エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「ちっちゃいって言うな! まだ成長期なんだよオレは!」
顔を赤くしながら憤慨したようにそう言うラース。
そしてそんな自分が恥ずかしくなったのか、気を取り直すように言う。
「っへ。親父から依頼されて付けた夢魔が破壊されたのを感じて、思わず来てみたら、とんだ野郎が現れたもんだぜ」
「あの夢魔はお前らの仕業だったのか」
俺は素直に驚きながらそう返した。
メジーナルートでは、アレク達の調査も虚しく、夢魔がどうして懐中時計に取り憑いたのかは明かされなかった。
だから、あれが誰の仕業か分からなかったが、実際は王都に騒乱を起こそうとするバーグ一派によるものだったと言うことだ。
掲示板とか見ればその辺の考察とかが出てたりしたのかも知れないが……。
エロゲの掲示板というだけあって、インフィニット・ワンに関する掲示板は、大体が一見さんお断りと言えるようなディープな会話がなされる場所だった。
真面目に考察したと思ったら、直ぐさまキャラ愛とか性癖談義に話が飛び、ひたすらエロ用語が飛び交うあの場は、長く滞在してしまうと、あっと言う間に自らもエロ界に引きずり込まれてしまうという恐ろしい場所なのだ。
俺も何度か考察を見に訪れたことがあったが、俺のような現実で恋愛が出来ないからと息抜きでエロゲをプレイしていたタイプでは、その強烈なエロ界に耐えきれることが出来ずに、自ら敗北を認めて掲示板を閉じるしかなかったのだ。
その為、俺は、バッドエンドルートを除いたゲームを隅々までプレイし、公式設定資料集を読んでいるから、インフィニット・ワンの制作陣が開示している情報については基本的に網羅しているが、今回の件のような制作陣があえて開示しなかった、考察前提の裏話のようなものは疎い傾向にあるのだ。
だが、こうして事実が明かされれば納得が出来る。
夢魔なんてものを簡単に用意できるのは魔王領に住む魔族だろうし、第一王女派閥で有力な文官の娘であるメジーナを快楽で行動不能に堕とせば、国で暗躍する第二王女派を焚き付けて、王都に騒乱を起こすことに繋がるからだ。
「そんな話を聞かされたら見逃すわけにはいかないな」
ラースは攻略対象で、最終的にアレクに惚れて人間側に立つとは言え、現時点で既に何も悪いところがなく、真面目に生きようとしていたメジーナを、夢魔で苦しめるという蛮行を冒している。
このまま此奴を放置すれば、攻略対象やそれ以外の者も含めて、王都に住む人々に多大な被害が起こってしまうのではないかと俺は考えていた。
アレクには悪いがラースにはここで消えて貰うか……。
俺は冷徹にそう判断する。
例え最終的に改心するのだとしても、それまでに多くの人々が被害を被るようなら、そうなる前に排除するべきだ。
攻略対象だからと、女だからと、安易に許すつもりは、俺にはない。
俺はそう考えて、烈火を引き抜いてラースに斬り掛かった。
「――っと! ご挨拶じゃねーか! オレを殺すつもりかぁ!?」
「ああ、その通りだ! お前はここで死ね」
俺の剣をラースは拳で受け止める。
そして代わりに放ってきた拳を、俺は体を反らすことで躱した。
「いいねぇ! ピリピリしてきた! 戦いってのはこうでなくちゃ! 爆拳!」
「戦闘狂が!」
笑いながら俺と戦うラースを見て思わず毒づく。
相手には余裕があるが、俺には余り余裕がない状況だった。
夢魔との戦いで魔力を消耗しすぎた……!
夢魔に放った最後の一撃。
あれで殆どのオドを使用してしまっていた。
そのせいで戦闘用の魔道具を扱えず、ただ剣術で戦うだけになっている。
空蝉の羅針盤ならこの魔力でも使えるが……。
長年使い込んで体に馴染んできたあれなら、魔力を殆ど消費することなく、転移の効果を発動することが可能だ。
だが、何処にバーグの目があるか分からない以上、可能な限り手札を隠して、ラースを討ち取りたいところだ。
「――しっ!」
「おっと!?」
しばらく戦いを進めると徐々に形勢が変わり始める。
俺はそこであることに気付いた。
此奴……そこまで強くない……か?
