エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
エルザを仲間に引き入れた俺達はダンジョン攻略に乗り出していた。
レオナルドを前衛にし、俺が殿を務める形で前に進んでいる。
そうして進んでいく中でこっそりと来幸が俺の元にやってきた。
「闇魔法を使って洗脳しましょう」
明らかに怒りを滲ませた来幸のその言葉に俺は苦笑いをする。
「やめとけ、向こうから婚約破棄してくれるって言うんだから、余計なことをして変な状況にする必要はないだろ。公爵令嬢ともなれば、精神操作に関する何らかの防御方法を持っていてもおかしくないしな」
「……分かりました」
俺がそう言うと来幸は不満そうにそう言う。
「ま、そう怒るな。俺が婚約相手として価値が低いってのは事実なんだしさ」
「ですが! フレイ様はそれ以上に凄いお方です! シーザック家の領地をあれだけ栄えさせたのはフレイ様の手腕じゃないですか!」
俺の言葉に来幸はそう励まそうとしてくる。
確かにそれは俺の努力が実った結果かも知れないが、正直に言えば俺と同じようにゲーム知識を持ち、不良役人をバッサバッサと切る決断が出来る転生者だったら、誰でも同じ成果が出せたと思う。
そう考えると俺が凄いってよりも、ゲーム知識が凄いっていうだけの話なので、俺は来幸のフォローを有り難く思いながらも、その事について褒めなくていいと言う意味を込めて言う。
「フォローしなくても大丈夫だよ。エルザに何を言われたって、俺は大して気にもしないからな。結局のところ、関わらないようにする相手なわけだし、そんな奴が言う悪口を一々気にしてもしょうがないだろ?」
このダンジョンを突破して婚約破棄する相手だ。
相手がどれだけ俺の事を悪く思っていても、婚約破棄をすればこうしてまともに話す必要性もなくなるのだから、そんな相手の言葉に一々怒っても、時間の無駄だと俺は思うのだ。
「それはそうかも知れませんが……」
何となく納得がいかなそうな顔をする来幸。
そんな来幸に対して俺は軽い調子で言った。
「ま、取り敢えずここを乗り切ればいいのさ。適当にエルザのことを相手にしながら、さっさと攻略してしまおう」
そんな俺の態度を見て、来幸が何かを思い出すように言う。
「フレイ様、先程から気になっていたのですが、一応、あの方は公爵家の令嬢なのですよね? あまり敬った態度を取っていないようですが、それは大丈夫なのでしょうか?」
侯爵家と公爵家では貴族の格的には公爵家が上だ。
そんな相手に不敬とも言えるような態度を取っている主人を見て、その身の上を来幸が心配してくれていた。
「ああ、問題ないよ。ここにいるのはエルザを除けば、全て俺の部下になるし、あんな態度を取っても大丈夫だ」
ここにノーティス家の者が居たのなら、さすがに俺もエルザを敬った態度を取るが、ここにいるのは全て俺の部下であり、そして俺達は偽名を名乗ってエルザに接している。
この状況なら例えエルザが俺に激怒したとしても、それを受けるのはリュークという存在しない人物だし、仮に俺が受けることになったとしても、ノーティス家ではなくエルザの怒りなら、婚約破棄が出来ると言うことに繋がるだけで損は少ない。
「それに今となってはこうしておいた方がいい気がするんだ」
「それは何故ですか?」
俺の言葉に首を傾げる来幸。
俺はそんな来幸に持論を展開する。
「俺達はこれからダンジョン攻略をするだろ?」
「そうですね」
俺の言葉に来幸が頷く。
「そしてダンジョン攻略はエルザルートのイベント攻略のトリガーだ。となればクレアがレオナルドに惚れたように、イベントを俺がアレクの代わりに達成したことによって、エルザが俺に惚れる可能性がある」
「それは……」
「そうなれば婚約破棄の予定がご破算だ。折角ダンジョン攻略までしたって言うのにその苦労が水の泡になりかねない。それは避けなければならないから手を打つ必要がある」
「手を打つですか……?」
意図が分からないという顔をする来幸。
そんな来幸に俺は自信満々に語る。
「イベントの攻略の仕方を変えるんだ! ゲーム時代ではエルザは領主館で待つだけで、アレクが自分達だけで攻略していたが、今はエルザ自身がダンジョンを攻略している! これを利用しない手はない!」
