エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
家族での夕食を終えて俺は自室へと戻っていた。
そこで俺は机に座って、紙とペンを取り出して呟く。
「さてと……。そろそろ、本格的に今後の方針を考えないとな」
最初にして最大の難関であったディノスは打ち倒した。
彼奴を残していると、彼奴の保持する転移能力によって、俺はいつでも何処でも暗殺されてしまうという危険性を捨てきれず、怯えて暮らすことになっていた。
故に、あのイベントは絶対に攻略しないといけないことであった。
だが、それも終わり、俺の行動に制限はなくなった。
これからは幾らでもゲーム知識を活用したり、前世の記憶というアドバンテージを利用して、このインフィニット・ワンの世界で活動していく事が出来る。
そして、ディノス襲撃から慌ただしかった周囲の状況が落ち着いた今こそが、まさにその行動を始めるのに最適なタイミングであると言える。
だからこそ、このタイミングで再度考えるのだ。
俺に取って、理想のヒロインとは、俺だけのヒロインとは何なのか。
そして、それを得るためにこの先どう行動して行くべきなのかを。
「俺だけのヒロインか……自分で言うのもなんだが、結構抽象的だな」
美貌、能力、資金、地位、性格……人が人に恋する要素は様々なものがある。
その中で俺だけのヒロインとはどんな要素を持つ存在なのか。
「取り敢えず、能力や資金に地位はいらないか。元からあまり重要視していないし、今世では貴族だから大概が何とかなるだろう」
一般的なトロフィーヒロインが欲しがるそれらは俺に取って不要なものだ。
だからこそ、重要視するべきは他の点ということになる。
「美貌は欲しくないとは言えない……!」
こう言うとき真っ当な主人公やモテ男なら、見た目なんか気にしないとか言えるのかも知れないが、俺は所詮はただの非モテの一般人。
さすがに付き合うなら可愛い子がいいし、その美しさも自分の基準で可愛ければ可愛いほど良いと思う。
「でも、やっぱり最も重要視したいのは性格だな! 俺のことを愛し続けてくれるような女の子――そんな俺の事を思ってくれる子を俺は恋人にしたい!」
恋愛なんて、付き合ったり別れたりするのが当たり前で、愛が醒めるなんてことを一々気にするなと、ずっと愛し続けてくれる相手を求めるなんて、あほらしくて気持ち悪いとモテる奴らは思うのかも知れない。
だが、前世の頃から童貞だった俺に取っては、これから行う恋愛こそが、人生で初めての恋愛で、非モテの俺の場合だと最後の恋愛になるかも知れないのだ。
だからこそ、その相手に裏切られたくはない。
俺はきっと誰かと正式に恋人になったら、自分の全てをかけてその子を愛し続けると思うから、裏切られたらきっと再起できないほどのダメージを受ける。
故に俺は恋する相手を――俺だけのヒロインを選びたいと思っているのだ。
「その点を考えると攻略対象はやっぱりなしだな」
攻略対象というのは主人公であるアレクの為のヒロインだ。
出会ったばかりのアレクとヒロインは、イベントという運命的な出来事を二人で乗り越え、その過程であっという間にお互いに惹かれあい、そして大切な体を相手に晒して、その体でお互いの愛を確かめ合う。
――そんな存在が俺だけのヒロインになり得るというのか。
「イベントを奪えばアレクの位置に行くことは出来るかも知れない。だけどそれは逆を言えば誰でもいいって事なんだよな」
一度あることは二度も三度もある。
俺がアレクからヒロインを奪うことが出来ると言うのなら、別の誰かも俺からヒロインを奪うことは出来るだろう。
言ってしまえば攻略対象は誰かに救われたいだけなのだ。
イベントというものを攻略すれば、それがアレクでも俺でも別の誰かでも、イベントを攻略した相手に惚れ、そしてその体を許すのだろう。
そうでなければ、それまで何の関係もなかったアレクという存在と、あれほど劇的な恋に落ちて、そのままゴールインするなんてことはあり得ないはずだ。
「イベントという存在によって、それまでの積み重ねも何もかもを無視して、出会ったばかりなのに愛し合うことが出来る――それが主人公と攻略対象の特権だ」
