エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
下記の点について修正を行っています。
「褒美」、「vs黒神教」、「目覚めるヒロイン(来幸)」、「学園生活への期待」を主に修正を行い、本文中に内容を取り込んだ幾つかの後書きを消去して、「妹との日々」の後に「計画」を追加しました。
死ぬ――そう思った。
ウクトに向かう途中で見かけた貴族の子供。
ケディオン大森林に行くことを注意した彼奴らが、あたしの馬車の後ろからいなくなっていたことにあたしは気付いた。
何となくそんな気がしていた。
あたしは貴族……それも公爵家の人間だ。
人の感情を読むことくらい出来て当然のこと。
彼奴が本心から街に戻ると言っていないことは分かっていたのだ。
だからあたしは馬車を降りて、使用人の制止を振り切って、ケディオン大森林の中へと入っていった。
あたしの命令を無視したあの男に制裁を与えて、連れ戻すために。
危険だということは分かっていたけど、正直言えばあたしの炎属性魔法の腕があれば、ケディオン大森林のモンスターなんてイチコロだと思っていたのだ。
だが、実際は突如現れた魔物にはあたしの魔法がまるで歯が立たなかった。
自信のあったファイアは魔物の体毛で弾かれ、咄嗟に避けた魔物の一振りで、地面がえぐれたのを見て、あたしは恐怖で腰が抜け、逃げることすら出来ない状況に追い込まれてしまっていた。
死を覚悟したその時、天から何かが降ってきて、魔物を殺した。
そして魔物の上に王者のように立つ存在を見て、それが先程の貴族の子供だということにあたしは気付いた。
そしてその貴族の子供――リュークは言ったのだ。
「こんな所に子供一人で来るなんて、馬鹿なんじゃないの?」
その言葉を聞いた瞬間に頭に血が上った。
「馬鹿ですって! あんたには言われたくないんだけど!」
「いや、俺はこうやって普通に倒せるから」
そう、リュートは冷静に反論してきた。
その余裕がある態度が苛立たしい。
「さてと、早く帰った方が良いよ」
「ちょっと何処に行くのよ!」
「何処って森の中だけど?」
何てことないように言うリューク。
あたしはリュークに向かって問い詰めるように言った。
「あたしは帰るように言ったわ! それなのになんであんたは、この森の中に行こうとしているのよ!」
「それはこの森に用事があるからに決まってるでしょ」
「だとしても、普通なら帰るべきじゃないかしら!」
人が折角注意したのに、それを無視するのはどうなのか。
あたしがそういうつもりで言うとリュークは明らかに面倒くさそうな顔をした。
「別に俺がお前の命令を聞く理由はないだろ」
「なんでよ!」
「逆になんで言うことを聞くと思ったんだ?」
「それは――!」
そこであたしは言葉につまった。
あたしはこの領地の領主の娘なんだから、その命令は聞くべき……そう言おうと思ったところで、勝手に決められた婚約が嫌で、お父様に黙ってこの地に来ていたことを思い出す。
「な、理由はないだろ?」
「それは……」
「相手を心配するのはいいことだと思うが、過剰な心配はありがた迷惑ってやつだ。俺はこのとおり、この森の魔物を普通に倒せるんだから、この森で危険な事なんて存在していない。だから安心して帰ってくれ。それじゃ」
「待って!」
あたしは咄嗟に去ろうとするリュークの足を掴んだ。
その瞬間、あたしの視界が一瞬で変わった。
「え? きゃあああ!!」
「クソ! 何やってんだよ!?」
リュークがそう言うと何度も何度も視界が変わる。
その度に場所を移動していることにあたしは気付いた。
これは転移?
しばらくすると、リュークは何処かに降り立った。
そのままだと、地面に落ちると思ったのか、あたしを俵のように担いで、その場に着地をする。
「お姫様だっことか出来ないの?」
あまりな扱いにあたしが思わず文句を言うと、リュークは面倒くさそうな顔をして突き放すように言う。
「俺のお姫様だっこは、大切な俺のヒロインの為に取ってあるの。助けて貰っただけ感謝しろよ」
そう言うとリュークはあたしを地面に放った。
あたしが痛みに呻いていると周囲の状況が目に入る。
そこには大きな岩があって、リュークの仲間達が、何やら作業を行っていた。
「これからダンジョンに入るっていうのに、その子連れてきちゃったんすか」
「おま……馬鹿!」
筋肉質な金属鎧の男の言葉に、リュークが焦ったように怒る。
それを聞いて、その男はしまったと口を押さえた。
「ダン……ジョン?」
「もしかしてこれって秘密だったすか?」
「ああ~もう。そうだよ……クソ! 先に伝えておけば良かったか」
ダンジョン聞いたことがある。
土地の魔力を吸収し、成長する空間。
ダンジョンが出来た土地は作物が育ちにくくなるって……。
ってこれってまさか!?
