エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「フレイ。相談に乗ってくれないか?」
「ああ、構わないよ」
「そうか、実は俺の領地でこんな問題が起こっていてな……」
「ああ、それならシーザック領でも似たようなことがあったな。その時は――」
「――なるほど。そうすればいいのか!」
「俺の領地とクルスの領地では環境の違いもあるだろうから、実際に実行するときはよく精査してから実行しろよ」
「ああ、分かってる! 助かった! ありがとうな! フレイ!」
「気にするな。領民を大切にな」
「デュフ、デュフフ……あの、キッカは……工芸家をやってるんだけど……」
「うん」
「あの……その……デュフフ……」
「焦らなくていいよ。ゆっくりと君が伝えたいことを伝えてくれればいいから」
「……! あ……」
「うん。大丈夫だから」
「……あの……ここの装飾用の模様が気に食わなくて……何か言いアイデアとかあったりしますか……なんて……」
「なるほどね。それだったらこう言うのは如何かな? ここをこうすると……」
「す、すごい! こんなに良くなるなんて! 何処でこんな技法を……」
「遠い昔にね、見たことがあったんだよ。凄いのはそれをやっていた人さ」
「あ、ありがとうございます」
「また何か困った事があればいつでも聞きに来ていいからね」
「はい!」
「フレイ! 今からスクラーチャを皆でやるんだが人数が足りなくてな。お前も参加して一緒に遊んでくれないか?」
「ああ、構わない。さて、俺をチームに入れて勝者になるのはどっちかな?」
「抜かせ! お前が居なくても勝てるつーの! コテンパンにしてやるぜ! じゃあ、さっさと校庭に行こうぜ」
☆☆☆
「つ、疲れた……」
この世界の球技であるスクラーチャを終えた俺は、競技で使用した道具を倉庫に片付けながらそう呟いた。
「俺はいつの間にお悩み相談所になったんだ……?」
最初は既に領地経営にも関わっていて、座学でトップの成績を誇る俺に、友人達が勉強を教わりに来たり、領地経営がどんなものかを聞きに来ていただけだった。
だが、あれよあれよと、俺に対して色々な事を聞きに来る者が増え、そしてその全てに俺の知識を使って可能な限り答えていたら、いつの間にか放課後に入る度に俺の席に向かって列を作って並んで、悩みを相談しに来るという、完全なお悩み相談所状態になってしまっていたのだ。
「面倒だからって下手なこと言えないもんな……」
適当なことを言えば、俺に質問に来る者は減るかも知れないが、領地経営に関する悩みでそんなことを言えば、其奴の領地の領民が苦しむことになるし、何よりも本気で相談しに来ている内容に対して適当に答えてしまったことを知られれば、彼奴はそんなことをする最低な人間だと、俺に対する評価が下がってしまう。
そうやって評価が下がれば、実家の使用人達のように、話をする前から噂によって話をすること自体を拒否されてしまい、俺だけのヒロインを探すことに支障が出ることになってしまうかも知れない。
「モテる為にいい人でいるのも大変だな……」
思わずそんなぼやきが口から漏れる。
人が人と交流するためには事前に最低限の好感度が必要だ。
明らかに他者を絞り尽くすような悪人には誰であろうと近づきたくないように、絶対正義の人間味のない存在になれとまでは言わないが、社会一般的に見て話しても問題ないと思えるくらいの善人さは必要なのだ。
だからこそ、俺は相談者に対して手を抜けない。
まだ見ぬ俺のヒロインに取ってのその善人のラインがどの辺りにあるか分からないからだ。
「これも必要経費なんだろうが、さすがにきついな……放課後の自由時間がどんどんと潰されて言っているし」
トートとベッグのアドバイスを受けて、生徒会へと向かおうと思っていたが、相次ぐ相談者によってそれが遅れる結果となっていた。
「それに攻略対象まで相談に来てるし……」
俺はそう呟くと、デュフフと不気味な愛想笑いを浮かべながら、相談に来ていた攻略対象であるキッカを思い出した。
☆☆☆
キッカは貴族の子女でありながら工芸家を目指す少女という存在だ。
彼女は元々内気なタイプで一人で静かに何かを作るのが好きだった。
母親の勧めもあって工芸家を夢見始めたのだが、当主である父親はそんなキッカの姿勢を認めずに、真っ当な貴族令嬢とするために彼女の作った作品をぶち壊し、そして無理矢理令嬢教育をさせたのだ。
これは父親がキッカを愛していなかったという訳ではない。
むしろ父親も母親と同様かそれ以上にキッカを愛していた。
だが、父親に取ってのキッカの幸せな未来は、貴族令嬢として何処かの貴族の妻になって穏やかに過ごすことだったのだ。
貴族社会で揉まれてきた父親にはそれ以外の幸せが分からなかったのだ。
そうして父親に大切な作品を壊され、そして無理矢理押し付けられた貴族令嬢の教育で、内気な性格から上手くいかず教師から叱られ続け、父親に連れて行かれた社交界で内気な性格から虐めにあった彼女は、自分に対する自信を完全に失い、デュフフという気色の悪い愛想笑いを浮かべるようになって、ただ作品作りに依存するようになっていってしまった。
そんな風になったことで、キッカを追い詰めてしまったことに気付いた父親だが、既に彼の言葉はキッカには届かず、ただ彼女の思うままに創作に没頭させるということしか出来なくなってしまった。
このままではいけない――!
