エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「マーガレットが刺されて、来幸が連れ浚われただって!?」
部屋で読書を楽しんでいた俺の元に、使用人の一人がやってきて、息を切らせながらも、それを伝えてきた。
「はい……。幸い、近くにいた人が直ぐに助けに入ったので、マーガレットは命に関わる傷を負わずに済みました。今はリノア様が治療を行っています。ですが……」
「来幸の方の行方は分からないと」
「はい……。申し訳ありません」
「いや、気にするな。護衛を付けなかった俺のミスだ」
やられた! ゲームでは学園入学時に一禍が居たから、それまでは来幸に対して身の危険が迫るようなことはないと思い込んでしまっていた。
「坊ちゃま。来幸ちゃんを浚ったのは……」
「ああ、黒神教のものだろうな」
黒髪の来幸を浚ったところから見てもそれは間違いない。
だが、何故このタイミングなんだ?
黒神教が一禍に気付いたのは、学園に入学したからだったはずなのに……。
「そうか……。俺のせいか」
「坊ちゃま?」
いや、一つだけこの段階で黒神教が、来幸の存在に気付くことになった理由として思いつく事がある。
――俺が魔族を倒したことだ。
魔族というのは強大な存在であり、様々な組織が注視しているものなのだ。
だからこそ、黒神教も魔族が倒されたこの地を警戒して、何らかの監視要員を送り込んでいたのだろう。
そして、そこで黒髪の子供がシーザック家に拾われたということを知った。
そう考えれば、原作と違い、この段階で動き出したことに筋が通る。
「舐めやがって……」
ふつふつと怒りが湧いてくる。
聖女がいようとも、S級冒険者がいようとも、そして魔族を倒すような存在がいようとも、シーザック家相手なら来幸を浚う事くらい容易いと彼奴らは考えたのだ。
これほど舐められてシーザック家の長男として引き下がることなどできない。
「空蝉の羅針盤」
俺は手に持った魔道具を起動させる。
念の為に来幸の服には針を忍ばせてある。
だから、その位置は俺には丸見えだった。
「港近くの三番倉庫! 俺は先に行くと父様に伝えておいて!」
「へ? ぼ、坊ちゃま!?」
「転移!」
俺は迷うことなく転移の力を起動させる。
針を仕込んだ場所への長距離転移。
俺は来幸の元へと移動した。
☆☆☆
「おお、我等が神よ! 今貴方のために生贄を……!」
祭壇のような場所で男が喚いている現場に転移する。
俺はそこで椅子に縛られている来幸を見ると、短距離転移を使用し、直ぐさま来幸を切ろうとしている男を剣で切り裂いた。
「っがぁ」
「何やつです!」
一人の信者が血を吹き出して倒れたことで、教祖と思われる男と、他の信者達が俺の存在に気付く。
俺は其奴らの注意を引きつけるように宣言する。
「お前達が浚った相手の主だ。来幸は俺のものだ。返して貰うぞ」
「子供一人が何を言っているのです! やってしまいなさい!」
そう言って俺に向かって信者が迫る。
だが、それこそが俺の狙いだ。
「消え……が!?」
短距離転移で相手の死角に移動し、其奴を刺し殺す。
そして直ぐに別の相手の死角に移動して、同様に相手を斬り殺した。
わざと話して注目を集めたのは死角を作り、こうやって、そこを狙って転移をして止めを刺すためだ。
相手の死角に移動するだけのワンパターン戦術。
だが、これはシンプルに強い。
空間系能力が最強ってことを証明してやるよ!
俺はそんなことを思いながら次々と信者を殺し、気付けば残りは教祖だけの状況になっていた。
「信者達が……ただの子供ではありませんね」
そう言って教祖は祭壇を背にこちらを迎え撃つ体制を取った。
こちらが死角に転移することは、信者達がやられる中で、あの教祖に理解されてしまったらしい。
壁を背にすることで後方への転移を封じ、そして前方からどう来てもいいように身構える……短距離転移能力者相手の対応としては完璧なものだ。
「私は油断などしませんよ! ダーグゲイン!」
そう言って教祖は闇の渦を作り出すとこちらへと放流した。
あれは渦に飲み込まれた対象から生命力を絞り出して吸収する闇魔法だ。
「そっちが油断してようが、どうしようが、関係ないんだよ!」
俺はそう言うと机を触り、短距離転移で空中に飛び出す。
そして手に持った机から手を離した。
「躱したところで……ダーグゲイン!」
二度目のダークゲインが俺へと向かう。
俺はそれを更に転移で躱し……そして同時に落ちていた机に対して、転移の力を発生させて、机だけを飛ばした。
「――!? っがぁ!? な、なぜ机が……ごふ……」
飛び出してきた机によって壁に縫い付けられて、教祖は命を落とした。
それを見ていた来幸は驚いた表情で思わず言う。
「え、どうして机が?」
「単純な話だよ。俺の転移能力は魔力を纏っていないものなら、俺自身が触れていなくても、自由に転移させることが出来る」
ディノスは相手の魔法を飛ばしたり、触れずとも相手自体を飛ばすことができたが、空蝉の羅針盤にそこまでの能力はなく、魔力を纏った存在を転移させるには、転移時に俺が触れている必要があり、触れずに転移できるのは魔力を纏わない物体しか飛ばすことができない。
