エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
バーグが過去を思い出していると、彼の持つ水晶に通信が入った。
これは空間魔法を使用した遠距離通信を行う水晶で、希少なものだが公爵家など高位の貴族なら一つや二つ持っているものでもある。
バーグは第二王女派の協力者となる過程で、ダルベルグ公爵からこの水晶を受け取っており、定期的に連絡を取り合っていたのだ。
「バーグ! これはどういうことだ!」
激怒するようにダルベルグ公爵が言う。
それにバーグは辟易としながらも答えた。
「最近、王都に邪魔者が現れたのだ。その影響で少しばかり、想定よりも進捗に遅れが出る形となっている」
そのバーグの言葉にレディシアが突っ込む。
「少し? これだけ失敗を重ねておいてそんなことを言うのかしらぁ」
その言葉にバーグは内心で舌打ちをした。
(下等種どもが……! つけあがりよって……!)
「我等魔族の力があれば取り返せる程度のことだ。それに上手くいっていないのはそちらも同じだろう? 中立派を崩すと息巻いていたが、その殆どを、得体の知れない輩に持って行かれたそうじゃないか」
「銀仮面……!」
ぎりっとレディシアが怒りで歯を噛みしめる。
バーグが中立派や第一王女派に対して様々な陰謀を企てる一方で、レディシアがそれで弱った中立派達を取り込んでいく算段となっていた。
しかし、突如として現れた銀仮面によってその計画は打壊する。
中立派や第一王女派は銀仮面によって救われ、それらが集まって作られた銀仮面ファンクラブは、他の中立派も巻き込んで一大勢力へと成長していたのだ。
「レディシア、その銀仮面を利用することは出来ないのか?」
ダルベルグ公爵が孫に向かってそう聞く。
レディシアは苦々しい顔をしながら答えた。
「一度、愚か者を唆して銀仮面を名乗らせわぁ……。けど、彼奴らは銀仮面を見極める何らかの方法があるのか、直ぐに対応された上に、同じ事が起こらないようにメジーナに対応されてしまった……悔しいけど彼奴は優秀だわぁ……」
メジーナは第一王女派の優秀な文官の娘だ。
それもあって頭が切れるため、第二王女派が警戒する人物の一人だった。
実際にメジーナはただの愚か者の暴走の裏に、第二王女派がいることに気づき、悪用されない為に、わざわざ校門で見せしめを行ったあと、第一王女派や中立派を纏めて、銀仮面ファンクラブを結成したのだ。
それによって拮抗していた両者の勢力が、第一王女派へと傾くことになっており、現在の第二王女派は追い込まれた状態になっていた。
「同じ手はそうは使えんか……」
レディシアの話を聞いたダルベルグ公爵が考える。
銀仮面ファンクラブの厄介な所は、表向きはどちらの派閥にも所属しておらず、銀仮面という英雄的な存在によって幅広く支持を集められるところだ。
幾ら派閥闘争があると言っても、銀仮面というどちらの勢力にも所属していない相手に対して、感謝をする気持ちを捨てろなどと命令することは出来ない。
故に何不自由することもなく、派閥に所属する者を増やすことができ、更にメジーナがトップであることから、その全てがいつでも擬似的な第一王女派に転用できるような状況にあるのだ。
第二王女派にとってこれほど厄介な相手はいないだろう。
「そもそも、銀仮面というのは何者なんだ?」
バーグの口からそんな根本的な疑問が出てくる。
だが、その問いに答えられる者はいなかった。
「わからないわぁ。ただ一つ言えるのは恐らく第一王女派ということだけ」
「あれだけ、ワシらが陰謀で潰そうとした相手を救っているのだ。秘密裏にユーゲント公爵によって結成された特殊部隊と考えるのが筋だろうな」
実際にはフレイは第一王女派ではない中立派だ。
しかし、ゲーム時代の各イベントの裏設定による黒幕が、この第二王女派であるダルベルグ公爵とバーグによるものだったため、攻略対象を救おうとすればするほど、第一王女派を助けるという状況になっているだけだった。
だが、そんなことを知る由もない彼らは、銀仮面をユーゲント公爵が用意した特殊部隊の人間だと思い込んでいた。
仮面で顔を隠しているのは、こうやって人々の象徴にすることで、中立派を自派閥に難なく取り込むためのものなのだと。
「お前の所の人もどきは何か情報を得ていないのか?」
ダルベルグ公爵がそうバーグに聞く。
それを聞いてバーグは思い出すようにしながら言う。
「ラース……いや、この場ではユーナという方が良いのかな? まあ、どちらにしろ、彼奴は銀仮面の正体に関する情報は何も持っていなかったな」
そう、ラースとユーナは同一人物だった。
いや、正確に言うなら一つの体を共有するそれぞれの人格と言うべきだろう。
魔族の側面であるラース、人の側面であるユーナ。
