エロゲー世界で悪役に転生したので、自分だけのヒロインを見つけます   作:グルグル30

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次なる手

 

「うっ……ここは……」

「目が覚めたんですね! フレイ様!」

 

 俺はその来幸の声で体を起こす。

 どうやら、自室のベットで眠っていたらしい。

 俺はその事実にほっとしながら言った。

 

「よかった……全部夢か」

「夢……ですか?」

「ああ、レディシア達のせいで、何故か俺が銀の神扱いされてしまうという悪夢を見ていたよ。でも、全てが夢で本当に良かった」

 

 俺が安堵しながらそう言うと、来幸は悲痛そうな顔をして言った。

 

「フレイ様、夢ではありません」

「何を言ってるんだ。俺が神扱いになるなんて、そんなの夢しかあり得ないだろ」

「……こちらに来て貰ってもいいですか?」

 

 俺は来幸に促されて窓に近づく。

 そして、来幸が指し示す方向に目を向けた。

 

「何だ? あの領主館より立派な建造中の建物は?」

 

 俺は今いる領主館よりも大規模な形で、工事途中となっている建物を見て言った。

 

「あれは、銀神教の大聖堂だそうです。神であるフレイ様の為に、この領主館よりも凄い建物を作ると、無窮団の技術者達も張り切って建設を行っていて……」

「……」

 

 どうやら夢でなかったらしい。

 あのわけのわからない状況は全て現実だったのだ。

 

 来幸の説明を聞きながら、次第に沸きあがる怒りを抑えられなくなった俺は、叫ぶように命令した。

 

「今すぐ……! 今すぐここに! レディシアとプリシラを連れてこい!」

「っ! はい!」

 

 そうして来幸は部屋を出て行く。

 しばらくして、来幸はレディシアとプリシラを連れてやってきた。

 

 久しぶりに見た彼女達は、自分達が銀神教の教祖であると主張するように、黒地に銀色がアクセントに入った、祭服のようなものを来ていた。

 それを見て、更なる怒りを抱いた俺は、二人を問い詰める。

 

「ここに呼んだ理由はわかっているよな?」

 

 俺のその言葉に、レディシアは何を考えているのか、のほほんとした表情で余裕を見せ、プリシラはどう言い含めようかと必死で言い訳を考えていた。

 

「好き放題やりやがって……! これは命令だ! 今から銀神教の布教活動を止め、銀神教自体を解散しろ!」

 

 俺のその言葉にプリシラが焦ったように言う。

 

「ちょっと待ってください! 今や、銀神教は魔族にも受け入れられた重要な宗教で、こんな所で止めていいものではありません!」

「そんなこと知るか! 勝手に神にされると迷惑なんだよ! 何が何でも! 銀神教は解散させるぞ!」

 

 プリシラの言葉に俺はそう反論する。

 このまま押し切って命令する……そう思っていたその時、レディシアが俺に向かってぽつりと呟いた。

 

「いいのかしらぁ?」

「は? 何がだよ」

「フレイ様が神様だってことは、七彩教が認めたことなのよねぇ?」

 

 レディシアのその言葉に、ハッとしたプリシラは続くようにして言った。

 

「そうですよ。神様が神様であると認めたのに、その本人が神でないと言ったら、それはそれで、異端ということになるんじゃないですか!?」

「そ、そんな……馬鹿な……!」

 

 俺はそう呻きながらも、プリシラが言ったその可能性を検討する。

 

 俺が、銀の神フレイヤフレイであることは、七彩教が……ひいては、その裏にいる七彩の神が認めたことだ。

 それを本人である俺が否定すれば、それはこの世界を管理する七彩の神が、間違った判断を下してしまったという事になってしまう。

 

 そんな神の正当性が薄れるような行為を七彩教が許すはずがない。

 きっと何らかの理由付けで、その判断ミスの原因を用意するだろう。

 

 例えば、フレイ・フォン・シーザックは悪魔であり、怪しげな術で神々の判断を惑わした神敵であるとか、俺を異端という形にしてことを収めるはずだ。

 そうなれば、シーザック領は火の海に沈み、そして俺自身も七彩教に拷問された上で殺されるという悲惨な最期を迎える事になる。

 

 神の正当性がかかっているのだから、相手も容赦はしない。

 きっと、今までのどの異端狩りよりも悲惨な状況に追い込まれるだろう。

 

 えっ? て言うことは何だ? 俺は本当に神でも何でもないのに、その真実を公にすることすら、出来なくなったというのか!?