そう思った父親と母親は次女であるキッカを、ナルル学園に入学させることを決めると、工芸に夢中になっていた彼女を簀巻きにし、使用人とともにナルル学園へと放り込んだのだ。
もし、学園で友達の一人でも作れなかったら、今後は二度と創作をさせない。
そう両親に厳しく通告されたキッカは、ナルル学園で何とか頑張って友達を作ろうとする。
だが、現実はそう上手くはいかず、友達を作ることは出来ず、また以前のようにいじめを受け始めたキッカが、絶望して引きこもってしまう。
そして、そのままエスカレーター式でルーレリア学園に上がった彼女は、貴族と違って平民なら自分の気持ちを分かって貰えるかもと考え、今度こそ友達を作って見せるぞと、勇気を振り絞って学園に通い始めるが、平民に取っては、気軽に貴族に対しての鬱憤を晴らせる弱い貴族であるキッカは良い的であり、より苛烈ないじめを、いじめっ子から受けることになってしまった。
その時に、いじめっ子からキッカを守ったのがアレクだ。
キッカはそんなアレクに淡い気持ちを抱いて、虐めに負けずにルーレリア学園に通うことを続ける――ここまで聞くと真っ当なギャルゲーや恋愛小説の導入のように聞こえるかも知れない。
だが、キッカルートはそんな純粋で柔なものではないのだ。
アレクに惚れたキッカは、そのアレクへの気持ちを抑えるために、とある物を作り出す――それはアレクの逸物を模した大人な玩具だ。
そう、キッカはアレクへの気持ち……すなわち高ぶる性欲を抑えるために、アレクを監視……もといストーカーして調べ上げたアレクの逸物の形や大きさにそっくりとなるように、自分の工芸家としての腕前を使ってそれを作り出したのだ。
そうして毎日それを使って妄想上のアレクとやる日々。
初めの方はそれで満足していたキッカも、段々と物足りなくなってくる。
もっと過激にもっとアレクを感じたい。
そう考えた彼女は、ルーレリア学園の工芸室で等身大アレク像を作り上げた。
そしてその人形に跨がり、抱きつきながら、等身大アレク像の逸物を、自分のそこに差し込んで、腰を動かして淫らに楽しむ。
「アレク……アレク……好きぃ……」
学校の工芸室で自分が作った等身大アレク像と交わる。
そんな背徳感により知れて、より高ぶった性欲で荒れ狂うキッカは、ガラガラと後ろの扉が開く音に気付かなかった。
「何やってんのお前?」
果たして自分の等身大人形とキッカがヤっている姿を見たアレク君の気持ちはどんなものだったのだろうか。
ともあれ、冷たい目でアレクにそう問われたキッカは、全てが終わったというような顔をし、下は何も付けず、上はボタンの取れたワイシャツを着ただけの姿のまま、アレクに向かって全裸土下座をしてわびる。
「……デュ、デュフフ……ご、ごめんなさい。何でもするから、見なかったことにしてください……」
「何でも……?」
そう言ってキッカを見るアレク。
エロゲファンならここで「じゃあ、お前の体を貰おうか」とエッチシーンが始まるんだなと思うかも知れないが、キッカルートも含めた各ルートで時折現れる鬼畜アレクはひと味違った。
「じゃあ、作れよ」
「デュフ……つ、作れって……?」
「お前が作ったそれみたいな玩具をだよ」
「な、なんで……」
「それはお前……女を犯すために決まってるだろ」
「え――」
「お前も共犯者だからな」
そう言ってアレクは悪人のようににちゃりと笑うのだ。
エロゲーやギャルゲーなんかの所謂ノベルゲームでは、複数人ライターが執筆することもあり、ルートによって主人公の性格がころころ変わったりもする。
アレクの基本人格は、ちょっとエッチな所もあるが困っている人を見つけたらほおっておけない熱血漢溢れる好青年というようなものだが、このようなルートに違いによっては、寝取りエロゲの主人公のようなあくどいことだろうがガンガン行って、女をヒイヒイ言わせてものにしようぜ! と言うような鬼畜な行動をするアレクになったりするのだ。
この一部のルートで時折現れる、鬼畜アレクとファンから呼ばれるアレクになるのは、ファンの間では、そのルートの担当ライターが自分の性癖を抑えられなかったのだろうと言われている。
