エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
「ふふ~ん~」
夜遅くに帰ってきたフレイ様が上機嫌に鼻歌交じりに政務をしている。
何かいいことでもあったのだろうか?
私は言いようもない不安に駆られて、思わずそれに付いて問いただす。
「フレイ様、何かあったのでしょうか?」
「あ、わかる? わかっちゃう~?」
質問されたフレイ様はそれが来るのを待っていたとばかりに、満面の笑みを浮かべて私に対してそう言ってきた。
そして、勿体付けたようにその理由を語り始める。
「実はさ、ユーナの師匠になったんだよ」
「……は? ユーナ王女の師匠……ですか?」
私は思わず唖然とそう問い返してしまった。
ユーナ王女はフレイ様のヒロイン候補の第一目標だったはず。
そんな相手と親しくなることに成功したという事実が受け入れられなかった。
「そう、だからしばらくは帰りが遅くなるかも知れない。いや~、これは忙しくなるぞ~! 俺の物語はここから始まるんだ!」
「……そうですか」
そう、上機嫌に言うフレイ様。
一方で私の気分は急降下している。
このままではフレイ様が目的を果たしてユーナ王女と結ばれてしまう。
他の女共と違い、エルザと同じくユーナ王女には、闇魔法を使用して、強制的にフレイ様を諦めさせることは出来ない。
だからこそ、ユーナ王女がフレイ様に惚れてしまった時点で完全敗北、私の願いがそこで潰えることになってしまう。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
入学式で振られたと聞いて、内心で安堵していたというのに。
いつの間に、師匠と言う立場になるという大逆転を決めたというのか。
私は気付かれないように思わずため息を吐いた。
今回のユーナ王女と言い、エルザと言い、それ以外の学園の女子や、屋敷の使用人に、無窮団なども含めて、フレイ様は少しでも目を離すと、その気も無いのに、直ぐに余所で女を引っかけてくる。
それを見ることになる私の気持ちを、フレイ様は分かっているのだろうか?
別に新しい女達の登場に焦ったりしている訳ではない。
なぜなら、フレイ様の厳しい基準を考えれば、フレイ様に恋したその女達も、フレイ様に愛されることはないと分かりきっているからだ。
ただ、そうやって無理な恋を始める女を見る度に、私自身がそう言ったその他大勢の一人に過ぎないのではないかという思いに打ちのめされる。
それだけは許せなかった。
私はフレイ様の為のただ一人のヒロインだ。
ヒロインであるからには、フレイ様に取って私は特別な存在で、そしてそんな私の思いは、他の者達とは違った特別な物でなければならない。
だが、軽々しくフレイ様に恋する女達を見ていると、自らの思いもその程度の軽いものではないかと、汚されたような気持ちを抱くのだ。
だからこそ、フレイ様に恋した女達を洗脳して、その思いを消して回った。
――フレイ様に恋するという特別な権利は私だけにあればいい。
それが私の偽らない本心だ。
私はその思いに従って、これまで行動してきたのだ。
フレイ様がミリー相手に対応を間違ったことで起こった、使用人のフレイ様に対する不快感を闇魔法で増幅して、アイリーンやミリーを含めて使用人の中から、フレイ様と恋仲になるような存在が現れないようにし、同時に私とフレイ様の関係を応援するような状態に変えた。
そうでもしなければ使用人の――モブキャラの中から、フレイ様を好きになってしまう存在が現れて、そのまま恋人関係になってしまうかも知れなかったからだ。
なぜ、私がそう考えたのか。
その理由は単純なものだ。
人と人の交流では相手への対応を誤って不快にさせてしまうことは多々ある。
だが、大抵の人はそれでも交友関係を続け、別の出来事によるプラスで、マイナス評価を打ち消すなど、日々評価を上下させる続けるものだ。
フレイ様はシーザック領で善政を敷いて、領民から慕われている。
それだけではない、フレイ様の直ぐ側で過ごす私は、フレイ様の凄い所や良い所を――フレイ様を好きになれる部分を幾つも知っている。
