エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
呼び出しを受けた俺は、兵士の案内で王城の一室に来た。
そこでは既にクリスティアがいて、席についてこちらを待っていた。
「呼び出してすまないな」
「いや、むしろ助かりました」
俺はそう言ってクリスティアの対面の席に座った。
そして、クリスティアに問いかける。
「それで――何のための呼び出しでしょうか?」
「レディシアの件だ」
「レディシア様のことですか? なんでそれを俺に?」
「お前にも関係することだからだ」
「俺に?」
何でレディシアのことが俺に関係するのか。
確かにレディシアをぶっ壊してしまったのは俺だが、あれはクーデターを終わらせる戦いの中で起こった出来事。
王族であったとしても、敵であったレディシアの心がちょっと壊れたくらいでは、俺やシーザック家に対して何かしらの懲罰を科すことは出来ないと思うが……。
「そうだ。まずはレディシアの現状を説明しようか」
疑問に感じている俺の為に、クリスティアは一から説明を始める。
「レディシアの王位継承権は剥奪された」
「それはそうでしょう。あれだけのことをしたのだから」
「いや、それだけじゃない。フレイが助け出したアマーリエから、レディシアの出生に関わる真実が明らかになったのもその一員だ」
俺はその言葉を聞いてやはりそうなったかと思ったが、レディシアの出生に関する事実を俺が知っているのはおかしいので、内心の気持ちを隠しながら、クリスティアに対して、そのことについて聞く。
「出生の秘密――ですか?」
「レディシアは現王の子供ではなかった。ダルベルグ公爵派の陰謀によって、先王とアマーリエの間に生まれた子供だったんだ」
「なんと――! それをレディシア様は?」
「知らなかったらしい。知っていたのはアマーリエとダルベルグ公爵だけだ」
実は俺も知っていたけどね。
まあ、そんなことを口に出すわけもないので、俺はそのままふと思ったことをクリスティアに聞いた。
「それで、その事実は伝えたんですか?」
「ああ、伝えたよ。また野心を持たれても困るしな」
そう言ったクリスティアは何処か遠い目をしながら言う。
「そうしたら、彼奴は『なるほど、わたくしには元から何もなかったのねぇ……』と軽く口にした後は、それがどうでも良いことのように、普段の様子と変わらない様子で、何処かに向かって祈りを続けていたよ」
「そ、そうですか……」
何と言えばいいのかわからない状況に、俺はそれだけ呟いた。
「ともあれ、この国の法では、次代の王になった時点で、先王の子供達の王位継承権は破棄されることになっている。これからレディシアや周囲の者が野心を持ったとしても、その王位の簒奪に正当性はないと言うことだな」
「これで次代の王はクリスティア様に決まったということですか」
「まあ、そう言うことになるな」
何はともあれ、一安心だ。
クリスティアの側に立った以上、クリスティアに王になって貰わないと、シーザック家の今後に問題が出てくることになるからな。
そこまで思った所で、俺は首を傾げた。
「事情はわかりましたが、何処に俺が関わってくるんですか?」
「……レディシアはその出生から王位を得ることはなくなったが、それでも王家の血筋であることは変わらない」
「確かに……。そうですね。先王の子供ですから」
「故にレディシアをそのままにしておけないと言う事で、レディシアは王都から離して地方で隠棲させることになった」
おっと、何か良くない話の流れになって来たぞ……?
「そこで白羽の矢が立ったのがシーザック家というわけだ」
「いやいや、なんでそこでうちの家が出てくるんですか!?」
あんな爆弾みたいな存在をシーザック領で受け入れてたまるか!
