エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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パトロン

 

「ここは……私の部屋か……?」

 

 目を覚ましたロンベルク商会の商会長であるジーナス・ロンベルクは、周囲の景色を見て、そこが自室であることを理解した。

 

「確か私は突如押し入ってきた怪しげな銀仮面に……これは?」

 

 自分が気絶する前の状況を思い出していたジーナスは、自分の懐に収まっていた誰かからの手紙の存在に気付く。

 不思議に思ったジーナスはそれを手に取って中身を見た。

 

「なになに……『俺は銀仮面。悲惨な目に合う少年少女の味方だ。これを読んでいるということは、君は屋敷に無事戻れたのだろう』……。これはあの時の乱入者から私に当てた手紙か!?」

 

 ジーナスはそれに気付いて直ぐさま破こうとするが、さすがに全てを読んでからにした方が良いと、彼の冷静な部分がそれを止めた。

 

 そもそも、目的もわからない謎の存在。

 何をするにしても情報はある方がいい。

 そう考えたジーナスは続きを読んでいく。

 

「『貴方が誘われた相手……彼女は貴方を誘った訳ではない。あれは彼女に取り憑いた悪霊が、金欲しさに貴方を狙ったというだけのことなのだ。だから、彼女の行いを許し、そして彼女のことを諦めて欲しい』だと!?」

 

 それを見て手紙を読むジーナスが握る手が強くなる。

 

 ジーナスは顔も地味で太っているため、女性にモテた事が無かった。

 王都でも有数の商会の商会長の息子だから、金目当てですり寄ってくる女性は多かったが、普段の自分には見向きもしないのに、金があるとわかった瞬間に、それまでが嘘のように愛していると口走るその女性達を信用出来ず、言ってしまえば人間不信とも言うべき状況で誰かと付き合うことが出来なかったのだ。

 

「あれほど私への思いを語ってくれた彼女が金目当てだったと言うのか……」

 

 そんな中で現れた悪女は、お金のことなど一切出さずに、ジーナスを好いていると心からの言葉で語ってくれたのだ。

 もちろんそれは悪女の嘘で、ジーナスを金蔓にするための行いだが、多くの男性を騙してきて、それ故に処刑された悪女の演技を見破ることは、歴戦の商人でも難しく、コロッと騙されてしまっていたのだ。

 

「いや、この手紙が真実とは限らない」

 

 ジーナスはそう言って疑念を払って先を読んでいく。

 

「『今回の件はおおやけにならないように秘密裏に処理した。だが、君のことを愛している秘書のミネルバにだけは詳細を伝えたので、しっかりと怒られるように』……私のことをミネルバが愛している?」

 

 ジーナスは思わずそう呟く。

 ミネルバは親が商会の人間だったために、子供の頃から付き合いがある相手だ。

 だが、常にジーナスに対して冷たい態度を取って、生活態度などジーナスの行いを厳しく問い詰めてくる存在だった。

 だからこそ、手紙の記載にジーナスは疑問を抱いたのだ。

 

「ジーナス様、入ります」

 

 ジーナスが混乱していると、返事も聞かずにミネルバが部屋に入ってきた。

 そしてそのままジーナスの元にやってくる。

 

「ミネルバ君?」

 

 ジーナスのその言葉の返答は強烈なビンタだった。

 そして、ビンタした後のミネルバはジーナスに抱きつく。

 

「私が……! どれだけ心配したと思ってるんですか! 成人にもなっていない子にホイホイと誘われて! 貴方って人は!」

「ミネルバ……」

「血だらけの銀仮面が貴方を担いで現れた時! それこそ心臓が止まるような気持ちでした! ジーナス様が騙されて殺されてしまったのではないかと!」

「すまない……心配をかけた」

 

 ミネルバのその思いを聞いて、ジーナスは素直に謝った。

 ミネルバがそれほど自分のことを心配してくれるとは思わなかったのだ。

 

「本当です! こんなことはもうやめてください……!」

「ああ、わかった……」

 

 ジーナスがそう言った時、ミネルバはジーナスが手に持つ手紙に気付いた。

 

「それは?」

「銀仮面という方からの手紙のようだ」

「何て書かれていたんですか?」

「私を誘った少女は悪霊に体を操られていただけで、本当はそんな事をする気は無かったと、それと……」

 

 そこでジーナスは口籠もりながらも言う。

 

「君が私のことを愛しているから、しっかりと叱って貰えと」

 

 そう言って「そんなわけないよな」と目を反らすジーナス。

 だが、ミネルバはその顔を掴んで自分の方へと向かせた。

 

「――はい。私は貴方を愛しています」

「ミ、ミネルバ……?」

「一言でわからないなら、何度も言います。私は貴方を愛しています……。ジーナス様、貴方を……」

 

 顔を赤くしてそう言うミネルバに、照れたジーナスが言う。

 

「どうしたんだい? 君はそんなことを言う人じゃ――」

「銀仮面が言っていたんです」

 

 ジーナスの言葉を止めるようにミネルバが言った。

 

「『照れ隠しで気持ちを隠しているのかも知れないが、そうやってダラダラと偽り続けていたら、その大切な何かを失うまで何も出来ないぞ』と、ジーナス様が死んだと思っていた私には、その言葉が深く刺さりました」

 

 後悔するようにそう言うミネルバ。

 

「今回のような件はいつかまた起こるかも知れません。そこで本当にジーナス様が死んでしまうこともあるかも知れない……そう考えたら、怖くなって……。もう気持ちを伝えないという選択を取ることが出来なくなってしまったんです」

「そうか……」

 

