エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「と言うことがあったんだ。そんな訳で今日の弁当を食べたのは俺じゃない。折角作って貰ったのに悪いな」
俺は今日の昼に起きたエルザとの出来事を話して、来幸にお弁当箱を渡す。
「そうですか。あの女が……。チョロチョロと周りを彷徨かれて迷惑しているのなら、私の方で洗脳して二度と近寄れないようにしておきましょうか?」
勝手に弁当を食べられたことに怒っているのか。
明らかに不機嫌な様子で来幸が俺に向かってそう言う。
だから俺も強く命令するように言った。
「それはやめろ」
「ですが」
「前にも言ったが高位貴族に闇魔法を使用するのはリスクが高い。魔力量が多いと闇魔法が効き辛いし、対精神魔法用の装備だって普通に持ってるからな。そんな相手に闇魔法を使えば、俺達が闇魔法を使っていると気取られる」
それが闇魔法持ちがこの世界を制覇することが出来なかった理由だ。
闇魔法は基本的に対策を持っていない相手にしか通用しないのだ。
「シーザック家は聖女の家系だ。そんな一族から闇魔法を使いが現れたなんて知られてみろ。シーザック家の評判が一気に地の底に落ちる。それは許可出来ない」
問題が起こった場合はシーザック家のもの全てに迷惑がかかる。
今世の家族や領民をそれなりに大切にしている俺からすれば、それはちょっと許容できない出来事だった。
「それに闇魔法は黒神教が主に使っていたものだ。下手にそことの関連があると疑われて異端認定でもされたら、うちと関係が深い聖王国が……いや、七彩教や神が動くことすらあるかも知れない。それがどれほど恐ろしい事態なのかわからないわけじゃないだろ?」
この世界で、魔族以外のほぼ全てが信仰している七彩教は、他の宗教に比較的寛容な宗教だ。
そのため、自然を神とした自然信仰や、建国の偉人を神にするような英雄信仰なども、神として信仰することを許しているなど、七彩教以外の神を作ることすら許容する器の広さを見せている。
だが、そんな七彩教でも、許容せずに異端とするものがある。
――それは神に色を紐付ける事だ。
世界は色によって形作られるものであり、その為に色が紐付けられることこそが、世界の管理者たる神の証だと七彩教ではされている。
つまるところ、七彩教では色を持った神こそが真の神であり、それ以外の神は、従属神とか精霊などの超常存在だが、真の神より一歩劣る存在としているから、七彩教は新たな神を信仰することに文句を言わないわけだ。
故にその真なる神の神性を揺るがすような、神が自らの色を名乗り、それを含めて信仰するような宗教は絶対に許さない。
そして、そんな七彩教から見たら、初代の教祖が自らを、黒の神と名乗っていた、黒神教はバリバリの異端であり、聖王国の人間などの七彩教の信仰に厚い人が見たら、即座に殲滅して惨たらしく殺すほど、憎まれている対象なのだ。
黒神教は闇魔法を使って爆発的に増える上に、平民に多くて見分けが付きにくいというのもあって、聖王国や七彩教が直接異端を裁きに行くと、他国で大虐殺が起こることになってしまうため、基本的に黒神教を裁くのはそれぞれの国の貴族に一任されている状況にはある。
だが、貴族が討伐をサボるなど、その国で対処出来ないと七彩教が判断したら、聖騎士団がやってきて、疑わしきは罰するの精神で、神に仇なす神敵を皆殺しにするので洒落にならないのだ。
この世界には神が実在しているから、彼ら聖騎士団も手を抜くということは絶対にしない。
自らの神たちに不評を受けないように、人々の手で全てを処理できると、完璧に対象がいなくなるまで現地を浄化するのだ。
そしてこの聖騎士団だが、このシーザック領には早い段階でやってきてしまう可能性がある。