「その……どういうことでしょうか?」
何を言っているのか分からないという顔でそう言う来幸。
そんな来幸に分からないかと勿体付けて俺は言う。
「ダンジョンコアをエルザの手で取らせて、エルザ自身にダンジョンを攻略させるんだ! そうすればゲームの時のような一人の男がノーティス家やエルザの為に命がけでダンジョンを攻略したという状況とは打って変わり、自らの手で勝ち取ったというものになる! それなら、一緒にダンジョンを攻略しただけの男に恋心を抱いたりはしないだろう?」
「ええと……」
「まさにイベントの有効活用……。本来あり得ない攻略対象当人のダンジョン攻略というバグのような状況だからこそ出来る行いだ」
イベントを攻略すればその人物に攻略対象が惚れる。
なら、その解決策として、そのイベント自体を攻略対象に攻略させれば良い。
この世界がゲームを元にした現実だからこそ出来る冴えたやり方というわけだ。
そんな風に自画自賛していたところで、来幸から声がかかる。
「あの……エルザ様に最後の攻略を任せるにしても、そこまでフレイ様がダンジョン攻略をするなら、フレイ様がダンジョンを攻略したという結果は変わらないのではないでしょうか」
「む、確かにそれもそうだな……」
良い考えだと思ったが抜けがあったようだ。
確かに最後だけ手柄を手にしても、エルザとしては、自分がダンジョンを攻略したという実感が湧かないかも知れない。
「それならダンジョン攻略するまでパーティーメンバーとして、エルザにもビシバシと働いて貰うとするか。そうすればエルザにも、ダンジョンを攻略したっていう実感も湧くんじゃないか」
「いえ、それはそれで――」
何か来幸が言いたげにしていたが、それを言ったらこれ以上変な方向へと悪くなりそうというような顔をして、それを取りやめる。
「ま、どちらにしろ試してみるしかないだろ」
俺はそう結論づける。
攻略対象に自分自身のルートを攻略させるなんて、これまでやったことない初の試みだ。
上手くいけば儲けもの、ダメだったらそこでまた考えれば良い。
「それに別の策も実行するからな」
「別の策ですか」
何処か期待するように言う来幸。
それに俺は応える。
「エルザへの態度のことだよ。先程のエルザとの話で、エルザが自分の価値を強く実感していることが分かった」
あれだけ自分の凄さを自慢げに語っていたのだ。
あんなことは、本当に自分自身の価値を認めているものにしか出来ない。
「そんな中で、エルザの立場を気にしないで、まるで価値がないように、素の態度で気楽に接する奴がいれば、ダンジョン攻略中にエルザの好感度はぐいぐい下がっていくだろう」
「そんなに上手くいくでしょうか?」
何処か不安そうにそう言う来幸。
俺はそれに軽い調子で答える。
「大丈夫大丈夫。俺に考えに間違いはない」
「……」
来幸が胡乱げな様子で見てくるが俺は確信している。
何せ俺は、エルザ以上に、エルザのことを詳しく知っているのだから。
――インフィニット・ワンの公式設定資料集。
好き嫌いから性格、身長やスリーサイズに得意技と言った一般的なキャラクターの設定から、性癖や過去の恥ずかしい出来事、好きなプレイ等のエロゲーらしい、ちょうど一発やりたいときに欲しい情報まで、そのキャラのありとあらゆる事が記載されたそれを俺は読んでいる。
加えて実際にゲームをプレイして、十五歳から十八歳の頃のエルザの姿をその目にしているのだ。
そのキャラの中核をなす根幹設定。
そしてそのキャラが未来でどうなるかという姿。
その双方を知っている俺は、現段階で子供のエルザと比べてみても、まさにエルザ以上にエルザを把握していると言っても過言はないだろう。
それはこの世界を作った神が設定したエルザという存在の情報を、まるごと盗み見たと同じようなことなのだから。
そして大人のエルザは、この子供のエルザと大差ない、自分の価値を信じている人間だった。
そもそも、そうでなければ大会の景品に、自分の婚約者の地位なんてものを据えて、自領の命運を賭けるなんてことはしないだろう。