と言うのも、神ゲーを作るという意味から、ゴッドゲームズと言う社名となったインフィニット・ワンの開発元である会社は、元々は魔族っ子の拷問陵辱ゲーや、和風伝奇物など、どちらかと言えば特定の層にだけ刺さるような、ニッチなゲームを作っており、シナリオも過激なものが多く、簡単に言えば一般層には絶対に受けない作風の会社だったのだ。
だが、それがあまり受けず経営が苦しかったのか、インフィニット・ワンで突如、それまでの作風を捨てて、一般層でも受けるなろう小説のような、なんちゃってファンタジー路線へと方針転換したのだ。
このプライドを捨てた判断は見事に嵌まり、インフィニット・ワンはゴッドゲームズ史上最高の売り上げを見せた。
そして、ゴッドゲームズはよくあるエロゲー会社のように、インフィニット・ワンをギャルゲー化させ、そしてそれを元にエロゲー会社から一般のゲーム会社落ちをして、まともに経営出来る企業になったのだ。
今の時代、エロゲーだけをやっている会社は何処も苦しい。
だからこそ、大抵のエロゲー会社は、ゴッドゲームズのように一般にも受ける作品を出し、そしてその作品を何とか人気にさせて、そこから一般落ちし、その作品を中心に普通のゲーム会社として、徐々に人気を得ていくことで、何とかして会社を維持していくのが基本だ。
そのため、ゴットゲームズの経営判断は正しかったのだろうと、当時のエロゲー業界の衰退を見ていた俺は思うが、ニッチゲームを好んで作っていたライターの中には不満があったのかも知れない。
その思いが、ゴットゲームズが一般層向けの作品を次々と出す中で、細々と続いていたインフィニット・ワンのダウンロードコンテンツに、このような鬼畜アレクを出すような結果へと繋がったのではないかとファンの間では考えられているのだ。
ともあれ、そうしてアレクの手伝いをやらされることになったキッカは、次々と女性に使うための大人用の玩具を開発していく。
そして自分を虐めたいじめっ子などを誘い出し、それをアレクが魔法や薬品などで捕らえて、拘束された女達にアレクが道具を使っていくのだ。
「や、やめなさい……。ん! こんなことをしてどうなるかわかっているの!」
「どうなるっていうんだ? 男に襲われてこんな玩具で気持ちよくなって、そして処女を失いましたって婚約者に言うのか?」
「わ、わたしは……」
「黙っとけよ。玩具を入れられただけだろ? 俺は絶対にお前を犯さない。ただこうやって道具で嬲るだけにしてやる。それなら、お前自身がこの道具を使うのと、俺がこれを使って嬲るのは大した差があるわけじゃないだろ」
「……」
入れているのは玩具であり、それを誰が入れていようと関係ない。
自分が入れようとアレクが入れようと、玩具で楽しんでいるだけなのだから、これは浮気に当たらないし、それだったら自分が玩具で遊んでいただけにすればいい。
そうすれば誰も不幸せにならないと、とんでもない暴論を、襲ったいじめっ子の少女達にするアレク。
それを聞いて少女達は頷いてしまう。
そしてそこからアレクの攻めは激しくなる。
「あん! ん! あっ……これは玩具玩具だからぁ~!」
そう言って徐々に楽しみ始めるいじめっ子。
やがて果てた彼女に対してアレクは言うのだ。
「ご堪能どうも。この玩具、より良くするにはどうしたらいいと思う?」
「……もっと……反りが深い方がいい……」
アレクはそれを聞くと玩具を少女から取り出してキッカに向かう。
「だってよ。もっと反りが深い方がいいってよ」
「あ、あの……」
「取り敢えず、お客様の言う通りかどうか、お前も試してみろよ」
「あんっ!」
そう言って玩具をキッカに使うアレク。
キッカはいじめっ子達が使った玩具を自分にも使われ、そしてそのアンケート結果を反映してより良い玩具へと改良していくのだ。
自分が作った玩具によって、自分を見下していたいじめっ子や他の真っ当な女子達が乱れて落ちていく姿を目にしたキッカは、アレクと行う女子達を襲う日々にほの暗い優越感と背徳感が混じった興奮を覚えるようになっていく。
