エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

8 / 132
妹との日々

 

 あれから二年の月日が流れた。

 今日も俺は庭先で剣を振り続けている。

 

 この世界は、ゲームでありがちななんちゃって中世世界であり、生活レベルなどは中世を大きく上回って現代的な部分があるものの、魔物などの存在もあり、血生臭い部分も多く、モテる為には何よりも個人の武力が大切なのだ。

 正直に言えば、よくあるなろうのトロフィーヒロインのように、武力だけを目当てにこびてくるような相手などは、俺のヒロインに相応しくないので、そこまで強くなる必要はないが、最低限の強さがないと恋愛対象として見られない可能性がこのような世界だとあるために、己の腕を鍛えているのだ。

 

「ふぅ……。まあ、こんなものか」

「にぃ……にぃ!」

 

 素振りを終え、汗を拭いていた俺に、そう言って近づいて来たのは、妹であるレシリアだった。

 勿論、このレシリアはゲームで登場したレシリアではなく、俺がディノスから守った方のレシリアであり、あれからすくすくと成長して二歳になっていた。

 

「にぃ! ごはんだよ!」

「分かった。直ぐ行く」

 

 歴代最高の聖女の才を持つレシリアだが、実は聖女以外の才能もとてつもなく高く、あっという間に言語を理解して、舌っ足らずではあるもののペラペラと喋ることができるようになっている。

 そのため、このようにリノアの伝言を伝えて来ることもよくあったのだ。

 

 剣を片付けて戻ってくるとニコニコしながらレシリアがその場で待っていた。

 だから、俺は思わずレシリアに声を掛ける。

 

「待ってたのか、先に食堂に行って良かったんだぞ?」

「ん! にぃにのことなら幾らでも待てるもん」

 

 そう言って俺に抱きついてくるレシリア。

 

「ちょ、俺は汗臭いぞ」

「ん~? にぃにの汗は良い匂いだよ~」

 

 そう言ってグリグリと頭を擦り付けてくる。

 それを見て俺が思ったことは一つだった。

 

 うちの妹! ちょ~かわいい!

 

 本当は汗臭いだろうに兄を慕ってこう言ってくれるのだ。

 普段から見せる天真爛漫さもあって、転生前に一人っ子だった俺としては、妹とはこんなにも可愛いものなのかと打ち震えることになっていた。

 そしてそれと同時にこの妹を助けて良かったと心の底から思うのだった。

 

☆☆☆

 

 家族での食事を終え、その場での会話が始まる。

 慣れない事務仕事で苦労しているジークや、聖女の力を使った病人の治療などで忙しいリノアとまともに揃って話せるのはこの食事の時くらいなものだ。

 だからこそ、俺は唐突に切り出した。

 

「所で父様、母様、俺はもう一人、妹か弟が欲しいです!」

 

 俺がこの話を持ち出したのは理由がある、と言うのも、本来なら既にゲームでのレシリアであるもう一人の妹が生まれているはずだからだ。

 恐らく本来のレシリアが俺の影響で生き残った為に、新しくレシリアを作り直す必要がなくなったことから、子作りをしなくなったということなのだと思うが、それは端的に言ってしまえば、二人目のレシリアの存在を、間接的に俺が消してしまったということでもある。

 

 レシリアを助けたこと自体に後悔ないし、生まれないなら生まれないで仕方ないかなとも思うが、それでもゲームでのレシリアをこの世界でも誕生させるために、できる限りのことはするべきだと思ったのだ。

 

「そうね~。もう一人作っちゃう?」

「いいかも知れないな」

 

 乗り気なリノアとジークがそう口にする。

 これでどうやらあのレシリアも生まれそうだ。

 

 そう思ったその時――。

 ガンという固いものを机に叩きつけた音が響いた。

 

「れ、レシリア……?」

 

 俺が思わずその方向へと目を向けると、レシリアが手に持ったスプーンを机に突き刺していた。

 まだ二歳なのに身体強化でも使ったのだろうか、スプーンは木製の机に深々と埋まり、その威力の高さを物語っていた。

 

「……いるの?」

 

 誰もが恐る恐るレシリアを見る中でそうぽつりと呟く。

 そして俯いたレシリアはこちらへと目を向けた。

 その瞳は、透き通った銀瞳のはずなのに、まるで虚無を覗き込んでいるかと思ってしまうほどのよどんだ瞳だった。

 

「レシィ以外の妹、いるの?」

「い、いらないよ! お、俺に取っての妹はレシリアだけ! レシリアが居ればそれだけで充分さ!」

 

 そのレシリアが放つ圧倒的な圧に怯えながら、俺は必死に前言撤回をした。

 その俺の言葉に両親も頷く。

 

「そ、そうね……。次期当主のレシリアはいるし、無理に作る必要はないわね!」

「そ、そうだな!」

 

 二歳児が放つ圧にS級冒険者と聖女が怯えながら追従する。

 その話を聞いたレシリアはそれまでの様子から打って変わって、晴れ晴れとした笑顔を俺達に見せた。

 

「だよね! にぃにの妹はレシィだけがいればいいよね!」

 

 そう言って、にこにこしながら、刺さったスプーンを抜き取る。

 それを見て俺が思ったことは一つだった。

 

 うちの妹! ちょ~こわい!

 

 確かに妹の自分がいるのに更に妹か弟が欲しいなんて、自分を無視しているようなものだから怒って当然とはいえ、ぶっちゃけ怖すぎだろうと思う。

 同じ事を考えたのかリノアとジークも何も喋らなくなってしまった。

 

 ゲーム時代でもこの家の中心はレシリアだったが、今世でも別の意味でこの家のヒエラルキーのトップはどうやらレシリアらしいということを思い知らせた感じだ。

 

 ゴメンよ。ゲームのレシリア。

 どうやら、この世界では君が誕生することは無理そうだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。