エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
色々あって、俺は十歳となっていた。
物語の舞台となるルーレリア学園入学まではあと五年あるが、実はその前に貴族が全員行かなければならないナルル学園への入学まではあと二年を切っていた。
このナルル学園というのは、様々な実技を学ぶルーレリア学園と違い、貴族しか入学出来ない学校で、貴族の礼儀作法や社交界などを学び、貴族同士が交流することで友情を育んだり、婚約したりすることを目的としている。
分かりやすく言ってしまえば、このナルル学園で貴族としての勉強とつながりを作って、ルーレリア学園で実力と配下となる平民を見繕う……というのが、この国の教育方針という事だ。
だからこそ、俺はこのナルル学園への入学に期待を持っていた。
「社交の誘いとか一度も来なかったもんな……」
本来なら十歳ともなれば婚約の話や社交界の話も出てくるが、この数ヶ月、俺に関してはそれが一切出てこなかった。
まあ、シーザック家は聖女という存在との兼ね合いから、女性当主が確定している家で、妹が死ぬまで男である俺に継承権はないから、嫁ぎ先としての魅力はゼロで、魔力回路はボロボロだから婿養子としてもいらないという感じなので、社交界に呼び出す必要性を感じなかったということなのだろうと思う。
理屈は理解しているがそれでも悲しいものがある。
それに俺のヒロインを見つけるという計画にも支障が出ている。
だって――。
「あ、お茶、ありがとう。ミリーちゃん」
「話しかけないでくれますか?」
そう冷たい目で睨み付けてくるのは、今年で九歳となったボートリー男爵家のご令嬢で、俺専属メイドの一人でもあるミリー・フォン・ボードリーちゃんだ。
「いや、そんなこと言わないでさ、仲良く――」
「きもいです」
そう痛烈な一言だけ残してミリーちゃんは去って行った。
あまりの強力な侮蔑の言葉に、俺の心はノックダウン寸前だ。
「ミリーがすみません」
「ああ、いいよ。俺も悪いところがあったし」
来幸がそう言って謝ってくるので、俺は気にしていないと軽く答えた。
ミリーちゃんだけではなく、来幸以外のメイド達と俺の関係は、来幸を仲間に引き入れた日から、悪化することになっていた。
なぜだか理由は分からないが、あの日、来幸は俺に告白されるのだと、全てのメイドがそう勘違いしていたらしい。
実際には逆に恋愛対象じゃないと振ることになったのだが、もう一人の自分というゲームの話を聞いたせいか、動揺してメイドの仕事をさぼった来幸を見て、メイド達は何か良くない結果が起こったと思ったそうだ。
そんな中でミリーが事実を問いただす為にやってきた。
俺はミリーに来幸との関係を聞かれ、素直に答えた。
来幸には恋愛対象にならないから、今後一生付き合うことはないと伝えた。
そして、これからもメイドとして俺を支え、俺の手伝いとして、理想のヒロインを見つけるための協力者として活動して欲しいとも。
その話を聞いた辺りから、何故か今にも怒り出しそうな感じで、ミリーや他の使用人達がぷるぷると震え始めたが、俺は特に気にしなかった。
だって、これは俺と来幸の個人的な問題だ。
俺は来幸を振ったが、それはそれとして、これからもメイドとして俺に協力して欲しいという意思を伝えただけ。
既に当事者である俺と来幸の間では話し合いは終わり、合意は取れているのだから、これでこのことに関する話は終わりのはずだ。
それを当事者ではない外野のミリー達が気に掛けることなんてないだろうし、何よりもそんな周囲の人間が人の恋愛にあれこれと口を出すのは筋違いというものだ。
俺が来幸に告白すると思っていたのは、連絡ミスによるメイド達の勘違いであるということも既に説明している。
なら、俺が前世でやられた時のように、最初から好きだから告白すると手紙で校舎裏に誘って、その上でのこのことやってきた俺をさらし者にし、お前なんか好きになるわけないだろと、公衆の面前で笑いものにしたわけでもない。
だとするならば何の問題もないだろう。
そして俺は、そこでそんな使用人達の様子よりも、ここにやってきたミリーの方が気になった。
ミリーは下級と言っても貴族であり、俺と婚約するのに何の問題もない立場。
ゲームでは出てこない非攻略対象であり、メイドとして働いているから、ミリーと恋人になるのに、来幸の協力を得やすいなど、同じ条件のアイリーンと並ぶ、俺だけのヒロインの有力候補だったのだ。
確かまだ協力者でなかった来幸にそれとなく聞いた他のメイドの人物評でも、どんなことにでも一生懸命で、裏表があるなどの相手によって態度を変えるという事はなく、どんな相手だろうと言いたいことははっきりと言うという、何事もはっきりと自分の意思を持って行動する性格だと評価していたのを覚えていた。
