エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
多くの人には赤ん坊の頃の記憶はないと言うけど、天才で様々なことに優れたわたしにはその記憶がある。
今でも鮮明に覚えている。
わたしを殺しに来た魔族を迎え撃つお兄様の勇姿。
そしてわたしを包み込むように漂う温かなお兄様の魔力……。
わたしがこうして生きていられるのもお兄様のおかげだと理解していた。
つまり、わたしはお兄様によって成り立っていると言ってもいい。
そんなわたしがお兄様を慕うようになるのは自然なことだろう。
だってお兄様はとっても強くて格好いいお方なのだから。
あの来幸とかいう女を守るための演説は本当に痺れるものだった。
話を聞いていただけで、興奮して腰が抜けてしまうほどだった。
そんなお兄様があの女を大切な話で呼び出したと聞いたから、念の為に風魔法を改良した魔法で盗聴していたけど、まさかあんなことが分かるなんてね。
わたしは闇魔法の習得を終えて出てきたあの女の前に立った。
「レシリア様どうしました?」
彼奴はすまし顔でそんなことを聞いてくる。
お兄様の専属メイドとして今でも行動しているのだ。
それが滑稽でならない。
「クスクス。お兄様から相手にもされていないのに、それでも側に居続けるなんて惨めだよね~お姉さん」
わたしが煽るようにそう言うと、此奴は目の色を変えた。
「話を……聞いていたのですか?」
「そうだよ? レシィは天才だから、風魔法を改良して、ちょちょいのちょいと、盗聴するくらいわけないんだよ。あ、闇魔法くらいしか使えないお姉さんに、風魔法がどうのっていっても無駄か~。レシィ、うっかりしてた!」
そう言って可愛らしく舌を出して見せる。
「それが貴方の本性ですか?」
「うん。そうだよ~。何時もは猫被ってたんだ~」
「何でそれを――」
「止めたのかって? そんなの決まってるじゃん。敵を相手に猫を被る必要なんて無いからだよ」
察しの悪いお馬鹿さんにそう突きつけてあげる。
まったくこの程度も分からないなんて、お兄様のメイドに相応しくないな~。
「敵?」
「もう、頭悪いな。お兄様のこと狙い続けることにしたんでしょ? 体を焼いて不気味に笑うとかさ、レシィもちょっと引いちゃった」
「……それは貴方もフレイ様を狙っているということですか? 妹なのに?」
妹だから恋のライバルにならないと思ったのかな?
それこそ、大きな勘違いってやつだよ。
「ママから聞いたけど、昔の王族は兄妹で結婚したりもしたらしいよ? その名残かこの国には兄妹の婚姻を禁じる法律もないし」
「でも、倫理的には……」
「倫理とかつまんな~い。そんなこと言っているから、お兄様に相手にされないんだよ。わかる? お、ね、え、さ、ん」
「……」
誰が誰に恋をしようと愛は愛。
兄妹だろうと好き合ったのなら世間の目線など些末な問題だよ。
「……話はそれだけですか?」
イライラし始めたのか話を切り上げようとするお馬鹿さん。
だから、わたしは当初の目的を此奴に伝える。
「いや、まだあるよ? 今日はね。勘違いしているお姉さんの考えを、ちゃんと正してあげようと思ってきたんだ! レシィって偉いでしょ?」
「……」
「ノリが悪いな~。あのね。お姉さんは『常に側にあり続ける者がヒロイン』だと思っているようだけど……それって間違いだよ!」
「何が言いたいんです?」
怒りを滲ませながらそんなことを言うお馬鹿さん。
そんな此奴に分からせるようにわたしは言い切る。
「本当の物語のヒロインというものはね。主人公と何よりも深い血のつながりがある姉や妹のことを指す言葉なんだよ?」
常に側にいるだけの女性なんてただのモブじゃない。
その点、兄妹は違う。
必ず物語の中心に食い込むことになるし、妹はどんな物語でも必ずヒロインの一人になるほどポピュラーなもの。
それを考えれば、何が本当のヒロインかは、直ぐに分かることだよね!
