エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「ここに居たのね!」
俺が後ろから投げられた声に振り返ると、そこには見たくない顔があった。
「げぇ!? エルザ!?」
「何よ、その反応は、あたしの顔がそんなに見たくなかったわけ?」
「うん」
俺が素直にそう言うとエルザは俺を叩いてきた。
「いて! 何すんだよ!」
「失礼なことを言う馬鹿を叩いただけよ」
「酷い言い草だな……。だいたいそんなことを言うくらいなら、俺に会いに来なくたっていいだろう? そもそも振られた相手にわざわざ会いに来るとか、気まずさとかはお前にはないのかよ?」
「ないわね」
エルザはそう断言すると俺の顔に自分の顔を寄せて言う。
「だってあたし、まだ諦めてないから、そんな馬鹿馬鹿しいことを、気にしている余裕なんてないの」
「おま、諦めてないって! あのパーティーの日に、お前は恋愛対象にすらならないって、ちゃんと言っただろうが!」
目の前にあるこちらをじっと見つめるエルザの顔にそう言い返す。
「そうね。確かに聞いたわ。今のあんたがあたしを恋愛対象として、眼中にすら入れていないってことはね」
ふん、と威張るようにそう言うエルザ。
それ、そんな態度で言うことかと、俺が思っていると、続けてエルザは言う。
「でも、それならあんたの眼中にあたしが移るようにするだけよ。そしてあんたがあたししか見られないようにする……そうすればあたしの勝ちだわ」
どや顔をでそう言ったエルザは俺を指差すと言った。
「あたしは負けず嫌いなの! 絶対にあんたには負けないわ! あんたをあたしの事だけしか考えられないようにしてあげる」
まるでライバル系ヒロインキャラのようなことを言うエルザに、俺は思わず呆れたような表情をしていった。
「俺がお前をそう言う目で見ることは天変地異が起こってもあり得ないけど」
「なら天変地異が起こるのね」
「……」
ああ言えば、こう言う。
完全に暖簾に腕通しだ。
もう幾ら言っても仕方ないなと思った俺は言い負かすことを諦めた。
「そりゃ、物好きなことで、まあ、お前がどうしようが俺の知ったことではないし、やりたいなら好きにやってればいいんじゃない」
「ええ、そうさせて貰うわ」
そう言うとエルザは、ごそごそと自分のバックの中を漁ると、何かを取り出して俺に向かって差し出してきた。
「と言うわけでこれよ」
「なにこれ?」
「見て分からない? お弁当よ」
俺はそれを改めて見てみた。
確かに四角い形はお弁当箱のように見える。
だが、その意図が分からず、俺は思わず問い返した。
「なんでお弁当?」
「あの後、色々な小説を読んでヒロインとは何か勉強したわ」
何処かを思い出すような顔でそう言うエルザ。
「そして、そこで知ったのよ。主人公はヒロインにお手製のお弁当を作って貰えると、とても嬉しい気持ちになるってね!」
「手製の弁当……?」
俺がそこでエルザの手を見ると、その手は料理の失敗で付いたのか、ばんそうこうのような傷を抑える何かで治療が成された後があった。
それを見て俺はふと思う。
この世界、こう言う技術レベルに見合わない、ばんそうこうの代用品みたいなのもあるんだよな……。
料理で怪我した手にばんそうこうを張る。
所謂、ヒロインに対する萌えポイントの一つだ。
それをCGなどで実装するために、何だかんだ理由を付けて、このようなものが技術的に実現している世界になっているのだ。
さすがなんちゃって中世。
なんやかんやでエロや萌え方面に対するご都合主義が酷い。
「さ、受け取りなさい」
そう言ってエルザがずいっとお弁当箱を差し出してくる。
だが――。
「いや、受け取らないけど?」
「なんでよ!? 美少女であるあたしの手料理よ!?」
俺が断るとエルザがそう言って猛反論してくる。
俺は仕方なく、今食べている弁当を指差した。
「俺には来幸が作ってくれたこの弁当があるからな。さすがに二つも弁当を食べるなんてことは胃の容量的に無理だわ」
「ふ~ん。あの女がねぇ……」
エルザが来幸の作った栄養バランスが考えられた色鮮やかな弁当を見ながらそう言うと、何故か周囲の温度が一気に下がったような重圧感を感じる。
同じものを感じたのか、トートとベッグの顔が青くなっていた。
俺がそちらの方に気を取られていると、エルザの手が来幸の弁当に伸び、そしてそのまま俺の手から弁当箱を強奪し、自らの弁当箱を代わりに押し付けてくる。
「おい! 何するんだよ!」
「二つの弁当が食べられないって言うのなら、こっちの弁当はあたしが代わりに食べてあげるわ」
そう言うとエルザは敷物を下に敷き、俺達と同じように昼食を取り始めた。
「何食い始めているんだよ! 俺のメシだぞ!」
「うっさいわね! あんたはあたしのを食べれば良いのよ!」
そう言ってエルザは令嬢らしくない様子で来幸の弁当にがっつく。
何故か食べれば食べるほど、その機嫌は悪くなっていった。
「……美味しいわね。むかつくほどの愛情を感じるわ。やっぱり色々と集めた情報通り、彼奴もフレイのことが好きだったのね」
ぶつぶつと何かを呟くエルザ。
小声過ぎて上手く聞き取れない。
「彼奴もしかして、側にいる者の立場を利用して、少しずつ落として自分がいなきゃダメなようにするつもり?」
ふと何かに気づいたようにエルザがそう呟いた。
「考え方が気色悪いのよ。ずっと側にいるのに落とせないからって、ドロドロドロドロと怨念みたいに……そんな奴がヒロインになれるはずなんてない。こんな奴にあたしは負けない……ヒロインになるのはこのあたしだ!」
「なに、ぶつぶつ言ってんだよ」
「あんたには関係ない話よ! それよりも早く食べたら!?」
エルザがそう俺に対して怒鳴ってくる。
結局何故あんな鬼気迫る表情で弁当を食べているのか分からなかったが、料理の腕で負けて悔しいのだろうと、適当な理由を付けて納得した俺は、仕方なくエルザから渡された弁当箱を開けた。
「ほう……」
俺はそれを見て思わずそう呟いた。
来幸の弁当と比べると色鮮やかではないし、色々と形が崩れているものが多い。
だが、それでも色合いも含めて、必死で如何するかを考えて、頑張って作ったことが伝わる弁当になっていた。
「さて、頂くか」
そう言って俺はエルザの弁当に手を付け始めた。
その味は――
「フレイ。美味しい?」
「……まあまあだな」
俺はエルザの問いに正直にそう返した。
「まあまあって何よ! そこは気を遣って美味しいって言いなさいよ!」
何処か嬉しそうにエルザがそう言う。
俺はそんなエルザに言い返した。
「そんなに美味しいって言われたいなら、そう言う奴を相手にするんだな」
「ふん。あたしはあんたに美味しいって言って貰いたいのよ」
その会話の後、俺達はエルザも交えて他愛も無い話をしながら食事をした。