ヒロイン達にだって、描写されていないだけで、仲良くしている男がいたかもしれないのに、ヒロイン達はその相手に頼ることもなく、また心を惹かれることもなく、アレクを頼り、そして初めて恋をしたかのようにあっという間に愛し合う。
ゲームなのだからそれが当たり前だろと思うかも知れないが、ここはゲームであるインフィニット・ワンが現実化した世界であり、その上でディノスの件のように現実になっているにも関わらず攻略対象のイベントが起こるなら、ヒロイン達にだってそのようなゲーム知識が適用される可能性はあるのだ。
「だとするなら、仮に俺がイベントを使い切ったとしても、何かしらの別のイベントが強制発生して、ヒロインを寝取られる可能性は大いにある」
ゲームのメインキャラに転生したとは言え、基本的には俺はやられ役。
主人公であるアレクのような、劇的な恋心をヒロインに持たせて、以降もラブラブで暮らしましたという後日談へと持って行く自信はまるでない。
むしろ、身の程を考えずにヒロインを取った悪役が、結局はヒロインの運命の相手であるアレクにヒロインを寝取られて、ざまぁされるという方がありえそうだ。
実際に悪役であるフレイは、妹であるレシリアから、従者である一禍、婚約者であるエルザに、愛した相手であるビーチェと、周囲にいる女性を片っ端から、主人公であるアレク君に寝取られている。
ほんと幾ら何でも悪役だからって寝取り過ぎじゃね? と思えるほどの状況だ。
正直に言って、フレイの周囲の女性で、アレクに寝取られずに済んだのなんか、既婚者で母親であるリノアくらいなものなのだ。
「今世でも俺は魅力はなしか……。だからこそ、他の相手を好きになれる可能性のある奴が、俺を好きで居続けてくれるなんて思えない……!」
言ってしまえばヒロイン達は裏切りの前科がある存在だ。
そんな相手が非モテの俺を愛し続けてくれるなんてことがあるはずがないのだ。
「だからこそ、攻略対象は絶対に無理だ。あれはアレクの運命のヒロインで、アレクのものだ。最終的にはきっとそんな結末になる……主人公のハッピーエンドに」
故に俺はこの世界で攻略対象を避けてヒロインを探そうと思ったのだ。
こうして一から考え直すことでその認識が間違っていないということを、再度意識することが出来たのは良かったと思う。
「だからこそ、俺が狙うなら攻略対象外の女性か、モブキャラしかない!」
それならば少なくとも裏切りの前科は付いていない。
絶対とは言えないが攻略対象よりかは安心が出来る。
「そしてその点を考えればゲームのキャラの中に一人だけ、俺だけのヒロインになれる候補がいる!」
俺はそこで紙に第三王女ユーナという言葉を記載した。
「ユーナ・フォン・フェルノ――このフェルノ王国の第三王女であり、ゲームではバグ枠と言われていた非攻略対象……」
バグ枠……今となっては言い響きだ。
ゲームとしてやってたときはなんで攻略出来ないんだよって憤慨したもんだが。
恋愛ゲームにおけるバグ枠という言葉は、端的に言えば魅力溢れるキャラクターなのに、何故か攻略対象じゃないせいで恋愛することが出来ない相手のこと指す。
ルーンファ○トリーなどで大量発生している存在で、なんでセルザを攻略出来ないんだと、セルザの人化姿を見ながら涙したものだ。
……リマスターでも本編での攻略対象には追加されなかったし。
と、話はそれたが、インフィニット・ワンでもバグ枠の意味は変わらない。
フェルノ王国では三人の王女と一人の王子が出てくるが、この中でユーナ王女だけが攻略対象ではなく、ただのサブキャラとして登場していたのだ。
まあ、後々ダウンロードコンテンツで追加する予定でもあったのか、インフィニット・ワンの開発陣は『ユーナが攻略対象ではない? ふふふ、さあ、どうでしょうかね~』と何やら意味深なことを言っていたのは気がかりではあるが……。
少なくとも、俺が死ぬ前にみたダウンロードコンテンツの情報ではユーナの名前はなく、最後の神が攻略対象に加わっていたことから、最終ダウンロードコンテンツだろうと噂されていたので、完全な非攻略対象キャラなのは間違いないだろう。
