エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
そうして来幸は俺の専属メイドになった。
忌み子として親から捨てられた来幸は言葉は交わせるものの、それ以外のことは大して知識を持ち合わせていなかった。
だからこそ、当初の予定通り、基本的には俺が勉学や武術、礼儀等を教え、そしてメイドとしての細かい部分の知識はリガードや屋敷のメイドに頼んで教育して貰うという体勢を築いていた。
来幸自身もメイドに対するやる気を十分に見せていて、積極的にリガードや他のメイドに質問して、必死になって働いている。
屋敷の使用人達もそんな来幸の姿を見て仲間として受け入れているようだった。
「まあ、元からあまり心配していなかったけどな」
何だかんだ言っても、ゲームで一禍は、使用人としてシーザック家に受け入れられていたのだ。
レシリアが死んで発狂したリノアには、黒髪というだけで嫌われて、最終的に追い出されてしまったが、それを除けば真っ当に過ごせるだけの信頼関係を一禍はゲームで築き上げている。
このシーザック領は、聖女が治める領地ということもあって、善良な人間が集まりやすい傾向がある。
まあ、だからこそ、マリナスや商人共のような、一部に存在する悪人に、いいようにやられてしまうという欠点もあるのだが、今回はその善良さが良い方向に働いたということなのだろうと俺は思っている。
故に俺は、来幸をメイドにしても問題ないと判断して、先日の一件を起こすことに踏み切ったのだ。
「お、お食事をお持ちしました~」
おっかなびっくりと言った感じで、ガラガラとワゴンを慎重に押しながら来幸が部屋に入ってくる。
普段は食堂で家族と食事を取るが、来幸の勉強の為に部屋に食事を持って来させていたのだ。
「ああ」
俺は短くそれだけを返して、席に座り、机の上に並べられたワゴンから取り出した料理を食べ始める。
しばらく食事を堪能していると、何処からかぐぅ~という音が聞こえてきた。
そして音のした方向へ目を向けると、顔を真っ赤にした来幸が恥ずかしそうに、音のなった原因と思われるお腹を押さえていた。
「あ、あの……これは……!」
「……お腹すいたのか?」
「は、はぃ……」
そう言って俯く来幸。
ゲームの一禍は完全無欠の完璧メイドといった感じだったが、今の来幸はそれにはほど遠く、ポンコツメイドと言えるような状況だ。
誰でもいきなり完璧なわけじゃないか。
ゲームでの一禍もきっとこんな時期があったんだろう。
「ふう。もうお腹いっぱいだ」
そう言って俺は席を立つ。
「あ、ではお片付けを……」
「何を言っている? こんなに残っているものを片付ければ、料理長が何か料理に問題があったんじゃないかと思ってしまうだろう」
「え?」
俺は内心、察しが悪いな~。と思いながら来幸に告げる。
「つまりだ。俺の食べ残しを来幸が食べろということだ」
「ええ!?」
来幸が驚いた様子でそう声を張り上げた。
「この後は武術の勉強だろ? 空腹で倒れられても困る」
それにこれも恩を売れるポイントの一つだろう。
来幸を忠実な僕にするためのなろう奴隷ちゃん計画の一つ。
『奴隷の私にこんな凄い食事をいただけるなんて! さすがです! ご主人様!』大作戦だ。
「で、でも……」
「命令だ。さっさと食え」
「わかりました……」
命令だと言われてやっと納得した来幸は、料理を食べるためにそのまま手を直接料理に向けて――。
「ちょっと待った」
「え? 何ですか?」
俺は料理に届く寸前の来幸の手を止めた。
正直言って信じられない!
此奴、直接手で料理を食おうとしていたぞ!?
「まさか、手で食べるつもりだったのか?」
「はい。何時もそうしているので」
「まじか……」
俺はそう言って頭を抑えた。
日本人からしてみたら、パンとかならともかく、おかずやご飯を、食事シーンのCGで手づかみで食べていたら、正直言ってドン引きレベルの所業だろう。
だからこそ、なんちゃって中世のこの世界では、箸やスプーンなどは普通に存在していて、一般人でも当たり前のようにそれを使って食べる。
そんな中で俺の専属メイドが手づかみで食事をするなど、あってはならないことだ。確実に俺の品位に影響が出てしまう。
「きゃっ!?」
来幸を引っ張り、席に座った自らの膝の上に座らせる。
そして後ろから彼女の手を取り、そこにフォークとナイフを握らせた。
「いいか、食事とはこうやって食器を使ってするものなんだ。この肉をナイフで切って、フォークで突き刺す、それをほら、あーんだ」
「あーん?」
「相手に料理を食べさせるときに、口を開けて貰うために言う言葉だ」
「ほら、あーん」
俺の言葉で開いた来幸の口に向かって肉を入れる。
そしてそれを何度か繰り返して来幸に食事のマナーを教えた。
何で俺が攻略対象相手にあーんをしなければならないんだ。
こう言うのは俺がヒロインにやって貰うもんだろ。
そう不満は覚えるが、来幸を協力者に仕立て上げるためには、仕方の無いことだと諦める。
そして食事を終えた来幸は顔を真っ赤にして、ワゴンを片付けて去って行った。
「はあ、先が思いやられるな……」
俺はそれを見て思わずそう呟いた。
……即戦力が欲しい。切実に。