 

 俺はその事実に気付き、唖然とする。

 

 つまり、俺はもう詰んでいたのだ。

 七彩教が俺を神と認めた時点で、本当に俺が神でないのだとしても、俺に神ではないとする逃げ道は存在しなかったのだ。

 

「……許す」

「? なんですか? フレイさまぁん」

「許す! 銀神教の布教を許してやる! だからさっさと出て行け!」

 

 やった~と普通の女子のようにはしゃいでハイタッチする二人。

 彼女達が出て行くのを見送って、俺は思わず頭を抑えた。

 

「俺が何をしたって言うんだよ……」

 

 どうしてこうも上手くいかないんだ。

 ただ、俺だけのヒロインが欲しいと言うささやかな願いじゃないか。

 世界にはこれだけ女性がいると言うのに、どうして俺の元には、その望みを叶えてくれる女性が現れてくれないんだ……!

 

「このままじゃ、前世と同じじゃないか……」

 

 また、前世と同じように、恋人も見つけられずに終わるのか。

 

「いや、そうはならない! まだ諦めるわけにはいかない!」

 

 そんなに簡単に諦められるのなら、ここまで求めていない。

 三度目の人生などあるかわからないのだから、今回の人生で必ず、俺だけのヒロインを見つけ出さなければならないのだ。

 

「フェルノ王国はもうだめだ。殆どの奴が俺がフレイ・フォン・シーザックと知ってしまっている。だが、外国なら……!」

 

 前世のようにインターネットもない世界だ。

 海外なら、フレイ・フォン・シーザックが神であると知っていても、それを俺と結びつけることは難しいはずだ。

 

「外国に亡命するのですか?」

 

 俺の言葉を聞いた来幸が心配そうに言う。

 俺はそれに答える。

 

「いや、亡命はしない。さすがに、公爵家の人間が他国に亡命なんて真似、するわけにはいかない」

 

 下手に亡命すればシーザック家に迷惑がかかる。

 だからこそ、俺が行うのはもっと別のことだ。

 

「バカンスだ! 帝国の保養地でもある、海水浴場のエルミナへ行くぞ!」

 

 考えて見れば、これまで銀仮面活動も含めて、働き詰めだった。

 ここらで自分への労いも含めて、バカンスに出掛けてもいいだろう。

 

「誰も俺のことを知らない土地で! 俺は今度こそ! 俺だけのヒロインを見つけ出してみせる!」

 

 俺はそう覚悟を決めるように叫んだ。

 




 これで四章は終わりとなります。
 この物語は全六章であり、次は終章への繋ぎである短めの章が入って、最終章へと移行していく形となります。
 そんなわけで、五章は海に行って、皇女とエルフと共に、ドラゴンを巡る物語が展開される予定です(当社比)。
 その五章の投稿は年末から年度末にかけて、ちょっと忙しくなるので、速ければ一月に、遅れれば二月か三月から投稿開始となると思います。
 ※2023年3月26日追記:申し訳ないのですが、12月~2月まで仕事が忙しくて書き溜めが出来ず、3月から少しずつ書き溜めている形なので、更新再開予定は4月以降になりそうです。

 ここから先は本章の感想なので読み飛ばしても大丈夫です。
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■物語前半の設定が多くなった件について

 四章の前半部分は、神関係の話とか、ジョブ関係の話とか、王位継承権争いの元とか、今後に必要な情報を先出しして説明してたのですが、それが結果的に、設定ばかりとなってしまうことになり、話が進まないと思われてしまう形になってしまいました。

 一人称視点だと三人称視点と違って、主人公の意識がそれに向かったタイミングじゃないと、説明の内容をぶち込むことが出来ないので、物語が展開している途中で出てきて邪魔にならないように、最初の方で一気に説明してしまおうと思ったのが、悪く働いてしまった感じですね。

 ここら辺の一人称での説明の仕方とかは、完全な私の技量不足です。一人称視点でわかりやすく、そして面白く情報を小出しに出来るのは、本当に凄いと思います。
 これ以外の作品も公開していないだけで書いているのですが、私は主に三人称視点で必要になったところで、説明をぶち込むスタイルでやっているので、一人称視点での説明が上手く出来ていませんでした。本作での反省点と言えますね。

 まあ、そんなこんなで、そう言った世界観設定の情報の出し方はミスってしまったなと思うのですが、一方で新キャラである攻略対象達について、ゲームのルートでどんな物語を彩ったのか、と言うのを書きまくったことは、特に問題があったとは考えていません。
 なぜなら、ゲーム世界転生物では、元となったゲームの描写をしてこそのものだと思っていますし、何より本作は、恋愛をこじらせた主人公が、ヒロインをゲームキャラと同じであると思ってしまうから、恋愛対象に出来ず、別の相手を探しに行くという物語だからです。