 ミネルバの気持ちを聞いたジーナスは重々しくそう答える。

 そんなジーナスに、ミネルバは不安そうに言った。

 

「それでジーナス様、返事を聞かせてください……」

 

 処刑を待つ罪人のようにその時を待つミネルバ。

 そんなミネルバにジーナスが返す言葉は一つだった。

 

「私も君が好きだ! ミネルバ! 私の妻になってくれ!」

「――っ!! ジーナス様ぁ!」

 

 そう言って抱き合う二人。

 その部屋に一人の従業員が入ってくる。

 

「ジーナス様! 失礼します!」

 

 扉が開いていたため、そのまま中に入った従業員は、ベットの上で抱き合うジーナスとミネルバを見て、驚いて声を上げる。

 

「こ、これは!? 本当に失礼しましたっ!?」

 

 そう言って逃げ出そうとする従業員。

 それを「待て!」とジーナスが止めた。

 

「何のようだ?」

「え、えーと、はい。商会長を尋ねてソフィーという貴族のお嬢様が訪れています。それに対する対応を聞きに来た次第です」

「……そうか、直ぐに出迎える、打ち合わせ室で待たせておいてくれ」

「はい! わかりました!」

 

 そう言って従業員は駆け出していった。

 彼が去った後にミネルバが言う。

 

「ソフィーというのはもしかして……」

「ああ、私を誘った少女だ……会いに行こう」

 

 そう言うと二人は準備を整えて、ソフィーを待たせている打ち合わせ室へと向かい、そしてその扉を開いた。

 

 部屋の中にいたのはソフィーとその両親だった。

 その中でソフィーがまず先に深々と頭を下げた。

 

「すみませんでした。あの時のわたしは体が悪霊に操られていたんです。それでその気も無いのに、貴方を誘って危ない目に合わせてしまいました」

「申し訳ありません」

 

 そう言ってソフィーの両親も頭を下げた。

 それを見て、ジーナスは手紙の件が事実だと理解する。

 ソフィーが謝ったこともあるが、ソフィーを演じることを止めていた悪女と、今のソフィーでは身に纏う雰囲気が違っていたからだ。

 

「気にすることはないよ。銀仮面という方からの手紙で、全ての詳細がわかっているというわけではないが、大体の事実は私も把握したからね」

「銀仮面様が……」

 

 ジーナスの言葉に顔を上げたソフィーは嬉しそうにそう言った。

 そして、その表情を見てジーナスは理解する。

 

「そうか、君は銀仮面のことが好きなんだね……」

「は、はい……」

 

 そのジーナスの言葉にソフィーは顔を真っ赤にして答えた。

 それを見て、ジーナスの心はほっこりと温かくなった。

 

 そして理解する。

 こんな可憐な少女の体を貪ろうとしていた、自分がどれだけ醜く、そして罪深い存在なのかと言うことを。

 だから、自然とその謝罪の言葉は口から出た。

 

「むしろ、私の方こそすまなかった。誘われたこととは言え、君のような成人もしてない少女を相手に、自分の欲望をぶつけようとしてしまった」

「ジーナス様を許してあげてください……!」

 

 そう言ってジーナスとミネルバは頭を下げる。

 それを見てソフィーはぶんぶんと手を振って言う。

 

「気にしていないです! 銀仮面様が助けてくれたから、何もありませんでしたし、わたしの方は何も問題はありませんから」

 

 そんなソフィーの発言に追従するように父親が言う。

 

「全て娘の体を乗っ取った悪女が悪いんだ。ここらでお互いに全てを水に流して、忘れることにいたしませんか?」

 

 下手に娘が男を誘ったという評判を残されても困る。

 そう考えた彼の言葉の意味を、歴戦の商人であるジーナスも理解して頷く。

 

「そうですね。今日は何も起きなかった……お互いにそう言うことにしましょう」

 

 話はそれで終わりとなる……誰もそう思った中でソフィーが言う。

 

「あの……ジーナス様が王都でも指折りの商人だと聞いてお願いがあるんです!」

「ソフィー!」

 

 上手く話が纏まったのに突如として頼み事をした娘を窘める父親。

 だが、それでソフィーは止まらない。

 

「わたしが行っているナルル学園では……銀仮面様のファンクラブがあるんです! そこでは銀仮面様を探すことも含めて、様々な活動を行っていると聞いてます!」

「ほう。銀仮面のファンクラブが……」

 

 ジーナスが興味深そうにそう言う。

 悪くない感触だと感じたソフィーは押し切ることにした。

 

「でも、学生だけじゃ、活動に限界があると思うんです! だから――!」

「パトロンになって欲しいと?」

 

 そう鋭い目でソフィーを見るジーナス。

 ソフィーはそれに怯みながらもどうどうとしながら言う。

 

「――はい!」

「そうか。……うん。構わないよ。私も彼には大切なことに気付かせて貰った恩があるからね」

 

 そう言ってジーナスはミネルバを見た。

 ジーナスに見られたことでミネルバは頬を赤く染める。

 

「君達のファンクラブが……どれだけ彼の役に立つかはわからない。でも、それが彼の名声を広め、彼のように人助けへと繋がるのなら……、私は惜しむことなく君達へと協力しよう」

 

 そう言ってジーナスは手を差し出した。

 

「これからよろしくね。ソフィー様」

「はい! こちらこそよろしくお願いします! ジーナス様!」

 

 こうしてゲームの時とは形を変え、ソフィーとジーナスの協力関係は生まれ、王都でも有数のパトロンを得た銀仮面ファンクラブは、急速にその勢力を肥大化させていくことになるのだった。

 

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