そしてそれらはアレクによって、自分に玩具が使われることで発散され、徐々にキッカはその快楽の日々に墜ちていくのだ。
そうしてそんな日々を続け、充分なテストを終えたキッカが作り出す大人の玩具は、まさに至高の一品と言える物まで進化していた。
そしてそれを持ったアレクはキッカに言う。
「なあ、これもかなりよくなったよな。これ以上は良く出来ないよな?」
「デュフ、デュフフ。も、もう。これは至高の一品……」
「そうか……じゃあ、早速お前に使うな」
「え――っ!?」
何時ものように女子を襲いに行かず、何時もの女子達を襲う方法で、キッカを拘束したアレクは、女子達にするのと同じように玩具でキッカを嬲る。
「あっあっあっ!」
「どうだ!? キッカ! お前の作ったこれは最高か!?」
「さ、最高ですぅ~!」
好きな人に至高の一品で犯されて絶頂するキッカ。
散々弄り倒されてその玩具を堪能したキッカが、疲れ果ててその場でぐったりとする前で、アレクは自らの服を脱ぎ始めた。
「あ、アレク……何を……」
「決まってるだろ。お前に本物を教えてやるんだよ」
そう言ってアレクはキッカのそこに玩具じゃない本物をぶち込み腰を動かす。
そしてそれによって喘ぐキッカに向かって聞くのだ。
「どうだ! キッカ! 俺のものの感想は!」
「あんっ! 違うっ!」
「何がだ!?」
「本物は――っ違う!」
キッカは魅了されてしまった。
自分が作り出した至高の偽物よりも、好きな人の本物であるそれに。
女としての本能が最高の快楽を感じてしまったのだ。
「これまでは女用を作ってきたが、これからは俺専用の玩具を育てあげていくからな! 分かったかキッカ!」
「はぃ~キッカはアレク様の玩具になりま~すぅ~!」
アレクの狙いはこれだった。
自らの模造品である人形で、気になっていた女であるキッカが乱れていたのを知ったアレクは、至高の一品とも言える玩具を堪能させた後に、自分の本物を教え込むことでどちらが優れているのかをキッカに分からせたかったのだ。
ある意味で復讐とも言えるそれを完遂したアレクは、キッカを自分専用の大人の玩具として開発していき、求められたキッカもそれを受け入れて、工芸をするかのように自分で自分を開発して、二人は何処までも幸せで退廃的な快楽の中で過ごし続けていったというハッピー――。
☆☆☆
「いや、あれ、ハッピーエンドか?」
俺はキッカルートを思い出しながら思わずそう言ってしまった。
最終的にヒロインがオナホ奴隷になりますと言って終わる物語とか、何処がハッピーエンドなんだよという気持ちが湧いてきてしまったのだ。
「まあ、でも最終的には好きな者同士で結ばれた訳だし、本人同士が納得しているなら、それがどんな奇異な形でもハッピーエンドはハッピーエンドか」
アレクは好きだったキッカを自分の玩具としてものにし、キッカは好きだったアレクを自分を使うご主人様として愛し合うことが出来るようになった。
その点で言えば主人公とヒロインは目的を達成し、そして双方ともその状況に不満がないのだからハッピーエンドと言えるのかもしれない。
世間体が悪いのは事実だが、そんなことを言ったら奴隷のまま居続けるなろうの奴隷ヒロインは、奴隷のままだからバットエンドだというのかという話になるし、一人で男を独占するのを諦めたなろうハーレムだって、一人に対して愛を向けていないからバットエンドだと言われてしまうことになってしまう。
それらについても人々がハッピーエンドにするのは、キッカ達と同じようにやはり物語の主役である主人公とヒロインが双方とも幸せを感じているからだろう。
それにエロ小説なんかじゃ、快楽墜ちからのラブラブハッピーエンドなんて、ありふれたものだからな……。
俺はそんなことをふと考える。
結局のところ、どんな形であれ、物語で救われる対象である主人公やヒロインが幸せになれたのなら、それはハッピーエンドの物語なのだ。
だからこそ、アレクとキッカが乳繰り合いたいというのなら、好きにやってオナホ奴隷にでも何でもなればいいと思う。
