エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます 作:グルグル30
シーザック領に帰ってから執務の日々を送って二週間。
特に問題が起こることもなく、俺は平和な日々を過ごしていた。
「ふう。昼飯にするか」
「そうですね。フレイ様」
俺はそう言うと政務を中断して、来幸と共に食堂へと向かう。
最近はそれぞれの仕事が忙しく、家族で食事を取ることも出来ずに、別々で食事を取ることが多くなっていた。
料理長に何かを作って貰おう……そう思って部屋に入ると、レシリアが机に突っ伏した状態で、項垂れていた。
それを見て、俺は慌ててレシリアに聞く。
「どうしたレシリア!?」
「頑張って少しずつレシィのものにしていっていたのに……」
うっ、うっ、と泣き声でレシリアはそう呟く。
「ぽっと出に全部取られたぁ~! うわぁあん~!」
レシリアは椅子から立つと、ガチ泣きをしながら、俺の懐へと飛び込んでくる。
俺はそんなレシリアの頭を撫でて、そんなレシリアを慰める。
「何が何だかわからんが……上手くいかないこともあるさ」
「うわぁあああん!」
来幸と共に、困惑しながらも、レシリアをあやしていると、突如として食堂の扉が、バンっと強い音を立てて、開けられた。
「ここにいましたか! フレイ様!」
ミリーがずかずかと俺の元に歩み寄ってくる。
「どうしたミリー? そんなに怒って?」
「どうしたも、こうしたも、ないですよ! フレイ様が連れてきた、あの二人のせいで、とんでもないことになっているんですから!」
「あの二人が……?」
俺が事態を理解出来ずにそう言うと、焦れたミリーが俺の腕を掴んで、思いっきり引っ張って何処かに連れて行こうとする。
「ちょっ!? 何なんだ!?」
「いいから、着いてきてきてください!」
何がなんだかわからない内に連れて行かれる。
引っ張られた状態で着いていくと、メイドの控え室に到着し、ミリーはそのままその部屋の中に入った。
「アイリーン?」
「ああ、フレイ様……」
その部屋にいたのはシーザック家のメイドであるアイリーンだった。
彼女は俺の存在に気付くと、目を向けて、謝るように言う。
「私、勘違いしていました。フレイ様は神様だから、恋愛をしないようにするために、来幸を遠ざけていたんですね?」
「は?」
訳のわからないアイリーンの言葉に、ミリー以外の者が絶句する。
「でも、私はそれでも、フレイ様と来幸の恋を応援してますから!」
俺達の困惑も無視してそう言うアイリーンを見て、俺達の視線は状況を説明しろと、ミリーに向かって集まっていた。
「あの王女様方が、無窮団の連中を巻き込んで、フレイ様を神とした銀神教という宗教を勝手に始めやがったんです!」
そのミリーの言葉に、俺は思わずミリーに掴みかかった。
「ぎ、銀神教って――! ふざけるな! この世界で色の名が付く宗教を名乗ることの不味さがわからないわけじゃないだろう!!」
事態の重さに、俺以外の面子の顔も真っ青になる。
下手したら、シーザック領が異端として征伐されかねない状況なのだ。
「そんなことわかってますよ! だからこそ、アイリーン先輩は、彼奴らに注意するために、彼奴らの元に向かったんです! だけど、帰ってきたら……」
「こうなっていたと? ――レシリア!」
「ディスペル!」
精神系の魔法で洗脳でもされたのか、と思った俺は、レシリアに聖女の力での解呪を依頼する。
それを受けたレシリアは、耐精神魔法用の呪文を唱えるが……。
「ダメ! お兄様! アイリーンは魔法にかかってない!」
「なっ!? これが素の状態だっていうのか!?」
俺はレシリアのその言葉に驚くように言う。
魔法のような外部的な強制もなく、こんな状況になったというのか!?