そんな思いから、俺はクリスティアの言葉に猛反論する。
「何処かの地方に追いやりたいというのなら、ユーゲント公爵派の誰かの領地に送ればいいじゃないですか! そもそも、政治から遠ざけたいと言うのなら、出家させて王都の修道院にでも入れればいいでしょう!」
前世の世界でも政争に敗れた者が、政治に関わらないように、教会や寺院に出家させられて、表舞台からフェードアウトするのはありふれたことだった。
何よりも、ゲームでのレディシアもクリスティアルートで政争に敗れた後は、王都の修道院に出家して、そのまま余生を送ったはずなのだ。
それと同じ事をすればいいのに、何故地方送りという話になっているのか。
「それはだな……修道院に入れるだけでは、よからぬ者がレディシアを担ぎ上げて、また騒乱を起こしてしまう可能性があるからだ」
「は? 何で? ダルベルグ公爵派はもう壊滅したんでしょ? 確かにレディシアにはその価値があるかも知れないけど、この王都でユーゲント公爵派の監視を振り切ってそんなことをしでかせる勢力はもう――」
俺はそこまで話したところで、苦り切ったクリスティアの顔を見て、思わず言葉を止めてクリスティアに言う。
「……何ですかその表情は」
「後で話そうと思っていたのだが、もう一つお前に伝えることがあったんだ」
「ちょっと待ってください。もの凄く嫌な予感がするんですが……」
「その予感は当たっている」
そこまで言うと、クリスティアはため息を一つ吐くと言った。
「此度のクーデターは、魔族であるバーグが、フェルノ王国を滅ぼそうとして起こした出来事とされた」
「……は? ダルベルグ公爵は?」
「ダルベルグ公爵は、バーグに操られることで、騒乱に加担してしまった、加害者でもあり被害者でもある存在ということになった」
「うそ……だろ?」
王女への敬語も忘れて、思わず俺はそう呟いた。
クリスティアの話を纏めると、今回の件での主犯はバーグであり、ダルベルグ公爵派はそれを幇助しただけということだ。
しかも、ダルベルグ公爵に関しては、凶悪なバーグに操られて、仕方なくクーデターに参加したということになっている。
これでは――。
「結果として、魔族に操られていたのだとしても、騒乱に加担した罪は重いとして、ダルベルグ公爵は当主の座を降り、ダルベルグ公爵派の領地や利権の幾つもが取り上げられることになったが……ダルベルグ公爵派はまだ生きている」
「あり得ないだろ!? 国王はアマーリエからダルベルグ公爵が何をやったのかは聞いたんだろ!? それがどうしてそんな判断になるんだ!」
理解の出来ない思考に、俺は吐き捨ているようにそう言った。
「貴族を処断するには手順が必要になる! だからこそ、今回のような一網打尽出来る機会に、国を乱すような奴らは片っ端から消しておかないと不味いだろ!」
貴族が持つ権力というのは厄介だ。
ちゃんと悪事の証拠を用意し、それを持って糾弾しなければ、蜥蜴の尻尾切りをされたり、証拠自体を潰しにかかられて、糾弾出来なくなる可能性がある。
だからこそ、この国の膿とも言うべきダルベルグ公爵派は、確実に派閥全体を処断できる今回の機会を使って、残らず皆殺しにしておくべきだったのだ。
「災いの芽は双葉の内に刈り取らないといずれ手が付けられない大樹となるという言葉もある! クーデターを起こしたダルベルグ公爵派が、今回の温情ある措置によって改心する可能性は低い! だからこそ、今回のダルベルグ公爵派を生かす裁定は、ただ災いの種を未来へと残すだけの結果になるぞ!」
俺は考え直すようにクリスティアにそう言うが、クリスティアは俺から目を反らして、無念そうに言う。
「私もそう思う。……だが、既に父上が決定したことだ。いまさら、この決定を覆すことは出来ない」
「馬鹿な……! 何をどう判断したらそうなるんだ……!」
俺の憤りを受けて、クリスティアが語る。
「此度のクーデター。王城に攻め入られて、自らの命があと一歩で失われるかも知れないと言う状況が、小心者の父上に取ってはよほど堪えたらしい」
「だからこそ、ダルベルグ公爵派を潰さなきゃいけないという話だろ!?」
「普通はそう考えるだろうが、父上の考えは違った。父上はここでダルベルグ公爵派を執拗に糾弾して追い詰めれば、自暴自棄になったダルベルグ公爵派が、再びクーデターを起こして王城を攻めるのではないかと思ったのだ」
「その可能性はなくはないだろうが……ここまでのことは出来ないだろ」
今回の襲撃は万全の準備を行ってきたダルベルグ公爵派に、多数の魔物を用意出来る魔族が手を貸したからこそ、王城をあと一歩で落とせるところまで持って行けたのだ。
争いの中で大きく数を減らし、更にバーグが死んだことで、魔族による援軍も期待出来ないダルベルグ公爵派では、例え再度クーデターを起こしたとしても、王城の勢力によって容易く鎮圧されてしまうだろう。
そんな考えによる俺の言葉に、クリスティアは頷くと言う。
「確かにそうだ。だが、それでも再び攻められるかも知れないと言うことが、父上に取っては何よりも恐怖を煽ることだった。だからこそ、父上は全てをバーグのせいにすることで、ダルベルグ公爵派に温情を与え、奴らが自暴自棄になって再び自分の命を狙ってくる事態を防ぐことにしたのだ。それが今回の裁定の理由だ」
そこまでの話を聞いて、俺は放心するように言った。
「それは、つまり――日和ったということか」
「ああ」
反乱が怖いから、悪人を断罪せず許すことにした?
