エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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変えられない心

 

 ユーナに気付かれないように少し遅れて第三訓練場に到着した俺は、こっそりとそこにいるユーナの様子を伺った。

 ユーナは魔法の練習用の的に向かって氷の礫を何発も放っていた。

 

「本当に魔法の鍛錬をしているんだな……」

「そうだろう。あの子は頑張り屋なんだ」

「おっと!?」

 

 ユーナの方向に集中していた俺は、突如として後ろから声を掛けられて、転移でその場から移動しながら、思わず剣を取り出す。

 

「私に武器を向けるつもりか?」

「――っ!? これはクリスティア様、失礼致しました」

 

 そこにいたのが第一王女であるクリスティアだと気づき、俺は剣をしまった。

 

「何故、このような場所に?」

「それは私の台詞だが? ユーナのストーカーだったのかね?」

「うぐっ……! いえ、王宮と違った方向に歩いて行ったが気になりまして、今日、レディシア様の取り巻きから汚水をぶつけられそうになると言った事件もありましたし、念の為にと見守っていただけです」

 

 苦しい言い訳を無理矢理捻りだして俺はそう答える。

 それに対してクリスティアはにやりと笑った。

 

「まあ、そう言うことにしておこうか」

 

 そう言うとクリスティアはユーナの方に再び目を向けた。

 

「君は……私とユーナの母親に起こった出来事を知っているか?」

「魔族に攫われたという話ですか?」

 

 そこら辺は恋人であるアレクに詳しく話したくなかったのか、インフィニット・ワンでもあっさりとそう語っただけで、詳細な事情は話さなかった。

 加えて設定資料集にも、サブキャラクターであったユーナやセリーヌに関するそう言った作中での背景の情報は詳しく載っていなかったので、俺もその程度の情報しか持っていないのだ。

 

「ああ、そうだ。私の母であるセリーヌは魔族に攫われてしまった。そしてその魔族によって……母は犯されてしまった」

 

 まあ、エロゲの世界だし攫われたらそうなってもおかしくない。

 と言うか、ゲームや小説のように、攫われたのに五体満足で無事に帰れるという事の方が、物語バリアで守られているヒロインだからこそ出来る希少な事例なのだ。

 

 そこまで考えたところでユーナについてある可能性に気付いた。

 

「もしかしてユーナは――その魔族との――」

「いや、それは違う。魔族に攫われた時には既に母はユーナを身籠もっていた」

「そうなんですか」

 

 ユーナが魔族に無理矢理犯されたことで身籠もってしまった子だと思ったが、どうやらそれは違ったようだ。

 だが、それにしてはクリスティアの顔は晴れない。

 

 そんなクリスティアの様子に怪訝な顔をしていると、クリスティアは意を決して、俺に向かって事情を語り始める。

 

「ただ――魔族に犯された影響は皆無ではなかった」

「? どう言うことですか?」

「母の体の中に入った魔族の子種は……母のお腹の中ですくすくと育っていたユーナの中に取り憑き、その魔族の性質でユーナ自身を汚したのだ」

「それは――」

 

 クリスティアの話を聞いて俺が思い浮かべたのは、前世の世界で割と禁忌の言葉的な扱いをされていたテレゴニーという言葉だった、

 テレゴニーとは子供をなした男との行為の前に行った別の男の特徴が、産んだ子供にも遺伝するという説であり、処女信仰の原因の一つにもなっているものだ。

 たまにネット上で見かける話としては、人種が違う相手と交際していた人が、同じ人種の人と子供を作ったら、前の男の人種の特徴を持った子供が生まれて、浮気をしたのかと騒動になったという話だった。

 実際にそう言うことがあり得るのかというのは、ぶっちゃけその方面の科学的な知識が薄い俺には分からないが、それと近しい状況が起こったということだろう。

 今回の場合では、身籠もったのと別の男が種付けした順番が逆だが、他者の子種が身籠もった子供に影響を与えたのは同じだ。

 