そんな中で、考え込んでいた来幸が「まさか――」と呟く。
「来幸、何か思い当たることがあるのか!?」
「レディシア様は、次期王の候補者とは言え、多くの者を纏めあげ、派閥を形成することが出来ていた。そして、そのカリスマ性は、取り巻きにそう言ったことを命じられるほどの心酔をさせるものだった」
来幸が言っているのは、レディシアルートでの取り巻きにアレクの相手をさせた出来事のことだろう。
確かに来幸の言う通り、幾ら上下関係があるのだと言っても、相当自分に心酔させなければ、あのようなことを進んで行わせるようなことは出来ないはずだ。
「加えて、王族でもあるレディシア様は、幼い頃から弁舌に関しては、英才教育を受けていたはずです。つまり、レディシア様には、弁舌で次々と仲間を増やし、カリスマ性で他者を纏める、教祖の才能があった……」
来幸のその発言を聞いて、俺は思わず突っ込みを入れる。
「レディシアに教祖の才能があったのはわかった。だが、それは、自分に対して注意をしようとしてきた相手をこんな状態に出来るほどか?」
「彼女達の宗教の神がフレイ様なのがいけないのかも知れません」
俺の疑問に来幸はそう答えた。
俺はわけがわからずに首を傾げる。
「なんで、俺が神の宗教だと、アイリーンを取り込めることに繋がるんだ」
「……宗教と言うもので親近感は重要なものです。人は同じ考えを持つ相手に心を許し、そして同調するように、その思いを強くしていくことが出来る」
それを聞いて俺が思ったのは銀仮面ファンクラブの面々のことだった。
来幸の言う通り、銀仮面ファンクラブは銀仮面への恩義という同じ考えで結び付き、そしてそれに対する思いを共有してあんな状態になっていた。
「アイリーンもそうですが、このシーザック領でフレイ様の凄さを理解していない人などいません。何かしらの形で誰もが、フレイ様への恩義や、その能力への敬意を持っているでしょう。そしてそこにフレイ様を崇めるレディシア様達が現れて、フレイ様を崇める宗教を始めた……。アイリーンはそこを突かれて、彼女達の思想に共感し、そしてこうなってしまったのではないかと」
俺は来幸の語ったその推論を聞いて、引き攣った顔で冷や汗を流しながら、思わず言った。
「つ、つまり……俺に対して何らかの好感を持っている者は、レディシア達と話したら、取り込まれて、銀神教の信者になるって言うのか」
「おそらく……」
俺はわけのわからない状況に思わず呻く。
ちょっとでも俺に恩義を感じていたら、狂信者達に取り込まれて、俺を神として崇めるようになるとか、どんな状況だよ!?
「なんであんな頭のおかしなのを放置していたんですか!」
そう言ってミリーが俺に詰め寄ってくる。
そんなことを言われても――。
「頭がおかしくて手に負えないから、監視を付けて放し飼いにしていたんだよ!」
「手に負えない奴なんかを! 放し飼いなんかにするな~!!!」
そんな至極真っ当なミリーの怒りが俺にぶち当たる。
しょうがないじゃん!
俺だってこんな事態になるなんて思って無かったんだよ!
「フレイ様!」
俺達がどうしようもない状況に喚いていると、リガードが焦った様子で、俺達の元へと駆け寄ってきた。
「どうした!? また、面倒事か!?」
俺が思わず苛立ちながらそう言うと、リガードは息を切らせながら言う。
「し、七彩教が……銀神教に……」
「まさか、もう異端認定されたのか!?」
口籠ったリガードの態度に、俺は思わず考えた最悪の事態を口に出す。
その言葉に、ミリーや来幸、レシリアも同様に緊張したような顔を見せた。
「それが、その……。七彩教は銀神教に異端認定を出さず、むしろ、銀神教は七彩教が認めた正当な宗教であると、大々的に布告を行いました! そして、フレイ様は現世に新たに誕生した八人目の神であると、世間に向けて公表しています!」
「ハ? ドウイウコト? オレニンゲン、カミジャナイヨ?」
あまりに理解出来ない状況に、俺は思わず片言になりながらそう言う。
「どういうことと言われても、そのような話になっているとしか……」
リガードは困り果てた様子でそう言うと、気を引き締めて忠告するように言う。
「七彩教が新たなる神を認めるということは、この世界を見守る神々が、フレイ様を神であると認めたようなもの。それを受けて銀神教の者たちは、止めることが出来ないほど熱狂しています。銀の神――フレイヤフレイは、我らを導く最新にして最善の神だと。そのせいで教会の建造も止まらず……」
リガードが徐々に悪化していく、シーザック領内の状況について、俺に対して丁寧に説明していく。
俺はその状況の悪さに、顔が真っ青になりながら、ただそれを聞いていく。
つーか、勝手に神様ネーム付けられてる上に、俺の前に最強最悪のビッチ神名前付けられてるじゃねーか! 純愛を求める俺への嫌がらせかよ! フレイって名前の兄妹神であることはわかるけどさ、あまりにもあんまりだ!