このエルザがあのエルザにいずれなるというのだから、その性格を利用した俺の作戦が成功しないというはずがない。
まあ、俺の行動によるバタフライエフェクトの影響が発生し、エルザがゲームでのエルザと変わってしまう可能性もあるが、それも何処まで効果があるのやら。
ここまで生きてきたことで、再度強く認識したことがある。
それは結局のところ、ここはゲームを元にした世界だということだ。
イベントやクエストというものは、ここが普通の現実世界なら、そんなものはそうそう起こるはずがないと俺は思っている。
だってそれはそうだ。
自分にはどうにもならない圧倒的ピンチだが、助けてくれるヒーローがいたら、あれよあれよと必要なものが全て手に入り、そのヒーローが悪の親玉を倒してハッピーエンドを迎える事が出来る状況。
――そんなものが当たり前のように起こるなんて狂ってる。
前世がある俺からして見れば、現実的な世界というのは、毎日何も起こらないほど平凡で、誰かが突然救われるという劇的さもなく、ピンチに陥ったら救われないことの方が多い情け容赦ない世界だ。
そう言った世界こそが現実だと俺は思っているからこそ、ご都合主義が蔓延ったこの世界を、俺は前世のような現実だと思えずに、インフィニット・ワンを元にしたリアルな世界だと、一段階色眼鏡を付けて見ることしか出来ない。
別にこの世界の人間を完全に人でないものとして見ている訳じゃない。
俺はこの世界の人達もちゃんと今を生きる人々として扱っている。
でも何かが違うのだ。
まるでその世界に居ながら、その世界の映画を見るように、一歩離れた所から俯瞰して、情報で物事を判断している自分に気付く。
現実ではなくリアリティがある世界。
殆ど現実に近いが、現実ではあり得ない、だからこそリアリティ。
それが俺に取ってのこの世界の結論だ。
そんな世界だからこそイベントは発生する。
ディノスの襲撃や、来幸の来訪、黒神教に、その他の無窮団の攻略対象達のイベントまで。
俺の行動でバタフライエフェクトが発生しているはずなのに。
人が意思を持って行動していればそうそう同じものは発生しないはずなのに。
クレアの時のように、発生時期や状況に多少の誤差はあれど、それでも根本的な部分は変わらずにそのイベントは発生するのだ。
まるでこの世界が現実ではないと、誰かが俺に知らせているようだ。
俺がゲーム知識を活かして活躍すればするほど、俺はゲームで登場したものを、ゲームの時と同じようにしか見られなくなる。
それは来幸やエルザ――ゲームで登場した人であってもだ。
この世界ではゲーム知識が通用し、イベントやクエストという、普通の現実ではあり得ないようなご都合主義の出来事が起こっていると言うのに、どうして人の存在だけはゲームの影響を受けないと言い切れる?
それは道理が通らないだろう。
世界にゲームの知識が通用するのだと言うのなら、人にだってそれは通用するはずだと考えるのが自然だと俺は思う。
故に彼女達はいずれなる。
ゲームでの来幸やエルザに、アレクのヒロインである彼女達に。
こんなご都合主義の狂った世界で、神や何かによって、誰かに惚れるために作られ、そしてイベントを実行した誰かに惚れるための――世界が作った誰かの為のヒロインという存在に。
ぎりっと心が痛むのを感じる。
何処かではそんな風にならないでと思っているのだろうか。
今更ながらに未練がましいなと思う。
ゲームの事まで持ち出して、あれだけ手ひどく振ったというのに。
でも、俺は決めたのだ。
そんな誰かの為のヒロインではなく、俺自身の手で手に入れる、俺だけのヒロインを見つけ、その相手と互いに裏切ることなく、永遠に愛し愛され続けたいと。
だからこそ、こんな所で立ち止まるわけにはいかない。
「羨ましいな……他の転生者が」
「え?」
俺から零れた言葉を聞き取れなかったのか来幸がそう反応する。
俺はなんでもないと言って話を切り上げる。
何故彼らはああも気兼ねなく、世界を現実だと認められるのだろうか。
どうしてゲーム知識などをあれだけ使いこなしているのに、ゲームの頃とは違い、人だけはちゃんとした意思を持った存在で、ゲームキャラとは別物であると言い切ることが出来るのだろうか?