あり得ない……! それが為政者の立場にあるものの判断か!
自分が危険な目に合いたくないからとしたその判断で! 未来の世界でどれだけの国民が、ダルベルグ公爵派の悪事の犠牲になると思っているんだ!
自国の王がこんな弱腰で情けない奴だとは思わなかった。
確かに小心者とゲームの設定として出てきたが、それでもこんな確実に政敵を潰される場で、日和って相手を生かすほど愚かな小心者だとは思わなかったのだ。
「クソ! こんなことなら、クーデターのどさくさに紛れて、ダルベルグ公爵を始末しておけばよかった!」
王家が裁くからと捕縛したのが裏目に出た。
流れ弾が当たったことにして、あの場でダルベルグ公爵だけでも始末出来ていれば、今回のような裁定になったとしても、もっとダルベルグ公爵派の脅威を減らすことが出来たはずなのだ。
いや、それとも今からでも殺しに行くか……?
転移があればそれも不可能ではない。
だが……。
ここで殺せばユーゲント公爵派が暗殺したことになる可能性が高い。
そうなれば、今は正義の側に立っているユーゲント公爵側の正当性が薄れることとなり、ダルベルグ公爵派を勢いづかせたり、第三勢力が現れるなど、更なる政変の元になるかもしれない。
それを考えると、既に王の裁定が出たこの状況で、ダルベルグ公爵を暗殺しにいくのは止めるべきだ。
ちっ! こうなるから、殺せるときに殺しておくべきだったんだ!
俺は内心で憤りを感じながら、思わずそう思う。
だが、同時にこの状況に疑問を感じてもいた。
クリスティアルートでは、レディシア以外のダルベルグ公爵派は、しっかりと断罪して、クリスティアは政敵を全て処分して、膿を出し切ったフェルノ王国は、更なる発展を遂げていくことになったはずなのになんでこんな状況に……。
そこまで考えたところで俺は気付いた。
「これは……まさかバットエンドルートか?」
「バットエンドルート?」
クリスティアが聞き返してくるが、それに構っている余裕はない。
これがバットエンドルートだとしたら、原因はなんだ……?
俺はゲームをプレイしていた時に、クリスティアのバットエンドルートをプレイした経験はない。
だからこそ、何をトリガーにクリスティアのバットエンドルートに入ってしまったのかがわからない。
だが、この状況から察すれば思い当たるものはある。
クリスティアが王となれるかどうか……それがルートの分岐点か……。
恐らく、バットエンドルートでも、ダルベルグ公爵派の陰謀を暴き、打ち倒すことはするのだろうと俺は考えた。
そして、その上で何らかの状況で、ダルベルグ公爵派の断罪の前に、クリスティアが王に付くかどうかが決まり、それによってルートが分岐するのではないかと、今回とゲームとの状況を比較して考えたのだ。
小心者の現王では日和ってダルベルグ公爵派を断罪できない。
それによって、クリスティアがその後、王になったのだとしても、国に対する脅威が残り続けてしまう……それがクリスティアのバットエンドルート。
俺はそこまで考えた所で、クリスティアに問いかけた。
「王から王位継承の話はなかったのか? それで継承していれば、今回のような日和見な決定をすることもなかっただろう?」
俺のその言葉に、クリスティアは呆れたように言う。
「馬鹿を言うな。私はまだ十四歳で成人前だぞ? 王位を継ぐことに年齢の制限はないが、慣習として成人していない者では継ぐことは出来ないとされている。だからこそ、私はまだ王になることはできん」
クリスティアはナルル学園の三年生だが、まだ誕生日を迎えていないため、年齢は十四歳のままだった。
だからこそ、ゲームの時とは違い、王がダルベルグ公爵派の捕縛の褒美として、娘に王位を継承するという事態が、こちらでは発生しなかったのだ。
年齢……そんなもので……!