この世界の生物は大抵魔力を持っているから、今回の机のようなものしか、触れずに飛ばすのは難しいというわけだ。
「そして転移時の物体の方向は自由に決めることができるのさ」
例えば落ちてくる机があるとして、そのまま同じ方向で転移すれば、転移先でも上から下へと落ちるだけだが、転移時の向きを横向きにすれば、その落下速度は、横へと進む運動速度に早変わりする。
これが机が猛スピードで教祖を貫いたカラクリだ。
「取り敢えず、無事で良かったよ。来幸」
俺はそう言って来幸を縛るロープを切り裂く。
「あ、あの助けてくれてありがとうございます!」
感極まったように来幸がそう言う。
俺はそれに軽く言葉を返した。
「俺の配下になった以上は、君を不幸せにするつもりはないと前に言っただろ? 主として当然の行いをしただけさ」
そう言いながら俺は周囲を見回した。
俺と来幸の周りには、俺に殺された黒神教の者達が倒れている。
それを見て俺はふと思った。
思ったより罪悪感を抱かなかったな。
人族を殺すのはこれが初めてだった。
だからこそ、その行いに対して何らかの罪悪感を抱いたりするかも知れないと、少なからず心配していたのだが、それは杞憂だったようだ。
まあ、知性ある存在を殺したって言うのなら既にディノスを殺してるしな。
ある意味ではそれが理由の一つなのだろう。
あの時は一杯一杯でそんな事を考える暇はなかったが、それでも一度殺したという経験は、二度目以降への抵抗を下げていたのではないかと考えられた。
相手は魔族だから人族とは別枠だろと考える人もいるだろうが、俺に取っては、魔族であろうと、人族であろうと、まともに知性を持って、同じ感性で会話が通じる相手なら、それは人だろうと思っている。
だからディノスの件は最初の一回になり得るのだ。
「ま、ディノスも黒神教もゲームで散々悪事が描写された悪人だしな」
俺は来幸に聞こえない声の大きさで思わず呟いた。
ディノスは人を弄ぶことに愉悦を覚える存在で、レシリアルートでは逃げながら暗躍する過程で多くの人を不幸のどん底に陥れていたし、黒神教はテロ行為を働く邪教集団で、多くの平民を洗脳によって巻き添えにしてきた。
ゲームで気持ちよく倒せる悪とするために描写されたそれらを思えば、ここで罪悪感を覚えることの方が難しいと言えるだろう。
もしかしたら今回殺した黒神教の信者の中には、元々は善良だったが洗脳された為に、ここに居る者がいるかも知れないが、こんな教祖の身近に侍ることが許されている信者なんて、闇魔法で滅茶苦茶に洗脳されていて元に戻すのは不可能だろうし、仮に戻れたとしても犯した悪事で心が壊れてしまうかもしれないから、元の心を取り戻させて罪悪感を思い出させないまま、ここで素直に殺して上げる方がむしろ優しい対処であるとも言える。
ま、つまるところ悪人に容赦をする必要はないってことだな。
俺だってさすがに善人を殺すことになれば戸惑うが、この世界で悪人に対して罪悪感を感じて殺す手を止めるなんてことをするつもりはない。
現代日本のような、まともな論理感が教育やネットなどで共有されている世界ならともかく、こんななんちゃって中世の世界では、そんなものが全員に共有されていることは期待出来ず、大概の場合は力こそが正義だと、他者が手を弱めれば、そこを弱みと見て食い物にしてくるような輩が大半だ。
優しさや慈悲というものは、他者にそれを理解する頭脳がなければ、施したところで何の意味もないただの有害な自己満足なのである。
俺はそんな愚かなことをするつもりはない。
だからこそ、俺の邪魔をするような悪人共は、確実に仕留めて、決して俺やシーザック家が舐められないようにする必要があるのだ。
俺はそこまで考えた所で祭壇の方に向かった。
俺のその行動に役立つ品が、ここが黒神教の儀式場ならあるはずなのだ。
「あの……何を探しているんですか?」
「本だ。此奴らが古い本を持っていたのを見てないか?」
「それなら、あそこにあるのがそうなのでは?」
壊れた祭壇から本の表紙のようなものが見えていた。
俺は転移で移動し、それを取り出し、そして本の題名を見た。
それは紛れもない俺の目当ての本。
一禍ルートクリア特典である闇魔法を覚えることができる魔法書だった。
「これだ……助かったよ」
俺はそう言って転移で戻る。
「それ、何ですか?」
「魔法書だよ。これがあれば特定の魔法を覚えることができるのさ」
「それは、凄いですね」
「あとで来幸にも覚えてもらうからな」
「わ、わたしもですか!?」
俺の言葉に魔法を習うことになると思っていなかった来幸がそう驚く。
そんな来幸に指を一本立てて内緒だということを伝わるようにして言う。
「ああ、それとこれは父様達には内緒だ」
そして、俺は長距離転移で移動し、本を隠して戻ってきた。
しばらくするとジーク達が騎士団を連れてやってきた。
俺は残った後始末を頼むと、来幸と共に屋敷に移動した。
こうして呆気なく一禍ルートのボスである教祖は倒されたのだった。