なぜなら、シーザック家は聖女の家系というのもあって、七彩教やそれの本拠地がある聖王国とつながりが強く、そんな場所が異端に侵蝕されているなど、信徒達からしたら許せるものじゃないからだ。
もし闇魔法から俺達が黒神教――つまり異端だと判断されれば、汚染を取り除くために、シーザック家の者は見せしめとして、死ぬ以上の苦しみを味わう拷問を受けた上で殺されて、領民達にもその手は向くかも知れないのだ。
平民相手や下級貴族相手なら、闇魔法の特性上、幾ら使おうともバレる心配は無いが、高位貴族の場合だと、そんな最悪の未来に繋がるような闇魔法バレが、容易く起こってしまう可能性があるのだ。
とてもじゃないが、それを許容することは出来なかった。
「それがわかっていながら、高位貴族に闇魔法を使うと言うのなら、シーザック領の者達を守るために、俺はお前を切らなければならない」
「――っ!?」
俺のその言葉に来幸が息をつまらせる。
俺はそんな来幸に対して言った。
「俺にはお前が必要だ。だから俺にそんな決断をさせないでくれ」
「……分かりました」
俺に言葉に来幸は従ってくれた。
だが、納得出来ないことがあるのか来幸は言う。
「私はフレイ様に取って必要な存在なので、エルザに闇魔法を使うのは止めます。ですが、それはそれとして、栄養バランスを考えてフレイ様の三食の食事の面倒を見ているので、勝手にそれを乱されると困ります」
そう言うと来幸は机と椅子を指差して言った。
「あの女の料理の口直し――取れていない栄養を取らなければならないので、私が料理を終えるまでそこで待っていてください」
「は? え? 来幸?」
一方的にそれだけを言って調理室に向かった来幸を見て、俺は思わずそんな情けない声しか出せない。
しばらくすると、料理を持った来幸がその場に現れた。
「どうして座っていないのですか?」
「いや、夕食前だろ? ミリーが買い物に行ってるわけだし、こんな中途半端な時間に、そんな量の料理を食えないって」
今俺達がいるのは王都にあるナルル学園近くの別荘だ。
ナルル学園は王都にあり、そこに通う間、学生達は、寮に入るか、王都に家を借りる必要がある。
俺は侯爵家筆頭というこの国で五番目に偉い家系なので、当たり前のように王都に別荘を持っており、そこを使ってナルル学園に通っているのだ。
今は、シーザック領から連れてきた、俺専属メイドである来幸とミリーと、この屋敷に元々いた数人の使用人、そしてリガードが派遣してきたこちらでも政務を行えるようにするための人員がこの屋敷で生活を行っている。
普段の俺の身の回りの世話は来幸とミリーの二人が行っており、今、ミリーは俺の夕食の為の食材を買いに行ってくれているのだ。
ちなみにコックではなくメイドが料理をするのかと疑問に思うかも知れないが、俺が知らない間に、あれよあれよと俺が食べるものは何故か専属メイドが作るということに、いつの間にかなっていた。
来幸と何かしらの談合でもあったのか、来幸に向かってグットマークを作る使用人の姿が、話が決まった当時に目に入った気がする。
ま、そんな話は置いておくとして、こんな時間に食事をする必要はないのだ。
「栄養が足りないってなら夕食を増やせばいいだろう?」
そう言うと食卓に料理を置いた来幸は言った。
「ダメです! 直ぐに食べなければなりません!」
「いや、なん――うおっ!?」
ごねていた俺を見かねた来幸が、身体強化をして、無理矢理俺を引っ張り、先に椅子に座った自分の上に俺を座らせる。
「おま、ちょ!?」
それによって来幸の胸が背中に当たり、更に座り込んだお尻に、柔らかい来幸の体を感じて俺は思わずそんな声を上げる。
「どうしても食べたくないというのなら、私が食べさせて差し上げます。フレイ様、口を開けてください。はい、あ~ん」
「いや、そんな無理矢理……」
「あ~ん」