「ユーナが生まれてきた時、ユーナは魔族の特徴を帯びていた。そしてユーナの力は母を焼き殺してしまったんだ」

「それが正妃が亡くなった原因なんですか……」

 

 ゲームでは既に死んでいたとさらっと語られたセリーヌ。

 その死にそんな裏側があったとは知らなかった。

 

 これも所謂考察前提の裏設定って奴か……。

 

 俺はそう思いながらクリスティアの話を聞き続ける。

 

「魔族の特徴が現れたのはその時だけで、以降はそんな様子も現さずに、普通の人として生きることが出来ているが……」

「……受け入れられなかったんですか」

「そうだな。端的に言ってしまえばそう言うことになるんだろう」

 

 何処か自嘲するようにクリスティアはそう言う。

 

「私も父もユーナを愛している……愛しているが、同時に母を連れ去れって心が壊れるまで犯しつくし、そして母が死ぬ原因にもなった力を持った男の要素も受け継いだ――其奴の子供でもあるのだと実感してしまった」

 

 そう言ってクリスティアは顔を覆う。

 

「だからどう接したらいいか分からないんだ。自分達から遠ざけて、見守っていると言い訳をしながら、壁を作って接することしか出来ない」

「……」

「私は、そして父は――如何するべきなのだろうな」

「それは……」

 

 突如として重い話を聞かされて思わず口籠もる。

 

 気持ちは分からなくもない。

 どれだけ自分を騙そうとしても、騙しきれないことはある。

 だからこそ、そうするべきだと問題の解決方法が分かっていても、その手を取ることが出来ない苦しさも分かるのだ。

 

 故に俺が出した答えは簡潔だった。

 

「……いいんじゃないですか。それはそれで」

「それでいい……だと?」

 

 訳の分からないことを言った相手にする目をクリスティアは俺に向けた。

 

「どんなに割り切ろうと思っても、それを抱えてる本人の行動じゃ、割り切ることなんて出来ないと俺は思います。だからこそ、それはそれでいいと認めて、前に進んでいくことをしなければいけないんじゃないかと」

「それではユーナが救われないではないか……ユーナが悲惨な目に合っているのに、何も行動するなとお前は言うのか?」

「行動なら今もしてるでしょ」

「なに?」

 

 心底不思議そうな表情をするクリスティアに俺は言った。

 

「ただ、俺にお悩み相談がしたくて、ここでそんな話をしたんですか? 違うでしょ? 俺にユーナを支えて欲しいと思ったから、ここで俺に全ての事情を知らせたんじゃないんですか?」

「そうだ。お前の評判は聞いているし、ユーナを思っていることも知っている。それに今日の生徒会でもお前はユーナを助けてくれたからな……お前なら、私の代わりにユーナを助けてくれると、そう思ってお前の後を付けたのだ」

 

 やはりそうかと俺は納得しながらクリスティアに対して言う。

 

「それが貴方がユーナのためにした行動ですよ。自分の心を騙して割り切ることが出来ずに問題が解決出来ないというのなら、そんなものさっさと別の誰かに任せて解決して貰えばいいんですよ」

 

 自分ではどうしようもない問題なら、誰かに解決させるしかない。

 それは至極当たり前というか、考えて見たらそれしかないだろうという発想だ。

 だが、当事者ではなかなか気づけないことでもある。

 

「それで解決するのだろうか……?」

「さあ、でも出来もしない奴が苦しみながら足掻くよりもマシでしょう」

「出来もしないなんてそんなこと――」

「……結局のところ、心というのは自分で変えることは出来ない――自分以外の誰かの行動でしか変えることが出来ないものなんですよ」

 

 俺は未だに自分の理性を信じているクリスティアにそう突きつけた。

 

 そう、人の心というのは自分でそう簡単に変えられるものじゃない。

 どんな人間だって、外部からの何らかの切っ掛けがあって、やっと自分の考えや思いを改めて、思い返すことが出来るようになるものだ。

 