俺は思わず唇を噛みしめる。
注意をしていたはずなのに……! 善良な攻略対象達が幸せに暮らせるように、全てのルートをハッピーエンドで終わらせるつもりだったのに……!
こんな、下らないところで、見逃していた落とし穴に嵌まって、それを達成することが出来なくなってしまうなんて……!
自分で自分の不甲斐なさが嫌になる。
これまで攻略してきた攻略対象達は、ルートをしっかりと攻略し、ハッピーエンドへと導いてきたのに、ここに来て俺は初めて、バットエンドルートとなってしまう攻略対象を出してしまったのだ。
つまり、これから起こるクリスティアの苦難は俺のせいだとも言える。
少なくともそう思ってしまう俺は、クリスティアに対して言った。
「クリスティア」
「なんだ急に……」
「俺はお前を助けたい。だから、何か困ったことがあれば、何でも言ってくれ、俺はどんな時でもお前の力になる」
「なっ!? お、おまえ! そういう所だぞ!!」
せめてもの罪滅ぼしとして、ダルベルグ公爵派が何かをしたら、全力でクリスティアのことを助けよう。
俺がそう思って言うと、クリスティアは、口だけで大して役に立たない俺に、怒っているのか、顔を真っ赤にしてそう言う。
「そういう所って何処だ? 俺は本気でお前を助けたいと思っているんだ。そんなに怒ってないで、悪いところがあるなら明確に言ってくれないか?」
「――っ! 知るか! 自分で考えろ!」
クリスティアはそう言うと、顔を逸らし、話を打ち切ってしまった。
自分で考えたら、推察は出来ても、確定は出来ないから、しっかりとクリスティアに聞いておこうと思ったんだが……まあ、本人が話したくないならいいか。
しばらくすると、逸らしていた顔を戻して、クリスティアが言う。
「ともかく、そう言う訳だから、レディシアを王都にはおけないんだ。だからと言って、ユーゲント公爵派やダルベルグ公爵派に渡すとどうなるかわからん。故に中立で信頼がおけるお前の所に預けようと言うんだ」
「……わかりました。その話、お受け致します」
状況を知れば拒否するのは難しい。
レディシアを下手な所に放り込んで、知らぬ間に爆弾が起爆すると言った状況に陥ることになったらたまらないからな。
だが、このまま頷くだけという訳にもいかない。
王がシーザック家に負担を強いていると思っているのなら、この機会を利用して、こちらの意見を通すべきだ。
「ただし、一つだけお願いがあります」
「願い?」
疑問を浮かべるクリスティアに俺は言った。
「今回の件……全ては魔族であるバーグが悪いことになったんですよね?」
「ああ、そうだ」
「そして、バーグは魔王国の四天王の一人という重鎮だ」
「……資料によればそのようだな」
バーグの隠れ家から得た資料で、バーグが四天王の一人であることは、既にこの国の人間が知るところになっている。
「であるのなら、当然、今回の件について、遺憾の意を伝えるために、魔王国へ大使を派遣することになりますよね」
「ああ、そうなるな」
「でしたら、その大使の役目――この俺に全て一任して頂きたい」
ダルベルグ公爵派の件は弱腰の王によって全て台無しにされた。
この上で、俺がユーナを諦める要因にもなった、バーグをこの国へと派遣した魔王国の奴らにまで、弱腰外交されて処罰を与えない結果になってたまるか。
もはや、最終的な王の決定は信用出来ない。
なら、現場の方で、王が覆せないほどに話を纏め、そしてそのまま王に、その決定を承認させてやる……!
魔族達には絶対に落とし前を付けさせる。
俺はその決意を抱き、クリスティアの回答を聞いた。