 ヒロイン達が新キャラとして登場した時に、ゲーム時代の話を後回しにしたり、アレクとの詳細を書かないなど、ゲーム時代の描写をしっかりとしていないと、何故フレイがこのヒロインを嫌がるのか、と言う事が明確に読者に伝わらなくなってしまうので、ヒロインが新キャラとして登場するのと同時に、基本的にそのヒロインに関するゲーム時代の描写として、概要的であろうとも、アレクとの馴れ初めから、アレクとどう愛し合って、どう終わるのかまでを、しっかりと描写するようにしています。
 そうやって、しっかりとアレクと攻略対象の関係を描写しておけば、ゲームでこの攻略対象はアレクとラブラブだったんだなと、思って頂けると考えています、
 そうなれば、読者の中で全員とはいかないかもしれませんが、ゲームでの攻略対象が嫌というフレイの気持ちがわかる人が出てくれると思っています。

 つまり、攻略対象達の各ルートについて記載するのは、攻略対象であるヒロインは恋愛相手にならないと言う、この物語における肝であり、外すことが出来ない部分ということですね。
 新キャラ登場と同時に見せる必要があるので、物語の構造的に前半部分にそれらの説明が集まって、設定語りが多くなってしまいますが、構造上仕方ない必要悪だとして、今後も同じように、攻略対象のキャラが新キャラとして登場した場合は、そのルートでの解説を入れていくつもりです。

 ちなみにですが、その割にはクレアとかのゲーム時代の描写が少なくない? と思う人がいるかも知れません。
 それは認識は間違っていなくて、作中でフレイまたは銀仮面に惚れない相手は、フレイが恋愛相手に選ばない理由を描写しなくていいので、説明過多になることを防ぐ為に、あまり描写しないことにしています。
 クレアは既にレオナルドとくっ付いており、原作知識のない一人を除いた七彩の神なども、フレイに惚れることはないので、今後は特に描写されることはありません。
 また、その観点で、男性の攻略対象についても、ほとんどゲーム時代の描写がされない形になります。

 そんな感じで攻略対象の描写は削れませんが、ナルル学園はゲーム本編の舞台であるルーレリア学園の前段階なので、攻略対象が多く在籍しており、その描写の数も多くなってしまいましたが、五章は海に行ってナルル学園から離れるので、新規攻略対象は三人ほどとなる予定で、終章に到っては新規攻略対象は一人となる予定なので、描写自体の数は今後の物語では減ると思います。

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■後書きにあるフレイの補足について

 後書きにフレイの状況に関する補足を入れているのは、大きく分けると二つの目的があります。

 一つ目は、二章辺りで結構主人公に批判があって、ブックマークが剥がれまくったのがあって、可能な限り主人公がその考えに到った理由を補足しようとしていると言うことですね。
 三人称視点なら地の文で過去話も含めて幾らでも、その人物がそうなった経緯とかを説明出来ると思いますが、一人称視点だと主人公がどう考えたのかはわかっても、それに到った過程というのはあまり描写出来ないので、本文中で書けない分、後書きで補足を記載している形です。
 あくまでも補足なので、本文中で読み取れるという方や、何度も説明されてくどいという方は読み飛ばしてしまって大丈夫です。

 二つ目は、フレイと言うキャラを通して、「クズだと思うし、正直どうかと思うけど……でも、大きな声では言えないけど、言いたいことはちょっとわかる」と読者に思って貰うためです。

 本作の物語の軸である、ゲームヒロインは原作主人公の女だから恋愛対象にしたくないとか、世界に対してゲーム知識が通用するのなら、ゲームヒロイン達もその影響を受けるのが当然だから、ゲームと同じような存在だと同一視して、好意を得たとしてもイベントを攻略した為だと思ってしまうとかは、ふと同じことを思ってしまう人がいると思います。
 でも、そう言った考えは、現実化したヒロインを人だと認識してなくて失礼だとか、ゲーム知識だけで相手をしっかりと見ていないと、批判されたりする対象で、表だって言えないことですよね。
 だからこそ、多くの創作の物語では、そう言ったふと思ってしまいそうなネガティブな考えを考えないさっぱりとした主人公が、次々とゲーム知識とかを利用して、ヒロインを得ていく物が多いのだと思います。

 ただ、個人的な考えとしては、逆にそう言ったネガティブな考えを捨てきれない、主人公気質じゃない存在が主役の物語があってもいいと考えています。
 そう言う奴が主役の物語だからこそ、普通の物語では表だって言えない、ネガティブな考えに共感して、その物語を楽しむことが出来るはずです。

 表だって言えないし、世間では少数派かも知れないけど、フレイのような考えを持った人が、「あるある、俺もそう思ったことがある。俺以外にもそう思う奴がいたんだな」と、同じ考えの仲間がいることに、共感と安心を感じて貰えるんじゃないかなと思っています。

 そんなわけで、そう言った気持ちをより抱いて貰うために、フレイがそう言う考えに到った経緯や、フレイが抱いた感情の説明の補足をしているわけです。

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 と言うわけで残り二章。
 本作をよろしくお願いします。

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