「ユーナのことならゲームを通してどんな子なのかを完璧に理解している。優秀で野心が強い二人の姉と違い、お淑やかな箱入りのお嬢様で、何時も誰かのことを気に掛ける優しい人柄――まさに俺だけのヒロインとなるに相応しい存在だ!」
このユーナこそが俺だけのヒロインの第一候補と言えるだろう。
本来ならユーナだけを狙いに全力で行くべきかも知れない。
だが――。
「描写されていないだけで、婚約者がいる可能性はあるんだよな……」
それが主人公と恋愛させる攻略対象とサブキャラの大きな違いだ。
世の中には処女厨というものがいる。
女性が処女であることに拘る考えの持ち主だ。
そんな思想の持ち主達にも広く受け入れて貰うため、基本的にゲームの攻略対象というのは、何かしらの理由を付けて過去に男がいないということを明確にプレイヤーに知らせたりするものだ。
だからこそ、プレイヤーは安心して主人公としてヒロインを攻略出来る。
一方で、主人公が攻略する相手ではないサブキャラは、そのように処女厨に配慮して身綺麗であると証明する必要がないため、そう言った細かい過去の男関係などは明確に描写されないことが多い。
だからこそ、そう言った部分は各個人の想像に委ねられることになる。
そして、ユーナはこの国の王女だ。
王女という立場なら婚約者がいる可能性が高いと俺は想像していた。
「婚約者がいるからアレクに墜ちなかったとみることも出来るからな……」
その点で言ったら第一王女とか第二王女とかどうなの? という話になってしまいそうだが、後々の王となるかもしれない二人はともかく、始めから何処かの家に降嫁される予定の第三王女だけが婚約者を決めていたとかありえそうだしな。
「二度目の人生だけは失敗出来ない……」
今回は何故か転生出来たが、次があるとは限らない。
ユーナに一本掛けをして、そして学園で婚約者がいることが分かり、俺がユーナを得る可能性がないと分かったら、そこで終わりだ。
なぜなら、ユーナがダメだったと分かった時点で、俺は学園で出会ったばかりの少女が、俺と劇的な恋愛をして恋に落ちるという、かなり望みの薄い可能性に賭けることしか出来なくなるからだ。
学園に入学して、出会ったばかりの女と劇的な恋愛に墜ちるのは主人公の特権。
ただの悪役転生者である俺では、そんなこと出来ないと理解しているし、たとえ恋愛が出来たとしても、主人公ではない俺が出来る恋愛なんてのは、別れたり付き合ったりする普通の恋人が出来るだけだろう。
俺の目的である俺だけのヒロインを手にすることは出来ない。
では、理想のヒロインを得るという目的を諦めなければならないのか?
――いや、諦めるのはまだ早い。
「積み重ねるしかない……愛を!」
アレクのような劇的な恋愛を行って永遠の愛を手に入れるのは無理だ。
だが、俺のような転生者にはその代わりに時間がある。
劇的な永遠の愛を得ることが出来ないと言うのなら、幼い頃から互いに意識し合った上で交流を重ね、そしてそこで愛を深めて永遠の愛へと変えていけばいい。
そう、積み重ねた時間こそが俺の望む愛を作る道標となるのだ。
手に入れるのではなく、時間を掛けて己の手で作り上げる。
それこそが、学園から始まる主人公とは違い、幼少期から始めることが出来る転生者の利点であり、今の俺が考える最善の道筋だ。
そしてこれを行うのなら好意を伝えるのははければ早い方がいい。
なぜなら、その分だけお互いの思いを積み重ねられるからだ。
そして、この世界には婚約というそれを行うのに便利なものがある。
恋人として付き合うわけでもなく、それでいながら将来的に結婚する相手として、お互いに意識し合う関係――これこそが、俺が使える最大の武器だ。
だからこそ、セレスの時のように相手に積極的に婚約を申し込むのがいい。
そして婚約者となった後は、それを理由にお互いに交流を重ね、なろうの転生物の幼馴染みヒロインや婚約者ヒロインのように、自分達だけのボーイミーツガールといえるような思い出を作り、愛を深めて永遠の愛を誓うのだ。
「少なくともゲームの開始時点までにはそんな相手を作らないとな……」
