得る。

 そんな事態を想像し、その場の誰かからそんな否定の声が上がる。

 だが、その疑問の声を遮って、クラウは続ける。

 

「もう、マスターを阻むものは何も無い。攻略対象ではない以上、全てがマスターの恋愛対象になり得る」

 

 創世神の影響がない舞台に行けば、全ての女性が攻略対象ではなくなる。

 そうなれば、フレイと恋愛出来る対象は、今よりもずっと多くなる。

 

「クラウ達はマスターに惚れた。マスターの為に、マスターだけのヒロインになってもいいと誓った。……どうして他の者がそうならないと言える?」

「……っ!」

 

 ここにいる全員が、フレイのことを好きになり、そしてフレイ自身から振られても、好きという気持ちを諦められなかった者達だ。

 

 そんな彼女達は自分が好きになったフレイのいいところを沢山知っている。

 それ故に、自分以外の誰かがフレイを好きになり、そしてフレイだけのヒロインになることを誓って、フレイと恋人になって幸せになる可能性もあると考えたのだ。

 

「もう、クラウ達には後が無い」

 

 その一言がその場にいる全員に染み渡っていく。

 自分達がいかに追い込まれた状況にいるかを思い知ったのだ。

 

 だが、それでも、その瞳から欲望の炎は消えない。

 誰もが、まだフレイのヒロインになることを諦めていなかった。

 

(このためにこのメンバーを集めた。一度振られても諦めなかった、本当にマスターのことを好きな者達を)

 

 クラウはそう考え、そして自らの計画を語る。

 

「だからこそ、クラウは提案する。銀の鎖の結成を」

「銀の鎖……? それはどう言ったものですか?」

 

 来幸の疑問に答えること無くクラウは言う。

 

「最も身近で頼りになる女性も、深い血のつながりがある姉や妹も、挑み続けることが出来る強い女性も、彼の影響で成長していく女性も、彼との関係性を変えていくことが出来る女性も、彼が必要とする女性も――どれも皆ヒロイン。真のヒロインなんてものは存在しない」

「おまえ、レシィ達の記憶を……」

 

 そんなレシリアの声も無視してクラウは続ける。

 

「だからこそ、クラウ達は手を取り合える。クラウ達、ヒロイン全員で協力して――マスターを一生捕らえよう」

 

 その時のことを想像したのか、クラウの顔はにやりと歓喜の笑みで歪む。

 

「……」

 

 クラウから出た思いもよらない共闘の提案。

 フレイの為のハーレムを作り、全員でフレイを共有しようというもの。

 それを聞いた来幸達は、その返答に悩み、賛同の声は上げなかった。

 

 それもそのはずだ。

 彼女達はただ一人のヒロインになることを夢見てここまでやってきたのだ。

 今更、フレイを共有しろと言われても、心がそう簡単には受けつけない。

 

 フレイが自分だけを見てくれるヒロインを求めているように、彼女達もフレイに自分だけを見て欲しいと考えている。

 お互いに唯一の相手同士で永遠に愛し合いたいと思っているのだ。

 

 その気持ちを痛いほど理解しているクラウは、自らの提案に来幸達を乗せるために、自らの考えを吐露する。

 

「クラウ達、個人では、マスターが望む愛を与えられない」

 

 それはクラウに取っての敗北宣言だった。

 どれだけ、フレイを愛していても、攻略対象だったという状況証拠がある限り、何時かは裏切るのではないかという、フレイの恐怖心を消し去ることは出来ない。

 

 フレイの記憶を見た他の者達も、内心でその事実を実感する。

 

「だからこそ、その問題をシステムで解決する」

「システム?」

 

 クラウが言った恋愛事では出てこないような言葉にノルンが反応する。

 それに対して、クラウは何故システムと言ったのかを語る。

 

「人の心とは目に見えず、移ろいやすいもの。絶対なんてことは言えない。だからこそ、その問題を解決するためには、何かしらの仕組みが必要になる」

「それが銀の鎖というわけですか?」

「ん、その通り」

 

 ユーナの言葉にクラウは頷く。

 そして、銀の鎖について語っていく。

 

「銀の鎖とは、マスターだけを愛すと誓った者だけが入れる集団。その集団にいる全員で、マスターを愛し、そしてマスターから愛されることになる」

「それだと結局、問題は解決してないんじゃない? その銀の鎖とかいう集団に入っていようとも、他の男を好きになる奴は出てくるでしょ?」

「それでも構わない」

「え?」

 

 指摘した銀の鎖の問題点に対して、それでもいいと言ったクラウに、エルザは思わずそんな驚きの声をあげる。

 

「仮に誰かの愛が、永遠ではない紛い物だったとしても、残りの者達が其奴を排除して、失われてしまった分の愛以上に、自分達の本物の愛で、マスターを満たして癒やしてあげればいい」

 

 クラウはそう銀の鎖という集団の目的を語る。

 そして、その考えについて理解した来幸は纏めるように言う。

 