それぞれの人格ごとに姿も変わり、それぞれの力を使う形で、彼女達は共生するように今まで生きてきたのだ。
だが、ユーナがラースを知らなかったように、意識の主導権はラースにある。
だからこそ、ユーナが見聞きしたものはラースも知れるが、ラースが見聞きしたものはユーナが知れない状況にあった。
ラースはそれを利用して、第一王女派の情報を抜いていたのだ。
「っち! 相変わらず役に立たないわねぇ……」
バーグの報告を聞いたレディシアが思わずそう呟く。
そして、それに追従するようにダルベルグ公爵が言った。
「ラースとして活動させるために警備に穴を開けるのも手間なのだぞ? このまま役立たずに使い続けるほど、軽視していいリスクではない」
ユーナは魔族の力を持っていたことで、フェルノ王や姉であるクリスティアから、距離を置かれている状況にある。
警備や私生活などは、王から派遣された者達が行い、王たちやそれに近しい者は、なるべくユーナに関わらないように生活していたのだ。
だからこそ、ユーゲント公爵派に紛れ込んだスパイを使って、それらの警備を自派閥のスパイだけにすることは難しくはなかった。
だが、それも第一王女派の情報を抜けることと、もう一つの計画の為に行っていること、さすがにスパイを動員し続けるのは、リスクも費用もかかるのだ。
「あちらの計画の方は順調に進んでいるんだろうな」
「それは勿論。アレを実行犯として行動させているからな。十分に証拠も罪も溜まっている」
ユーナを使ったもう一つの計画……それはラースに多くの人々を害させて、その上でユーナがラースであると明かして、第一王女派への信頼を一気に潰そうという悪辣な計画だった。
バーグはその為にラースを実行犯にして、王都で様々な騒乱を引き起こし、メジーナのような様々な人々を不幸のどん底に落としてきたのだ。
その殆どが、銀仮面によって妨害されたり、最終的に対象を救われたりしているものの、ラースが実行したという結果までは消せない。
いつでもその爆弾を爆発させることは可能だった。
「本当に上手くいくのかしらぁ? あの子は最近、フレイ・フォン・シーザックに入れ込んで、変わりつつあるみたいよぉ? ラースが出てきやすいようにわたくしが行っている心を弱めるための虐めも、最近は難なく対応されてるみたいだし」
「フレイ・フォン・シーザック……ディノスを殺した男か……」
バーグがそう重々しく呟く。
それを聞いたレディシアは良いことを思いついたように言った。
「バーグ! 貴方、フレイを殺してきなさいよぉ。人より優れた上位種の魔族なんでしょう? それくらい簡単に出来るわよねぇ?」
そのレディシアの言葉にバーグは考え込んで言う。
「ディノスは――我等魔族の中で――」
バーグは言い辛いことを言うように言う。
「最強に近い存在だった」
「そこ、我等魔族の中で最弱とか言うところじゃないのぉ?」
思わずレディシアからそんな突っ込みが飛ぶ。
だが、バーグはそれを取り合うことなく続ける。
「転移の力を使い、オドが少ないものなら、体をバラバラに転移させることで、相手を瞬時に即死させることも出来るのだぞ? それに魔法なども転移で跳ね返せるし、体にワープゾーンを作ることで、物理攻撃をすり抜けることすら可能だ」
バーグはかつて対面したディノスを思い出しながらそう言う。
「あげくの果てに相性が悪くなったら何処にだって逃げることが出来る……これを最強に近いと言わずに、何を最強に近いというのだ?」
「それは、確かにそうねぇ……」
「彼奴を倒せるのは、転移を封じる聖女の結界くらいなものだった。新しく生まれた聖女を殺しにいったら、そのまま殺されたというギャグみたいな死に方をしたが、それでもその実力は本物だった」
そしてバーグは警戒するように言った。
「だからこそ、その魔道具を持っているフレイを軽視は出来ん。何処までディノスの力を再現出来るかは知らんが、フレイ・フォン・シーザックは明らかな脅威だ。この私でも勝てない可能性は……ある」
「へぇ……見下している人間に負けるかもなんて言うなんてねぇ……」
レディシアが興味深そうにそう言った。
バーグは不機嫌になりながらもそれに答える。
「俺は人間は下等種だと思っている。だが、同族の力である魔道具を使いこなしているのなら、話は別だ。……昔、魔王城にある資料を読んだことがあるが、人は魔道具を使えば使うほど、その性質を取り込み、より強い力を使えるようになるそうだ」
それはゲーム的には魔道具に設定された熟練度というものと同じ仕組みだ。
使うほどに熟練度が溜まり、ランクが上がると魔道具に備わった、スキルなど新しい力を得ることが出来る仕組み。