そのようなミリーは裏切りが怖い俺からして見れば好ましいタイプの女の子だ。
そしてこのときの俺は、来幸から協力者として、メイドの交友関係に関する情報を得ていなかったから、メイド達の交友関係に詳しくなく、新人のミリーが来幸を慕っているということを知らなかった。
だからこそ、俺が来幸に告白したということを聞いて、飛び出すようにやってきたミリーに対して、もしかして俺に少なからず好意があって、その為に俺が来幸に本当に告白したのか確認しに来たのでは無いかと、そんな考えがふと頭をよぎった。
来幸と仲が良かったから状況を聞きに来たという可能性も考えたが、それなら様子のおかしい来幸に直接聞きに行けばいい話だし、まだ俺と来幸は付き合ってもいないのだから、振った俺に文句を言いに来るより、来幸に対して新しい恋があるよと励ますのが普通ではないだろうか。
そう考えるとミリーが俺に好意があって確認しに来た、という可能性が更に高まっていく。というかそれ以外に俺の元を訪れる理由はないだろう。
ミリーがこのまま俺の理想のヒロインになれるかは分からないが、転生後に決めた方針に一致する、ヒロインとしては理想的な人材だと言える。
それに俺としても、幼い頃から共にいて、長い付き合いから来る主人への変わらない忠誠と愛情を持った、メイドヒロインは俺の理想のヒロイン像の一つでもある。
軽く世間話をする程度で、まだそれほど親しいわけではないが、お互いにまだ若いから、これから先も充分に関係性を深めていくことが出来る。
そう考えるとミリーはここで失うには惜しい相手だ。
そんな相手が少しでも俺に好意を持っている可能性があるのなら、ここでその可能性を潰すのは不味いと俺は考えた。
同じメイドである来幸がダメだったのなら、自分もダメだという風にミリーが誤解する可能性はある。
だからこそ、伝えなければならない、同じメイドでも来幸はダメだったけど、ミリーなら俺と恋愛関係になれる可能性があるよと。
そう思った俺は思わず、言ってしまった。
「そんなことよりも、ミリーは俺とかどう?」と。
それまでの話で、それが俺の理想のヒロイン候補に、ミリーを挙げたという意味だと分かったのだろう。
ぷるぷると震えていたミリーは、突然ぶち切れて俺に殴り掛かってきた。
俺は突然の事態に、空蝉の羅針盤を使うことが出来ず、他の使用人達が参戦してきたのもあって、何故かボコボコにされるまで殴られた。
まあ、最終的にジークが助けに来てくれたのだが、使用人達の話を聞くと、「育て方間違えたかな……」とため息と共に一言つぶやき、使用人達は無罪放免、全面的に俺が悪いことになったのだ。
まあ、俺も、平民が貴族を殴ることは罪だから、使用人達がそれで罰を受けなかったのは良かったと思うし、結局ミリーが俺に好意を持っていなかったことから、結果的に立場を使ったパワハラ&セクハラになってしまった為、別に殴られたりしたことに対する文句とかは特にないのだが、その後のメイド達の明らかにこちらを嫌っているという態度には正直困ったものだった。
どれだけ俺が言い寄ろうとしても、先程のミリーのようにまるでゴミを見るような目で見られ、侮蔑の言葉を吐かれて去られる。
一応ちゃんと仕事はしてくれるものの、仕事以外の話を出来るメイドは、今や来幸だけしかいないという状況になっていた。
そんなに俺のパワハラ染みた告白が良くなかったのだろうか。
確かに俺が女性だったとしたら、断れない相手である雇用主が唐突に告白してくる職場なんて、告白を警戒してミリー達と同じように、その雇用主に対して険悪な態度で身を守ろうとするだろうが……。
それにしてもこの嫌いっぷりは酷いのでは無いかと思う。
あれ以来、まずは話をしてからだと、ミリーの時のような告白紛いの言葉は言わず、普通の会話を振ろうとしているだけなのに。
これでは少しずつ仲良くなっていくことすら出来ない。
メイド達は正直に言えば俺のヒロイン候補として優秀な存在だったが、この状況ではその全てが完全に使えなくなったと言っていいものだ。
加えて、元々麒麟児だと領内で噂されていた俺の評判が、いつの間にか頭のおかしな麒麟児というものに変わっていた。
頭のおかしな麒麟児という言葉がとんでもない変態だという意味に映るのか、領内の者であったとしても、俺がフレイ・フォン・シーザックであると名乗ると、恋人には絶対になりたくないという態度を取られる。
おかげでこの二年で、ヒロイン候補すら用意出来ないという危機的状況に、俺は追い込まれていた。
こうなったら領内は諦めて、領外を探すしかない!