だが――。
「その過程で女子達を襲うのは許せないな」
キッカルートでは多数のモブ女子が、キッカの作った玩具のテスターとするために、アレクに襲われて快楽で乱れることになる。
そんなレイプ紛いの行いは決して許していいものではない。
例え最終的に快楽で喘いでその行いを許容してしまっているのだとしても、強制的にそんな状況にされたまともに暮らしていただけの女子が可哀想だし、何よりもモブ女子達は俺のヒロイン候補となる者達、そんなことで彼女達という可能性を失うわけにはいかないのだ。
「鬼畜アレクのイベントは大半が自発的に起こせるものなのに、これはキッカの行動による受動的なものなのが厄介何だよな……」
鬼畜アレクは、ガンガン行くぜ! の性質上、そのイベントはアレクの自発的な行動により、発生するものが多い。
だからこそ、俺はこれまでの間に銀仮面として、アレクが鬼畜アレクとなるイベントは片っ端から攻略を行い、このキッカルートを除けば、殆どのルートを攻略することが出来ている状態にある。
ゲームと違ってアレクはハーレムを作る可能性が高いからな……。
ゲームではアレクが進むことが出来るルートは一つだけであり、世界の変化やその他のキャラの変化等も、そのルートに従って全体的に影響が発生する形だった。
だが、インフィニット・ワンを元にしたこの世界では、同時に複数のルートのイベントが発生するため、複数の攻略対象を同時に攻略することが出来る。
その点を考えればゲームと違い、アレクはこの世界では複数の攻略対象をものにして、ハーレムを作り出す可能性が高いのではないかと俺は考えていた。
その時にアレクの人格が、ゲームで鬼畜アレクとなるルートを通ったことによって鬼畜化してしまっていたら、アレクハーレムに加わるであろう、俺と付き合いが深い攻略対象である来幸やエルザが、鬼畜なアレクによって悲惨な目に合うことになってしまうかも知れない。
さすがにそれは許容出来ないので、アレクが鬼畜になる可能性を、多少面倒でも事前に潰しておいた形だ。
そうして、鬼畜アレクのルートは既に大半を潰してあるが、このイベントはアレクの等身大人形相手に、キッカが致している所を目撃するというイベントフラグが必要となるため、イベント攻略を始めることが出来ない状態にあるのだ。
まあ、そもそもアレクがいない状態で、誰の等身大人形を作るんだって話ではあるんだけどな……。
もしかしたらルーレリア学園入学まで、このイベントは発生しないんじゃないかという気もしてきているが、俺やレオナルドがアレクの代わりにイベントを起こせたように、キッカが別の人間の等身大人形を作り上げて、それを目撃した誰かによって鬼畜アレク的なストーリーが始まってしまう可能性はゼロではない。
だからこそ、警戒しないという訳にはいかないのだ。
「アレクはまだいないが、それでも可能な限り、様子を見ておかないとな……」
アレクが原作で現れるのは今から三年後のルーレリア学園入学でのことだ。
それまでのアレクに関しては何処かの村で村人をやっていたという情報以外は、作中で大した情報は出てこないため、各地に転移出来る俺でもアレクが現在何をしているかは把握していない状況にある。
恐らく、学園入学とともに行動を開始するアレクに、プレイヤーが感情移入して貰うために、アレクのそれまでの生涯に関する情報を少なめにしてるんだろうな。
あとは、各ルートのライターが書いた話とアレクの過去が矛盾しないように、その辺の過去をぼかしていたという大人の事情もありそうだが。
そう言ったゲーム作りの観点から、アレクの過去は詳細に描かれていないのだろうと、俺は理解していた。
実際に、同じような理由で、主人公を記憶喪失にするなどして、過去をさっぱりとなくしてしまうゲームなども多い。
ゲームをやっていると、最終的に、結局君って何処の誰だったん? と主人公に対して思うことも一度や二度ではないのだ。
まあ、理由はともあれ、その為にアレクを用意出来ないので、銀仮面での活動も含めて、俺の行動によるバタフライエフェクトが発生したことで前倒しになったイベントの対処などに、俺が手を打つ必要が出てきてしまっているのだ。