「あのね。来幸さん」
「あ~ん」
「……」
壊れたレコードのように「あ~ん」と言う言葉を繰り返し、ただ俺の口に向けて、俺の後ろから伸ばした手で持った料理を指したフォークを向ける来幸。
俺はどうしようもないと気づき、ため息を一つ付くと口を開けた。
「あ、あ~ん」
「美味しいですか?」
そう言って来幸が差し出した料理を食べると、その感想を聞いてきた。
「お、美味しいよ……」
「昼間に食べた料理より?」
その言葉に圧倒的な圧を感じ、俺は思わず怯えながら答える。
「そ、そうだね!」
「当たり前です! フレイ様のことを誰よりも詳しいのは私なんですから! フレイ様は今後勝手に私のお弁当を食べずに他の者が作った料理を食べたらダメですよ」
「ぜ、善処します……」
俺が理想のヒロインを得たら、その子が料理を作ってくれるかも知れない。
だからこそ、確約できなかった俺の言葉に、来幸が一瞬不機嫌になった気配を感じたものの。
「分かりました。取り敢えずはそれでいいです」
そう言ってくれたので俺はほっと胸をなで下ろす。
そんな俺の様子を見たのか、話を切り替えるように来幸が言った。
「それにしても懐かしいですね。こうやって二人で座って、ご飯を食べさせるのは、あの時は立場が逆で、私がフレイ様に食べさせて貰いましたが」
「そうだな。あの時から立派に成長して俺も嬉しいよ」
俺が当時のことを思い出しながら思わずそう言うと、来幸は俺が僅かに聞き取れないほどの音量で言う。
「私はもう少し成長しないままでいた方が良かった気がしますけどね」
「ん? どうした?」
「いえ、何でもありません。それよりも次です。はい、あ~ん」
「あむ」
来幸が差し出す料理を次々と食べていく。
しばらくすると部屋の入口から、がたという何かを落とす音が聞こえた。
「み、ミリー?」
俺がそちらの方へと目を向けると、夕食の材料が入ったバッグを床に落とし、ぷるぷると震えながらこちらを見るミリーの姿があった。
「最近は、ちょっとはまともになってきたと思ってのに……」
「ちょっと待ってくれ! 誤解だ!」
何かを勘違いしていることに気付き、俺は思わずそう叫んだ。
しかし、ミリーはそんな俺の思いを無視して叫ぶ。
「自分が振った相手に、こんなプレイを強要するなんて! クズ! 変態! ――この屋敷にいるみんなに知らせてやる!!」
それだけ言うとミリーは駆け出すように部屋を出て行く。
「待ってくれーーーー! ミリィーーーーーー!!」
今回は本当に俺は悪くないんじゃないか!?
そんな俺の考えも虚しくミリーは完全に去って行った。
しばらくすると、俺を席から立たせた来幸が申し訳なさそうに言う。
「その……すみませんでした。気持ちが抑えられなくて、出過ぎた真似を」
「次からは気を付けてくれ」
「……善処します」
何処かで聞いたような返しを来幸にされる。
俺はしょうがないと頭を切り替えて来幸に聞いた。
「そう言えば来幸、例の件の調査はどうだ?」
「はい、あの件については調査が完了しています」
「! そうか……それで」
「時期的には三年ほど早く……既にイベントは発生しているようです」
「なるほどそうか、さすがにここまで来るとバタフライエフェクトで、イベントの状況や発生時期に大きなずれが生じるようになっているな……。それでも必ず発生するのがさすがはイベントだと言ったところだが……」
「……」
俺はそう言うと戸棚の隠し扉から、特注で作らせたヒーロー物のようなおしゃれなフルフェンスの仮面と、それに関する幾つもの魔道具を取り出した。
「行くんですか?」
「まあ、放っておけないからな。銀仮面の出陣だ。直ぐに戻ってくるから、ミリーには上手いことさっきのことについて説明して、夕食を用意しておいてくれ」
「かしこまりました」
俺はそれだけ言うと仮面を被り、転移をした。