明らかに不自然な状況なのに。
ゲームの影響が現れているのに。
――彼らに取っての現実ってなんだ?
――彼らに取っての意思を持った人ってなんだ?
俺には理解出来ない。
俺は、この世界が前世のような現実だとは割り切れない。
俺は、ゲームに登場したキャラをゲームの時とは別人だと割り切れない。
彼らのように、現実という存在を、自分に取って都合が良いものに変えて、考えることが出来ないのだ。
まあ、それならそれでいい。
俺もさすがにもう割り切っている。
別に世界を無理に現実として見る必要なんかない。
ここを現実として見られないならそれはそれでいいじゃないか。
俺がこのリアリティある世界で生きているのは事実なのだ。
だとしたら、この世界を前世のような世界と扱わなくても、そこで生きていくことに何の問題もないだろう。
そもそも前世の時にこんな現実は嫌だ。
創作の世界のような非現実的な場所に行きたいと思ったのは俺自身だ。
これはその思いが実現したというだけのことのはずだ。
「……」
こんな世界だからこそ俺の目的は果たせる。
このような世界だからこそ、俺だけのヒロインがいる可能性がある。
現実ではいなかった俺を好きになってくれる人がいるかもしれないのだ。
だったら、この世界で精一杯できる事をしていくだけだろう。
インフィニット・ワンのフレイ・フォン・シーザックとして、ゲーム知識を片っ端から活用し、自由にわがままに、やりたい放題をして、この世界を遊び尽くし、そしてその過程で理想のヒロインをゲットする。
ここはまさに俺が人生を謳歌出来る最高の世界のはずだ。
「……」
その過程で攻略対象のように、手にできないものや失うものがあっても、それはこの世界を謳歌するための――当然の代償なのだ。
俺はどこか自分に言い聞かせるようにそう考えた。
創作の世界に憧れていて、実際に行ってみたいと思っていたが、実際にゲームの世界へ転生したら、ゲーム知識が通用しまくるせいで、全部が全部作り物のように思えて、何もかも信じられなくなり、そんなことを考えてしまう、現実を知っている自分の異物感と疎外感がやばい。
時間が経てばそんな思いもなくなって、この世界の一員として馴染んでいけるかなと思っていたけど、むしろこの世界で過ごせば過ごすほど、ゲーム時代との一致や現実との差異を感じて、より前世の頃のような現実だと思えなくなり、この世界をゲームの時と同じようなものとしてしか、見られなくなってしまった。
もうしょうがないから、ここはこう言う世界なんだよと、いっそのこと割り切って、ゲーム知識を最大限有効活用して、この世界を楽しんでいこう。
そう思っているのだから、苦しむ事なんてないはずだ。
というフレイの割り切り回でした。
ここで割り切ってしまったので、以降はこの世界をゲーム時代と同一視してしまうことについて、内心どう思っていても、フレイは悩みません。
もうだいぶ一般的になっているので、慣れてしまってあまり違和感がなくなってしまった人も多いと思いますが、異世界物を読んでいるときに、ステータスオープンと行って、ステータスウィンドウが出てくるのを見ると思わず、そんな現実世界あるかよ、ゲームじゃないんだからさ、という風に思う人もいると思います。
そんな感じのことを、ゲーム知識が通用することで、フレイは現地にいながらも、自分が今いる世界に対して感じている形ですね。
加えて、元となったゲーム自体を知っているので、更にその思いが強くなっている感じです。