最初こそ、相手側だけがバンバン魔法やスキルを使ってきたから、それすらも使えないこちらが追い詰められる展開になっていたが、しばらく戦って相手のそれらの使い方の癖が読めるようになると、一転こちらが押せるような状況になっていた。
それに気付いたのか、ラースの側にも焦りが見え始める。
「クソ――! 何でだ!? オレが! 人間なんかに……!?」
「どうしたさっきまでの威勢は、自分が勝てる状況じゃないと、戦いを楽しむことが出来ないのか?」
「――っ! 黙れ!」
ラースの未熟な部分は明らかだ。
まず、根本的に戦いの経験が足りていない。
そこら辺のチンピラのようにただ拳を振るうだけで、魔法やスキルだって雑に俺に対して撃ってきている。
つまるところ、端から相手がどう動くかを勘定に入れていない奴の戦い方だ。
だからこそ、動きが読みやすいし、そして誘い込み易い。
こちとら、S級冒険者であるジークと毎日組み手をして、銀仮面として縛りプレイのクソゲーでボスラッシュをやってきたんだ。
こんな武術の武の字も分かっていないような奴にやられる道理はなかった。
それに恐らくランクの面でも俺の方が上回っている。
魔族という種は基礎ステータスが高めの種なのに、こうして力負けすることなく戦えているのは、それが理由だと言えるだろう。
「ぐぁ……!?」
不意を突いた俺の蹴りがラースにクリーンヒットする。
吹き飛ばされたラースは呻き声を上げながらその場で転がった。
「弱いな」
「――っ!」
俺が思わず漏らしてしまった本音にラースが拳を握る。
「これなら魔法やスキルを使う必要すらない」
「舐めやがって……!」
銀仮面=俺、とならないように。
魔法を舐めプしているから使っていないと印象づけさせる。
普段の攻略対象相手ならここまで気にする必要もないが、王都に騒乱を起こそうとする魔族に俺が銀仮面だと知られると、その情報がどんな悪用のされ方をすることになるか分からないから、念には念を入れた感じだ。
「うらぁ!」
「甘い!」
「っが!」
ラースのパンチを回避しつつ、カウンターの要領でラースの顔面を殴った。
「技術も、力も、何もかもが足りないな」
殴り飛ばされたことで床にへたり込み、怯えるように後ずさるラースに向かって、俺は剣を引き抜いてじわりじわりと逃がさないように近づきながら言う。
「舐めるなだと? それはそれに相応しい力を持った奴が言う言葉だ」
「人間のくせに……!」
「技術や力に人か魔族かなど関係ない。それを言い訳にしている時点で、お前が俺に勝つ可能性は一つたりともなかったな」
そう言って俺は剣を振りかぶった。
ラースの目に死の恐怖が宿る。
「や、やめろー!」
「し――!?」
俺はその瞬間突如投げ込まれた球体を見て思わず飛び退く。
その球体は地面にぶつかると白い煙をその場に立ち上らせた。
「煙玉!?」
俺がそれに驚いていると煙幕の中から殺気を感じる。
「っち!」
迫っていた攻撃を躱し、返しの剣で斬り付ける。
何者かが死んで魔石になったのを感じながら、次の敵を切る。
「ブラットバット……! 魔物がこんな街中で――!」
煙の中から現れたのは吸血能力を持った魔物だった。
かなりの数がそこから湧きだし、俺はその対応に追われる。
今なら使えるか……!
「烈火、力を示せ!」
なけなしのオドを集めた魔力で烈火を起動し、魔物を全て燃やし尽くす。
こんな街中で多方面に魔物が展開されたら、この王都にすむ人々がパニックに陥ることになるだろう。
だからこそ、迅速に殲滅する必要があった。
「お前の顔は忘れない! 絶対に俺はお前に勝ってみせるからな! 銀仮面!」
何処か遠い場所でラースがそう叫ぶ声が聞こえる。
それを聞いて俺は思わず言った。
「逃げられたか……」
あの煙玉はラースの仲間によるものだったのだろう。
それのせいでまんまとラースを見失ってしまった。
それにしても――。
「煙玉……か、あれはどちらかというと人間の道具のはずだが……」
魔族は人族より強いと思っているからあのような小手先の道具は作らない。
今回のように道具があれば使うこともあるが……。
だとするならば、それを提供した人間がいるということだ。
「人間側に魔族と通じる裏切り者がいる……か」
これは今後のイベント攻略でも影響を与える要素かも知れない。
俺が考察出来なかった裏設定に、今後も注意をする必要がありそうだ。
キーファ、オルゴデミーラ説とか、リノア、アルティメシア説とか、まとめサイトの記事で初めて知った時、「ほえ〜、そんな隠し設定に対する考察があるんだな〜」とびっくりしました。