フレイの使う空蝉の羅針盤は、レシリアルートのクリア特典であり、ゲーム上はただの転移アイテムとしてしか使えなかったが、現実であるこの世界では他の魔道具と同等の仕組みを持っており、使えば使うほどにフレイの転移を扱う能力や、転移の方法などが強化されていくことになっていたのだ。
「かつて勇者に初代魔王が敗れた時は、そう言った魔道具の力を引き出した人間達が、勇者と共に戦ったことが決め手となったらしい」
勇者達は魔族や魔王に対して最初は劣勢だった。
だが、勇者達が倒した魔族の魔道具を仲間達が使い、それを使いこなすことで、勇者達は徐々に形勢を逆転させて魔王を討つことが出来たのだ。
「だから、私はフレイ・フォン・シーザックとは戦わない。こんな王国の派閥争いで、私の命を賭けるのは馬鹿げているからな」
「ふん、使えん奴め!」
ダルベルグ公爵が嫌悪感をあらわにしてそう言う。
だが、所詮人ごとで、人間を苦しめて楽しめればいいバーグは、そんなダルベルグ公爵の嫌みを軽く受け流した。
「それより、お前達はこれから如何するつもりだ? このままでは中立派を向こうに持っていかれて、どうしようもなくなるのではないか?」
そんなバーグの言葉に二人は苦虫を噛みしめる表情をした。
そしてダルベルグ公爵がしばらく考えた後、何かを決意したように言う。
「クーデターを起こす」
「お爺様!?」
さすがに想定していなかったのか、レディシアがそう声を張り上げる。
「レディシア、このままではじわじわと削られて、ワシらが負ける。なら、まだ勢力が残っている間に勝負に出なければならん」
「けど、それじゃあ、中立派も相手にすることになるわぁ」
「だから、銀仮面ファンクラブを使うのだ」
「どういうことぉ?」
レディシアが思わずそう問い返す。
それにダルベルグ公爵は、にやりと笑って答えた。
「銀仮面ファンクラブを扇動し、友好を深めるためのお茶会という形で、セルジオン草原に向かわすのだ。そして、そこを魔物で襲い、ユーナにラースとなって貰う」
「なるほど……中立派を襲ったのは、第一王女派で実は魔族だった、ユーナだという事にするということだな?」
「その通り、そうすれば中立派と第一王女派は混乱し、直ぐに行動に出ることは出来なくなるだろう」
「でも、そう上手くはいくかしらぁ? 彼女達は銀仮面ファンクラブ。あの子がラースであろうとも、もはや大して気にしないんじゃない?」
学園で銀仮面ファンクラブの熱狂を見ていたレディシアは思わずそう言った。
彼女達に取って、ユーナはどうでもいい存在だろうと。
「それにユーナがラースにならない可能性もあるわぁ」
そして成長しているユーナがラースにならない可能性も僅かにある。
そうなってしまえば作戦は完全に打壊する。
「確かに最近のラースは意識がユーナに奪われかけることがあるらしい。人の意識に負けるとは魔族の面汚しだが……そこまで心配なら私の血を使えば良いだろう」
「貴方の血?」
レディシアの疑問にバーグが答える。
「私とラースは親子だ。弓矢でもナイフでも何でも良いが、私の血をユーナに打ち込めば、ラースの力を刺激し、強制的にラースへと変化させることが出来るだろう」
「少量であろうとも、ユーナの血に貴方の血が混じれば、それでラースへの変化が始まってしまうということねぇ?」
「そうだ」
バーグはレディシアの疑問にそう答えた。
そして、ダルベルグ公爵がもう一つの懸念点についても答える。
「レディシアよ。クーデターは銀仮面ファンクラブのお茶会に合わせて起こす」
「どうしてぇ?」
「奴らはワシらの介入を疑っているだろう。だからこそ大勢の令嬢や令息が参加するお茶会となれば、奴らは中立派やユーナを守るために戦力を派遣せざる終えない。そしてそこで騒動を起こせば容易に王都へと戻ることは出来ないはずだ」
「なるほどぉ……そこを狙うってわけねぇ……」
「そうだ。そうして戦力が減った王都へと攻め入り、王城を落として、王にレディシアへと王位を譲るように強要する」
「でも、わたくし達だけの戦力でそう上手くいくかしらぁ?」
「そこは、お前も協力してくれるのだろう? バーグ」
そう言葉を向けられたバーグはにやりと笑った。
「フレイがいないと言うのなら構わない。それに興味があったんだ。あの女の子供であるクリスティアにな」
そう言って嬉しそうにバーグは舌なめずりをした。
「いらない王女ならどれだけ壊しても構わないだろう」
「面白いわねぇ。わたくしもお姉様には散々苦労をさせられたのぉ。だから、お姉様が恐怖に歪んで壊れていく姿を眺めたいわぁ」
「では、一緒に行くとしようか、レディシア姫?」
冗談めかしてバーグはそう笑った。
そうして、悪の会議は続いていく。
細部を詰めた彼らは、来る日に向けて準備を始めた。
王国に騒乱が巻き起こされる日は――近い。
ディノスは、一番最初に相性差であっさりと倒した奴が、実は作中でもトップクラスの強者だった、というパターンの奴