俺が思わずそう憤っていると、リガードは懇願するように言う。
「もはや、我々の手ではどうにもなりません! お力添えを! フレイ様!」
「力添えって言われても……俺に如何しろと!?」
俺はリガードの言葉に思わずそんな回答を返す。
どうしてこうなった!
そりゃ、なろうの転生物のストーリーだと、主人公が最終的に神にまで上り詰めることはよくあることだけどさ。そう言うのって、物語の最後とか、或いはそれに相応しい力を得てからだろ?
俺はまだ学園編が始まったばかりだし、ゲームのストーリーに関しては、始まってすらいない! 加えて、俺には神の力なんてものはなく、本当にただの人間としての力しかないんだぞ!
なんで! こんな状況で! いきなり神なんかにならなければいけないんだ!
俺がそんなことを考えていると、騒ぎを聞きつけた人々が、俺達のいるところに次々と集まってくる。
リガードのように狂信者になっていないものは、俺に状況を何とかするように懇願を繰り返し、一方でアイリーンのように狂信者化してしまった者達は、俺に対して平伏し、フレイヤフレイ様と祈り始めた。
それを見て、俺は思わず呟く。
「ああ、立派に育ててきた、俺の大切なシーザック領が……」
あまりの出来事に、目の前が真っ暗になり、ぐわんぐわん揺れる。
真面目に人々の為にと動いてきたのに、どうしてこんな結果になったのか。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
とあるゲームのキャラのようにそんな気持ちばかりが溢れてくる。
それに、俺が神であるという話は、七彩教によって、シーザック領やフェルノ王国だけではなく、その影響力が及ぶ全国へと知れ渡る形になってしまっている。
つまり、モブも含めて、世界中の人間が、フレイ・フォン・シーザックは神であると、認識してしまうことになっているのだ。
果たしてそんな状況で俺とまともな恋愛を行ってくれる相手がいるのだろうか?
王家の相談役だから婚約者に出来ないなんてレベルじゃない。
俺と付き合ったら、その時点で神の恋人に、そして結婚したら神の妻として、かつての勇者達のように聖人の仲間入りだ。
――俺が行いたい恋愛を行ってくれるような、まともな女性なら、絶対にそんな相手は選ばず、もっと真っ当な普通の相手と付き合うだろう。
「お、終わった……俺の苦労が……俺の転生が……」
俺はそれだけ呟くと、全身の力がなくなり、その場に倒れた。
「フレイ様!」
そう言って駆け寄る来幸達の姿を最後に、俺の意識は闇に落ちた。
七彩教が何故唐突にフレイを神認定したかというと、七神教が銀神教の話が入ってきて、対応をどうしようかなと考え始めた時に、最後のヒロインを自称するとある方が、周囲の者が聞いているのをちらちらと確認しながら、わざとらしく一人言でフレイに関することを呟いたため、それを聞いた彼女の兄妹と七彩教の方々が全力で忖度した結果です。
一応、神認定によるメリットがなかったわけではなく、王より上の最高権力者である神になったことで、権力を使って無理矢理婚約させられるという出来事は起こらないというメリットはありました。
そのため、家の立場を使って外堀を埋めて、フレイを逃がさないようにした上で、婚約しようと画策していたユーナやエルザは、今回の件を聞いてそれが出来なくなったことを知り、神の言葉を批判することは出来ないので、誰にも見られないように自室で怒り狂って暴れました。
他の攻略対象達がどういう反応をしたかというと、立場を使ってゆっくりとフレイを落として行こうとしていた来幸とレシリアは、神に俗世はいらないからと、聖王国から派遣された神官に固められ、妹やメイドという自分達の立場が引き剥がされる可能性があると考えて焦り始めました。
銀仮面ファンクラブは、銀神教……? 銀……。もしかして銀仮面様と何か関係が!? と疑いを強めていますが、神に対して「貴方ってこの人ですよね?」と聞くのは場合によっては不敬になるので、疑心は強めたけど聞いて確信を得ることは出来なくなった状況です。
結果として呟き一つで他のヒロイン達をなぎ払い、自分だけが得する状況を見事に生み出しました。
さすが、自称最後のヒロイン、つよい(小並感)