既に噂が広まっている領内は真っ当な相手を探すのは難しい。
だからこそ、俺の噂が広がっていない領外のもの……他家の貴族令嬢達に、今は狙いを定めていた。
それを考えればナルル学園は重要だ。
そこで何としてもヒロインを得る!
前世の経験から学校というのは最も恋人を作りやすい場所だと言える。
というか、学校で恋人作らないとマジで出会いがないのが現実だ。
現代日本なら合コンや婚活に行けば出会いだけはあるだろうが、そこに集まるような奴らは何奴も此奴も地位や財力を目当てにしたヒロインになれない奴らばっか。
こちらでもそう言った世知辛い所は変わらないだろうから、後のルーレリア学園も含めて学生の間に決めに行くことを俺は目標にしている。
そうなると俺に残された時間は、今から十八歳で学園を卒業するまでの七年間だけということだ。
ちなみにルーレリア学園の卒業は十八歳だが、これには一応理由がある。
それは所謂、登場人物は全員十八歳以上ですというあれのためだ。
インフィニット・ワンはエロゲーだったので、そう言った業界内での自主規制的なものに縛られるところがあった。
その為に、十八歳未満である学生の間は、エッチなシーンはあっても、主人公と攻略対象の本番行為を行うシーンはなしにすることで、しっかりとルールを守って十八歳以上で行為をさせてますよとしていたのだ。
……もっとも、それだけだと多数いる攻略対象のストーリーを用意出来なかったのか、様々な手段で時間経過を誤魔化すことで、他のエロゲーなどのように、十八歳以上と言う制限を意味のないものにしていたりしている。
具体的に言うと、攻略対象の個別ルートに入った途端に、攻略対象の問題にかかりきりになって、主人公がルーレリア学園に行かなくなったり、現在が何年生かということが出なくして十八歳となる三年生のように見せかけるなどと言ったことをしているわけだ。
これは攻略対象の側にも適用される。
一番わかりやすい例で言うとレシリアだろう。
十八歳以上から本番行為という話を聞くと、主人公と同年代のフレイの妹がヒロイン……? と勘の良い者は気付くかも知れないが、卒業後は経過時間がぼかしてあるので、レシリアが十八歳になった後に、エッチシーンがあると見ることも出来る。
今の俺やレシリアの年齢から計算するとゲーム時代でも、フレイが十八歳の時にレシリアは十一歳で、イラストもとんでもないロリキャラだが、きっと我等がアレク君なら七年待って、レシリアと致しただろう。
十一歳のレシリア相手にパンパンしたというわけではないはずだ。
他にもロリキャラとしては、逆レイプかましてくる五歳のロリドラゴン何かもいたけど、きっとアレク君なら十三年待ったよ。
俺は信じているよアレク君!
インフィニット・ワンが健全なゲームであるためによろしくね!
――俺は内心、微妙に目を反らしながらそう思った。
そんな下らないことを考えていると、リガードが部屋に入ってきた。
そしてそのまま、俺の側で執務をしているジークの元ではなく、俺に向かって手に持った書類を渡してくる。
「フレイ様、今月の領内の税収と嘆願書です」
「うむ」
俺はそう言って受け取った資料を見る。
その内容に問題ないかを確認していると突如としてジークが叫んだ。
「待って! おかしいよね! 何で俺じゃなくて! フレイに渡すの!?」
そう問い詰められたリガードは涼しい顔をしていった。
「フレイ様の方が優秀だからです」
「俺、親よ!? それに現当主の配偶者!」
「そうですね……でも、フレイ様の方が優秀なので」
「も~!!」
変わらない様子で答えたリガードにジークは頭を抱えて唸った。
「仕方ないですよ。父様は元平民で高度な教育を受けた訳でもないですし」
「でもな。これだと俺は子供に働かせて何もやってないクズ親になっちまう!」
「そんな父様に絶好の仕事がありますよ。はい、ノーティス公爵領近くで出たAランク魔獣の討伐依頼です。S級の父様なら楽勝でしょ?」
そう言うとジークは俺の持っていた依頼署をぶんどってその内容を読み始めた。
「うん。確かにこれなら楽勝だな!」
「では、早速行きましょう! 途中まで俺の転移で送りますね」
そう言うと俺は転移でジークを送り、直ぐに戻ってきた。
涼しい顔で執務を始めた俺を見て、リガードが苦笑しながら言う。
「手慣れてますね」
「ええ、もう慣れました」
こんな会話が起こったのは今日が初めてではない。
月に一度か二度ある発作のようなものだ。