「そして、本人のその事柄に対する思いが強ければ強いほど、心を変えるための証明の強度を強くする必要があるんです」

「強度だと? どういうことだ?」

 

 俺の言葉にクリスティアは怪訝な表情をした。

 だからこそ、俺は分かりやすく例を上げる。

 

「俺が、今ここで、ユーナ王女は貴方達の家族です。魔族の力なんて気にする必要ないですよと言っても、それで心変わりはしないでしょう?」

「まあ、それはそうだな……」

 

 納得したようにそう言うクリスティア。

 

 そこまでその問題に対する思い入れがなければ、この程度の会話であっさりと流されて心変わりをしてしまうのかも知れないが、そんな簡単な思い入れじゃないからこそ、これほどクリスティアは悩んでいるのだ。

 だからこそ、俺が何を言ったところで状況が変わらないのは、目に見えて分かっていたことだった。

 

「だからこそ、明確な証明が必要となるんです。そして最も強くそれが証明出来る方法は、ユーナ王女自身の手で、自分がクリスティア王女の家族だと、完膚なきまでに思い知らせる形で証明するしかない……それが出来ないというのなら、もう諦めて進むしかないわけです」

 

 結局の所、身の潔白を証明する最善の方法は、疑われた当人が、それに絶対的な反論が出来る証拠を用意して、疑っている相手に対して、「貴方が疑っていることは完全な間違いだ」と思い知らせてやるしかない。

 

 ――そこまでしなければ凝り固まった思いを変えることは出来ないのだ。

 

「自分ならいつか乗り越えられると思わない方が良い。そんなことが出来るのはお話の中だけ、現実は乗り越えられない自分に苦しんで、思えば思うほどその思いをこじらせて、何処にも引けなくなってより面倒なことになるだけですよ」

「妙に実感がある言葉だな」

「……まあ、そうですね。俺もこの世界で生きてきて、色々と思うところがないわけでもないので」

「この世界で……?」

 

 クリスティアが俺の言い回しに疑問を持っているが、俺はそれを無視して、誤魔化すようにクリスティアに対して軽い調子で言う。

 

「そもそも疑っている相手に対して、何の根拠も示さずに、ただ考えを変えて欲しいと言うのも傲慢な話だと思いますよ。俺は」

 

 一般的に相手を疑うことは――例えば浮気などを疑うことなどは、相手を信じ切れないお前が悪いと、だからそんな考えを捨てて相手を信じるべきだと、多くの人はそうやって考えるものだ。

 だが、疑う側だって意味もなく疑っているわけじゃない。本人が思う何かしらの根拠があって相手を疑っているのだ。

 

 そんな相手に対してべき論を語って、根拠も示さずに、ただ信じることを強要するのは、酷い話ではないかと俺は思う。

 そんなものは、自分が疑う立場にいたことがない者だからこそ言える、傲慢な考えなのだと俺は考えるのだ。

 

「今回の件はユーナに悪いところはないのだぞ?」

「それでもですよ。酷い話ですけどね。人間ってそんなもんです。いつだって誰だって、疑われたのなら、自分自身でそうじゃないと証明するしかないんです」

 

 今回の件はユーナに悪いところはない。

 勝手に他の者がしでかした不始末をユーナが被っている状況だ。

 だが、それは疑っているクリスティアの側だって同じことだ。

 

 だから、俺は一概にクリスティアに考えを改めろとは言えない。

 そんな彼女らが苦しみながらも出来ないと思ったのならそれでいいと思う。

 それでも何とかして状況を変えたいと言うのなら、残酷な話かも知れないがユーナに頑張って貰うしかないのだ。

 