「なるほど、集団でフレイ様を愛することで、裏切り者が出た時にその方を排除しても、全体でフレイ様への愛が維持される体制を作ると言うことですね」

 

 その来幸の言葉にクラウは頷く。

 

「たった一人だけだから裏切られた時に辛くなる。この方法なら裏切り者が出てもその傷を浅くすることが出来るし、何よりも銀の鎖の参加者の全てが裏切らない限り、必ずマスターを愛する者が銀の鎖に残るから、マスターの望みである永遠の愛を用意し続ける事が出来る」

 

 そうしてクラウは纏めるように言う。

 

「マスターを愛する者が居続ける限り、銀の鎖は決してマスターから剥がれない。マスターを永遠に縛り、その代わりにマスターに永遠の愛を与え続けるシステム――それこそが、クラウが提唱する銀の鎖」

 

 そこまで言い切った後に、クラウは続けるようにして言う。

 

「クラウ達はマスターに理想の俺だけのヒロインを諦めさせる」

 

 攻略対象になったせいで、クラウ達は永遠に理想のヒロインにはなれない。

 故にクラウ達がフレイと愛し合うことになるためには、フレイの望みである『俺だけのヒロインと互いだけを愛し合う運命のような恋愛』というものを諦めさせないといけない。

 

「だからこそ、クラウ達も諦めないといけない。自分達がマスターの――ただ一人のヒロインとなることを」

 

 苦悩を滲ませながらも、クラウはそう決意を語る。

 

 本当はクラウだって嫌なのだ。

 だけど、そうしなければ、ヒロインになる権利すら失われる。

 だからこそ、こうして必死に足掻いていた。

 

「ボクは銀の鎖に入るよ」

 

 クラウ以外の者の中で一番に参加を表明したのはノルンだった。

 

「本音を言えば、ボク一人だけを愛して欲しかった……。だけど、このままだと愛すら得られずに終わることになる。ボクにはそれが耐えられない」

 

 ノルンに取って一番最悪なパターンは自分以外の誰か、ただ一人をヒロインにして、その相手とフレイが愛し合う状況になることだ。

 そうなれば、フレイは一生、ノルンを愛することはないだろう。

 

 それを避けるためなら、ノルンは大勢のヒロインの中の一人に埋没するのだとしても構わないと、そう割り切ることを決めたのだ。

 少なくともそれなら、フレイと愛し合える可能性を残すことが出来るからだ。

 

「例えハーレムになるのだとしても、パパも、そしてボクも、幸せになれる可能性があると言うのなら、ボクはそれに乗るよ」

 

 ノルンの決意を込めた言葉に、続くようにしてユーナが言う。

 

「わたしも……銀の鎖に入ろうと思います。王侯貴族では一夫多妻も珍しいものではありませんし、師匠に逃げられるよりかは我慢出来ますから」

 

 そんなノルンとユーナの様子を見て、エルザは断腸の思いで決心する。

 

「あ~! もう! わかったわよ! あたしも銀の鎖に入る!」

 

 そして、その場にいる全員に向かって言った。

 

「だけど、フレイの一番を譲る気はないから! 銀の鎖の中で、あたしが一番フレイを愛して、フレイに愛されて見せるわ!!」

 

 次々と銀の鎖入りしていく者達を見て、レシリアは内心で焦り始める。

 

(異界聖剣に、神の力を宿した竜、それに王侯貴族……。そしてこれから先も所属メンバーは増え続ける可能性がある……! 一人ずつなら何とか対処出来るけど、全員となるとわたしだけじゃ抑えきれない……!)

 

 今ここにいる者だけでも豪華な面子だが、銀仮面ファンクラブや白銀教など、潜在的な銀の鎖予備軍は多い。

 銀の鎖がなりふり構わず、そう言った者達を加入させれば、その者達が他の者を扇動し、各国家や七彩の神が、銀の鎖に協力し出すという状況もあるかも知れない。

 そうなってしまえば、神となったフレイであっても、捕縛してしまう可能性が高いのではないかとレシリアは考えていた。

 そしてフレイが銀の鎖に捕縛されてしまえば、捕らえたフレイのことを銀の鎖は独占し、自分達だけでフレイがいる日々を楽しみ始めるだろうと。

 

(嫌だけど……乗るしかない。あの聖剣に、ここまでの流れを作られた時点で、わたしの負けだった……)

 

 レシリアは自分だけならフレイについて行くことは可能だと考えていた。

 インフィニット・ワンで物語の開始前に殺されていた自分なら、創世神の影響はないとフレイが考えるはずだと思っていたからだ。

 だからこそ、徒党を組まれていない状況なら、レシリアが一人勝ちすることも難しくなかったが、こうして徒党を組まれてしまった以上、それも難しい。

 

(きっと、此奴ら、わたしのことも見張るだろうし……)

 

 もし、レシリアが銀の鎖に参加しなかったら、銀の鎖に参加したメンバーは、レシリアが一人でフレイに会いに行くと考え、レシリアのことを交代で見張るだろう。

 そうなれば、レシリアは迂闊にフレイと会うことが出来なくなり、接触の機会が減ることで、他の泥棒猫にフレイをかっ攫われる可能性が出てくるかもしれない。

 

(攻略対象が、本来お兄様と付き合っていた相手を、付き合わせない為にアレクにあてがったものという話を聞いて、動揺している場合じゃなかった……!)

