エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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対話

 

「う……ここは……」

 

 わたしはそう言って目を覚ました。

 周囲はよく分からない空間だ。

 真っ白で何も存在していない。

 

「わたしは死んだの……?」

 

 その光景を見て思わずそんなことを思った。

 最後に掠めたのは暗殺者のナイフだった。

 もしかしたらそこに毒が塗られていて、それによってわたしは死んでしまったのかもしれないと思う。

 

「ようやく起きたか」

 

 そんなわたしに声を掛ける者があった。

 わたしがそちらに目を向けると褐色の肌を持った魔族がいた。

 

「貴方は……」

「オレはラースだ」

「ラース? もしかして貴方は――」

「そうだ。もう一人のお前だ」

 

 そう言ったラースをわたしはまじまじと見た。

 そして納得したように呟く。

 

「そうですか。これがわたしの魔族の力なんですね」

「ああ」

「それで……ラースはわたしに何の用ですか?」

 

 わたしのその言葉をラースが鼻で笑う。

 

「決まってる……お前の体を頂きに来たんだよ!」

 

 そう言うとラースはわたしへと殴り掛かってきた。

 わたしはそれを同じように手甲で殴って防ぐ。

 

「爆ぜろ!」

「っ!?」

 

 ラースの拳が爆発を起こし、わたしは吹き飛ばされる。

 わたしは何とか体勢を整えながら魔法を放った。

 

「アイスショット!」

「無駄だ!」

 

 ラースはわたしの魔法の礫を炎によって消し飛ばす。

 

「貴方は! ずっとわたしの体を利用してきたのですか!」

「ああ! そうだとも! 寝静まった後、お前の体を利用して! 親父の命令を果たすために活動してきたのさ!」

「その親父というのは……!」

「フェルノ国王なわけないだろ! オレ達の父親……魔族のバーグさ!」

 

 炎と氷、拳と拳、が交差する。

 互いの力量にそれほど大きな差がない。

 それ故に生まれた膠着状態の中で、わたし達は対話を行う。

 

「それはわたしの父親ではありません!」

「ははは! これだけ魔族の力を体に宿していて! よくそう言えるな!」

「――! 力が……!」

 

 ラースの言葉を聞いた瞬間、重くなった体に思わずそう呟く。

 わたしはそれに驚き、一瞬の油断を見せたことで、ラースの拳がお腹に直撃することになってしまった。

 

「っ……!」

「ここはな……精神世界なんだ! 心が弱まれば力も弱まる! テメーは親父が父親だということを理解しているのに必死で否定したから弱くなったのさ!」

「それは……!」

 

 ラースの言うことは当たっていた。

 どれだけ嫌だったとしても、魔族の力が完全にわたしに受け継がれている以上、バーグという存在も父親の一人なのは認めざる終えない。

 

「いい加減諦めろよ! 何にもねーくせに抵抗するようになりやがって! オレにさっさと体を明け渡した方がよっぽど有意義に体を使えるぜ!」

「何もないなんてことは……!」

「ほら! また嘘をついた! 弱くなってんぞ! オメー!」

 

 ラースの炎が激しさを増す。

 一方でわたしの氷は弱まっていく。

 

「家族からは見放され! 周りの者からは腫れ物にされ! 学友からは虐められ! ユーナであることに何の意味があるって言うんだ!?」

 

 ラースのその言葉がわたしの胸に突き刺さる。

 

「そんな状況なら、いっそ魔族として楽しく暮らそうぜ! やりたいだけぶっ壊して! 好きな奴がいたら其奴を犯して! 自由奔放に自分らしく生きる! そうやって生きるのさ! それでこそ人生を楽しめるってもんだろ!」

 

 そう言ってラースはわたしに笑いかけた。

 

「安心しろよ! 時折お前に変わって、お前にもいい思いをさせてやるからさ!」

「わたしは……」

 

 人生の意味なんて考えたこともなかった。

 確かにラースが言う通り、これまでの人生は辛いことだけだった。

 だったら、もう全てラースに任せて、自由奔放に生きる彼女の姿を眺めながら、わたしも自由に生きてるんだと誤魔化して、ラースのお零れに預かって行く方が、今よりももっと有意義な人生に……。

 

 そう考えた時、師匠の言葉が頭をよぎった、

 

『師匠として言っておく。気持ちをわからないままにしておくな』

『取り返しの付かない決定的な場面は、こちらの事情と関係無く、突然自分達の前に現れて勝手に去って行く』

『その時に自分の心すらわからない状況だと、本当は得たかった大切な何かを取りこぼすことになるぞ』

『よく考えてみるといいさ。自分自身の心に問いかけてな』

 