ルーレリア学園に入学すれば超絶モテ男のアレクが現れる。
そんな相手を見たら、モブキャラであろうとも、アレクに対して心が揺り動かされることがあるかも知れない。
だからこそ、そうならないように、それまでに婚約者と深い関係を築き、相手がアレクに靡かないようにする必要があるのだ。
「ふう……となるとメイド達やシーザック領の者が、俺だけのヒロイン候補として、まず確保しなければならない人材か」
水を飲んで考え過ぎた頭を冷やしながらそう呟く。
幼い頃から関係を深めていくのなら、その為に相手と出会わなければならない。
その観点から考えると日常的に接するメイドや、シーザック領の領民などが、その第一候補に挙がるだろう。
「それがダメだったら、ルーレリア学園入学前に、社交界とかナルル学園で貴族令嬢と知り合って、婚約を申し込んで仲を深めていくことを目指す……」
今世では俺は貴族であるから、そう言った貴族が集まる催しに参加することも多いだろうし、ルーレリア学園に入学する前には、貴族だけが入学するナルル学園もあるため、そこで婚約関係を見繕うと言うことも考えられる。
「そしてそれと平行してユーナを落としに行く」
俺だけのヒロインとしての最有力候補であるユーナ。
婚約者がいなければさっさと婚約を申し込んで全力で攻めていく。
「ここまでで、婚約相手を得られなかったら軽く絶望だな」
俺はそこまで考えて思わず苦笑した。
ここまでで決まらなかったら、後は薄い可能性に賭けて、それこそ劇的な恋愛を俺と行ってくれるヒロインを探さなければならない。
「そういう恋愛こそが憧れではあるんだけどな……」
現実の恋愛が出来なくて、エロゲーやギャルゲーばかりに手を出して。
そんな俺から見れば、まるで運命のヒロインにあったかのような、主人公とヒロインとの劇的な恋愛は羨望の対象ではある。
だが、そんなことは主人公ではない俺には出来ない。
「なんで、悪役転生なんだろうな」
転生に関して意義を問うことなんて無駄だと分かっているが、それでも思うところはあり、俺は思わず呟いてしまった。
俺がアレクに転生していれば、きっとこんなことを色々と考えず、ただ俺のヒロインだとイベントを次々と攻略して、何も考えずに攻略対象達を、自分のヒロインとして確保して愛し合うことが出来ただろう。
そうでなくても、周囲の女性が主人公に根こそぎ寝取られる悪役に転生したのではなければ、ゲーム時代にいた周囲の女性を相手にして、普通に恋愛を行っていくことが出来たはずだ。
全てを奪われる悪役に転生したからこそ、俺は周囲にある全てを捨てて、一から自分だけのヒロインを探す必要が出てくる。
もし、神のような存在が、俺をこの立ち位置に意図的に転生させたのなら、其奴はよっぽど俺の事が嫌いなんだろうなとふと思った。
「もう、あんな惨めな思いはゴメンだ」
俺はそこまで考えた所で前世の頃を思い出す。
前世では男女で恋愛をすることなんて当たり前だった。
だからこそ、そんな当たり前の事が出来ない奴は、普通じゃないと、社会不適合者だと、頭のおかしな奴だと馬鹿にされた。
真っ当に恋愛が出来るモテる奴には分からないのだ。
そんな当たり前で普通な事が出来ずに苦しむ奴の気持ちなんて。
自分が出来るから誰にでも出来ると思っている奴らは、そうやって悪気もなく、常識でしょ、と自分だけの常識を語って俺のような奴らを傷付ける。
俺だって前世で努力しなかった訳じゃない。
見た目には気を遣ってたし、必死で勉強して学力も高かった。
誰かが困っていたら、迷わず手を貸したし、色々な人間に好かれるように、態度や行動にも気を付けて生活を行っていた。
自分をすり減らしていくような日々の中で、それでも俺は、誰かがいつか俺に惚れてくれると思って頑張り続けた。
だが、結果はただの都合のいい人扱いだ。
好意があるように振る舞って、期待させるだけ期待させて、そして必要がなくなったら、嘘みたいにあっさりと関係を全て絶つ。
現実はゲームとは違う。
ゲームならステータスを上げればそれは結果として残るし、正しい選択肢を選んで好感度を上げれば、積み上げた好感度はやがて愛へと変わる。