 

 そう考え、思わず目に涙を浮かべながらも、レシリアは今の段階で打てる最善の手だと考え、その言葉を口にする。

 

「……レシィも入る……銀の鎖に……」

 

 嫌がりながらも、そこまで言った所で、レシリアは今後の為の布石を行う。

 

「だけど、一つだけルールを追加させて欲しい」

「それはなに?」

「『今後、銀の鎖に入りたい場合は、現在在籍しているメンバーの半数に、本当にお兄様の事が好きだと事前に認められること』と言うルールを追加したい。数が増えれば、それだけ質が落ちて、裏切りの可能性も増えるし、そうなったら、悲しむことになるのはお兄様だから……」

 

 レシリアのフレイを思った訴えに他の者達は頷く。

 自分の欲望を優先させてはいるが、何だかんだ言っても、全員がフレイを好きなので、フレイが悲しむことになるのは、極力避けたいと考えているのだ。

 

「それくらいなら構わない。元より集団の質を落とさない為に、何かしらの加入条件は必要だと考えていた」

「ま、変なのが入ってきても困るしね。それくらいが丁度いいんじゃない?」

「パパぐらいの立場になると、利益を得るために、愛も無いのに嘘ついて入ってくる人もいそうだしね~」

「ここにいる皆でちゃんと精査するなら、しっかりと師匠が好きな人を選ぶことが出来ると思います」

 

 そうして、追加のルールが決まり、来幸以外の全員が銀の鎖に参加したことで、その場に居る者の目は来幸に向いた。

 

「私は――」

 

 そう言った来幸はフレイとのこれまでの日々を思い出す。

 フレイに助けられた後、ずっとその側に居て、過ごしてきた日々。

 今更、フレイの元から離れた自分など想像出来ない。

 フレイの側こそが、来幸に取っての、誰にも譲りたくない場所だった。

 

「私はどんな形であれ、フレイ様の側にずっと居たい……。それこそ、この命が尽きるまで――いえ、例え来世であっても、フレイ様の側で愛し続けたいと思います」

 

 神となったフレイに寿命はなくなっている。

 だからこそ、ただの人である来幸は先に死ぬことになるだろう。

 そうして死を迎えれば、転生の存在をフレイが証明している以上、自分もこの世界の何処かで生まれ直すことになると来幸は考えていた。

 

(私が死ねば、フレイ様を愛する人はいなくなる。フレイ様が孤独になってしまう……。だからこそ、私は生まれ変わったとしても、フレイ様を愛して見せる)

 

 転生があると知ったからこその考え。

 自分の愛は、死程度では覆せないという思い。

 故にそれは一種の誓いの言葉だった。

 

「だから、銀の鎖に入りたいと思います」

 

 生まれ変わってもフレイを愛し続けるという誓い。

 何度でも、銀の鎖に入り続け、そしてフレイを愛し続けることで、フレイへの永遠の愛を証明し、フレイに愛されるに相応しい存在になったと、胸を張って生きるのだと、そう決意をした来幸は嘘偽り無く言い切った。

 

「ん、これで全員加入した」

 

 そう言うとクラウはその場にいた全員に集まるように言う。

 

「決起式。ここで誓おう。自分達のマスターへの愛を」

 

 そう言うと全員が頷き、それぞれが手を重ね合わせた。

 

「私達はここに誓う! フレイへの永遠の愛を! 今世でも――来世であったとしても! 私達はあの人の為に他の者に目もくれず! あの人だけを愛し続けると!」

 

 そして全員で一斉に叫んだ。

 

「私達は必ずあの人のヒロインになる!!」

 

 ――今ここに銀の鎖は結成された。

 

 ただ一人のヒロインになろうとしていた者達は、自らの夢の一部を諦めながらも、互いに手を取り合い、決して諦めたくない夢である、フレイのヒロインになるという夢を叶えるために動き出したのだった。

 




 もう後がない、このままじゃ逃げ切られると思ったヒロイン達は、自らの夢の一部を諦めてでも、ヒロインの座を手にするために結託しました。

 それと創世神は『なんかフレイの周り面白そうだし、この時代で分体を作る予定はなかったけど、分体を作って混ざってみよwww』と言って送り込んだノルンからの毒電波に汚染されることが決まってしまいました。
 自分だけは、絶対的な安全圏にいると思い込んでいる時が、一番危ないってことですね。

 ちなみに世界の外にいる創世神に対する攻撃手段はないので、本体へフィードバックを行っているノルンを介して精神攻撃をするしかないです。
 ノルン自身も本体である創世神には怒り心頭なので、きっと怒りを覚えたヒロイン達からのノルンを介した攻撃も喜んで許可してしまうため、創世神は割とどんまいな状況です。
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