「わたしの……気持ち」

 

 わたしは思わずそう呟いていた。

 わたしが師匠に、他の女の弟子がいるかも知れないと思って、あんな言い方で問い詰めてしまったのは何でなんだろう。

 

 こんな戦いの中でそんな関係ないことが頭をよぎる。

 だが、それが今の状況で最も大切なことのような気がしていた。

 

 わたしが師匠の弟子になってから全てが変わった。

 師匠はわたしを弟子として大切にしてくれて、しっかりと指導してくれるだけじゃなく、親身になって色々な相談にも乗ってくれた。

 自分が教えられない分野も含めて、様々な経験が必要だからと、ただ二人っきりで修行するだけではなく、色々な人に教えを請いに行ったり、大勢の人と一緒に修行したりもした。

 

 そうした日々を送っていく中で、いつの間にかわたしは、師匠の弟子になったんだって、そう強く思えるようになっていったんだ……。

 そう思ったら、師匠の弟子だからという言葉が勇気になって、今までの自分のように内に籠もっているだけではなく、積極的に色々な人と話せるようになり、メジーナさんを含めて様々な人と知り合って、どんどんとわたしの世界は広がって行った。

 

 ――王女という看板だけがあって、何処にも居なかったわたしが、師匠の弟子という確かな居場所を見つけることが出来たんだ。

 

 わたしはきっとそれが奪われるのが嫌だったんだ。

 

 だからこそ、師匠に他の弟子がいるかもしれないと思って、神経質になって師匠を問い詰めてしまったんだ。

 

 それに気付いた時、ぼんやりとした頭が晴れ渡っていくのを感じた。

 これこそが、私の気持ちなんだ!

 そして同時に気付く、今までのわたしの思考のおかしさに。

 

「わたしに何かしていましたね?」

「なっ!? 何故だ!? 主導権はオレが握っていたはずなのに……!」

 

 わたしとラースは別人格だ。

 だが、同じ肉体を共有している。

 だからこそ、恐らく肉体の主導権を持っている側の思考に、もう一人の人格は引きずられて、洗脳に近い状態になってしまうのだろう。

 

 それが先程までのわたし――だけどもう負けない!

 

「もう、わたしは何もないわけじゃない! 一人でもない! わたしには取られることを無意識に嫌がれる! 大切な居場所が出来たんだ!」

 

 そうだ! わたしはもう何もない空っぽの存在じゃない!

 師匠のおかげで、わたしにはしっかりとした居場所が出来た!

 ちゃんとしたわたしという存在がそこに出来た!

 

 そこまで考えた所で、わたしは考えを改めた。

 

 いや、そうじゃない。

 気付かないだけで今までもずっとあったのだ。

 

 遠ざけながらも、わたしのことをずっと気に掛けて、見守り続けてくれた、お父様やクリスティアお姉様の優しさがある!

 わたしは王女だった時も、しっかりとそこに居たのだ!

 

「だから! わたしは負けない! 自分の心を理解したから! 本当に得たかった大切なものである! 皆との日々は! 絶対に奪わせない!」

「クソぉおおお!」

 

 炎は弱まり、氷が強くなっていく。

 形勢は完全に逆転し、わたしがラースを押していく。

 その中でわたしはあることに気付く。

 

「始まった時はわたしと貴方は互角だった! 貴方も本当は悩んでいることがあるんじゃないですか! だからこそ、自分がわからないわたしと互角だった!」

「――っ! オレにはそんなもの……!」

「弱くなってますよ! ラース!!」

「がはぁっ!」

 

 わたしの拳がラースにクリーンヒットする。

 ラースはお腹を押さえながらわたしを睨み付ける。

 

「本当はバーグの言うことを聞くのが嫌なんじゃないですか? 魔族の力があるからと、バーグを父親と認めるのが嫌なんじゃないですか?」

「黙れ!」

「貴方は――バーグの道具として過ごす自分が嫌いなんじゃないですか?」

「黙れ黙れ黙れ! 黙れぇええええええ!」

 

 ラースが拳に炎を集め、逆にわたしは氷を集める。

 お互いの渾身の一撃をぶつけ合わせた結果は、あっさりとラースの炎を消し飛ばし、ラースを穿ちながら吹き飛ばした。

 

 白い空間を転がるように倒れていくラース。

 瀕死の重傷から、起き上がれない彼女は、自らを笑うように言った。

 