だが、現実ではどれだけ能力を上げたとしても意味がなく、どれだけ人に好かれる行動をしたとしても、その相手に取って最善の選択を選んだとしても、理解出来ない相手の感情というものによって、コロコロと結果が容易く変わるのだ。
そうして残るのは何も得られずに馬鹿にされるだけの日々。
そんなクソみたいで惨めな日常が前世の俺の全てだ。
「俺はそんな事は絶対にしない……!」
俺は攻略対象がイベントを攻略したことで俺に好意を持ったのだとしても、その相手に対して俺が恋心を持つことはあり得ないと明確に伝え、そしてしっかりとその相手を振るつもりでいる。
そしてその上で、それまで通りの友人関係や仕事仲間関係を、何事もなかったかのように継続して続けていくつもりだ。
相手に期待を持たせてそれを利用するなんてことは絶対にしない。
前世の俺がやられて嫌だったことを相手に強いるつもりはない。
だからこそ俺は、誠実に、叩き潰してでも、相手に可能性がないと伝えるのだ。
それだけを言うと本当に攻略対象にはチャンスがないのかと思うだろう。
幼い頃から交流し、愛を育んで行けば、アレクになんか寝取られずに、俺だけのヒロインにすることが出来るんじゃないかと、この世界はゲームを元にした現実のような世界なのだから、ゲームと違ったエンドを目指せるのではないかと。
それはある意味で正論だとは思う。
だが、そんな自分で自分を騙しきることが出来ないような正論は、俺に取っては何の意味もないことなのだ。
例えば、浮気を疑う男がいるのだとしよう。
其奴に対して彼女が浮気するはずなんかないと周囲の者がいい、そしてその男自身も彼女が浮気をするはず何かないと言葉で言ったとしよう。
それであっさりと浮気がないと認めて、男は救われることが出来るか――?
答えは否。
出来るはずがない。
人の心はそんなに簡単に割り切れるものじゃない。
浮気はないと表面上は言えたとしても、相手への思いが強ければ強いほど、疑いたくないと思えば思うほど、その心には浮気を疑う心が棘のように残り続ける。
――どれだけ正論を重ねようとも疑心の芽を摘むことは出来ないのだ。
そしてその疑心を捨てられてない態度は行動に出る。
相手を疑っているからこそ、徐々に関係はギクシャクとしていき、そしてやがて本当に浮気をされることや、それがなくてもお互いの関係に疲れ果てて、恋愛関係を止めて離婚しようとなるかもしれない。
つまるところ一度でも疑心を持ったら終わりなのだ。
そしてそれは俺にとっての攻略対象達にも当てはまる。
俺は攻略対象が俺だけヒロインになってくれると信じ切れない。
だからこそ、仮に付き合ったとしてもその心は行動として現れ、やがて恋人関係であるその攻略対象を傷付けることになるだろう。
そうなるくらいなら、可能性がないと最初から完全に振った方がいい。
そうする方が、攻略対象も新しく恋する相手を見つけて、その相手と愛し合うことで、幸せになることが出来るだろう。
「幸せ……そう幸せだ。俺は幸せになりたい……!」
前世で苦しんだ記憶が俺に対して言う。
今世では必ず幸せになれと。
だからこそ、俺は攻略対象以外の者から、俺だけのヒロインを――俺を愛してくれる候補を探し出し、そしてその相手が俺を愛し続ける限り、それに応えるように、俺もその相手を愛し続ける。
お互いのことだけを見て、そして互いに尽きることなく愛し合い続け、決して抜け出すことが出来ないような、底なし沼のような関係で愛を実感したい。
そうすることでやっと俺は、その恋人を自分の手で手に入れたのだと、俺にだって素晴らしい恋人を作ることが出来たのだと、実感して誇ることが出来る。
前世での苦労はこのためのものだったんだ。
――そう、本心から笑って語ることが出来るようになる。
だからこそ、俺だけのヒロインは何としても手に入れないといけないのだ。
そこまで考えた所で俺は紙に記載を行っていた手を止めた。
「それでやっと……前世の俺も含めて、俺が救われるんだ……!」
惨めだった前世の分まで幸せになりたい。
負債のように膨れあがったこの思いからは、逃げることは出来ないのだ。