「帝国とか他の国ではそんなに前倒しが発生していないから良いが、これが発生するようになったら、本当に過労死してしまうぞ……」
インフィニット・ワンはストーリーとキャラを売りにしていたため、とにかく攻略対象となっているキャラが多い。
王国だけでもかなりの攻略対象がいて、それに対する銀仮面活動でこれだけ大変な目に合っているのに、そちらまで処理をし始めたら、俺一人だけでは完全にキャパシティーオーバーすることは分かっていた。
だからこそ、俺が活動している王国とは違って、俺の行動によるバタフライエフェクトが少ないのか、ゲーム通りの展開で推移している他国の様子は、俺に取って有り難い状況だと言えた。
「ともかく何とか対策を考えないと、俺のヒロイン探しにも支障が……おや?」
俺が考え事をしながら歩いていると、進行方向に見知った顔が現れた。
その人物とは大量の書類を重そうにしながら運んでいるユーナだ。
俺はそれを見て声を掛けようとしたところで――上の階にあるテラスから、身を乗り出してバケツのようなものを構える女子達が目に入り、思わず叫んだ。
「危ない!」
「え?」
俺は咄嗟に転移を発動し、ユーナの元まで飛ぶと、彼女に触れて再度転移することで、上から降り注いできた汚水から逃れる。
「おい! お前達!」
危機から逃れたことで、俺はテラスにいたその女子達に向かって、そう問いかけるが、その女子達は俺の言葉を無視すると逃げ出した。
「逃が――」
「待ってください!」
転移でその女子達を追おうとした俺をユーナが止めた。
「何故ですか? ユーナ様」
「追っても無駄からです。あれはレディシアお姉様の手の者なので……」
「レディシア王女の……? つまり後ろ盾があるから、王女相手にこんな真似をするという馬鹿げた行いが許されているってことですか」
今この国では、第一王女であるクリスティアの派閥と、第二王女であるレディシアの派閥が、互いに王位を巡って争い合っている状況にある。
そんな中で第一王女と同腹の姉妹であるユーナは、王位継承に関与しないにしても、レディシアに取っては邪魔な存在であり、クリスティアと違って威風堂々としていないユーナは、嫌がらせをするには格好の相手だということなのだろう。
「ですが、やられっぱなしでは何も変わりませんよ?」
「もめ事を起こしてクリスティアお姉様の邪魔をしたくないんです」
ユーナは気弱そうに視線を下に落としながらそう答える。
俺はそれを見て内心ため息を吐いた。
本人がこの調子だと相手を糾弾するのは難しいだろう。
次期王女候補のレディシアの取り巻きが犯人だというのなら、侯爵家の令息である俺でも、被害者の声や物証がなければ問い詰めるのは難しい。
ここで迂闊にレディシアと敵対したら、王位継承争いの真っ只中に放り込まれかねないからな……。
インフィニット・ワンでは、クリスティアとレディシア、攻略する側のストーリーによって、最終的に誰が王になるのかが変わる。
端的に言ってしまえば、アレクが味方になった方が、この派閥闘争に勝利し、敵対派閥を潰してこの国の主導権を得るのだ。
それを考えるとここでどちらか一方の王女に味方しすぎるのは危険だ。
もし、アレクが俺が味方した方ではない王女の側についたら、内乱で敗北してシーザック家が窮地に陥ることになってしまうかも知れない。
だからこそ、今の段階では二人の王女とは、交流も敵対も可能な限りしたくないというのが俺の本音だった。
「そうですか、それならそれでいいです。ただ――」
そう言って俺はユーナが持っている書類を強引に奪う。
「これは俺が運びます。何かされても俺なら転移で逃げられますし、それに今生徒会室に向かっているんでしょ?」
「そうですが……」
「俺も生徒会に用事があるので、大した手間でもないですからね」
「それでも、わたしの荷物を持たせるのは申し訳ないです……」
「気にしないで、さっさと行きましょう」
俺はユーナの意見を無視して生徒会室に向かって歩き始めた。