「だからね。お兄様のヒロインになるのはこのレシィただ一人」
お兄様の妹はわたしだけ。
つまり、お兄様のヒロインはわたしだけという事だよ。
そんなわたしの言葉に、此奴は不機嫌さも隠しもせずに返答した。
「フレイ様のヒロインはこの私です。貴方ではありません」
諦める様子のないその姿にわたしはほんの少し呆れながら言う。
「もう、諦めたら~。別の世界で汚され続けた女なんて、お兄様に相応しくないもん。っね! そう思うでしょ? 一禍ちゃん?」
「その名前で私を呼ぶな!」
突然キレた一禍ちゃんは、そう言うと、ぐいっとわたしを持ち上げて、私を壁に押し付けた。
「こっわ~い! 本当のこと言われただけで怒らないでよ~」
「――っ!」
その瞬間、一禍ちゃんは何かの魔法を発動させた。
だけど――。
「ざんね~んでした! 聖女には闇魔法は効かないよ~! ウィンド!」
「っく!」
恐らくわたしを洗脳したかったのだろうけど、聖女であるわたしを洗脳することは出来ない。
それが分かっていたからこそ、こうやって面と向かって煽っているのだ。
風魔法で一禍ちゃんが飛ばされたことで、わたしは拘束から抜け出す。
そしてわたしは一禍ちゃんに確認しなければならないことを問う。
「一禍ちゃんはさ~。その闇魔法でお兄様を洗脳しないの? そうすればお兄様のこだわりを捨てさせて、今すぐにでも恋仲になれるかもよ?」
わたしの言葉に一禍ちゃんの顔が歪む。
此奴もそのことを考えなかったわけじゃないと思う。
けど――。
「あ、そっか! それを実行したら、一禍ちゃんが一禍ちゃんだってことの証明になっちゃうもんね! そりゃ出来ないか~」
「……!」
一禍ちゃんは中身の意思が別物だから、平行世界の自分と今の自分は別物で、だからこそその身は綺麗であり、お兄様のヒロインに相応しいと主張している。
でも、お兄様を闇魔法で洗脳し、意思が変質したお兄様を、お兄様として扱うのなら、その前提は崩れる。
なぜなら洗脳によって変質した意思も含めて同一人物だと認めれば、状況の違いによる意思の違いも同一人物と認めなくてはならないから、つまり、自らで薄汚れた平行世界の一禍ちゃんと自分は同じだと証明するのと同じことだ。
だからこそ出来ない。
それが最も手っ取り早いと分かっていても、その手は使えない。
「……私は大切な主人であるフレイ様に闇魔法を使うつもりはありません」
「ふ~ん。そうなんだ~。ま、いいけど。どうせ使ったとしても、聖女の魔法で元に戻せるからね」
釘は刺せたかな?
わたしはそう思う。
正直言うと闇魔法を使われるときつい。
闇魔法自体は幾らでも解呪出来るが、それをするにはわたしの魔法の範囲に、お兄様を連れてくる必要がある。
一禍ちゃんはお兄様の専属メイドとして、遠くに出掛けた時も側にいるだろう。
その場で闇魔法を使われて、そのまま逃亡されると、お兄様を見つけ出して解呪することも出来ず、此奴の一人勝ちを許すことになる。
だからこそ、わざわざこうやって隠していた本性をさらけ出して、その手を打てないように釘を刺したのだ。
わたしはお兄様思いの妹だからね!
「話はそれだけだから、じゃあね~」
目的を達成したわたしはそう言ってその場から離れた。
歩いて行く中で嬉しさから自然とスキップし始めてしまう。
「レシィは本来なら死んでいた、ただ一人の妹~」
ついつい唄うようにその言葉が口から出た。
盗聴して良かった。本当にいい話を聞けた。
あの後、協力者になった一禍ちゃんに改めて語られた、お兄様がプレイしたというゲームの様々なルート。
その中の一つ、レシリアルート。
そこでわたしはディノスに殺されてしまい、わたしの代わりに、紛い物であるレシリアが生まれた。
普通の人なら自分が殺される物語なんて嫌うと思う。
だけど、わたしはそうじゃない。
「つまり、ここにいるレシィはただ一人のレシィ。お兄様の為だけの唯一の妹~」
平行世界で様々な可能性があり、状況によっては、お兄様以外に靡いて汚れる一禍ちゃんとは違う。
ここにいるわたしが唯一無二のオリジナルなのだから、全ての世界を見たとしてもわたしがお兄様以外に靡く事なんてあり得ない。
そして、前世の記憶を持った今のお兄様もこの世界にしか存在しない。
「レシィの愛はお兄様だけのもの~。お兄様の愛もレシィだけのもの~」
唯一同士の存在が愛し合えば、それは全ての世界を見ても、ここにしか存在しないわたし達だけの愛の物語なのだ。
これを運命と言わず、何を運命と言うのだろう。
わたしとお兄様は何よりも深い血のつながりだけではなく、唯一の存在という運命の糸でもしっかりと結ばれた最強の兄妹であり、恋人なのだ。
「だから、妹はレシィだけでいい~紛い物なんていらない~」
ゲームでのレシリア。
生まれる可能性のあるお兄様のもう一人の妹。
アレクなんていうお兄様を苦しめたやつになびき、そんな奴の種でしか聖女に覚醒できないような紛い物のゴミは、わたし達には必要ないのだ。
「お兄様~ただ一人の妹のレシィは~、ず~と、ず~と、一緒だよ~」
わたしは唄いながらお兄様の待つ部屋へと向かった。
今日のお兄様成分を補充するために。