「かはっ。は、ははは……心には嘘をつけねーか」

 

 何処か諦めたようにそう言うラース。

 近づいてくるわたしを見てラースは言った。

 

「そうだよ。親父の為だって言われるがままに働いてきたが、そんなことに最近は嫌気がさしてきたんだ。彼奴は人間を馬鹿にするが、フレイみたいに見所のある奴や、銀仮面みたいなうぜーけど強いやつもいる。……人間も馬鹿にしたもんじゃない」

「ラース……」

「そう思い始めたら、自分という存在が、バーグによって全て作り出されたものだと感じるようになってきた。ははっ、空っぽなのはオレの方だったってわけだ」

 

 そう言うとラースは涙を流しながら言った。

 

「借り物の体に、親父の力、言われるがまま身につけた思想に、道具として言われたことをこなすだけの生き方……。オレには何一つオレのもんがねぇ。オレは一体なんだ? オレの人生は何の為にあるんだ?」

 

 そう言ってラースは床を叩いた。

 

「オレは! これが自分だと思えるものが欲しかった! だから親父の――バーグの言われるまま行動すれば、魔族としての自分が手に入ると思ってた! でもそんなものは手に入りはしなかった! オレはそれを理解してしまった!」

「……」

「人も悪いものじゃない。いっそのこと、魔族であることを捨てて、普通の人間として、誰かに恋したりとかそういうのを楽しめば、これがオレなんだって、ここにオレは存在しているんだって、思えるようになれたのかもしれないな」

 

 ラースは諦めたようにそんなもしもの話を語る。

 そしてわたしに向かって言った。

 

「さあ、速くオレを殺せ。そうすればオレという邪魔者は消えて、この体はお前だけのものに……あるべき姿に戻る」

 

 わたしはそんなラースの元へと座り込み、その手を握った。

 

「ユーナ」

「わたしは貴方を殺しません――消しません」

「何を言っている! オレが残り続けるぞ!」

「そうするつもりもありません」

 

 わたしの毅然とした態度に、ラースが混乱した表情を見せる。

 そんなラースに、わたしは言った。

 

「一つになりましょう」

「……本気か?」

「はい! 貴方はきっと魔族の力をわたしが拒絶したために生まれてしまった存在。そのせいで、これまでずっとバーグによる負の部分を負担させてしまった」

 

 わたしの中に二つの人格がいる理由。

 それはきっとそう言うことなのだろうと思う。

 

 母を魔族の力で焼き殺したわたしは、無意識のうちに魔族の力を嫌悪し、それを切り離すことで自らの安寧を保とうとした。

 そのために、魔族の力と人の力でそれぞれ分けて人格を作り、それが今まで続いてきてしまったのだ。

 これまで魔族の力であるラースが優勢だったのも、魔族だから支配されてしまったというわけではなく、人の力であるわたしが全てを知るのを怖がっていたから。

 

 今こうして主導権を取り返して、わたしはそれに気付くことが出来た。

 

「だから、もう終わりにしましょう。どちらもわたしなんです。一つになって、それでそこから二人でやり直しましょう?」

「……はっ! 人間側のオレはとんだお人好しらしいな」

 

 そう言うとラースは、わたしの手を握り返してきた。

 そしてそのラースが、徐々に粒子となって、わたしに吸い込まれる。

 

「どちらかが消えるしかないと思ってたが……こうなるなんてな。オレはお前と一緒に、本当のユーナとしての新しい人生を楽しむことにするよ」

「ええ! そしてバーグを一緒にぶっ飛ばしてやりましょう!」

「ああ!」

 

 そうしてラースは完全にわたしに吸収された。

 わたしは欠けていたものが満ちる感覚を得ながら、意識を取り戻し始めた。

 




[ゲーム]
 ラース主体、人に憧れたラースがアレクを好きになり、一度だけユーナに体を明け渡してアレクとやらせることによって、ユーナをアレク好きにさせてアレクが好きという気持ちでユーナを統合、ラースはそのまま人好きな魔族となった。

[本編]
 ユーナ主体、戦う強さを得たユーナが、お互いのもろさを理解し合い、それでも立ち向かうとする気持ちでラースを統合、ユーナはそのまま戦う意思を持った人族となった。


 と言うわけで、最終的に選ばなかった方が消滅して、一人に統合されちゃうので、片方しか手に入らない系のヒロインでした。
 インフィニット・ワンだと、ユーナルートがないので、強制的にラースルートしか選択出来ません。
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