そんな私からすれば、使用人としてフレイ様の側にいれば、直ぐにでもマイナス評価が、プラス評価へと変わってしまうのではないかと思ったのだ。
だから、使用人達に……私の友人達に闇魔法を使用したのだ。
友達に闇魔法を使うことに戸惑いがなかったかと言われれば嘘になる。
だが、私は決めたのだ。
自らのほくろを焼いたあの日に――ゲームでの私じゃない私である一禍と決別したあの日に、何をしてでもフレイ様の側にあり続け、そしてヒロインになると。
だから、例え周りが私が操作した偽りの心だらけになっても私は止まらない。
周囲が全て偽りになったとしても、そこにあるフレイ様の心が本物で、そしてそれを私が得ることが出来れば、それだけで私は満足することが出来るのだ。
これまではそれで上手くいっていた。
一部の強すぎる好意を持っている者は、闇魔法でも洗脳で好意を消せなくて、恋心を崇拝の気持ちに切り替えて勘違いさせる必要があったり、魔道師も多い無窮団の者は闇魔法が気付かれるから改変出来なかったりなどと、色々な問題も発生してはいたが、フレイ様に好意を持つ者を周囲から排除して、フレイ様の身の回りの世話を全て私がするように取り付け、そしてフレイ様を私無しでは生きられないように堕落させる準備は着々と進んでいたのだ。
それなのにここに来て、こんなイレギュラーが起こるなんて。
ここまで築き上げてきた環境が、全て無駄にされるかも知れない状況に、私は思わず心の中で悪態をつく。
いっそ、フレイ様を監禁してしまうか――。
そんな魅力的な提案が頭をよぎった。
そうすればフレイ様が他の女を引っかけてくることもない。
二人だけの世界で、ずっと私が側に居続け、フレイ様をお世話して、いつかフレイ様が私を見てくれるまで、フレイ様の全てを私が管理できる。
空蝉の羅針盤さえ奪えば不可能ではない。
何処かに長距離転移した後に空蝉の羅針盤さえ奪ってしまえば実行は出来る。
でもそれはダメだ。
もし、その行いに失敗でもしてしまえば、ずっと側に居続けるという、私のヒロインとしての立場が果たせなくなる可能性が高い。
そんなリスクは侵せない。
だから今までの延長線上で行動するしかない。
このまま守りに入っていては、ユーナ王女に寝取られてしまうというのなら、それよりも先に、今の立場を使ってフレイ様をこの手で堕とすまでだ。
私はそんなことを考えていると、フレイ様が私に言う。
「これから来幸にも面倒を掛けるかも知れないが、協力をよろしく頼むな」
「……はい」
フレイ様はかつて降った相手に他の女のことを話すことについて、相手がどう思うかとか考えたことが無いのだろうか。
私は協力を要請されて思わずそんなことを思った。
そして、同時に無いのだろうと思い直す。
フレイ様は前世の世界で女性からモテなかったらしい。
そんなフレイ様に取っては恋愛とは諦めるものなのだと思う。
一度でも脈がないと思ってしまえば、その時点でもう自分なんかが恋人になれる可能性がないと思い、傷つかない為に全てを諦めて別の相手を探す。
そして、恋心を抱いていた相手とは、自身が恋心を抱いてた事も知らせずに、何事もなかったかのように普通の友人として接する。
それこそがモテることがなかった彼が、自身の心を守るために身につけた処世術であると、フレイ様の前世の話を聞いて私は理解した。
そんな彼だからこそ、理解出来ないのだ。
振られたとしても諦めることが出来ない者の存在が。
だからこそ、彼は振った相手に対して、既に恋愛に関する事は終わっているから問題ないと、自分の常識を当てはめて、ただの友人や主従として接しているのだ。
むしろ下手に過去の関係を意識せずに接してる分、過去の色恋を引き摺って関係を悪化させて、相手を排斥するよりも、良いことをしているとすら、思っているのかも知れない。
まあ、それならそれでいい。
私としては、下手に意識されて、気を遣って疎遠になるよりも、こちらの方が側にいることが出来て、まだ逆転のチャンスへと繋げることが出来る。
フレイ様……私は絶対に諦めないから、覚悟していてくださいね?
フレイ様を落とす為の計画を立てながら、私はフレイ様が楽しそうに話す、彼のユーナに対する攻略の話を聞き流した。