「このダンジョンがノーティスの不作の原因!? あんたその事知ってたの!?」
「はあ。そうだよ。知ってたから、この森に用事があったんだよ」
やってしまったという顔でリュークがそう言う。
その表情は嘘を言っているようには見えなかった。
と言うことは――。
「ここの問題を解決出来れば婚約破棄が出来る!?」
あたしは思わずそう叫んでしまった。
するとリュークは何故か嬉しそうな顔をして言う。
「婚約破棄……? 何故、ノーティスの土地の問題を解決すると婚約破棄が出来ると言う話に繋がるんだ? もしかしてお前、ノーティス家のご令嬢のエルザ様なのか? そう言えばここに来るまでの間に、シーザック家の長男との婚約話が進んでるって耳にした気がするが……」
そう言って疑うような視線で見てくるリューク。
これはもう騙せないかも知れない。
あたしはそう考えて名乗りを上げることにした。
「そうよ! あたしの名前はエルザ・フォン・ノーティスよ!」
「まさか、ノーティス家のご令嬢だったとは驚きです」
そう答えたのは黒髪の……忌み子のメイドだった。
「あんた、忌み子をメイドなんかにしてるの? 趣味悪いわね」
あたしが思わずそう本音を言うと、周囲の全員が一瞬固まった。
だが、直ぐに何事もなかったかのように話を戻す。
「それでエルザ様はこれから如何するおつもりで?」
「そんなの決まってる! このダンジョンを攻略するのよ! 無理矢理決められた婚約話を破棄するために! そこのあんた達も手伝いなさい」
「何で俺達がお前の手伝いをしないといけないんだよ」
あたしの宣言を聞いたリュークが面倒くさそうに言う。
「ここはあたしの領地よ! そこで他家の貴族が好き勝手しているなんてこと、おおやけにしていいのかしら?」
「……条件次第なら受けてやってもいい」
少し考えた後、リュークは生意気にもあたしにそう言う。
「あんた、自分の立場が分かっているの?」
「それはこっちの台詞だね。そっちこそ自分の立場が分かっているのか、俺は別にこのダンジョンを攻略しなくてもいいが、そっちは攻略出来ないと困るんだろ?」
「それは……」
リュークの反論にあたしは反論を出せずに押し黙る。
それを隙だとみたのかリュークが続けていった。
「だから、俺達は今ここで帰ってもいいんだ。というか面倒事になるくらいだったら、俺はその選択をするね」
「それなら、あたしもお父様にここのことを伝えて――」
「そうするとシーザック家にいるS級冒険者に要請がかかるんじゃないか?」
「……」
シーザック家にS級冒険者が居ることは知っている。
それが原因でお父様の婚約が流れたのだからノーティス家では常識なのだ。
確かにお父様にダンジョンのことを伝えたら、シーザック家のS級冒険者の力を借りるかも知れない。
元から婚約する予定の相手の家だから、大した不利益もなく、ダンジョン攻略という目的を達成出来るだろう。
だけどそれじゃあ……婚約破棄は達成出来ない。
「……分かったわ。その条件を聞く」
「理解して貰えたようで何よりだよ。それにしてもそれほど婚約が嫌なのか」
あたしの答えを聞いたリュークが不思議そうにそう言った。
あたしはその疑問に答える。
「当たり前じゃない! あたしはノーティス公爵家の一人娘として、様々なことを学んできた! ダンスも刺繍も演奏もどれも完璧にこなせるし、それにお母様譲りの美しさはどんな令嬢にだって負けない」
尊い血筋に、それに見合うだけの能力と美しさ。
あたしにはれっきとした価値がある。
「だからこそ、社交界でも誰も彼もがあたしに見惚れ、そして婚約を申し込んできたわ。何奴も此奴も取るに足らない奴だから許可しなかったけど」
あたし以外の者達だって誰もがあたしの価値を認めている。
だからこそ、あたしが選ぶ側として、自らに釣り合う存在を選べるのだ。
「そんなあたしの婚約者が、継承権も持たず、魔法すら使えない、聖女の家の穀潰しだなんて、そんなの認められるわけないじゃない! 明らかにあたしという存在と釣り合っていないわ」
あたしの婚約者になりたいのなら、昔見て憧れた絵物語のように、あたしの婚約者となるために闘技大会で優勝するくらいの思いと力が欲しい。
そんな相手であればあたしも惚れて心の底から相手を愛せるはずだ。
「……なるほどね。理由が聞けて安心したよ」
リュークは何故かいきり立っていた周囲の者を抑えながら、心底安堵したというような表情でそう言った。
「ただ、最後に聞かせて欲しい。お前はそうやって釣り合わないと切り捨てた相手がどう思うかを考えたことがあるのかな? そしてその立場に陥ったものは、如何するべきだと思う?」
「……? 何を言っているの? 手に入らないものを勝手に求めた奴の気持ちなんて知らないし、そんな立場になったのならさっさと諦めたらと思うわ」
自分と釣り合わないものを求め続けて足掻くなんて見苦しい。
そんなに誰かを思うなんて気持ちが理解出来ない。
婚姻とは相手にどれだけ自分の価値を示せるかが全てだ。
それを提示出来なかった時点で、それを示せなかった其奴の努力不足。
そんな負け犬の気持ちなんか考える必要はないとあたしは思う。
「そうか。ああ、ちなみに条件なんだが、ダンジョンコアを頂きたい」
「ダンジョンコアを? 別にいいわよ」
あんなものを得て如何するつもりなんだろうか。
あたしがそう考えているとリュークは手を出してきた。
「んじゃ、交渉成立ってことで」
「この手はなに?」
「握手だけど」
あたしはその言葉を聞いて硬直してしまった。
今まであたしに握手を求めてきたやつなんていなかった。
他の子息や令嬢もあたしを尊いものだとして、こんな気安い態度を取るなんて事は絶対にせず、遠巻きに見ていたからだ。
「おい、どうしたんだよ」
そんな風にリュークが急かす。
あたしはその言葉を受けて、その手を握った。
あたしへの態度が悪いし、ヘラヘラしているクソみたいな奴だけど、握ったその手は、真面目に鍛錬していることが分かる、がっちりとした感触の手だった。