 別にこれは今回の件に限った話じゃない。

 前世の世界だって、見た目からヤンキーのレッテルを貼られたら、子犬を拾うなど優しい一面を出して、そうじゃないと証明する必要があるだろう。

 そこまで言わなくても馬鹿だと思われているのなら、テストで百点を取って、それを相手に見せることで、相手を見直させる必要があるはずだ。

 そう言ったこともしていない相手が、悪人顔を見せながら「俺ヤンキーじゃないから、あっちでちょっと話さない?」と言っても、言われた相手は泣いて逃げ出すだけだろうし、馬鹿だと思われてる奴が「俺、馬鹿じゃないよ! 天才だよ!」と言っても、一笑に付されて更に馬鹿にされるだけで終わることになるだけだろう。

 酷い話だが説明責任があるのは、いつだって疑われる側になってしまうのが、人間社会というものなのだ。

 

「だからこそ、周囲の助けが必要なんですよ。考えを変えるためには相手に変わって貰って、そうじゃない安心してもいいんだと証明して貰うしかない。何もせずともそれが出来る人なら放っておけばいいけど、そうじゃないなら誰かに頼んでそうなるように立ち直らせて貰う必要があるんです」

 

 疑われて嫌われて自分だけで立ち上がれる奴なんて少ない。

 だからこそ、その相手を助けるための別の誰かが必要なのだ。

 

「やってくれるのか?」

 

 クリスティアが期待に満ちた目で俺を見る。

 それに俺は苦笑しながら答えた。

 

「まあ、ここまで聞いておいて、やりませんとは言えないでしょ。王女相手に。何処まで出来るか分かりませんけど、元々ユーナ様とは話をする気でしたし、できる限りはやってみますよ」

「頼んだぞ! フレイ!」

 

 俺はクリスティアのその言葉を聞き、後ろ手を振りながら歩き出した。

 




 今回はフレイの考えの一部が出てきました。

 来幸がゲームの一禍とは別人だと主張しても、フレイがそれを信じずに同じものだと断言したのは、それを証明する証拠が足りなかったからです。

 フレイからして見れば、「私はアレクなんて奴のヒロインにはならない!」、「私と一禍は別人で同じようにはならない!」と言っても、状況証拠は揃っているのに、何の根拠も証拠もなく、「私は犯人じゃない!」と叫んでいる容疑者と同じような印象だと言うことですね。
 疑っている側からしたら、「何故そう言い切れるの?」とか、「そこまで言う根拠はなに?」という感じで、そんな言葉だけの思いじゃ何も信じることは出来ないという感じです。

 フレイに取って恋愛は大切なもので、攻略対象にはゲームでの姿という反対方向での絶対的な証拠があるため、その思いがより強くなってしまっているということですね。

 つまるところ、この恋愛こじらせ野郎は、何らかの方法で自らの愛を証明する形で論破しないと、攻略不可能な面倒くさい奴なのです。

 なので実は、来幸が怖がって止めた、イベントで惚れたのではなく、名前を付けられた時から好きだったというのを、まだゲーム知識をそれほど活用していないあの時期に、懇切丁寧に説明すれば、来幸一人勝ちパターンのワンチャンがあった感じです。
 もっとも、無窮団も含めて散々イベントと攻略対象を見て、「やっぱり、この世界はゲームの影響が強いな」と思うようになった今のフレイに同じ事を言っても、フレイの心に響かない感じになっていますが。

 ちなみに、エルザが一人勝ちパターンに入るためには、婚約破棄を如何するか父親から聞かれた時に、父親の反応から違和感を覚えて、婚約相手について調べることが必要でした。
 それをすることで婚約破棄がなくなると、家の格の関係でフレイ側からは婚約破棄を申し出てもエルザ側は拒否出来るので、攻略対象以外を婚約者にして愛を育むことも、ユーナ王女と婚約することも出来なくなり、更に婚約者がいるためにヒロイン探しも出来なくなるので、もう無理だと絶望したフレイに対して、ひたすら押しまくれば、エルザにもワンチャンがあった感じです。
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